とある科学で世界最強(超不定期)   作:和ん子

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 お久しぶりです皆さん
 
 あけまして、おめでとうございます。
 今年もよろしくお願いします。

 では雄英体育祭、開幕


雄英体育祭 前編

 

 

 雄英は敵連合の襲撃があり、学校はマスゴミや対処に追われて翌日は臨時休校。生徒は勿論自宅待機だ。下手に外に出て、誘拐されて人質に取られたりしたら笑えないからな。

 

 俺はというと、姿を変え声を変えて完全に寝床と化した仮自宅を飛び出した。

 未だ俺はこの個性渦巻く世界をよく知らない。いや、個性は一つのファクターでしかなく、ヒーローとヴィランに二分されたこの世界を実際の眼で見たことがなかった。

 所詮、他人の記憶や能力による情報収集、メディアを介した断片的なものでしかない。だから誰の介在もないありのままを俺自身の眼と耳で確かめる為に。

 手っ取り早く『肉体変化』で垣根帝督の姿に変装し、都心部の敵被害が多い場所を歩く。垣根の顔や姿がまんまホストだから何度かキャッチだと思われて声をかけられたが、一夜の夢として『心理掌握』で記憶を見て趣味趣向を把握し欲望に忠実な夢を見させ、住所へ直接『座標移動』で送り飛ばした。

 そこに男女の差はない。当然黒霧の様な血の通わない頭でもない限りな。ただ単に慈悲でやった訳じゃなく一般人の不満や願望を調べていたんだが、個性の有る無しに関わらずヒーローやヴィランの話題を除けば大差ないな。

 ついでにヴィラン仲間の屯場所も特定できたし、軽い運動がてら潰してくるか。最近ストレスを発散する機会がなかったからな。

 

 ……んで、そんな降って湧いた休日を過ごした俺は二日ぶりに雄英の門を潜っていた。

 内緒でハッスルしてストレス発散した俺と違い、大体の奴らは自宅待機の鬱憤を漏らしたり、連休とは違う休日サイクルからダルさを隠そうともしていない。

 

 「どのニュースも襲撃事件の事ばっかだったよな」

 「そうそう、雄英の危機管理がどうのって」

 「相手にはワープゲートの個性もいるのに!無茶苦茶だわ!」

 「でも助かってラッキーだったよな。先生は勿論篠ノ之がいなけりゃ俺達どうなってたことか……」

 「怖ェこと言うなよ!ちびっちまうだろぉ!?」

 「黙れカスッ!!」

 

 そんな感じで俺の話題の時は少し視線を感じたが、イレイザーが来るまで寝たフリを続けていた。

 

 「皆ぁ始業の時間だ!私語を謹んで席につけ!」

 「ついてないのお前だけだと思うぞ飯田」

 「む、しまったぁ!」

 「ドン☆マイ」

 

 さて、全員が席に着いた所で漸く予鈴が鳴り、時間に厳しいイレイザーが入ってくる。

 その姿は病院で見た時と変わらない包帯でぐるぐる巻きのミイラ男スタイルだった。彼が入って来たことでクラスは騒然となる。

 

 「「「相澤先生復帰早ぇぇぇえええ!?」」」

 「相澤先生、無事だったのね良かったわ」

 「無事言うんか、あれ……」

 無事だぞ、あんなでも。イレイザーは俺が言った偽装をやっているだけで、あの下は古傷一つない赤ちゃん肌だからな。

 

 「おはよう、俺の安否はどうでもいい。何より戦いはまだ終わってねぇ」

 

 皆の前に立ったミイラ男、もといイレイザーがそう告げればクラスに緊張が走る。

 まさか敵がまた襲撃に!?と言った具合に。だが、その緊張とは関係なく、彼の続いた言葉に教室の空気がガラリと変わる。

 

 「雄英体育祭が迫ってる」

 「「「クソ学校っぽいの来た──ッ!」」」

 「いや待て待て!」

 「襲撃されたばっかなのに、大丈夫なんですか?」

 

