とある科学で世界最強(超不定期)   作:和ん子

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 すまん、ふざけた(タイトルが)


ゆゆゆ、USJ!ゆゆゆ、USJ!

 

 黒い靄が災害救助訓練場USJの中心に溢れ出し、人が何にも通れるまで広がると、そこから手のマスクを付けた不健康な男がぞろぞろとヴィランを引き連れて這い出して来た。

 

 「一塊になって動くな!!13号、生徒を守れ!これは訓練じゃない!奴らは──(ヴィラン)だ!!」

 

 自身の個性を合理的かつ最大限に発揮する為のゴーグルを装着して捕縛用特殊合金ロープを握る。

 そして、相澤先生(イレイザーヘッド)は背後の同僚と生徒に指示を飛ばし、未だ大量のヴィランを吐き出し続ける黒靄に鋭い視線を飛ばした。

 

 

 

 時間はほんの10分程巻き戻す。

 学級委員長を選出してから丁度三日後、予てより予定していたオールマイトが講師をするヒーロー基礎学の授業が始まった。

 

 だが今朝のヒーロー活動で活動限界を迎えたどっかの脳筋は不在のまま、実技会場の『嘘の災害と事故(U S J)ルーム』に移動することに。

 上鳴はダルそうにしてるし、切島は気分を切り替えたのか「腕が鳴るぜ!」と硬化させて本当にガキンッと鳴っていた。

 蛙吹は「水難なら私の独壇場、ケロケロ」と言っている。確かに蛙吹の水棲動物の個性は強いだろうな。

 

 委員長の俺より委員長っぽい飯田の横に立ったが、各所から非難の視線は飛んで来る。相変わらず女子と切島の視線が強い。

 そこからバスに乗り移動。折角二列に並んだがバスの席が両端にあるベンチ型で意味無し。また空回りしているな、こいつ。

 言わなくてもわかるだろうが、移動中に会話無し。いや、俺の近くだけだ。

 前の方でプロとかヒーローは結局人気商売だとか話が弾んで盛り上がっていた。

 もうすぐ目的地に着く頃に漸く前の席に座っていた葉隠が話しかけてきた。

 

 「篠ノ之君。篠ノ之君が作ってくれたこのコスチューム凄い着心地いいよ!ありがとう!」

 此方を振り返り以前同様グローブが彼女の興奮を表す様にブンブン振られている。それだけ見れば以前の物と何ら変わってない様に思われる。

 

 「光学迷彩、だっけ?篠ノ之君に言われて気づいたけどいくら透明で見えないからって全裸は不味いよねー」

 「全裸!?い、今女の全裸って聞こえたけど気のせいか!?」

 

 峰田が食い入る様に葉隠をガン見するが、当然ながら今は透明なので何も見えない……はず。なのに何であいつ鼻血出してんだ?隣の八百万が引いてるぞ。

 

 「俺としては漸く年相応に羞恥心を持ってくれたかと親の気持ちで安堵してる」

 「あははーじゃあ篠ノ之君は私のパパだね!」

 「パパぁ!?ヘブッ!」

 二度目はないぞエロブドウ。

 

 「派手で強えっつったら、やっぱ轟と爆豪だな。戦闘訓練凄かったしよ」

 「その轟に勝った篠ノ之もある意味ヤベーけど」

 「何が起こったのかよくわからないのよね」

 

 残りの視線も全員集まった感じだな。

 

 「そう言えば葉隠さん。先程コスチュームを新調したと伺いましたが……篠ノ之さんが作られたので?」

 「うん、そうだよー。昨日漸く出来たってわざわざ持って来てくれたの」

 「え、昨日?」

 「それってまさか……」

 「あの日の午後、席を外してたのって」

 「先生も特に何も言わなかったし……」

 

 ん?なんか誤解されていたのがさらに誤解を招いているような?女子を中心にヒソヒソと内緒話しているのを聞き取ろうとするが、そこでイレイザーによる注意が飛び、皆一様に黙ってしまった。

 

 だが、確実に先程よりも視線が生温かいものに変わったのは言うまでもない。なんかこそばゆいぞ。

 

 実は葉隠の戦闘服はあのマスゴミと侵入事件があった日には既に完成していて、葉隠の体に合わせたり調整をするだけだった。

 そんな時に女子陣と気まずい空気になってしまい、サポート装備の開発許可証を持つパワーローダーを介して葉隠に渡してもらい着心地や機能の確認をしてもらっていた。

 それが昨日漸く完成したという訳だ。直接渡してその場で改良できれば一日で済んだんだが、自分で蒔いた種だ。仕方ない。

 

 

 

 バス移動が終わり、到着したのはドーム型の建物の訓練場。入口のガラスから向こう側が見え、中は遊園地の様なアトラクション……ではないがそう見える程度には勘違いしてしまいそうになる。

 俺達が来たのって救助訓練だよな?

