料理人と冒険者の二足鞋で征くワーカーホリックの天然ジゴロがオラリオに居るのは間違っているだろうか 「俺一応、鍛冶師なんだけど・・・・・・」   作:昼猫

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 長くなりそうなので二つに分けます。


第7話 夜に瞬く星

 士郎の家の玄関。そこでは一組の男女が向かい合っていた。

 女性が知人の男の家に態々訪ねて来る。これだけ聞けば何かしら色っぽい理由があるのではと疑いたくなるが違う様だ。

 

 「えっと・・・・・・用があって訪ねて来たと思うんだが・・・・・・・・・とりあえず俺は何を謝ったらいいんだ?」

 「・・・・・・・・・・・・」

 

 訪問者はゴジョウノ・輝夜。アストレア・ファミリアの副団長を任されている極東出身ヒューマンだ。

 そんな彼女は今現在士郎から疑問に覚えられるくらいに、剣呑な空気を纏っていた。さらには親の仇の如くの形相で士郎を睨み付けていた。

 

 ――――どうして、どうしてこんな事になった・・・・・・ッ!

 

 輝夜はそうして何故こんな事になったのかを思い出す。

 

 

 -Interlude-

 

 

 私達は今、闇派閥(イヴィルス)の下っ端達との戦闘の真っ最中。

 私は二刀の小太刀で相手の懐に入っての超近距離攻撃での連続斬撃で数人を屠って行く。

 

 「止めッ・・・てっ無っ!?」

 

 私は右の腰に携えている――――正確には少し前まで携えていた刀がそこに無かった。

 理由は以前ファミリア全滅の危機に陥った際に太刀の刀身に多大な負荷がかかり、その日を契機にその後も使い続けていたら刀身のみがものの見事に木っ端微塵に砕け散ったのだ。それはもう折れた刀を鍛ち直す事が不可能なほどに。さらに輝夜は新しい太刀を求める事を忙しい事を理由に拒否していたのだ。

 だが、今はそれが原因で大きな隙を作り、敵に反撃を許しそうな体勢でいた。

 

 「「「輝夜っ!?」」」

 「フッ!」

 

 敵冒険者の槍が正確に輝夜の心臓位置を捉えて、あと1秒後には彼女は心臓を貫かれて死ぬ未来が団員達の頭によぎったが、ギリギリ間に合う距離に居たリオンが間に入り込んでから槍を防ぎ、得物を敵の首を横から薙ぐ様に叩きつけた。

 

 「がっ!?」

 

 思わぬ好機からの油断とリオンからの急襲により、まともに攻撃を受けて意識を刈り取れた下っ端のリーダー。

 これによってアリーゼ達が相手にしていた闇派閥(イヴィルス)を全員戦闘不能にしたのだった。

 それからギルドに闇派閥(イヴィルス)の下っ端全員の身柄を引き渡してからホームに帰還後、アリーゼから注意を受ける輝夜。

 

 「輝夜。今日のはもう見過ごせないわ」

 「・・・・・・・・・」

 

 言われている事が何のことか判り切っているので反論する気のない輝夜。

 

 「あの太刀が輝夜にとってどれほどのモノかは私には分からないわ。けれど、いえだからこそ、それが原因で貴方自身や仲間の命が脅かされる事態は到底看過できない」

 「・・・・・・っ」

 「それでも今の状態のままを選ぶと言うのなら言わせてもらうわ。――――納得の行く次の刀を見繕ってきなさい。それまでアストレア・ファミリアの副団長の立場を一時的に退いてもらうわ。勿論団員としてのパトロールや戦闘に参加することも許さない」

 「だ、団長!?」

 「アストレア・ファミリアの団長としての命令よ。拒否は許さないわ」

 

 団長命令と言われれば拒否などできずに従うしかない輝夜はホームを出る。

 そこからは嫌々ながらも武器店を回ったがどれも納得できるモノもなく、規模関係なく鍛冶師ファミリアを回って太刀の制作を注文しようとしたが、まるで今の輝夜の本音を応援する様に丁度他の依頼を受けて何処もかしこも鋳造に臨めるには一月先まで掛かると言われた。その内の一つのゴブニュ・ファミリアにも依頼したが他と同じ理由に付け加えて、こんな事も言われた。

 

 「言葉とは裏腹に本当に作って欲しいと思っておるのか?」

 

 神ゴブニュに自分の本音を見事に指摘された。

 だが、事実である筈なのに自分の中での何かが痛く感じたのは何故だろうか?

