料理人と冒険者の二足鞋で征くワーカーホリックの天然ジゴロがオラリオに居るのは間違っているだろうか 「俺一応、鍛冶師なんだけど・・・・・・」 作:昼猫
っ、はぁぁぁ~~~~・・・。
輝夜は内心で溜息をついたが、これは何時もの事。
表面的にはにこやかな挨拶から始まり楽しい談話に移行するが、互いが互いに常に腹の探り合いをしつつ如何に自らの権益に加えられる情報やらを入手できるかの老獪な会合に飽き飽きしている。そんな下らない行事に輝夜は何時も溜息で始まり溜息で終わるのだ。
だが今日に限っては何時もと違った。
「・・・・・・?」
今僅かに会場となっているこの館が揺れた事に疑問を覚えたにもつかの間、外から人間の発するモノとは違う怒声が響き渡って来た。
「何?」
「何事かね!?」
外からの騒ぎに途端に動揺する無駄に立派な着物に身を包んだ華族達。
そこへ彼らの疑問に答える様に、今日の警備を担当している領土系ファミリアの眷属の警備兵が慌てて入って来た。
「皆様!今すぐ避難の準備をお願いします!」
「避難だと!?」
「我々を誰だと思ってる!?何所の賊が襲撃して来たか知らんが、守り通さんか!」
警備兵の頼みにも一顧だにしないで何所までも強気で反論する華族の豚共。
その態度のままで居たければ好きなだけいればいい。
「御父様」
「輝夜?」
私はすぐに父親の下に足を進めて近づいた。
「今日の護衛に来ている警備兵たちはそこらのファミリアの眷属達では無いでしょう。その彼らが避難を頼んできたのです。周囲の事は気にせず私達だけでも避難しませんか?」
「うむ?だがそれでは他家から今後、どの様な目で見られるか」
「状況をよくお考え下さい。この館は警備兵の頼み通りあまりもたないでしょう。そうなれば巻き添えを食い最悪命にかかわります。それでも残りますか?」
本音としてはこの父親が何時何所でくたばろうが私にとっては如何でもよかった。
この父親が私の事を道具ぐらいにしか考えていないのは、物心ついてから少しして気付いた事だ。だから私もその日からこの男を私を生んで血の繋がりがある他人ぐらいにしか見ていない。或いはも目的遂行までの使い捨てに道具。
だが、だからこそ今死なれたら困る。このタイミングで死なれたら出家計画が難しくなるし最悪実行できなくなる恐れが在るからだ。
「っ、そ、そうだな。お前の言う通り非難するべきだな」
流石は保身に長けた我が父親、命の危機への不安を仰いでやればこの通りチョロイ。
しかし私の行動は遅すぎた様で、警備兵が入って来た入り口から悲鳴が聞こえた。
「っ」
「ひっ!?」
何事かと見やると、そこには先程入って来た警備兵が腹部・胸襟・顔面の中心に爪を生やしていた。
正確にはその三か所を串刺しとされて絶命していた。警備兵を串刺しにしたのは何所ぞの賊では無い。バグベアよりもはるかに大きい凶悪な爪を生やした巨大な右手は今も警備兵を串刺しにしている。もう片方の左手も同じように見える。その両腕以外の全身は外国の衣服に身を包み、顔と頭には外国風の仮面と帽子をつけた大男ぐらいにしか見えない。後は返り血だろうか、ほぼ全身が血の色で真っ赤に染まっている。
いや、
両腕はとても作り物には見えないほど両肩と繋がっている様に見えるからだ。
いや、そんな冷静に観察してる場合では無い。今はとにかく逃げなければ!
『――――――――オ゛オ゛オオオオォオオオェエエエエォオオオオッッ!!!」
「っ!?」
大男もどきの怪物は突如咆哮。
あまりの五月蠅さにホスト・ゲスト合わせた華族とその親族ら、それに給仕たちは堪らず耳を押さえながら蹲った。
「ぐっ!」
私も耳を押さえはしたが、なんとか跪く事だけは耐える。
しかしその判断がいけなかったのか、怪物は串刺しにしていた元警備員の肉塊を投げ捨てながらその巨体に見合わぬ跳躍で一気に私のほぼ目の前に着て左手の鋭利な爪で引き裂こうとしていた。
――――ああぁ・・・。
目的の為に強くあろうと鍛錬し続けたから解る。
なんとしても生き残りたいと言う反面、目の前の
こんな処で終わるのか・・・?
