ネタだよ(私が来た!)
その日すっぽかした入学式はともかく、申し訳程度のガイダンスを受けて下校。日本一の名門校ならその日の内に講義あるものと勝手に思っていたのだが、拍子抜けもいいとこだ。IS学園の方がもっときっちりしていたぞ?
何はともあれ、自由時間ができたならそれに越したことはない。雄英のヒーロー科必修科目にはヒーロー基礎学がある。その授業を受けるに当たりコスチュームを身につける必要がある。
他のヒーロー科の生徒は各伝手や雄英スポンサーの企業が一人一人の要望に合わせたそれを作成してくれる。
俺も異端だが科学者だ。何より誰かの作ったそれより自分で作った物を着た方が安心感がある。
なので俺は入学が決まってから練っていたコスチューム案をさらに改良することにした。
「まぁ、でも……作るのは一発だがな」
背中から三対六枚の純白の翼が広がり操作する。
「能力も付与する効果も決まってる」
原材料は純正『この世に存在しない素粒子を生み出し、操作する』能力によって作られた『この世に存在しない素粒子』。つまり、『
その特性から望んだ効果を生み出せる訳ではないが、物質の系統や法則さえわかればどうとでもなる。
見た目は俺の一張羅でもある和服にしよう。あとは補助にゴーグル型の多機能眼鏡と……武器がいるな。
ヒーローの資格に含まれ国からの許可がいるが銃刀の所持もいいとされている。警察でいう銃や警棒と同じ扱いだ。審査が入るが、殺傷能力で言えば俺の能力の方が高い。所詮手加減用の玩具に過ぎないが、必要だろう。
ひたすら頑丈に、硬く作られ刃を潰してあるそれを手に取る。
「よし重いな。これくらいならオールマイトのような超怪力の個性ぐらいしか持ち上がらないだろう」
さらにその個性を持っていたとしても盗難防止用に認識機能も付けて致死量一歩手前の電気ショックも備え付けた。解除は可能だが、まず貸すことはないだろう。重過ぎるからな。
他の装備もホドキの量子格納庫に収めておけば咄嗟の時にも対応できるだろう。少し試運転しておくとするか。
現在地から円状に知覚範囲を広げていく。様々な情報が湧いてくるが取捨選択してヴィランのみに絞る。
……いた。
奴の個性はアンダー。目が合った人物のトラウマを読み取りその姿に変身するって個性だ。俺のトラウマにも興味はあるが、この装備には少し役不足かもな。
「ヨォ。お前ヴィランだろ?」
「チッ!だったらなんだオラァ!」
「ちょいとサンドバッグになってくれ」
「ハッ!俺に話しかけたのが運の尽きだったなあ!」
奴の輪郭がブレて次第にその姿を変えていく。
「!?」
「その顔が見たかったぜぇ!お前こんな女がトラウマなのか?ぎゃははは!」
俺の目の前に現れた奴の姿はアリスドレスに身を包んだ実の姉である篠ノ之束そっくりだった。予想外の出来事に俺は武器を構えるのも忘れて少し放心してしまった。
その隙を狙い束の姿のまま前傾姿勢で距離を詰めてくる。スピードも束のままだ。
「っ!ぐ……」
「にしても、何だこれ?増強系の個性か?なんかすげー体が軽ぃな。……それに、胸もこんなにデケェしよ」
見た目束だが、中身は歴とした男。誰かも知らない輩に虚像とはいえ体を好き勝手させるわけがないだろうが。
装備の試し斬りも忘れて
「なっ!?なんで、手が……お、お前!何の個性を……」
「確かにそれは俺の急所、トラウマなんだろうが……テメェは触れちゃいけないもんに触れた」
なぁに心配するな死にはしない。そう言って得物をゆっくりとした速度で振り上げた。
「ちょっと顔がイケメンになるかもな」
それは奴の個性が解除されるまで続き、路地から出て来た頃にはもう夕陽も傾いていて装備の確認もしていないことを思い出し、明日のヒーロー基礎学はぶっつけ本番になるのを悟ってがくりと肩を落とした。