 それでも取りあえず大義名分を得た私はホームに戻り、事情を説明した。これならば団長にも許しを貰えるだろうと。だが彼女はそれを受け入れてはくれなかった、その上で――――。

 

 「だったら最近私が使い始めた鍛冶師を紹介するわ。腕も確かだから信頼できるし仕事も速い。何より確か昨日当たりに受注した分は全て作り終えたとか言ってたから、私の紹介と言えば決して悪くはしないで貰えるでしょ」

 

 だからまた行って来なさいと言う言葉でホームから追いやられた。そして嫌々向かった先と言うのが――――。

 

 ――――あの質問してからかれこれ30分(四半刻)たったな。

 

 エミヤ・士郎の自宅兼鍛冶場だった。

 士郎が心の中で考える通り、訪問して来たので出迎えたら即座に親の仇の如くの眼で見られて疑問を呈し、かれこれ四半刻ほど経過している。しかもその状態のままでだ。

 

 だが俺も暇では無い。冷徹な事だが、何も言わないならお引き取り願おう。

 

 「用が無いなら帰ってくれ。鍛冶師としての仕事以外にも俺にはやる事があるからな」

 

 そうやって踵を返そうとすると輝夜から焦った声での制止がかかる。

 

 「ッ、ま、待て!」

 「何を待てと?用があるなら早く言ってくれ」

 

 士郎からの冷たい態度に唇を噛みしめて口元から微かに血を流す。

 腸煮えくり返る激情を抑え込んだ輝夜は、深い溜息をついてから眼光を鋭くしたまま士郎に用件を伝える。

 

 「だ、団長からの紹介だ。太刀を鍛って欲しい」

 「断る」

 「なっ!?」

 

 即断された事に輝夜は素で驚いた。

 

 「何故だ!」

 「それは自分がよく解ってるだろ?ゴジョウノ、君の太刀が木っ端微塵に砕け散った事は前にアリーゼから聞いた。けれどどんな事情があるかは知らないが、君は代わりの太刀を心から欲していない。ただここで俺に断られて帰る大義名分が欲しいだけ。違うか?」

 「っ」

 「けど、アリーゼからの紹介だからな。俺が今鍛冶師の受注が終わっている事は彼女も知っているだろうし、断られたと説明しても大義名分として認められるかは怪しいところだな」

 「ぐぅ・・・っ」

 

 次々と言い当てられて屈辱に顔を歪ませる輝夜。だが精神的に窮地に陥っている少女を好き好んで嬲る事は士郎の本意でも無い。

 

 「だけどこのままじゃ君も八方塞がりだろうし、しょうがないから作ってやる(・・・・・・・・・・・・・)。」

 「~~~ッッッッッ!!?」

 

 士郎からの上から目線に先程までの屈辱が可愛く思える程の激情が輝夜の心を一瞬だけ支配する。

 だがそれもなんとか抑え込み、憤激で全身を震わせながらも血反吐を吐く思いで感謝の言葉を口にする。

 

 「す、まな・・・いッッッ!!!」

 「全然申し訳なさそうじゃないんだが?」

 「グッッ!!――――――――――――――お・・・・・・・・・お願いします・・・・・・(ッッッッッ!!!!!!)」

 

 あらゆる激情を完全に抑え込んで頼む輝夜。内心は地獄の溶岩の如き赤き沼程にも煮えくり返っているが。

 

 「了解した。なら俺も鍛冶師として依頼通りの太刀を鍛とう。詳しい話も聞きたいから中に入ってくれ」

 

 俺が背を向けてて招き入れると、後ろから歯ぎしりが聞こえて来る。流石にこれ以上揶揄うのは命の危険を伴うので、告げた通りあくまで仕事人として徹するとしよう。

 

