雄英体育祭 またまだ続くんじゃよ…
難産でした
「予選突破おめでとう。でも次はどうかしら?次の競技は……これよ!」
モニターに映し出された次の競技、騎馬戦。
団体戦か。ステージはこの台なら、半分に分けてここで一気に半分を脱落させるか、チームを独立させたバトルロワイヤルか。どちらも足を引っ張られるのは怖いな。
「着順でそれぞれ得点が課され、上位になるほど高くなるわ!そして、一着の篠ノ之君にはボーナスとして一千万点!」
「「「一千万!?」」」
舞台に残った全員の視線が俺に集中する。ここで俺が敗退する可能性もあるか、騎馬戦で騎馬が作れなければそのまま。
生憎『心理掌握』はリストに入れてないし、どうしようか。
俺が予想したそんな心配を蹴っ飛ばすように、障害物上位の三人に人が群がっていた。
「「「轟!」」」
「「「爆豪!」」」
「「「篠ノ之!」」」
「「「俺/私と組んで!」」」
緑谷はどうしたって?上位とは言ったが、個性を存分に見せた俺達とは違い、緑谷は何も見せてないからな。個性の反動もそうだが、下手に温存すると信用を得られない。
予選競技から既に心理戦は始まっていたんだ!みたいなことを考えてるB組は同じ組同士で固まってるし、予定調和か?
「お前らの個性知らねー!何だ!?」
「爆豪、お前……他人に興味なさすぎ、同じクラスだろ」
「篠ノ之君は生徒全員の個性を知ってるよね!?私と組んでよ〜!」
「やばっ。てことは勝ち確じゃないか!?」
前にも言ったと思うが、相性次第じゃ完封もありうるぞお互いに。しかもチーム戦だ。
「俺とチームを組みたいと思う奴に言うが、今回俺は個性を一つしか使わない。イレイザーと約束だからな。絶対に勝てるとは限らないが、それでもいいなら組むぞ」
これで何人か離れた。後は……。
「意外と、いや、予想はしてた」
「私達が残るのがわかってたの?自信過剰じゃない、か」
「私は実質無個性だしね!篠ノ之君一択だよ!」
「ケロ。でも私達が騎馬をしても篠ノ之ちゃんが騎手できないわ」
「騎手に拘る理由はないぞ蛙吹。このメンバーなら近接で有利な葉隠か前は俺、左右を耳郎と蛙吹の個性でカバーだな」
「ところで、篠ノ之ちゃんの個性は何かしら?」
蛙吹からの質問は当然だ。俺は左眼を持っていた眼帯で隠しながら答える。
「今回俺が使うのは『鳥瞰把握』。USJの時も使ったが、上空からの視界で全体を見る個性だ。視界は広がるが実質無個性で強化も何もないぞ」
「「「マジ?」」」
「マジマジ。だがこのメンバーなら十分勝てる。不安かもだが一応俺が頭脳でいいよな?」
「「「」」」
博打にも程があると思うが、予選での経験からこれくらいならかなり楽しめるはずだ。
騎馬戦のルールは究極的に点数が多かったチームの勝利。後は騎馬が崩れても敗退ではない。時間制限は十分。
明言しなかったが別に騎馬が鉢巻を取っても問題ない。禁止行為は御法度。十分勝ち筋がある。
競技開始の合図と同時に近くにいた全チームによって包囲網が組まれた。
「いきなりっ、どうする!?」
「落ち着け耳郎。あそこだ、先制を打つぞ。個性を使え!」
「わかったよっ!」
まだ敵チームと距離がある今、蛙吹だけで周囲を牽制、斜め前の騎手に両方のプラグで先制。半径6mは便利だな。片方で爆音を流し、その隙にもう片方で鉢巻を取る。
「っし。取ったよ!」
「上出来。次はその隣だ鉢巻はまだ持ったままな」
「了解!」
包囲網に穴を開ける。まずはここを切り抜けないとな。
プラグを伸ばしたまま作戦通り行動不能に陥った騎馬を作りつつ点数を稼ぐ。一千万を餌にするにはまだまだ点数が足りないからな。
「突破するぞ」
「ぐ、抜けさせるな!」
「遅い、やれ蛙吹」
「梅雨ちゃんと呼んで。ケロッ!」
「あひん」
蛙吹が伸ばした舌が正確無比に騎手の顎を撫で、気絶した相手の鉢巻を掻っ攫う。いともたやすく行われたえげつない行為。
