喧嘩が強いのは個性にはなりません   作:昼行燈

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 無個性でもヒーローになれる! → なれなかったよ……。
 鍛えた技で勝ちまくりってのは男の子の夢だと思うから初投稿(ガチ)です。
 思いつきなので多分続かないしそのうち消える。


とあるヴィランの一日

 かつて夜を知らぬ街と呼ばれる都市があった。そして、現在ではほとんどの都市が夜を知らぬ街となった。それはここ日本でも変わらず、大通りからくる電気の明かりが、月明りよりももっと濃い影を社会からほんの少しも離れていない路地裏へと落としていた。

 

 路地裏に倒れ伏すのは俗にヴィラン――悪役――と呼ばれる人種だった。二足歩行をするトカゲとも言える異形の姿は、口から一筋の血を地面へと流す以外外傷はなく、その頑丈そうな鱗は無傷を保っている。

 

 ヴィランを倒した少年もまた、ヴィランと呼ばれる人種だ。ここに正義はなく、ただ悪党が二人路地裏で会ったがための勝負は、悪の勝利で終わったらしい。

 

 翌日、被害者として倒れていたヴィランがニュースに写る。物取り目的の犯行とみられる、として日常の一場面になった。ヒーロー社会とは裏を返せば、供給(ヒーロー)に対して十分な需要(ヴィラン)が存在していることを示しているのかもしれなかった。

 

 

 

 ヴィランの朝は早い。日本の警察は年々割合を増やす個性を利用した犯罪に対し後手に回ることが多く、口さがないものは「ヴィラン受け取り係」などと呼ぶが、とんでもない。暴力的でない日常において日本の警察は有能だ。

 

 警察の役割である安心の提供、混乱に対する抑止力は、闇に潜むものには効果がなくとも日常では十分に効果的だった。

 

 要するに、ヴィランがゆっくりと寝ていられる場所は少ない、ということだ。特に、家や拠点がないヴィランにとって警察は相手にしたくない相手だ。カラオケやネットカフェでやり過ごすには、警察の権力は強すぎた。

 

 少年は朝の人混みを堂々と歩く。人々の中には明らかに人間とは違う容姿を持っていたり、あるいは一部の器官が以上に発達していたりする人間が混ざっている。

 

 現代社会における常識の一つに「個性」というものがある。

 

 公的な始まりは中国だっただろうか。光る赤子を始めとして、人は特殊な力を手に入れた。

 

 例えば人以外の動物に似た外見や能力を持っていたり、炎や氷を操ったり、液状の体を手に入れたり……有り体に言って、人々は超能力を手に入れた。

 

 これは個々人によって異なる力であり「個性」と呼ばれるようになった。

 

 今や、全人口の七割ほどが何らかの個性を持っているとされる。

 

 個性を持つのが当たり前になった社会。丸腰の人間であっても、他者を容易く害することのできる力を持っているかもしれないという恐怖。あるいは、そんな力を奮ってみたいという欲求。

 

 個性を社会のために使う「ヒーロー」と己のために使う「ヴィラン」が生まれる背景だ。

 

 

 

 

 朝早くから活動するヴィランである少年はある建物の前で立ち止まった。そして、着ているものを叩き、気持ち服のシワを伸ばして入っていく。

 

 彼の目的、まっとうな社会では受け入れられなかったヴィランの行動とは次のようなものだ。

 

 まず、建物に入り受付にある電話を取る。次に姿勢を正し受話器の向こう側に見えもしないのに笑顔を作る。そして、受話器に対してはきはきと言葉を放つ。

 

「すみません、先日電話させていただいた無能有拳と申します。こちらで日雇いのバイトが有ると聞いて来たのですが」

『日雇いの、倉庫整理への申込みでよろしいですか? ……はい、分かりました。それでは裏に回ってください。そちらに案内のものをよこしますので』

 

 ……ヴィランの稼ぎは難しい。下手な犯罪ではリスクに対してリターンが見合わない。元ヴィランがつけるような仕事では自由がない。結局、長いものに巻かれなければ生活もままならないのは、表社会も裏社会も同じだった。




 ヴィランって普段何して稼いでるの……? カツアゲしか思いつかないんだけど……。用心棒でもやってるの? 用心棒が必要で、かつフリーのヴィランを使う必要のある組織なんか存在しないのでは……。

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