 

 -Interlude-

 

 

 恩恵有りの鍛冶師と無しの鍛冶師との差を一つ上げるならば、それは“時間”だ。

 神々も恩恵とは促進剤の一種と語る様に、恩恵が有ると無しでは何においても熟する時間の差が歴然。

 技術を習得するまでの時間もそうだが、その後に続いていく鍛冶において刀剣一振り一振りを完成させていくまでにかける時間も大幅に短縮された。だがそれも鍛冶師の腕一つで個別ばらばらで、神ゴブニュや神ヘファイストス等を除いてトップクラスで速いのは3時間(一刻半)から6時間(三刻)までには完成させられるだろう。専用武器(オーダーメイド)やその上での特殊武装(スペリオルズ)も付け加えるとさらに時間が必要かもしれなくなる。

 話が少々逸れてしまったが何を言いたいかと言うと、士郎は恩恵有りの鍛冶師の中でもトップクラスの一人と言う事だ。

 

 「・・・・・・・・・」

 

 太刀の素材とする金属を鍛つ音が鳴り響いて行く。

 輝夜の依頼したのは以前と同じ尺の太刀であり、それ以外は士郎に任されている。

 依頼された士郎は仕事着に身を包み、今も鍛冶場で一人で黙々と仕事に励んでいる。

 それを熱が届かずかつ作業風景が見える様に士郎が改造した隣の部屋で見学している輝夜の姿が在った。

 新たな太刀を見繕うまで帰って来るなとアリーゼから言われている輝夜としては、帰還したくとも帰還できないから仕方なく――――と言う理由だけでは無い様だ。

 輝夜の視線の先にあるのは黙々と仕事を続ける士郎の背中だ。

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 如何して今も自分は此処に居るんだろうと考える。

 確かに太刀が出来上がるまで時間もかかると言われたし、アリーゼからも帰還を許されてはいない。だがやる事なら他にいくらでも思いつくだろうに。

 単独行動は危険ではあるが、一人でパトロールなりダンジョンに潜って経験値稼ぎ兼金稼ぎのために魔石集めやドロップを狙う事も出来るはずだ。なのに何故・・・・・・。

 思考の海から浮上して再びあの男の背中を注視する。

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 そもそも私はどうしてあそこまであの男に反感を抱いたのだろうか。もはや私以外のアストレア・ファミリアの全員がコイツと親しくしているのに、アストレア様もコイツに一目置いている様なのに。

 た、確かに・・・・・・自分の不覚故にこいつに対して大失態を犯したが――――それだけとは到底思えない。

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 なんだ?今の私は冷静である筈なのに、どうして此処までこの男を嫌悪(・・)する?

 分からない。判らない。解らない。何故こんなにも――――。

 ――――それにしてもコイツの背中、(のぼる)に似てッッッ!!?

 

 「■■■■■■■■■■■■■■■■――――!!」

 

 声にならない悲鳴だった。およそ人間が発するような言葉とは思えないほどに輝夜は取り乱し、突如として泣き喚いて咆哮する。

 原因は輝夜の奥底で眠っていた――――否、無意識的に封印した“毒”だ。

 物理的な肉体を蝕む毒では無い。彼女の心を乱して犯す(トラウマ)

 先日に自らの失態で打ち立てた黒歴史など比では無い。

 輝夜は士郎への謎の嫌悪を分析するために、無意識的にパンドラの箱を僅かに開けてしまったのだ。

 もうこうなれば自力でそれを閉じるのは不可能だ。少なくとも意識してでは。

 

 「ど、どうした!?」

 

 集中するあまりにと、防音の為に気付くのが遅れていた士郎が漸く鍛冶場から駆けつけた。

 

 「■■■■■■■■■■■■■■■■――――!!!」

 

 あまりの半狂乱ぶりの輝夜の姿にこのままでは自傷行為も時間の問題だろうと考えた士郎は、後で恨まれても良いと覚悟して彼女の隙を突き、丹田に拳を突き刺して気絶させた。

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 気絶した事により漸く無意識の中で呼吸を徐々に整えて行く。

 対して、この場所では輝夜を十全に休ませる事が出来ないと判断した士郎は、再びお姫様抱っこでおぶって客室に連れて行くことにした。

 

 

 -Interlude-

 

 

 ――――これは夢か?

