「終わったんですか?」
若い女性の声だ。その声は魔理沙の依頼主である和子からだった。
「ああ、たった今終わったとこだぜ。目には見えんが原因もここにいるしな」
「いやぁ、すまなかった」
とジャック(魔理沙からのあだ名)が軽い口調で言う。それを聞き、一方は良かった、と安堵の声を漏らし、一方はその軽薄さに呆れた。依頼主の彼女は報酬を払おうとしたが、魔理沙はいや、まだだぜ、と彼女を制した。
「話はここで終わりじゃない」
こくん、と頭を縦に振る一同。え? と首を傾げる女性1人。
「話は霊夢が来てからだぜ」
「巫女様も来る様な事態なのですか?」
と和子が不安を口にすると、
「リグルから軽く話は聞いたわ」
と空から話題の紅白の巫女服の声が響いた。
砂埃を上げずにすっと着地すると、彼女は裾に腕を突っ込んだ。
「おっ、霊夢来たか」
丁度いいタイミングだぜ、そう言いたげな表情でそう言った。
「ええ。で、貴方達の言う"それ"ってこの井戸の事かしら」
そうだぜ、と了解を得た所で霊夢が持っているのは裾から取り出した博麗の紋が入った札。それは幻想郷の守護者とも言われる博麗が扱う御札のひとつ。
「ええ、そうです。霊夢さんはどう感じました?」
成華が聞く。霊夢は首を横に振ると、
「直接会ったのは貴方達よ。……でも、私の率直な意見としては、放っておくとかなり危険だと思うわ」
と言うと彼女は最後に、ただの勘だけどね、と付け足し、井戸の蓋に札を貼った。
「おいおい霊夢、相手は多分人間だぜ? 人間に札って効くのかよ」
と魔理沙が詰め寄るとこう言った。
「効くわよ、軽い暗示くらいには。それに、もしもの時の為よ」
「もしもって何だよ。開いたらどうするんだよ」
「もしもはもしもよ」
霊夢と魔理沙が軽い口喧嘩をしていると、
「要は開かなくすれば良いのでしょう」
と成華が言い、
「ま、まあ、そうね」
と返事があると、蓋に軽く触れた。
「な、何をするの?」
「ま、見とけって」
「なんで貴方が言うのよ」
蓋に触れた手に意識を集中させてこう言った。
「生まれろ、生命よ! 新たな命よ!」
すると、メキメキと生命の鼓動を鳴らし、蓋は太く大きい桜の木となった。春でもないのに美しく咲き誇る桜の木は何か惹き付けられる魅力があった。
皆驚いて後ずさり、太い足を地に生やした美しい木を見上げた。
「こ、これで蓋が外れる心配はなさそうだな」
「え、ええ。一応しめ縄を締めておきましょう。似合いそうだしね。
……よし……これでこの木自体も大丈夫そうね」
と、色々あった結果、近い将来神聖な場所として名を馳せるようになるのである。
「そういえばお前ら洞窟から入ってきたんだってな」
と魔理沙が思い出したように大妖精と霊夢と一緒に帰ってきたリグルに聞く。
「あ、そうです。案内しますか?」
と大妖精がふわりと浮く。続いて魔理沙と霊夢も続いて飛ぶ。
「ああ、よろしく頼むぜ。……そういえば成華、今私箒無いからお前を連れて飛べないんだが……
いや正確にはお前を乗せる場所が無いっていうか……」
成華は大木を生やして壊れた、元井戸の屋根だった大きめの残骸を1つ拾い上げた。
「……って、何してるんだ? 成華」
「これを鳥にします」
「?」
その言葉をスイッチにしたかのように木の残骸はぐにゃぐにゃと大きく形を変え、更には毛も生やしながら怪鳥とも言うべき姿へと変貌した。その姿は太古に存在したと言われるプテラノドンと西洋の竜を足して2で割った様な姿だった。
「お、おい……成華」
「なんでしょう」
と恐る恐る成華に聞く。
「これ絶対鳥じゃなくて竜かなんかだぜ」
「いや、鳥です。怪鳥ナントカカントカです」
頑なにこれを鳥と主張する成華はこの鳥を怪鳥ナントカカントカと呼び、自己紹介された気になったらしい怪鳥はクカァァァ! と声高らかに咆哮した。
「魔理沙さん、折角なので一緒に乗りませんか?」
との提案。
「う────ーん……乗る! フツーにカッコイイし」