「流石だな、梅雨ちゃん」
「ありがとう。油断しないでね、篠ノ之ちゃんも」
「ああ、むしろこっからが本番だ」
目の前には万年敵顔な爆豪と、鋭過ぎる眼でこちらを睨む轟の騎馬がいた。
「氷が来る。右に動け」
「チッ」
「正面から爆豪。飛んで来るぞ」
「え"」
「メルヘン野郎オオオ!!」
掌から爆発の反動で騎馬から離れ、一人で突貫して来た爆豪。驚きで三人が固まるが俺が屈むと予定した鉢巻の位置がズレて葉隠の頭上を通過していく。
地面スレスレだが、器用に爆破して再び空中に舞い上がる。あれを見るに意図的に騎馬から離れても反則にはならないらしいな。……投げるか。
「っ!?ちょっと篠ノ之君!?何か企んでない!?今背中がゾワっと嫌な感じが!」
勘がいいな。まあ、最終手段に考えておこう。
「後ろから爆豪、左から轟。上鳴の無差別放電が来る前に逃げるぞ。発動前に感電しないよう電熱シートが作られるはずだからな」
それより先に爆豪だ。
「耳郎、伸ばせ」
「あいよ」
「梅雨ちゃん」
「わかったわ」
爆豪の騎馬が近付いてるな。瀬呂のテープが回収手段か。速度的にこっちの二人も負けてない。
爆豪が迫るが耳郎のプラグを警戒して前方に爆破しようと手を伸ばす。
「止めろ!」
「っ」
「なっ!?」
爆破のタイミングに合わせて伸ばしたプラグを引っ込め、空中で前方に爆破したことで爆豪の移動速度が著しく遅くなった。
その瞬間を逃さず腕に蛙吹の舌が巻き付く。蛙の舌は筋肉で出来てるんだよ。蛙吹なら人一人投げ飛ばすくらい問題ない。
何処に投げるかって?漁夫の利を狙ってる轟とその背後にいるB組連中の方にだ。
「っ!」
眼前に迫る爆豪に進路を変える必要がある轟と、その射線上には、以前A組にやたらといちゃもんをつけて来た物間がいる。奴なら爆豪にも躊躇なく挑発するだろう。
今の間にここから離れますか。
「氷の裏側に行くぞ。よく持ち堪えたな」
「よく今のを予測できるよね。個性は使ってないんでしょ?」
「おう、一発退場はつまらないからな。つか俺達が点数的にトップなんだ。狙われるのは必然だろ。それと注意したのは覚えてるな?」
「「「勿論!」」」
「近くにいるが、まだ俺達に接触する気はないみたいだな。大丈夫か?少しの間なら俺だけで支えるから休んでおけよ」
「いや、流石にそれは……うわすご」
「個性は使わないんじゃなかったの?」
「使ってねーよ。鍛えただけだ。葉隠には肩に手を置いて重心を前に、そうだ」
かなり時間が経過したような感覚に陥るが、まだ数分しか経ってない。予測した中でかなりハードなパターンだったから今の内に休めるなら体力を温存したい。
目の前にB組や包囲網を形成していたA組の残党がいるが、まだ見せていない俺の個性を警戒して、手を出してこない。
今までの俺達の戦歴を考えると遠距離からいきなり鉢巻を奪われるなら、他のチームを狙った方がまだ安全だかな。
「新手だ。葉隠、鉢巻の用意をしろ。皆後ろから葡萄が来てる。逆に奴の個性を利用するぞ」
「「「えげつない……でも賛成」」」
「フヘヘへ、篠ノ之〜!女子に囲まれて羨ましいぞコンニャロー!」
「嫉妬は醜いわよ、峰田ちゃん」
「うるへー!これでもくらえ!」
挑発、かは分からんが、乗った峰田のモギモギボールが蛙吹に向かって投げられる。
「止まれ。今だ葉隠」
「了解!おりゃ!」
鉢巻は取れやすいように留め具が付いてる。それを外して束ねた鉢巻を葉隠がブンブン回して、飛んで来た紫色のボールを打ち返……せないのはわかってた。
自分以外には何でもくっつく特性を利用して、一部を除いて再び鉢巻を付ける。これで皮膚を剥がすくらいしないと葉隠から鉢巻が取れなくなった。
「嘘、だろっ!?」
「へへーん。お返しだ!」
残していた10点の鉢巻をボールの遠心力で峰田と障子がいる場所へ投げた。