 切島を筆頭に全員が湧き立つが、上鳴や響香の疑問で冷静になり急速に萎んでいく。

 イレイザー曰く、体育祭を開催することで雄英の警備や危機管理体制が盤石だとメディアや世間に示すのが学校側の方針だと。

 

 だが実の所、それだけじゃない。元来、雄英体育祭はオリンピックや夏の甲子園並に日本全国から注目される一大イベント。それには当然老若男女、ヒーローにヴィランと様々な人が見る。

 それ程のビッグイベント、開催する理由に個性が使えない大人のストレス発散目的もあるんじゃないか?と俺は考える。敵は兎も角世間で言えば個性はヒーローとその卵にのみに許された特別な力。強い個性なのに持て余した輩も決して少なくない。

 そんな輩にTVの向こうでも会場でも個性を使った競技を見せることで、代替行為として自分を同一視させ、ストレスの捌け口にする。

 今回敵連合の襲撃があったから、緩んだ緊張をもう一度張り直す目的としても、意識をこちらに逸らそうとしているのかもしれない。

 リスクを省みても、様々な思惑が交差しての今回の雄英体育祭の開催が決まったんだろうことがわかる。だがイレイザーや教師陣は当然、そのことを俺たちに話すつもりはないらしい。

 俺達のモチベの低下を防ぐ意味もあるんだろう、大人のストレスの捌け口にされてのメディア露出なんて、そんなの見世物と何ら変わらない。

 

 だが生徒達にとっては貴重なチャンスでもある。メディアを通して世間に見られるということは個性や人間性、実力をヒーローにアピールする機会でもある。

 雄英に限らずヒーロー科卒業後はプロのサイドキックとして事務所に入り経験値を積むのがセオリー。その為にはプロからスカウトされる必要がある。

 この体育祭の次に職場体験があり、その布石にもここで目立ちたい、勝ち残りたいと思うのはまだまだ十五の子供達からすれば当然だろう。

 

 「時間は有限、プロに見込まれればその場でヒーローへの道が開かれる。年に一回、計三回だけのチャンス、ヒーローを志すなら絶対に外せないイベントだ。その気があるなら準備は怠るな!」

 「「「はい!」」」

 「HRは以上だ」

 

 イレイザーが退室する。その後ろ姿を見届け興奮を抑え切れない殆どが話を再開する。ただし話題は襲撃事件ではなく体育祭だ。

 確かに皆のモチベは上がった。火をつけたのは正しかったと思いたいが、やはり子供、祭典に対して襲撃を乗り切った事実に浮き足立って調子ついている気がする。

 

 「だから、こうなる」

 放課後、帰る時にA組の教室を大勢の生徒で囲まれて出れなくなっていた。

 

 「ナニコレェ!?」

 「出れねーじゃんか!」

 「敵情視察だろ雑魚が。んなことしても意味ねーから、退けモブ共」

 「とりあえず知らない人のことをモブって呼ぶのやめなよ!」

 

 爆豪は相も変わらず周囲にヘイト振り撒いてる。その物言いから他のクラスやA組からも不満が上がっていた。

 

 「随分と偉そうだな。ヒーロー科の奴ってこういうのばっかなのか?なんか幻滅しちゃうな」

 

 目の下に隈がある不敵な物言いで返す普通科の、誰だ?彼は敵情視察ではなく宣戦布告しに来たと。

 普通科にはヒーロー科入試で落ちた奴らが沢山いる。雄英は完全な実力主義、見込みがあればヒーロー科への編入、それに伴いヒーロー科から普通科に落とされると警告した。

 それを言うからには勝つ算段があるんだろう。彼の個性は知らないが、勝ち残った時が楽しみだ。

 