 

 「スッゲー!USJかよ!?」

 

 切島は喜びから興奮しているが、俺にはとても訓練をする様な場所には思えなかった。寧ろ完全にそっちの方に寄せていったと思われ。

 ドーム型と言っても流石雄英クオリティ。全部見て回るのでも一日かかりそうな広さがある。

 

 「水難事故、土砂災害、火事……etc。あらゆる事故や災害を想定し作られた……その名も」

 

 「ウソの災害や事故(U S J)ルーム!」

 

 「「「本当にUSJだった!?」」」

 施設から出て来た宇宙服を着たスペースヒーロー。13号だ。あのマスクの下でドヤ顔をしているんだろうが全く見えないな。

 ここでヒーローオタクの緑谷による紹介が始まり、主に災害救助で目覚ましい活躍をしている紳士的なヒーローなんだとか。

 

 「13号、オールマイトは?ここで待ち合わせのはずなんだが……」

 「先輩、それが……通勤時に制限ギリギリまで活動してしまったみたいで、仮眠室で休んでます」

 「「不合理の極みだなオイ」」

 

 三日という潜伏期間。この間にヴィラン連合とやらはそこいらからチンピラを集めていたに違いない。そしてカリキュラム通りオールマイトがいるこの時間に一番襲撃の可能性がある。

 なのに肝心の標的がいないとなったら。死柄木は何をしでかすかわかったもんじゃない。それに対オールマイト兵器の詳細もない。

 

 「心得て帰って下さいな。以上、ご静聴ありがとうございました」

 

 考え事をしていたらいつの間にか13号のありがたい話が終わってしまっていた。

 彼の話は個性の危険性について。彼の個性は『ブラックホール』そのままらしく何でも吸い込み塵にする。簡単に人を殺せる個性であるが、それを戦闘ではなく災害救助に役立てている。

 

 俺の超能力だってこの世界の個性だって同じこと。使い方や人によって善にも悪にもなる。強く恐ろしい力だ。

 だからこそ超人社会は『個性』の使用を資格制にし厳しく規制する事で一見成り立っているように見える。だが一歩間違えれば容易に人を殺せる『行き過ぎた個性』を個々が持っていることを自覚しなければならない。

 その為のイレイザーの個性把握テストとオールマイトの対人戦闘訓練だったと13号は締め括った。

 

 実際にヴィラン犯罪を取り締まるよりも災害や事故の救助の方が仕事量も頻度も多い。

 勿論俺の能力は何も戦闘に特化している訳じゃない。きちんと災害時の救助が行えるものも存在する。そっちの方が精練されているのは否めないが。

 

 「そんじゃまずは……」

 

 イレイザーが何かに気づいた様にUSJの中央広場にある噴水付近に目を向ける。

 その視線の先を追うとついこの間見た黒い霧状の靄が出現し一気に拡散され人が優に入れる程度にまで広がった。

 まず出て来たのはあの時黒霧と一緒にいた手形マスクの男、それに追随して脳が剥き出しの全身が黒い大男。チンピラだろう、個性が異形となって表に影響した姿の者達がぞろぞろと靄から這い出てくる。

 敵意が、殺意がここまで伝わってくる。

 

 「一塊になって動くな!!13号、生徒を守れ!」

 

 

 ──奇しくも、命を救うはずの訓練時間に俺達の前に現れた……。

 

 

 不思議そうにその様子に気づいた者が眺めている。

 「なあ……これって入試ん時みたく、もう始まってるパターンか?」

 切島が拳を打ち鳴らして意気揚々と飛び出そうとした。

 「これは訓練じゃない!奴らは…… (ヴィラン)だ!!」

 

 

 ──プロが何と戦っているのか……。

 

 

 ──何と向き合っているのか……。

 

 

 「13号にイレイザーヘッドですか。おかしいですね。先日頂いた教師側のカリキュラムではオールマイトがいるとのことだったのですが……」

 「何処だよ、折角こんなに大勢引き連れて来たのにさ……オールマイト、平和の象徴がいないなんて」

 

 

 ──子供を殺せば来るのかな?