「諦めるな!」
声と共に一陣の風が吹いた。
風が止んだ時、私の目の前にいたのは黒髪短髪の偉丈夫の背中だった。
「ギャァアアアアアアォオオオァアアアアアオオオオアアアアアアアア!!?』
直に耳を打つは先ほどまで私の目の前にいた筈の怪物の悲鳴。
体を横に傾けて見ると、怪物の異形の左腕が切り落とされていて肩口から出血していた。
この悲鳴は怪物の痛みに耐えかねる苦悶の叫びなのだろう。
『ア゛ア゛アアアアォォォオオオアアアアッッ!!」
肩口から血をまき散らしながら右手を振り降ろして来る怪物。
しかしそれを許さない偉丈夫は自分の得物の太刀で首を体から泣き別れするように一文字切りで切り裂いた。
これにより怪物は絶命。先程までの聴覚を滅茶苦茶にする咆哮はまるで聞こえなくなった。
「大丈夫か?」
服装から私が華族の親族だという事くらい察しているだろうに、ぶっきらぼうに振り向いて来た偉丈夫の冒険者。
これが私とフジヤマ・陽の出会いだった。
-Interlude-
此処は士郎の自宅にある客室の一つ。
室内のベットには気絶させて寝かされている輝夜の姿が在り、近くには輝夜の件で呼び出されたアリーゼのみが椅子に座って見守っている。
「・・・・・・輝夜」
そこでふと思い出した。ベットで寝かせている輝夜をこのままにしておくか、連れて帰るか決めたら声を掛けて欲しいと士郎に言われてたなと。
仲間の安定した様子を見守ってから客室を出るアリーゼは、決めた事を士郎に伝える為に二階から一階に降りてリビングに入ると。
「ん?」
「っ!?」
何故か上半身のみ裸体を晒したまま何かの飲み物を一気飲みしている士郎と遭遇したアリーゼは、思わず赤面して顔を背けた。
「アリーゼ?」
「き、決めたこと伝えに来たんだけれど、その前に上を着て」
「む、これは失敬」
後ろ側で衣服を取って着用しようとする音が聞こえる。それが何故か色っぽく感じて、さらに顔が熱くなることを自覚する。
冒険者が多くいるこのオラリオでも、男性の上半身の全体や一部だけの裸姿など今まで嫌と言うほど見てきて慣れた筈なのに、如何して士郎のは直視できないの、私!?
「上着たぞアリーゼ」
「そ、そう・・・」
ならばと振り返って士郎へ顔を向ける。
「どうしたんだ顔赤くして?」
「な、なんでもないっ」
「わ、わかった・・・。それで連れて帰るって言うんなら俺がまたおぶっていくが?」
「ううん、し、士郎が迷惑じゃなければもう少しあのまま寝かせてあげて」
「構わないがアリーゼはどうする?もう夜も遅いし、送っていくか?」
士郎は一体何を言ってるんだろうか?確かに私は士郎よりもレベルが低いが、それでも冒険者だ。どこぞの馬の骨に遅れる取る気は無い。
「俺の自宅からとは言え送り狼になる気は無いし、こういうのは男としてエスコートするのが義務みたいなもんだろう?」
「・・・・・・私がアストレア・ファミリアの団長だってこと忘れてない?」
「それ以前に一人の女の子だろう?」
「っ」
士郎ってばどうしてそんな言葉を次から次へと口にするのだろうか。
「どうした?」
「・・・・・・なんでもない。それよりも私、やっぱりホームに帰るから。送らなくていいわ」
「む、そうか。そこまで言うんなら仕方ない」
「代わりに輝夜の事、しっかりお願いね」
任されたと言う返事に納得してアリーゼは士郎宅を後にした。
今だ顔から抜けない僅かな熱を冷ます為に全力疾走を出してホームへ戻ったという。
-Interlude-
あの日、陽に助けられた日から偶然にもあの後も何度か会う機会が訪れた。
陽はあの日警備していたファミリアとは別口で、この国――――いや、迷宮都市オラリオ以外の地域でも僅しかいないLv3の凄腕だ。
義に厚く、周囲から頼られて正義を追い求める好漢、と言う評判を聞いた。
そんな男を見て私は気づいた。
義に厚いという事は自分の回りを綺麗にしたいという偽善であり、周囲から頼られるというこ事は他者の願いを叶えるだけの奴隷であり、正義を追い求める間は夢見る乙女の様に盲目的に生きていける愚か者。私は陽をこの様に皮肉な評価をしたが、結局はそんな批評をする程ひねくれており、飽き飽きするほど嫌気が差している華族の世界に根っこの部分まで浸かっている自分がいる事に今更ながらに気付いた。
その批評と自分はいけ好かない華族当主達と同類と言う自虐的な事を陽に話すと、思い切り苦笑された。その上で。
『生まれた時から今もずっとその世界に居るんだから仕方ないだろう。それにこれからいくらでも変わりようはあるだろうさ』
あっさり笑って許してくれた。
確かに私の考えは後ろ向き過ぎだったかもしれないと反省すると。
『それに周囲からどんな目で見られようが、俺は自分の守りたいモノと貫きたいモノがあるから毎日がむしゃらにやって来ただけだ』
数年前から、オラリオだけにあるダンジョン以外の地上のモンスターも一部地域で凶暴化した。
それらの厄災から守るために頑張って来ただけで、Lv3へのランクアップは後からついて来ただけの結果に過ぎないらしい。
そうは言うが手の届く範囲なら誰であろうと助ける陽に器の大きさを感じると同時に、自分の矮小さに気付かされる。単に彼が年上かつ大人で、私が子供なだけだったのかもだが。
思えば私はあの頃から惹かれ始めていたのかもしれない、フジヤマ・陽と言う少々暑苦しいのが玉に瑕のでかい男に。
だが初恋とは叶わぬモノとは誰のセリフだったか。少なくとも私の初恋はあっさりと終わりを告げる。
告白する・フる・フラれる以前の問題で、既に陽には恋人がいた。私と違い朗らか女性。同じファミリアの副団長で彼女も彼女で多くから頼られ信頼を集めていた。
「・・・・・・」
ああ、あんなにも仲睦まじい組み合わせがあるだろうか。アレは勝てない。アレには負ける。二人の近くにいればいるほどよくわかる。あまりにも眩しい。今の私には。
だが人を好きになるというのは容易に道徳心など吹っ飛ばすのか、はたまた私が病んでいるだけか、あまりに醜い嫉妬で彼女をノロッタ。
『あの
なんて悍ましい女だろうか、私は!
だがまるで天が私に呪詛を聞き届けたかのように、その日が来てしまう。そして、フジヤマ・陽が変貌する切っ掛けともなるのだった。
襲撃して来た外見はバイオハザードのタイラントみたいなもんです。