 「おうおうおうおう!隣のB組の者だけどよぉ!襲撃されたって聞いて話聞きに来たんだけどよぉ!えらく調子ついちゃってんなオイ!」

 「無視かテメェ!」

 「そこのお前、B組の誰だ?」

 「俺ぁ鉄哲徹鐡だ!何か用か!」

 「襲撃については警察や学校が箝口令を敷いてるぞ。だから俺達は詳細を言うことはできん」

 「そうか!すまん!」

 「「「あ、意外に素直……」」」

 「あと、こんなとこで油売ってる暇があるなら職員室にでも行って施設の使用許可でも貰って来い。まずは自分を鍛えてろ。話はそれからだ」

 

 気圧されたのか一歩引いてる大半の生徒。爆豪の肩を持つ訳じゃないがその程度、相手にするまでもない。

 

 「ケッ。上に上がりゃ関係ねぇ」

 「うおぉ!漢らしいぜ!二人共!」

 

 切島の男泣きはスルーで、俺も結果的に煽ったからA組の方から何か言われる前に退散するか。

 

 

 体育祭まで二週間、正直言って暇だ。

 他の生徒に発破をかけるような事を言ったが、俺は自分をこれ以上すぐに高められるとは思っていない。それならUSJを襲った敵連合に報復する方法を考えた方がまだ有意義だ。

 

 あのゲーム脳な死柄木側に傷をすぐに治せる回復役がいても……まあいないのはわかってるがこの雄英体育祭は流石に襲撃しないだろうとわかる。

 脳無を俺に完封され、自身も大火傷を負った奴はオールマイトの前に俺を殺しにくる算段を企てているはず。なら俺の能力が公開されるこの体育祭に潜入はしてもあくまで情報収集に止めるだろう。怪我も治ってないし。

 だから俺も襲撃されない限り手は出さない。だがその代わり、次の襲撃では容赦なく潰させてもらう。

 

 

 過去の映像を見る限り、競技は大体三種目。

 全員参加の予選、第一試合、第二試合となっていて途中にレクリエーションがあったり昼休憩がある。大体のプログラムは同じ。

 毎年種目は違うが概ね流れは例年通り。だが今年はオールマイトが教師をしている。そこで変化がないとは言い切れないか。何が来てもやることは変わらない。

 全力は勿論出さない。本気は出すかもしれないが大人気ない結果になるだろうな。記録映像を見ながら暇潰しにそんな事を考えて、開催日までどうしたものかと頭を抱えた。

 

 

 

 

 んで、時間を進めて雄英体育祭当日。

 別に何もやってこなかった訳じゃないぞ。クラス連中から連絡網が回ってきて個人特訓に付き合ったり少しアドバイスをしたりしていた。

 連絡して来たのは尾白、耳郎、八百万、上鳴、三奈の五人。

 

 「組手の約束がある尾白はともかく、他の四人はどうした?」

 「頼む!俺達を鍛えてくれ!」

 「まあ、今上鳴が言った通りだよ」

 「押し付けがましいお願いではございますが、どうか私達に知恵を貸してください」

 

 三人は頭を下げているが、残りの一人の三奈はただニコニコしてる。

 「三奈はどうした?」

 「遊びに来た!というのは冗談。アタシも皆に負けたくないからさ!付いて来ちゃった」

 

 三奈はともかく他の四人も本気で体育祭に臨むつもりらしい。それを見込んでまずは一晩、面倒を見てやることにした。

 

 「皆に俺から二つのコースをプレゼントしよう。Aコースは、ありとあらゆる苦痛を全身で経験する悪魔も泣き叫ぶようなハードトレーニングで、しかも効果と命は保証できない」

 「Bコースは寝て起きたら俺を除く最強になってる。さあ、どっちのコースがお望みだ?」

 「「「Aコース!」」」

 「「び、Aコースで……」」

 「よく言った」

 

 とまあ、こんな感じで某フラスコ計画の妹萌え兄式トレーニングを決行。その後は個々に合わせたメニューに切り替えて一週間面倒を見てやった。

 朝から準備やらで控え室で待機していたクラスメイトを見渡す。この二週間例外なく秘密の特訓をして来たであろう顔触れの中でも面倒を見た五人は特に違う。

 別に色眼鏡で見たり贔屓してない。そのまんまだ。だが、それがこの体育祭で通用するかはまた別だ。

 