 

 

 途方もない悪意が俺達に襲いかかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イレイザーは専用のゴーグルを装着し、鬼気迫る声を出す。それを疑う者はおらず、少数を除いて全員が指示に従い固まりながら侵入したヴィラン集団へと視線を向ける。

 

 「何でヒーローの学校にヴィランが来るんだよぉ!」

 「どっちみち馬鹿だろ!?ここは雄英だぞ!」

 

 峰田と上鳴が叫ぶが、それよりも先日のヴィラン侵入を知る俺とイレイザーが見据えるのは特徴が合致する二人。

 顔と全身に靄がかかったワープの個性と全身に手形を付けた痩身の男。

 そして、明らかに他のチンピラと一線を画す脳が剥き出しの大男。十中八九あれが先方の切札、対オールマイト兵器で間違いない。

 俺が予想できるのは近接戦闘で物理技しか持たない彼にメタを張った個性。最悪『物理無効』とかだと勝ち目無いぞ。

 

 リーダー格の男、死柄木がキョロキョロと何かを探す様に辺りを見渡して首を傾げる。

 

 「おい何処だよ、折角こんなに大衆引き連れて来たのにさ……オールマイト、平和の象徴。いないなんて……子供を殺せば来るのかな?」

 

 悪意が動き出す。

 

 「先生!侵入者用のセンサーは!?」

 「ありますが……反応しない以上、妨害されているでしょうね」

 「そういう個性持ちがいるのか。──場所、タイミング……馬鹿だがアホじゃねぇぞあいつら」

 「……」

 

 八百万、13号、轟が事態を把握する中人知れず鼠の様な不思議生物の校長に念話を送っていた。

 これで仮眠室で休んでるだろうオールマイトや他のプロヒーローを呼んでくれるはずだ。念話も妨害された時は最悪移動速度が速い飯田に走って行ってもらうつもりだったが杞憂だったな。

 

 「13号!お前は生徒達を避難させろ。上鳴と篠ノ之は学校へ連絡を試みろ!」

 「もうやってる。校長がオールマイトを初め手の空いてるプロヒーローを連れて来るぞ」

 「よくやった!あとは、それまで時間稼ぎだ」

 

 戦闘態勢を整え俺達三人に指示を出したイレイザーはヴィランが集まる広場へと飛び出そうとして、それを見たヒーローオタクの緑谷が止めようとする。

 

 「待ってください!イレイザーヘッド本来の戦い方じゃああの人数は──」

 「一芸だけではヒーローは務まらん!」

 

 緑谷の言葉を強引に遮り、教師としてヒーローとしてイレイザーは中央へ降りる階段から飛び出し、ヴィラン達との交戦が始まった。

 射撃隊の個性を消して、首に巻いた炭素繊維に特殊合金の鋼線を編み込んだ捕縛武器で一網打尽にする。

 

 個性を消す視線はゴーグルで隠すことで連携を難しくさせ、その隙を突いて陣形を崩している。だが、彼の真価は奇襲からの短期決戦でこそ発揮される。

 故に、あれは偏に俺達生徒を守る為わざと囮を買って出たのだろう。なら──俺も参戦した方がいいな。

 

 「分析してる場合じゃない!今は早く避難を!」

 「皆さん!早く此方へ!」

 

 飯田が階段際までイレイザーの戦闘を観察していた緑谷を、13号が生徒全員の先頭に立ちUSJの出口まで誘導する。

 だが、

 

 「させませんよ?」

 

 目の前に渦を巻きながら黒靄が広がり、人型が形成された。ワープの個性を持つ黒霧、だったな。頭部と思われる部分に目の様な光の裂け目が二つ伸びる。

 

 「はじめまして……我々は敵連合と言います。──そして単刀直入に仰いますと……我々の目的はオールマイト──平和の象徴の殺害でございます」

 「「「──は?」」」

 

 全員が呆気にとられ思わず足を止めた。平和の象徴は言わばヴィランの抑止力。そのオールマイトを殺害する為に学校内へ奇襲する。

 普通に考えればそんな馬鹿なこと。考えついても実行に移そうとしてできるもんじゃない。

 