「ヤバッ!よ、避けてくれぇえ障子ぃ!」
「……すまん」
「おぉい!?」
障子には貧乏クジを引いたと諦めてもらおう。ここで行動不能な峰田と障子は実質リタイアか。障子の触腕が伸ばせるとしても周囲はモギモギボールだらけで誰も近付かないだろ。
後は、緑谷のチームだが……何故か氷壁の反対側で轟と一騎打ちしていた。
「狭い舞台でよくやる」
「どうしたの?」
「轟と緑谷がぶつかって膠着状態。爆豪は物間……B組連合を蹂躙中。その他が今目の前で潰し合ってる連中だ」
「言い方」
「でもわかりやすいわ。じゃあ私達はどう動くの?」
「そろそろ時間も折り返しだ。途中経過を見て、身の振り方を変える。候補は今まで通り見敵必殺、サーチアンドデストロイか」
「何で言い直した」
「様式美だ。逆に考えるんだ。あげちゃってもいいのさ、と。いっそ一千万を捨てるのもありだったが、くっついてるから、これは無効だな」
「皮ごと剥ぐしかないわね」
「怖っ!」
「できるなら轟や緑谷、爆豪の鉢巻も取りたいが……今の状況だと難しいな」
無理はいくない。欲張って返り討ちにあうのが関の山。
「結局今まで通りじゃん」
「まあそう言うなって。しっかり休憩もできたし、後半も頑張るぞ」
スクリーンに映し出された順位と得点を見ればわかるが、A組は俺、轟、緑谷以外はパッとしない。爆豪は着々と順位を上げてるが、物間に取られた自分の鉢巻以外にも群がるB組連中を文字通り蹂躙しながら、執拗に獲物を狙っている。
轟の氷壁で舞台を二分しているからこそ、俺達に被害はない。これが全体を巻き込んだ足元だけを狙ったなら俺達もただの木偶の坊だった可能性がある。蛙吹は冷却自体が鬼門だからな。今も若干眠そうだし動いた方がいいな。
「梅雨ちゃん、まだ寝るな」
「大丈夫よ、でも眠いわ」
「ちょっと危ないね」
「梅雨ちゃんの舌は控えめでいくしかないな。良かったな葉隠、やっとお前の出番だ」
「上を脱いだ甲斐があったよ!戦闘服じゃないから今すっごく恥ずかしいんだからね!」
「葉隠ちゃん、それ普通よ」
「うちも今までの透はどうかしてたと思う……その反応でお父さん面する奴もいるし。引くな!」
「いやぁ、葉隠も大きくなったなぁ、と」
「コメントが完全に父親ね、篠ノ之ちゃん」
擁護がない程辛辣なツッコミが来たからボケはここまでにして、と。同い年の女子を全国放送のカメラ前で剥くという鬼畜外道を見る視線が、俺の後頭部に集中していて視線に質量があれば、俺は今の瞬間円形脱毛症を患っているに違いない。
「皆口を閉じろ!」
「「「っ!」」」
「よう……って対策済みかよ。流石ヒーロー科。いや、じゃあこいつらはそれ以下になるな」
心操人使。個性は『洗脳』。返事を返した相手を強制的に催眠状態にする初見殺しな個性。弱点は……。
「……」
「それにしてもお前らも薄情だな。A組の仲間がこんなになってるのに」
「そんなにしたのはお前でし……ょ」
「まずい!蛙吹舌で葉隠を叩け!耳郎は尾白と俺を…… 」
「「っ!」」
「「「ぐはっ!?」」」
一瞬視界が白く朧げになったが、すぐにこめかみに痛みと爆音が響いて正気に戻った。葉隠も向こうの尾白もどうやら二人がやってくれたみたいだな。
「な、解除方法なんて教えてないのに!?」
「洗脳でもなんでもブッ叩けば大抵治るんだよイッタ!?もうかからないから二人共止めろ!」
「あら、返事したからまた洗脳されたのかと思ったわ」
「うちも」
「え、何この状況」
「チッ、オイ!」
「なん……」
こっちが被害を受けてる間に、尾白が再び洗脳されていた。騎手の葉隠は個性で無理矢理従わせてるのが許せないのか、心操を敵視している。
「おい葉隠、お前の怒りは筋違いだ」
「でも!」