 「あー、やっぱり戦闘服着たかったなぁ」

 「公平を期す為、体操服なんだよ」

 「あー緊張してきた……」

 「予選って何すんだろうな?」

 「毎年大半がそこで落とされるもんね」

 「人人人人人人人、あむ」

 

 「緑谷」

 控え室で各々が精神統一や今日のことを話題に好き勝手している中、轟が緑谷に声をかける。

 

 「な、何?轟君」

 

 二人の動向に同じ控え室にいたA組が注目する。爆豪も気になるのか視線だけ二人の方を見ていた。俺はどうでもよく用意されているパイプ椅子に座ってる。

 

 「客観的に見ても、俺の方が実力は上だと思う」

 「え」

 「けどお前、オールマイトから目ぇかけられてるよな?そこ詮索するつもりはねぇが。お前には勝つ」

 「何だ何だ?A組トップ候補の一人が宣戦布告か!?」

 「オイ急に喧嘩腰でどうした?試合前だぞ、やめろって」

 「仲良しごっこじゃねぇんだ。いいだろ、別に。それと篠ノ之……お前にはぜってぇ負けねぇ」

 「……ま、精々頑張れ」

 

 轟の言ってる事は正しい。ここからは皆がライバル、プロの世界同様他を落として上を目指す。次の種目のことを考えても仕方ない。

 轟の宣戦布告を軽く流して手をひらひら振って返事とする。それを見た相手が苛立とうがどうしようが俺には関係ない。物理法則に縛られてる程度じゃ俺には絶対勝てないからな。

 敵に対して手の内を見せる愚行を犯す理由もなく、二週間から俺は自分に設ける制限だけ考えていた。

 

 

 雄英一年生の会場は円形のドーム型、一番上が開いているタイプ。観客席は愚か、階段部分にも立っている程満員御礼。

 歓声が止まらない。熱がこっちにも伝わってくる。

 

 『Hey!白熱しろオーディエンス!群がれマスメディア!今年もお前らが大好きな高校生達青春の暴れ馬!雄英体育祭が始まりエブリバディ!アーユーレディ?』

 

 一年生の入場。

 

 『どうせあれだろこいつらだろ!?敵の襲撃を受けたにも関わらず、鋼の精神で乗り越えた!一年A組だろォ!?』

 

 プレゼントマイクの放送に揃ってヒーロー科、普通科、サポート科、経営科のA〜Kまでの全クラス揃い踏み。

 グラウンド中心に総勢220名の一年が集まった。そして、用意されていた指揮台の上には一年主審のミッドナイトがSMプレイ用の鞭を持って立っていた。

 

 「ミッドナイト先生なんちゅー格好を」

 「流石18禁ヒーロー」

 「18禁ヒーローなのに高校にいても」

 「いい!」

 エロの権化峰田が食い気味に肯定するが、ミッドナイトに静かにするよう注意を受けた。それすら喜んでそうだが。

 

 「選手宣誓!A組爆豪勝己!」

 「「「なっ!?」」」

 「かっちゃんなの!?」

 「そりゃあ、あんなでも入試トップだからな」

 「ヒーロー科の、入試な?」

 

 A組全員が爆豪に対してどういう印象を持っているのかがよくわかる反応だった。俺、八百万、轟は推薦だからこの場合は除外されるが、普通科の生徒からわざわざ訂正の野次を飛ばされて上鳴と緑谷はビクビクしていた。

 まあ、それも軽いもので敵の殺意に比べれば子供の癇癪に似た嫉妬の悪意なんぞ微風程度のもの。

 さて、ここで爆豪を操り模範的な優等生の宣誓をしたら、それはそれで面白いが俺個人としては、あのまま何処まで上がれるか見てみたいものだ。

 

 「せんせー、俺が一番になる」

 