翌日の朝、平和の象徴と謳われるNo.1ヒーローのオールマイトが講師で件のヒーロー基礎学を教えるらしい。
俺からすれば彼にはヒーロー業に専念してもらい、特別講師として体験談を聞く程度が適当だと思うのだが……。まあ、学校や彼にも何かしらの思惑があるのだろう。
まさか、彼がヒーローを引退して後継の育成とか?平和の象徴も所詮はただの人か。
そう思えば新米教師のやりそうなぐだぐだ感が浮き彫りになる。
「篠ノ之さんのコスチューム、よく似合ってますわ」
「ありがとう八百万。これ自作だから嬉しいよ」
「え!自作っ!?この袴もコートも刀も!?」
「おう。俺の個性だと自分の要望通りに作れるから手軽だし材料費もほぼタダだぞ」
個性のギャップに驚かれるが、そもそも俺のは個性ではないし、俺のよりも八百万の方が応用力があるのは昨日も確認した。
「え、あれだけ凄い個性なのに物を作る個性?だとすると複合型?でもそれだと一体どんな個性がブツブツブツブツ……」
「あー、相変わらずだな緑谷は……」
「デク君ちょっと怖いよ?大丈夫?」
「ヒョッ!?あ、ああ!麗日さん!?そのコスチューム似合ってるねっ」
麗日お茶子のコスチュームは、何というかピッチピチのライダースーツを無理矢理宇宙服っぽくしたってのが印象的だ。
大方サイズの申請を間違えてこうなったんだろうが、見るからに女子と話すのを緊張している彼に言っても無駄なことだろう。
そっとその場を離れる。
「篠ノ之!お前のコスチュームかっこいいな!」
「切島か、八百万もそうだが露出が多くないか?」
「あー、俺の個性だとこっちの方が都合がいいんだ」
そう言ってガキンっと片腕の肘から先を岩みたいに硬化させる。切島の個性は硬化か。単純に体の表面組織を硬くするだけみたいだが関節部分はどうだ?
「なるほど、柔らかい生地だと簡単に破けるから最初から服を着ないと」
「そういうこった。それにこっちの方が俺の憧れのヒーロー『紅頼雄斗』と同じで漢らしいからよ!」
昨日も測定時に思ったが、言動通り熱血漢らしい。それに彼の言う漢気ヒーローは少し古く、彼らの親世代が子供の頃活躍したらしい。所謂ツッパリという奴だ。
「確かにお前は漢らしいよ切島。個性もステゴロにピッタリじゃねぇか」
「お!やっぱわかるか!……ただよぉヒーローってやっぱ人気商売みたいなとこがあるだろ?俺の『硬化』は地味だからよ」
「俺はそうは思わねぇが、そうだな。『硬化』って言うぐらいだから、切島は皆の先頭に立って皆を守れるよう個性を鍛えればいいんじゃないか?」
矢面に立ってその背中で仲間を鼓舞するのも乙だよな?
切島の眼の輝きが先程とは比べ物にならないくらいキラキラと輝く。彼の性格だとこう言えば食い付くとは思ったが予想通りだな。
「っだよなぁ!何だよそれ超カッケェ!やっぱ篠ノ之お前漢だなぁ!話がわかるぜ」
「それ程でもねぇ。今度オススメの漫画貸してやるよ」
「お、期待してるぜ」
「何だ何だ?何の話だ?」
「篠ノ之って漫画読むのか!?」
「おいそれよりエロ本交換しようぜ」
随分と騒がしくなってきた頃、漸く小さなカンペを持ったオールマイトが声を張り上げて注目を集めた。
「さあ!有精卵共!──戦闘訓練の時間だ!内容は屋内の対人戦闘さ」
「まだ基礎も習っていませんのに、いきなり戦闘ですか?」
「その基礎を見る為にさ。まず自分がどこまでできるのかを把握するのも大切だぜ」
八百万の疑問にオールマイトはそう返す。確かにそれも一理あるが、屋内戦闘で対人……些かレベルが高いと思うがあの倍率を勝ち残った奴らだから大丈夫か?