魔理沙が長考したので乗らないかなと諦めたが、以外に乗り気な彼女を見て驚いた。
「霊夢さんは?」
と、成華は問うが、私は飛べるから、と断られてしまった。
「で、どう乗るんだ?」
と魔理沙が言うと、考えてませんでした、と言わんばかりの悩ましげな顔をして、怪鳥に
「私達を運んで下さい」
と言うと、乗りやすいように腰を低くするでもなく無視するでもなく、いきなり大きく羽ばたきだして飛んで行った。
「お、おい」
と魔理沙が飛んで捕まえに行こうとするも
「大丈夫ですよ」
と制止し、飛んで行った怪鳥は旋回して戻ってきた。
「おお」
と魔理沙は感嘆の声を出し、鳥が停るのを待っているのだが、鳥のスピード話は一向に落ちない。高度は落ちてはいるのだが、停るスピードではない。
「おいおい成華! こっち向かってくるってアイツ!」
焦る魔理沙を余所に言う。
「魔理沙さん」
「なんだよ! それどころじゃないんだって……」
と鳥を指さす。とても焦っている。
「魔理沙さん!」
「は、はい!」
とあまりの鬼迫に焦りも消えた。
「あまり喋ると舌かみますよ」
「えっ?」
かはっ、とこの鳥を生み出した彼女ですら受ける強い衝撃。思考する暇もなく鳥にしては哺乳類やら爬虫類や色々混ぜた様な足についている見るからに獰猛な鉤爪で文字通り鷲掴みにされている。
「なあ、成華」
「なんでしょう」
と怪鳥の獣脚の中で飛び交う言葉。
「この鳥な……」
「怪鳥ナントカカントカです」
即答した。しかも食い気味に。
「なあ、成華」
「なんでしょう」
と再び怪鳥の獣脚の中で飛び交う言葉。
「このドラゴン……」
「怪鳥ナントカカントカです」
今度は食い気味どころか被せてきた。
「何よこの鳥。退治しようかしら」
と霊夢が飛んでくる。
「ま、待て霊夢! 成華、こいつはお前の言うことを聞くのか?」
成華は
「はい」
と頷きそれ以外は何もわかりませんが、と付け足した。
「貴方が生み出したんだし……信じるわ。じゃあ行きましょう」
と霊夢が大妖精に合図をすると、大妖精が飛んで行った。
それを追いかけ霊夢が飛んで行き、続いて2人を乗せた(掴んだ)怪鳥が追って、あっけに取られていた者達も慌てて追いかけた。
「なあ、成華」
大きな足に鷲掴みにされている体勢の割に落ち着いた声。
「はい、なんでしょう」
と更に落ち着いた声。
「思ったより良いなこれ」
「また乗りませんか?」
「次は上にな」
「ええ」
「こんな所に洞窟なんかあったか?」
「無かったわね」
リグルらがチルノを探しに来ていた洞窟に案内された。井戸の先の洞窟に繋がっているのは魔法の森だった。
「ってお前らさっき山のふもととか言ってなかったか?
てっきり妖怪の山かと思ってたが……」
はあ、と溜息をついて呆れていた。
「……そうでしたっけ?」
「やっぱり妖精だな」
ボソッとつぶやくと、
「何か言いました?」
「えっ? ……いや……なんでもないぜ。成華、さっきみたいに塞いでくれるか?」
と地面を巨大な樹に変え、洞窟に封をした。
立ち入り禁止と書いた物々しい雰囲気の看板とともに。
これでひとまずは一連の騒動が終息したと2人は依頼主に報告をしに行った。井戸、洞窟共に封をした。ひとまず、そこからの危険は無いと言える。
『お前は私の娘だ。だがお前は私の娘では無い』
アイツが成華に言ったセリフをふと思い出す。成華を"十六夜"成華と呼んだ謎の人物。十六夜と言ったからにはアイツもあの吸血鬼の館のメイド長と深い関係があったりするのだろうか。
井戸と洞窟を塞いだとはいえ、奴の現在の居場所は全く分からない、奴の素顔さえも。
その上チルノの着けていた耳飾りと、その出自も調べなければならない。
「はぁ……分からない事だらけだな」
「ええ、そうですね」
と溜息をついたところで気になる事がもうひとつ。
「なあ、成華」
「なんでしょう」
「なんで私達はまた鳥に鷲掴みにされてるんだ?」
ここまで読んでくださってありがとうございます!
次回もお楽しみに!