 宣誓台に登ってマイクの前、いや全国放送された国民の前で両ポケットに手を入れたままのそれを、見ていた他の生徒や観客が許すはずもなく。

 

 「真面目にやれー!」

 「降りてこいヘドロ野郎!」

 「絶対やると思った!」

 

 直前の静けさなんてなかった。生徒兼選手達の怒りのボルテージはもう最高潮。

 

 「精々いい踏み台になってくれ」

 

 俺達の方を振り返れば、親指を下に出してそのまま降りて来る爆豪。あの顔は勝って当然って感じじゃない。自分を追い込む為のものか、意外と繊細なんだな。

 

 「それじゃあ早速!第一種目に移るわよ!」

 「雄英って何でも早速だよね?」

 「時間を無駄にしない合理的ってやつかな」

 「相澤先生に影響されてきてるわね」

 

 A組の中でそんな会話があったが、その間も当然話は進む。一年生徒全員の名前の前に映し出されたスクリーンに種目がデカデカと表示される。

 

 「これよ!障害物競走!」

 

 障害物と言うほどの物じゃないがな。ルートはこの会場の外周。障害のジャンルは今はまだ秘密か。先に知ってしまったが特に問題ない。

 四の五の言わずさっさと始めよう。

 生徒が並ぶが、スタート地点で既にごった返している。何せマラソン大会でもないのに全クラス参加だから軽く3桁の人数が一ヶ所に集まったんだ。それに会場を出る通路が四人横に並べば埋まるような狭いから……当然こうなる。

 

 「せっまっっっっっ!?」

 「痛っ!誰か足踏んだ!?」

 「前に、進めねぇ!」

 「ぐ、ぐるしぃ!」

 

 A組は比較的最前列にいたからもう出口に差し掛かる頃──おっと。足元に冷気が通り抜け、凍り付く直前に駆け抜け氷結を免れる。

 以前の戦闘訓練と比べると随分優しいな。轟の個性か。

 俺以外にもA組やB組、他数名が氷を抜けて再び走り始めていた。俺もそれに続く。俺は誰に強制された訳じゃないが『座標移動』は封印している。マッハ5を超える速度で連続移動なんかしたら他の生徒の見せ場がないし、障害物競走の意味もないからな。

 

 「A組の連中はともかく、思ったより抜けられたな」

 「調子に乗るなよ……半分野郎ォオ!!」

 

 爆豪は掌の爆発で空を飛ぶか。中々面白い発想だ。俺も風を操って飛行するし、ここは翼を出すか。

 

 『おおっと大多数が轟の氷で動けない中先に進んだ奴らで面白い奴がいるな!おいミイラマン!お前のとこのクラスどうなってんだ!?』

 『俺は別に何も?あいつらが勝手に火ぃ付けあってるだけだ』

 『それにしても、あの白い羽、最近若手で最有力候補のホークスを思い出すな』

 『あの三対の翼は『未元物質』。翼の形をしてるが実際はこの世に存在しない物質らしい。詳しい事は難しくて噛み砕いて説明が出来ん。翼は変幻自在で先端を伸ばしたり、羽根を飛ばしたりとほぼ万能。良い個性だ』

 

 今日、以前から厳選していた体育祭で使う能力の一覧を、予めイレイザーに渡してある。正直ハンデを設けることにイレイザーも反対していたが、俺みたいな複数の個性を持つのは普通ありえないから納得してくれた。決して怪我を治した借りを返してもらったわけじゃない。

 一度使った能力はもう使わない。二つ同時に使わない。こんなぐらいしか思いつかなかったが、これでも十分優勝は狙えると確信している。ホドキの演算で出した予測でも同じ。

 全生徒の個性と性格を把握して、連年の競技内容を統計で割り出した結果だ。まず間違いない。

 

 ヒーロー科実技試験で運用された巨大ロボ軍団がいたが、轟が凍らせ、俺が空から斬り刻む。瞬殺だ。

 残りは後続の活躍の場に残して、空を飛ぶ俺は地上を走る轟をあっさり追い越し、次の障害物に向かう、が。

 