 「しかし……オールマイトはいらっしゃらない様子。仕方ありません……ならばまずは……」

 

 人型がブレて靄が肥大化する。ヴィラン達が来た時の様に、俺達を何処かへ転送させる気か。

 「させるか!」

 

 常時演算パターンを繰り返し行っている『超電磁砲』を使う。

 先制攻撃として気を失うくらいの電撃を放った。あれがただの靄なら物理攻撃は勿論、あらゆる攻撃を無効化できる無敵の個性。だが俺はそんなことないと確信してる。

 

 先日職員室に侵入した時、無敵なら俺を倒してからでも充分逃げれるはずだ。だが死柄木がいたとは言えそれをしない理由。

 どっかに本体または体があってそれを靄で隠してるんじゃないか?

 

 「ガァ!……ッゥ」

 

 案の定、まともに電撃をくらい一瞬痺れてよろけた隙に13号が個性で吸い取る手筈だったが射線に飛び込んで来る二つの影。

 

 「その前に俺達に倒されることは考えなかったのかあ!?」

 切島と爆豪だ。腕を硬化し、靄を爆破で吹き飛ばした二人だったが爆破の砂埃が晴れると黒霧は健在な姿を現す。

 

 「退きなさい二人共!」

 13号が叫び、二人もその声に振り返って彼の射線に被り攻撃を邪魔していたのに気付くが、もう遅い。

 

 「危ない危ない……流石は金の卵達。だが所詮は──卵」

 

 ──散らして!嬲り殺す!!

 

 言葉と同時に今までのは手を抜いてたのがわかるくらい爆発的に靄を広げてA組を包み込む。

 

 ……予定変更だ。そこいらのチンピラ程度なら相性次第で圧倒できる。それに向こうは俺達生徒の個性を知らないと来た。

 緑谷辺りならそのアドバンテージに気付けるだろう。

 チンピラは数を増やすだけで連合の精鋭を呼ばれていたらと危惧していたが、この位なら実戦を経験させるのも有りだな。

 

 「皆──ッ!?」

 何人かは自力で靄の範囲から脱出し、転送から逃れていた。

 

 そこにA組きっての実力者である爆豪や轟の姿はない。

 となると……電波妨害はされているから片目を隠す為に眼帯を付け『鳥瞰把握』『透視能力』『表層融解』『液化人影』を同時に使いUSJ全域を探る。この組み合わせは便利だな。

 前半二つで全体を俯瞰できる視界を確保し、後半二つを並列思考とホドキの演算補助でそれぞれ援護が必要そうな所に派遣する。

 ただこれをすると俺自身簡単な演算しかできないから無防備ににるんだよな。まあ、この程度の相手なら能力を使うまでもないか。

 

 「飯田君、貴方はあの出口から脱出し応援を呼んできて」

 「その必要はないよ13号」

 「君は……篠ノ之君」

 

 「貴方は……そうですか、あの時職員室以来ですね。あの風格からプロヒーローだと勘違いしていましたよ。まさか生徒の一人だとは」

 「「「知り合い?」」」

 「もう襲撃があったから言うけど、あのマスゴミ騒動の時カリキュラムを盗んでた現場に遭遇したんだよ」

 「え、」

 「それであの日……」

 「どうやらその様子だと平和の象徴がいないのは貴方が考えた作戦ですか?」

 「いや?まあいいだろそんなこと。お前はここで負けるんだからな」

 

 チャキ。13号よりも前に出て手にした刃を潰した刀を構える。物理攻撃が効かないとわかっていて尚且つこの行動を取るなら取るに足らない……とか思ってるんだろうが、もうお前の弱点は見つけてんだよ。

 

 ──キン。

 鍔鳴りが聞こえ、納刀した頃黒霧の靄がバラバラに崩れる。

 

 「な、があっ……なに、を!?」

 「お前の弱点、靄に隠してた実体だよ。ワープの靄になれる部分は限られてて、靄で体を隠していたなら話は早い。暫く寝てろ」

 

 露出した首元の金属部分を掴み寄せ、握力だけでヒビを入れれば意識を失ったのか目の部分だろう裂け目が消えた。

 