「これがヴィランなら俺も容赦しないが、俺も似たような個性を使えるからな。奴が望んだわけでもない生まれ持った個性だ。葉隠のは異形型だからと蔑むのと何ら変わらないぞ」
「うっ……そう、だね」
「尾白の現状は可哀想かもしれないが、戦闘経験のない普通科は俺達の力を使うのが一番勝率が高い。それにお誂え向きな個性を持っていただけだ。つか尾白の油断が招いたんだ。それに対してお前が怒るのは尾白への侮辱だと思え」
「「「……」」」
「何だ?仲間割れか?好都合だな」
「そんな安い挑発はよせぐっ……だから耳郎、もう対策はしてるから……心操、お前が目指してるのはヒーローだろ?ヒーロー科に入りたい理由も同じだよな」
「……それがどうした?」
「お前のヒーロー像が誰かは知らないがはっ……随分と小者みたいだな?確かにお前の個性は強力だ。俺も一度は洗脳されかけたからな。だがよ、ば〜〜〜〜〜〜っかじゃねえの?」
「……はぁ?」
「お前はバカだって言ったんだよ。耳ついてるか?いいか?ヒーローってのはな、良いも悪いも引っ括めて救うのがヒーローなんだよ。特に今のヒーロー飽和社会、それを忘れてる奴が多過ぎる。俺からすれば平和の象徴も万年二位も同じだ!悪い奴をやっつけるのがヒーロー?綺麗事並べる前にお前達が救うべきもんがあるだろうが!子供?老人?違うな、ヴィランだよ!確かに根本的に合わない奴がいる。当たり前だ!だがそれ以外は幼少期からの環境で歪んだ奴だ!親に捨てられた奴!差別や虐待を受けた奴!家族を殺された奴!皆将来ヴィランにならないと思わないのか?バカが!ご立派にメディアを意識して中途半端なヒーロー活動してる時間があるなら、そいつらに目を向けてやれよ!」
話が大きくそれたな。不幸自慢じゃないが、生まれは選べない。俺の知り合いは生まれ自体が祝福されない、自然の摂理に反するものだった。だがそれがどうしたと言えるのは強者だからだ。
「心操!お前の個性は確かに敵の様に悪用されたら怖いが、そんな戯言は不幸じゃない!そんなものは勘違いだ!」
「っ!お前に俺の何がわかるっ!」
「いいじゃねえか!洗脳!ここにいる木っ端ヒーローに思い知らせてやれよ!人質を使って立て篭もった敵を無血開城できる個性がお前の洗脳だとな!それを食らった俺が断言してやる!お前はヒーローになれる!それを今ここで証明しろ!だが使い方を間違えるなよ!そん時は俺が引導を渡してやる!」
「何様だお前!」
「おい葉隠行くぞ!後で綺麗に治してやるから存分に殴り合え!」
「キャラがブレブレだよぉ」
「熱いわね、篠ノ之ちゃん」
「いや、もう別人じゃ……」
若干ヒートアップしてしまったが、心操と葉隠が真正面からの取っ組み合いを始める。つっても片方はもやしだし、葉隠は透明だしカメラ映りは最悪だ。
果敢に攻めていた心操だが、葉隠の見えないパンチに翻弄されて被弾してから、次第に防戦一方になる。
「うりゃりゃりゃりゃ!」
「ぐっ……くそ!尾白!尻尾で援護しろ!青山はビームだ!」
「ビーム来るぞ!右に躱せ!耳郎は尻尾に気を付けろ!」
「庄田はあのムカつく口だけ野郎に個性を使え!俺だって、俺だってなあ!ヒーローになりたいさ!……だけどっ俺の個性はヒーロー科の試験で落ちた!諦めようとしたけど、それも嫌だ!」
「……」
「今までの啖呵はどうしたこの野郎!俺みたいな奴がヒーローになるにはこうするしかなかった!この体育祭で勝ち上がって呑気に遊んでるお前らの鼻っ面を折ってやろう、見返してやろうってな!それしか無いんだ!」
「なら諦めるのか?お前、ヒーローに憧れてんだろ?ならなれよ」
「っ……あぁ、なってやるよ!絶対に」
「取ったよ!」
葉隠の合図で耳郎が足元を爆音で破壊した。悔しげに俺を睨む心操が遠ざかる。体感ではもう時間がない。モニターを見れば各騎馬の点数が順位別に表示されていた。
一千万の葉隠が独走。他は轟、爆豪、そして鉄哲……お?