彼曰く、昨今の凶悪敵の出現確率は屋内が高く、それに近い状況を想定したヒーローvsヴィランのチーム戦を行うとのこと。
ルールは簡単、制限時間内に敵が保有する核兵器を確保し敵を全員捕縛すればヒーローが勝利し、逆に核兵器を守りきりヒーローを全員倒せばヴィランの勝利。
場所は廃ビルを使い、他の生徒には映像のみモニターで観戦できる。戦闘後に反省会も行うと……。
「では早速チームを決めようか!皆一人一枚ずつクジを引いてくれ!」
「適当なのですか!?」
「敵側はどうか知らんが、ヒーローは近くにいた相手と即興で組むことがあるだろ。それのアドリブ力も見てるんだろ」
「な、成程!先生にも意図があったのか。しかしそれに気付く篠ノ之君もやるな!」
適当に言ったけどな。
「さて、俺は何かなぁ……と」
引いた紙を広げるとそこに書かれていたのは『I』。
「篠ノ之さんはIでしたか。私はCでしたわ」
「あ、私はEだね!」
「俺はJか。ま、仲間とか敵とか関係ねー!気合いだ!」
「あ、私Iだ。やったね推薦組が仲間だと安心するよっ」
俺のペアは葉隠みたいだな。
ペアができるとオールマイトがそれぞれ二枚引いて、どちらかの陣営かを決める。
彼が先ず引いたのはAとD。Aがヒーロー、Dがヴィランだな。
結果から言えばヒーローチームが勝利した。が、最後モニターに映っていたのは倒れている緑谷と麗日と呆然と立つ爆豪と飯田の姿。
緑谷と暴走した爆豪がタイマンで戦ってる隙に麗日が個性を使って飯田に接近。ここまでは順調だったんだが爆豪がタメ技でビルを半壊させたり、麗日が飛礫で核ごと狙って油断した隙に強奪したと思ったら自分を浮かせると嘔吐感があるらしくキラキラを吐いたりなどぐだぐだだった。
確かに爆豪を誘き出しては抑えて無事核を確保できたから緑谷の作戦勝ち、になるがこれが実戦なら核は何度暴発して被害が出たかわからない。
既に怪我で保健室に行った緑谷を除いて三人が帰還しており、八百万が評価を話して結論は訓練による甘えの勝利だと辛口に断言している。
誰もあの映像を見た後では八百万に同意した。だが勝ちは勝ち。緑谷にいいように翻弄された爆豪はただ一人悔しそうに下を向いていた。
授業は進み、遂に俺と葉隠の出番が来た。
相手はヒーローチームのB。轟と障子のペアだ。恐らく両者推薦生による今日一番の試合になるだろう。全員がそう予測した。
ビルは爆豪が爆破で半壊させた為場所を移して行われる。
「さて、敵チームの俺らだが、チーム戦というのがミソか」
「ハイハーイ!私の個性は『透明』ね!本気になると全裸になって背後から奇襲ができるよ!」
「おう知ってる。つか見たらわかるぞ」
「じゃあ私が説明したから次は篠ノ之君の番ね!さあ、どんな個性なのか教えてちょうだいな!」
意気揚々と聞かなくてもわかることをわざわざ説明したのは、それが理由だろうな。
「まあいいか。どうせ何時かはバレる訳だし。一回しか言わないからよく聞いとけよ」
数分であまり中身のない作戦会議を終えて、俺は『透視』と『座標移動』を併用してビルのあちこちに玩具の様な罠を仕掛けておく。
「もうすぐ始まるね!」
「そうだな、葉隠」
「なーに?」
「お前ただでさえ裸なんだから、ブーツもグローブも取るなよ」
「え?どうして?」
シュッシュッ!とふわふわ浮いているグローブだけがシャドーボクシングをしていた様に見えるが、透視をしている俺には裸で、しかも変態みたいな格好の葉隠の方を極力見ない様にしつつ注意すると素っ頓狂な返事が返ってくる。
「お前なぁ、いくら見えないからってマッパで来る奴がいるかよ。後で迷彩のコスチューム作ってやるからそれで我慢しろ」