 「瀬呂、こいつの捕縛を。13号、俺はイレイザーの方に向かう」

 「そんな!危険です!」

 「相手はワープ。弱点がわかったとは言え相性が悪い。それに、向こうには対オールマイトを想定した切札がある。最善を考えて貴方は避難優先で」

 

 『座標移動』は使えないから歩きで中央広場まで移動するが、後ろから声がかかる。

 

 「どういうことだ篠ノ之君!君は何を知ってる!?」

 「……後で全部話す」

 

 

 広場に向かった俺の前には脳無とかいうあの大男に腕を折られ組み伏せられるイレイザー。周囲に立っているヴィランは手形マスクの男だけ。

 

 「まだ生きてるなイレイザー」

 「はぁ……はぁはぁ……勝手に、殺すな」

 

 生きていれば、どうとでもなる。最悪、ドクターの負の遺産を使ってでも。A組にはまだお前が必要だぞイレイザー。

 「黒霧が、やられた?……まさか、嘘だろ……?クソ、クソクソクソクソクソッ!どいつもこいつも役立たずめ。ああ、クソ。ゲームオーバーだ」

 「ああ、そうだ。お前も、お前の先生とやらも終わりだよ」

 「うるさい、シネ」

 

 今までイレイザーの所にいた脳無が音もなく真正面に立つ。速いな。聖人くらいの膂力が妥当か。それが個性で迫るとは、つくづく変な世界だな。

 

 「だが、所詮は木偶だ」

 『液化人影』で盗み見た限り、こいつに思考というものは存在せず、死柄木の言葉にのみ反応する。だから幾ら速くても、オールマイト並みに力があっても、動きが単調なら予測ができる。

 

 「まずは腕、膝、股下、首」

 バターでも切るかのように、スパスパと斬れるな。一応刃は潰してあるんだが。

 

 「あ?」

 確実に絶命したと思ったが、首を落としたにも関わらずまだ斬り落としてなかった反対の手足が動いている。真っ二つになった切り口が盛り上がり、筋繊維が早送りみたく伸びて形成する。

 五秒もあれば脳無は元の姿で立っていた。

 

 「ほう?随分と面白い体をしてるな?」

 「あははは!どうだ?凄いだろ俺の脳無は!こいつはな、『ショック吸収』と『超再生』の個性を持った改人なんだ!オールマイトを殺す為に作られた存在なんだ!」

 「ほーん。大方オールマイトにメタ張る為に物理耐性の『ショック吸収』とそのエネルギーを『超再生』に使ってる訳か。確かに単純で強力な組み合わせだが、それ以外だとめっぽう弱い」

 

 例えば──。

 再び掴みかかって来る左手を腰を落として躱し、刀に手をかける。

 

 「見様見真似。なんちゃって七閃!」

 瞬間、脳無が十四の肉に分割され、また再生が始まる。

 完全に再生する前に置き土産として持っていたゲームセンターの硬貨を投げ入れた。

 

 物理がダメなら、これならどうだ?

 殆ど演算を必要としないただ力任せに雷が落ちたような、空気が一気に膨張して爆発音と共に眩い雷撃をお見舞いする。

 蒸気が晴れて、全身が炭化している脳無が全容を見せる。だが、これ終わりじゃない。

 懐から能力によって予め分離させていた液体の冷媒を投げつけた。再生途中の脳無にかかった少しの衝撃で化学反応が起こり体の芯まで一瞬で凍りつく。

 グググ、それでも氷を砕きながら尚立ち上がる脳無に感心してヒュウと口笛を吹く。

 

 「何だよ、お前……何なんだよっ!?」

 

 今まで棒立ちだった死柄木ががむしゃらに走って来ては此方に向かって掌を伸ばす。

 あれの個性は『崩壊』。手に触れた物を何でも壊して塵に変えてしまう初見殺しの様な個性。時間があれば人を壊すのも簡単だ。だが俺は奴の記憶で知り、『鳥瞰把握』で一度見ている。ならば、対処可能。

 

 再び雷を脳無に落としながら、接近する死柄木に持っていた刀を鞘に納めたままぶん投げる。

 唯一の武器を敵に投げるなんて馬鹿だと思ってるんだろうが、ちゃんと意味があるから投げたんだよ。

 