 『先頭は入れ替え!やっぱ空を飛べる個性は強ェな!今度の関門は落ちたら終わり!フォーリンダウン!!ってあらあらぁ!篠ノ之が空を飛んで楽々通過ァ!やっぱズリィ!!』

 『まあ、意味ないよな』

 

 正直残念でならない。俺にも純粋に行事を楽しもうという気概があったとは驚きだ。だが、勝負は勝負、勝たなきゃ意味ないんだよ。

 

 「メルヘン野郎がぁあああ!俺の前に出るんじゃねー!!!」

 「なら追い付いてこい。話はそれからだ」

 

 羽ばたく必要はないがバサッと六枚の翼をそれぞれ動かして軽く暴風を作り、空を飛ぶ生徒の妨害をした。アンチヒーロー行為と気付けるのはどれくらいかな?

 

 次の関門も飛べば関係ない。音と光と少し威力が高いが怪我の心配はないというギャグみたいな代物、つまり地雷源だ。センサーは付いておらず踏んだ瞬間爆破する。

 ……失禁は人それぞれじゃないか?

 

 「わざわざ歩く必要がない。だがこのまま独走もつまらん。ハンデの使い所を間違えたか?」

 

 障害物競走と自信満々に銘打っていたからどんなものかと思えば、制限時間でなく先着人数で区切っているのか。

 教育というのは難しいな。最高を選出する為に犠牲……踏み台になる者が必要だ。

 

 「ま、それでも俺が二番手に甘んじる理由にもならないが」

 『ゴォオオオル!!まさに最速!暫定二位に圧倒的な差を見せつけ!今篠ノ之解がトップでゴールしたぁ!』

 『今回の関門全てに言えることだが、空を飛ぶ個性に対してあまりに不備があった。次回からはそれも想定しよう』

 

 会場にある大スクリーンの中継を見る。暫定二位と三位、轟と爆豪がお互いを牽制しながら地雷源を進む。その後でまごまごと進む後続、未だ入口付近で地雷を掘り返していた緑谷。

 

 ……なるほど、今からでは追い付けないと判断して地雷を推進力にしたか。今までの比にならない程のピンクの爆発が起こり、緑色の装甲板が飛んでいく。

 器用なことだ。頭の上を超えた存在に焦り、牽制を止めて走り出した二人の近くで、装甲板を叩きつけ更に爆破。

 結果、連鎖的に爆発が起こり、かなりのロスを強いられた二人を出し抜いて緑谷が二位で走破。少し遅れて轟、スロースターターが祟った爆豪がそれぞれ三着、四着となった。

 

 「くっっそがっ!」

 「ハァ……くっ」

 「ゼーハーゼーハー」

 二人はまだまだ余裕が見られたが、緑谷は全力疾走だったから倒れ込んで荒い息を必死に整えていた。

 

 そんな三人に目もくれず、残る生徒達を見にスクリーンから目を離さない。ここで俺が何を言っても無駄に消耗させるだけだ。次の競技はまだ知らないが、弱った相手じゃつまらない。戦術としては効率的で合理的なのは認めるが。

 上位先着は42名。ヒーロー科AB組入り乱れ、普通科も一人いるな。彼はあの時挑発してきた心操だったか。『心理掌握』に打ち勝てる程なら要注意だが、それ以外は期待できそうにない。

 

 個性が一人一つという半普遍的なルールがあるから、余程の初見殺しでもない限り、プロヒーローもヴィランも脅威とは言えない。

 以前の実験の検証もしたいし、早く終わらないかな。

 

 

 





 今回の能力

 『未元物質(ダークマター)
 とある魔術の禁書目録に登場する科学サイドの超能力第二位。
 背中から出す純白の翼はこの世に存在しない物質で構成されており、架空元素ともいう。
 翼を通した酸素は毒素に、光は殺人光線になど第一位の『一方通行』の演算を通り抜け攻撃を届かせた能力。そのまま伸ばして刺すことも可能。

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