 

 自分がいつの間にか寝ていた事に疑問を感じる。

 意識を閉ざす前に何をしていたのか思い出そうとしても出来ないでいる。

 思い出せないのであれば仕方ないと直に切り捨てて眼前を見ると、そこには自分の過去の姿と風景が広がっていた。

 

 「輝夜様、程なくオオエド様が屋敷にご到着されると言伝が入りました」

 「分かりました。(わたくし)も直に出迎えの準備に出ます。貴方達は先に降りていなさい」

 「失礼します」

 

 輝夜の指示に従う様に給仕が退室する。

 それを少し見送ってから、輝夜は綺麗に正座していたにも拘らず崩して胡坐をかいた。

 

 「はぁ、めんどくさい。今からあのデブ親子の相手をしなきゃならんとか、憂鬱にも程がある」

 

 腹の探り合いならまだいい。そんなものは権謀術数が日常茶飯事のこの世界でいくらでもしてきた。それこそ、息するくらいに当たり前な程。

 だがオオエドの豚息子、畜生のくせに私を色目で見て来るところが本気で切り殺したくなる。

 

 私は大和の国の高貴の女の嗜みとして、幼少の頃からゴジョウノ流剣術を習い鍛え上げて来た。だがそれは家の方針だからでは無い。

 最初こそは方針ではあるが、要求されたのはあくまでも嗜む程度。本来であれば必要以上に鍛え上げて行く必要もなかったが、目的の為に日夜懸命に励んできた。

 最低限の目的は家を出て一人で生きていける様になる事。最大限の目的はオラリオで取りあえず冒険者になる事だ。

 理由は単純明快。高貴な一族の責務やら義務やらしがらみやらと、権謀術数の世界に飽き飽きしているからだ。

 先に権謀術数の方がマシだと言ったが、それは慣れているだけで嫌気が差していない訳では無い。朝から晩まで世間体を気にする仮面をかぶる世界は私にとって窮屈過ぎるモノだ。

 花や蝶を愛でるくらいなら、手段として鍛え続けている剣術に時間を使った方が遥かに良い。綺麗な所作で過ごすくらいなら胡坐を書いてだらけていた方が良い。

 私の人格性に合わないこんな下らない世界からの脱出こそが私の最低限の目的だ。

 最大限の目的が何故オラリオなのか。それは比較の問題ではあるが、様々な国と地を調べた結果、あの地こそが私の性に合っていると思えるからだ。

 あの地に向かう者の多くが野心を叶える為ではあるが、生まれた時から嫌でも全て揃って整えられていた環境で過ごしてきた私に野心の色は薄い。

 だが野心は薄くとも、オラリオには様々な種族が集まり価値観や文化も集まる。何よりどんな出自も問われずに済むのだ。

 どんな職に就こうが、冒険者となり弱かろうが強かろうが最低限のルールさえ守れば自分らしく(・・・・・)生きていける。

 天の国の様でもあり、地獄の様な地ともいえる弱肉強食の理想郷(・・・・・・・・)。そんな世界を私は切実に求めている。

 だがまだ足らない。そこに向かう為には力と技を鍛え上げなくては。

 神時代が始まる以前までの人は恩恵無しでモンスターと戦い、時に倒されもしたが時に駆逐して来たと言う。

 オラリオに向かうまでの道中、多かれ少なかれモンスター達に遭遇する事は避けられないだろう。だからこそ一番弱いモンスターを数匹程度までなら恩恵無しで倒せている程度で満足していてはならない。だからこそまだまだ鍛える。

 私は周囲に悟られぬ様に多くの備え続ける。来るべき日に向けて。

 そんな日々を続けて行く中で私は出会ってしまった。フジヤマ・(のぼる)と言う男に。


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