「あれだけ騒いでいたのに、その容赦の無さは好感が持てるな」
「へ?どういうこと?」
「もうすぐわかるよ」
『カウントダウン入るぜェ!──5!4!3!2!いーち!TIME UP!!お疲れェ様ァア!!』
プレゼントマイクの声が会場全体に響き渡る。もうマイク必要ないだろ。終了と同時に空気の振動を遮断したから被害はそうなかったが。煩過ぎる。
『早速上位四チーム見てみようか!』
騎馬を崩してプレゼントマイクの声に耳を傾ける。
『一位!葉隠チーム!』
「ヤッタァ!」
「頑張ったわ」
「何とかなったね。疲れたぁ」
『二位!轟チーム!三位!爆豪チーム!四位!鉄て……アレェ!?オイ!心操チーム!?いつの間の逆転してたんだよオイ!』
心操は鉄哲のB組チームのPを最後の土壇場で奪って勝ち残っていた。さっき、葉隠に言ったのはこれだ。
轟チームと一騎打ちしていた緑谷チームは五位。まあ、あの猛攻をよく凌ぎ切ったと褒めてやりたい。
「お互い頑張りましょ、芦戸ちゃん」
「梅雨ちゃんもお疲れ〜。私は轟の氷対策で選ばれたから、実力が見合ってるのか分からないよ」
「いやぁ、惜しかったぁ」
「うゔ……いいだぐんっ頑張ってね!」
「ああ、緑谷君や麗日君の分まで頑張るぞ!」
「クソガァ!!」
「チクショウ……」
勝ち残った者。敗退した者。悔しさを隠し、友人を激励する者。勝利したが結果を認められない自己嫌悪に陥る者。各々が様々な感情を胸に秘め、静かにこの場から去って行く。だが『心理掌握』を持つ俺は思春期の少年少女の葛藤を、その断片を掬い取っては見て見ぬ振りをする。
騎馬戦が終わったら次は早めの昼休憩と、レクリエーションの時間だ。
「篠ノ之、早く行くよ?」
「おう、腹減ったな。ランチラッシュのスタミナ丼とかないのか?」
「結構食べるね、後半動けなくなるよ?」
「そこはレクで食後の運動をするさ。……それより、八百万に伝えとけ。イレイザーは何も言ってないってな」
「?うん、わかった。伝えれば良いんだよね?」
「ああ一字一句間違えずにな。じゃあさっさと腹拵えに行くか」
耳郎達と食事を済ませて、俺は残留思念を辿って轟の父親で万年二位の炎熱系ヒーローエンデヴァーの記憶を探っていた。
轟が俺よりも緑谷に固執した理由を探っているんだが、奴の頭にはいつも父親に対する憎悪が燻っていた。だからその本人に確認してみたかったんだが、ハズレだったか。
エンデヴァー本人は平和の象徴に多大なる劣等感を抱いているから、その渇望を息子に背負わせる、か。
別にそれに関しちゃ俺がどうこうするつもりはない。家庭の事情に他人がでしゃばって、余計に拗れるのは火を見るより明らかだからな。
そろそろ時間だし、戻るか。
「……やっぱりな」
「あ、篠ノ之さん。助言をありがとうございました」
「いや、そこの二人の考えそうなことだ。というかまず先生に確認するようにしろよ。居場所がわからなければ、他の先生でもいいだろうしな」
会場に戻れば既に幾らかの生徒や観客が戻って来ており、全員集まり次第時間前だが始めそうな熱気だった。
そこで、八百万達にお礼を言われ、峰田と上鳴から親の仇と言わんばかりの怨みがましい視線を向けられた。
公共の電波にチア晒すのを防いだだけだが、あくまで俺の判断。ヒーローとしての知名度を上げるには余計なお世話だったかもな。
