ある日、母親が若くして子を産んで行方不明になった。
その子は当時5歳であった。
通り掛かったおばあさんがその子を拾った。
「貴方、名前は?」
少女は深く考え込むと、おばあさんの方を向いてこう言った。
「えーっと・・・私・・・の名前?」
「ええ、そうよ。」
少女は困惑気味に
「忘れた・・・ずっと・・・呼ばれてない。」
「あらそう。じゃあ、私が貴方の育ての親になってあげる。」
「・・・?」
おばあさんは
「いらっしゃい、今日から私が貴方の帰るべき所よ。」
と言い、少女の手を引いた。
おばあさんの家は山の奥にあった。
おばあさんは彼女を成華と名ずけた。
育ての親のおばあさんは、彼女に口癖のようにこう告げる。
「成華、私はね、貴方の本当のお母さんではないの。私が死んだら、本当のお母さんを探しておいで、苗字はその人から貰いなさい。
でもね、それまでは貴方のお母さんで居させてね?」
そうして彼女は生きる為に必要な事を覚えていった。
しかも、彼女は頭が良く、更に物覚えが良かったので家事・戦闘など、を生きる為に必要な事を卒無くこなせるまでになっていた。
彼女はおばあさんが何故ここまでしてくれるのか理解しているつもりだったが、どうしてここまでしてくれるのかをやっぱり聞きたくなった。
「おばあさん。」
彼女は優しく笑い、おばあさんに質問をする。
「なんだい?」
「何故、ここまで教えてくれるの?」
おばあさんも優しく笑い、こう続ける。
「ふふっ。私がそうしたいから、貴方にそうして欲しいからよ。」
「そう。ありがとう、おばあさん。」
「ふふっ、どういたしまして」
現時点で成華は8歳である。
それから成華が10歳になった頃、おばあさんが倒れ、口癖を今までより言う様になった。
「成華、私はね、貴方の本当のお母さんではないの。私が死んだら、本当のお母さんを探しておいで、苗字はその人から貰いなさい。
でもね、それまでは貴方のお母さんで居させてね?」
ベッドに寝たきりになりながらもおばあさんはこの言葉は忘れなかった。
「ええ、いつまでも貴方は私の誇るべき母よ。
」
成華は涙を堪えながらそう返した。
数ヶ月後、おばあさんの起きている時間が短くなってきた。
ここまで来ると心の整理がついてきて、おばあさんにこう言った。
「おばあさん。今日、おばあさんの誕生日でしょ?」
「ああ、そうだったわね。」
「だから、おばあさんにプレゼントがあるの。
はい、どう?」
そう言って彼女が取り出した物は美しい花柄のペンダント。
「この花、綺麗ね。この花は何の花なのかしら?」
おばあさんはその美しい花に目を奪われた。
「分からない。気づいたらこの花が出来てたの。凄く綺麗だったからおばあさんにプレゼントしようと思って。」
数時間後、彼女が料理を作ろうとすると、おばあさんに呼ばれた。
「成華。」
「何?おばあさん。」
おばあさんは虚ろな目で成華に話しかける。
「成華、私眠くなってきたの。」
おばあさんの言う眠いが、どういう意味かを察した成華は、涙を堪えながら優しくこう返した。
「そうね。おやすみなさい。」
「成華。私、貴方の良い母親になれた?」
「ええ、とっても良い母親だったわ。
・・・おばあさん。私は次どうしたらいい?」
涙目で成華が言うと、おばあさんは優しく笑い、
「そうね。まず、旅に出なさい。貴方の本当のお母さんを探す旅にね。
貴方なら出来るわ。
私、眠くなって来ちゃった。」
「分かった。ありがとう、『お母さん』。
おやすみなさい。」
成華は今にも零れ落ちそうな涙を必死に堪え、できる限り優しく笑い、最後の言葉を告げた。
すると、おばあさんはふふっと笑い、静かに目を閉じた。
少女はおばあさんの死体を家の庭に埋め、その上に墓標を立てた。
彼女はおばあさんの言っていた通り、本当の母を探す旅に出る事にした。
荷物をまとめ、今まで自分を育ててくれた家に別れと、再会の言葉を告げ、その場を去った。
ここまで読んで下さってありがとうございました。
次回もお楽しみに