「驚いた。篠ノ之君って絶対お前はさっさと全部脱いで捕縛テープ巻きに行けくらい言うのかと」
「視界の端でうろちょろされる方が厄介だ。それにもう罠は仕掛けてある。ないと思うが味方が罠にかかる間抜けは犯したくないからな」
「嘘っ!何時の間に!?」
「さっき」
訓練は既に始まっており、左半身が雪男みたく氷漬けの轟が個性でこのビル全体を凍らせようとする。が、四階のビルは最上階のここを残して凍り付く。
「「「!?」」」
「やっぱそう来たか。だが生憎対策はしっかり取ってある。じゃあ葉隠、後は高みの見物と行こうか」
「轟」
「わかってる」
ビル全体を覆う氷を作ったはずが最上階には全く効かず、氷というより個性そのものを無効化された様な感覚に轟は戸惑いつつも、直前の考えを変えて障子と協力することにした。
とりあえず凍っている場所は大丈夫と踏んで中へ侵入する。時間を無駄に浪費するのは得策ではないからだ。
「!轟っ!」
「くっ」
障子の助けで素早く伏せた彼の頭上を何か鋭利な物が通り過ぎる。
コンクリの床を転がりその場を離れて壁に突き刺さったそれを見るとなんと弩の矢だった。刺さった箇所が少しひび割れているのを見るに威力は充分殺傷能力があると見ていい。
『おっと流石に避けたか。まあ障子の目や耳があればそれぐらいは対応して貰わないとな』
「篠ノ之!」
「まだ来るぞ!」
曲がり角の突き当たりから先程と同じ弩の矢が絶えず飛んでくる。
雄英の保健室にリカバリーガールがいるとは言え、当たると怪我では済まない。
轟は氷で通路を塞ぎ矢の攻撃を凌いだ。だが安心するのはまだ早い。罠がこれだけだと二人は到底思えなかったからだ。
腰を低く隠れながら上への道を目指す。
『どうしたヒーロー?時間がないぞ?それともギブアップか?』
「ちっ!何処だ!出て来やがれ!」
轟が何処からともなく聞こえる挑発に声を上げる。だが俺はそこにはいない。ずっと最上階の核の前で座っていた。
『ヴィランが正々堂々戦うと思ってたのか?残念だったな。俺と戦いたけりゃ罠を突破して最上階に来てみな。ま、その前にタイムアップだろうがな』
悪役ロールでヒーロー二人を思いっきり挑発する。ヴィランを演じるならこれぐらい狡猾でもいいだろう。なんてったって轟は未だに個性の半分も使わない舐めプで挑んで来たんだからな。
正直言って少ーしイラッときたんだよ。家庭の事情か何だか知らないが、俺相手に手加減して勝とうなんて百年早ぇよ。
「篠ノ之君、今どんな状況?」
「監視カメラ全部凍ったからな。口頭でいいか?」
「全然オッケー」
「まずビル全体を凍らせようとして──」
そこからはおちょくり目的で罠を仕掛けまくった場所を勢いに任せて強引に進むもんだからほぼ全部に引っ掛かっている。
登ろうとして二人乗れば重さで滑り台に変わる階段。一人ずつならOK。
超古典的で王道な落とし穴。コンクリの足場を廃材に変えておいただけだが、また一階からとなると精神的にくるよな。
矢はもう使ったから強力接着剤の弾や大量の虫の玩具が降って来たり、扉を開けると天井に扮した層が落ちて来たり、階段前を通れば横から巨大なハンマーで窓から外に放り出される。あ、着地にクッションマットを敷いてあるから大丈夫だぞ。
結局、ツルツルの階段や粘着床からの足つぼ、正しい道を選ばないと電磁バリアで進めないとか他にも色々あったのに三階にすら到達せずに時間切れとなってしまった。
本日の解説。
作者は洋画好き。最近はマーベルヒーローとか色々観てますが。
初めて観たのはダースベイダー、次点でホームアローン。
あの子供が活躍する映画は頭空っぽにして観れるのでお気に入り。
それと似顔絵メーカーでヒーローコスチュームのイメージを作りました。
【挿絵表示】