さて、レクリエーションに移る前に、『セメント』を操るセメントスが即席で作った舞台に、勝ち残った生徒が集まった。
『早速!次の種目の紹介をしましょうか!次の種目は……これよ!』
SM用の鞭を振ってドラムロールと共にモニターに競技の名前が映し出された。
予想に違うことなく、例年通り。トーナメント制のガチンコバトルだ。
2ブロックの16名の対戦相手をクジで決めようとした時、尾白がゆっくりと手を挙げた。
「俺、辞退します」
「「「えぇええ!?」」」
「「「尾白君!?どうして!」」」
公衆の面前で突然の棄権宣言に、クラス、引いてはその場にいた殆どの人物が驚きの表情を浮かべていた。
「騎馬戦の記憶……終盤ギリギリまでほぼボンヤリとした記憶しかないんだ。多分、奴の個性で……」
尾白が組んでいたのは心操。その個性は『洗脳』。話しかけた相手が、返事をすることがトリガーになるが、初見殺しでこの中では十分に脅威な個性だ。
騎馬戦では情報はあっても一度かかってしまったからな。その脅威度はわかると思う。
「チャンスの場だってのはわかってる。それをフイにするなんて愚かな事だってのも……でもさ!皆が力を出し合い争ってきた座なんだ。こんな……こんな、わけわかんないまま、そこに並ぶなんて……俺は出来ない」
「気にしすぎだよ!本選でちゃんと成果を出せばいいんだよ!」
「そんなん言ったら私だって全然だよ!?」
「違うんだ……!俺のプライドの話さ……俺が、嫌なんだ!」
尾白の真面目で正々堂々を好む性格だからこその辞退だった。
その言葉にB組男子で共に騎馬を組んでいた庄田も同じく辞退を申し出た。
この場合、辞退の可否は主審のミッドナイトの判断による。実況解説のイレイザー達も彼女に判断を委ねた。
「そういう、青臭い話はさァ……好み!庄田、尾白の棄権を認めます!」
鼻息が荒い。そういや青春モノが好きだったな、彼女。それにしても好みで決めて良いのか。良いんだろうなぁ。
ちなみに青山は個性の副作用でトイレに篭り、辞退となった。よく我慢したが、残念だったな。
四位チームの三人が辞退した為、五位から繰り上がりになるはず……だったんだが、B組の姉御肌委員長、拳藤がこれを機に直前まで四位を維持していた鉄哲チームから三人が加わり、予定通り16名でトーナメントが開かれることになった。
蛙吹─┐
├─┐
心操─┘ |
├─┐
轟──┐ | |
├─┘ |
瀬呂─┘ |
├─┐
篠ノ之┐ | |
├─┐ | |
上鳴─┘ | | |
├─┘ |
飯田─┐ | |
├─┘ |
耳郎─┘ |
├─
葉隠─┐ |
├─┐ |
骨抜─┘ | |
├─┐ |
芦戸─┐ | | |
├─┘ | |
八百万┘ | |
├─┘
鉄哲─┐ |
├─┐ |
切島─┘ | |
├─┘
塩崎─┐ |
├─┘
爆豪─┘
体育祭は前編後編と分けました(長かった……)
改めて思うあの一位通過者は1000万とかふざけてますよね?
雄英ってイジメの巣窟にならないか心配です。
今回出た能力
『
実はUSJ襲撃編にも登場済。片眼を手などで覆い上空から俯瞰した眼を作成。攻撃力は皆無だが、偵察など意外と凶悪な能力。裸眼でも眼は視認可能。