 刀を手放したことに目を見開いたがすぐにニィと笑い俺に向かっていた手を刀を受け止める為に動かした。だが、それこそが俺の罠だ。

 あの刀の制作した時を覚えているだろうか?結局ヴィランに試し斬り出来ず戦闘訓練の時も使わなかったが、あれはオールマイトの様な怪力の個性持ちが漸く持ち運べる重量と盗難防止機構の致死量一歩手前まで強化した電気ショックが持っている間永続的に発動する物だ。

 

 「ぎゃあああああああ!!!」

 当然見るからに痩身の奴では腕なんかでは受け止められず、逆に吹き飛び下敷きになったことで肌と密着し盗難防止機構が作動した。

 体が震えてのたうち回りたいが重りがあってそうも出来ずに藻搔いている死柄木。

 

 その間に二、三度冷媒と雷を繰り返した脳無は再生こそするものの最初に見た時の速度とは比べ物にならない程遅くなり、溜め込んだエネルギーも枯渇しているのがわかる。心無しか動きも鈍重になってきた。

 

 「さあ、観念しろよ悪党」

 

 脳無は捕らえる為に冷媒で動きを止め、死柄木の方に歩みを進める──、

 

 

 

 

 「まだ、です!」

 

 

 

 

 死柄木を電撃と重みで押さえていたはずの刀が横から飛んで来る。死柄木を確認すると地面から黒霧の靄が渦を巻きズブズブと痺れて動かない体を沈めて行く。

 

 「待て!逃す……!?」

 

 刀を受け止めて抜刀で動きを止めるべく手をかければ、背後から氷から脱した脳無が最後の力を振り絞り俺の頭を握り潰さんと手を伸ばしていた。

 

 「邪魔だ!」

 脳無を縦に両断して斬り捨て、そのまま勢いを殺さず振り返りざまに死柄木がいた場所に刀を矢の如く投擲した。

 

 だが、後一歩のところで靄ごと死柄木の体も黒霧も逃してしてしまった。

 脳無は他人の個性という異物を無理矢理容れられた拒絶反応からか、溜めたエネルギーを全て使い尽くしたのか、冷媒と雷による劣化がとどめを刺したのかはわからないが死柄木の個性の様にサラサラと跡形もなく崩れてしまった。

 

 「糞がああああああああ!!」

 

 完っ全に出し抜かれた!最後の最後に油断したとは言えまだ動けた脳無と黒霧に、まんまとやられて敵の主犯格は取り逃がし証拠兼研究材料の脳無も壊れてしまった。

 完敗だった。水鳥は水面から飛び立つ時に場を濁すことなく飛び去るが、何の証拠も残さない様計算された上での敗北。

 

 苛立ちからの地団駄で足元が波状に砕け散る。それに怒りで能力の制御が甘くなり、『液化人影』のコンクリを溶かして俺を模っていたものが崩れそうになった。

 寸での所で冷静になり制御を取り戻し、優先順位を再確認しつつ倒れているイレイザーの元へ駆け寄る。

 

 両腕を折られ、個性を潰す為顔面を地面が陥没するまで何度も打ち付けたから頭が割れ眼窩も複雑に砕け散っている。血の流し過ぎで体温が低下し脈も弱い。

 せめてヒーローが来ればと思ったが無い物ねだりはしない。野戦病院がする様な荒療治になるがそれでもやらないと危ない状態。治療に集中する為全ての演算を一度解いて無防備になる必要がある。そうなれば一人だった火災エリアや窮地に陥っていた生徒が一気に危険になる。

 

 『液化人影』は液化した流動物を遠隔で動かしているだけなので映像がなければ的確に動かすことすらできない。逆も然りでお互いに意思疎通する術はなく、最初は生徒も俺の形をした個性でヴィランと思った奴もいるぐらいだ。

 多少はジェスチャーで意思疎通はできたし俺は読唇術で何を言ってるのかわかったから協力できたが……。

 今は一刻を争う。

 

 能力を解除していつもの様にホドキの量子格納庫ではなく本物の王の財宝を開く。黄金の波紋が無数に展開され、同時に頭の中に俺が欲しいと思う医療器具と薬がカタログみたく羅列する。

 

 「絶対に助けてやる」

 

 




 
 本日の解説。
 
 長ぁあああい! 以上!
 嘘です、ちゃんとやります。
 オリ主、完敗ですね。元の世界ならこんなミスは犯さなかったでしょう
 本日のMVPは間違いなく黒霧!
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