操り人形にされていると思われるチルノが氷を生み出す。さっきまでの四方八方を覆う氷では無く、槍の様に細長く鋭い氷を全て成華の方へ向けられているが、まだ小さく破壊力が無さそうに見えたので魔理沙に指示を出す。
「ベタですが耳飾りです! 耳飾りを破壊して下さい!」
チルノから発せられる奇妙な殺意が魔理沙に向いていない事を悟り、成華が叫ぶと魔理沙は
「やっぱそうだよな!」
と声高らかに言い、拳も高く振り上げていた。
「ですが、その耳飾りに触れないでください! その耳飾りがどんな特性なのかまだ分からないんですから!」
殴って耳飾りを破壊しようとする魔理沙を唸らせる。
「そりゃぁそうだけどさぁ……」
チルノは成華にしか興味が無いのか、魔理沙の攻撃を避け切る自信があるのか。或いは、耳飾りが弱点では無いのか。
いずれにせよ、魔理沙のサポートをしながら魔理沙に攻撃が行かないように立ち回らなければならない。成華の能力はその立ち回りに関して打って付けだった。
「魔理沙さん! 私がサポートするのであの耳飾りを魔法か何かで破壊することに集中してください!」
と言っても魔理沙は耳飾りだけを破壊出来る様な器用さを持っていないと成華は見ていた。
そんな会話をしている内にも槍はみるみると大きくなっていく。それが箒程の長さになった頃、氷の成長は終わり、ぶるぶると小刻みに震え出した。
二人がその変化に気付く時には既に槍は発射され、成華は地面を叩いて木を生やし乗る事でギリギリ氷を避けた。
「……ッ! 速い!」
もう少しで成華に刺さる筈だった氷は、成華が生やした木にぶつかった瞬間、脆くも崩れ去った。だが槍は幾らでも飛んでくる。床に与えた生命エネルギーを奪い、元の床に戻すと成華の頭上を氷塊が過ぎ去ってゆく。間髪入れず槍が2本、3本と弾丸の様に空中を滑って来る。それを右に左に、上へ下へと避けながら拳が届く距離まで距離を狭ながらに進む。対してチルノもチルノで少しづつ成華の方へとにじり寄っている。
「(遠距離から攻撃出来る筈なのに近付いてくる。痺れを切らしたか?
いや……たぶん、何かある……)」
と、成華は持っていた石軽く握り、すべてを全力で投げつける。……が、その牽制は意味を成さずに彼女の目の前で氷漬けにされてしまう。
「掛かった!」
と嬉嬉とした顔で言い、それは聞こえているのか、警戒して攻撃の手が止まる。瞬時に石の入った氷を成華の方へと吹き飛ばして石を遠ざけた。それを走りながらサッと屈んで避け、低姿勢のままチルノの腹を突いた。
その姿勢からでは腹を殴ったとしても大した威力無いが、成華にとって威力は問題では無かった。
ちょっとだけ後ろによろめき、すぐに攻撃を開始しようとすチルノに対して成華はゆっくりと立ち上がってこう言った。
「私は貴方を殴ったんじゃない。貴方の服を殴った!」
今のところチルノに腹パンをかました以外、何も出来ていない魔理沙も聞いてたが、成華の言っている意味が分からなかった。
「ん? 服を殴るって結局腹パンじゃ……」
「今、生命力を操る程度の能力(わたしのうりょく)は発現する!」
そう叫びながら指を鳴らすと、チルノの着ている服が木に成長してチルノを拘束した。
「魔理沙さん、今のうちに破壊してください」
と言うと、ポケットからミニ八卦炉を取り出しこう言った。
「ああ、分かったぜ。こういう精密な動作は柄じゃないんだが、そう言ってる場合じゃないな。
いくぜ!」
ミニ八卦炉を両手で構えて叫んだ。
「『ただのレーザー 』!!!!!!」
……が、レーザーは出なかった。
「あれぇ? この位なら普通に出るんだがなぁ……
もう1回だ! いくぜ! 『 ただの……ってあれ?」
魔理沙はミニ八卦炉を構え直し、もう一度撃つ。
……事無く、素っ頓狂な声を上げた。
「どうしたんですか?」
成華が不思議がって魔理沙に尋ねた。
「いや、耳飾りが無いんだよ。確かにさっきまでそこにあったのに」
魔理沙が言っている意味が分からなかった。
「いや、耳飾りならそこにありますけど……」
と言って耳飾りがある、耳を覗き込む。
しかし、確かにさっきまであった筈の耳飾りが無くなっていた。
「耳飾りはどこに……」
その瞬間、呪いが解けた様にチルノが目覚めた。
「んっ……ん?
ここはどこ? あたいはだれ? あたいはチルノ。ってあれ? 魔理沙じゃん、あとおまえは……」
不思議な事が連続して起こった。さっきまであった筈の耳飾りが無くなり、終いにはチルノが正気に戻った。
「あ? あれ? チルノ正気に戻ったのか?」
「そうみたいですね。ちなみに私は成華ですよ。チルノさん」
と言いながら指をまた鳴らすと チルノに絡みついていた木が元の服へと戻った。
「そうだ! おまえ成華だ! さっすがさいきょーのあたい」
チルノは木が服になった事は気にも留めず、あたかも成華の名前を自力で思い出した事を誇様な仕草で胸を張っていた。
「いや、最初答えられんかっただろチルノ」
という魔理沙のツッコミを無視し、 チルノは話を続ける。
「でもあたいなしてたんだ? なんとかかんとかってやつにへんなのもらったところから記憶がないぞ?」
「なんとかかんとかって誰だよ? そこが1番大事じゃ……」
コツン、コツン、と硬い靴で歩む音が洞窟内のどこからか聞こえていた。
冷たい風が吹く。
ジャックの足音では無い。
「……ッ!! 誰ですか?」
「誰だ! 何処に……」
成華も魔理沙も今までに感じたことの無い"何か"を感じていた。
「私だよ」
「私だよ」
姿も見えぬ女の一言だけで空気が180度変わった気がした。威圧的な声。強大な圧力。幾つもの異変を解決してきた魔理沙にだって感じたことの無い殺気だった。
魔法使いとはいえ普通の人間である魔理沙でも感じ取れるものがあった。
「(この殺気は私に向けられたものじゃない!?)」
それは何を意味する事か。今ここに居るのはチルノと成華と私だけ。つまりチルノか成華が殺されるという事だ。そんな事はあってはならない。
ただ、どうにかしようとしているのは確かだが、身体が動くのを拒否ししている。
コツン、コツン。反響音はさらに大きくなる。
「分かった事が二つある」
と続けて言った。
「ええ、私も分かった事があります」
成華が言った。額に汗が垂れる。
2人共この洞窟に入って数分しか経っていない筈なのに、この十数秒でその数十倍も数百倍もの時間が経っている様に感じていた。
更に女は言った。
「一つ。“十六夜”成華、お前の能力」
チルノと魔理沙は女が成華を“十六夜”成華と呼んだ事に気がついた。もちろん成華自身も。そして成華が
「二つ、貴方は私と血縁関係にある」
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次回もお楽しみに!