探偵な魔女は黒猫がお好き   作:灰かぶり

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『私と先生――僕と彼女』①

 

 先生が大好き。

 

「センセー」

「…………」

 

 私は、先生が大好きだ。

 

「センセーってば」

「…………」

 

 フカフカそうな草むらのベッドに寝転がり、木漏れ日の毛布を被って、自分の腕を枕にする。腕はちょっと固そうだけど、そんな姿でとても気持ち良さそうに寝ている先生が大好きだ。

 でも、私は知っている。

 

「寝たふりセンセー」

「…………」

「……うりゃっ」

 

 覆い被さるようにして見下ろすと、先生の逆さま顔へ私の髪が落ち、ちょうど触れるか触れないかのギリギリで止まる。バサッとやられるよりも、こっちの方がくすぐったくて厄介らしい。

 もちろんわざとだ。それにこれ以上行くと、先生の顔とぶつかってしまう。

 それはさすがに、乙女としてまずい。

 

「セーンーセー」

「――――…………」

 

 綺麗に整った顔のパーツをむずむず歪ませながらも、目を開けない。どうやら今日も、徹底抗戦の構えらしい。よし、受けて立つ。

 私の髪から逃れるように寝返りをうつ先生。逃すか、と追いかける私。

 また寝返り。逃がさん。

 また。おのれっ。

 フェイント。ぐはっ。

 しばらく続く、無言の小競り合い。次第に私は遊ばれているのでは、という気がしてくる。というか、いつも遊ばれている。特に今日はひどい。

 

「ぐぬぬぬ……!」

 

 私のその変な悔しがり方は、降参の合図。先生は勝手にそう思っている。

 私は白旗を上げたつもりなんてないのに、先生はゴロンと転がって元の無防備な仰向けに戻るのだ。それがいつも、ちょうど私のひざ辺りに戻ってくるものだから、敗北感が日々貯金される。

 本当は目を開けているんじゃないだろうか、こしゃくな。いやもう、おおしゃくな、だ。

 でもこうなった先生は、瞼の向こう側から静かに私を見つめてくれていることを、私は知っている。寝たふりして無視したり、意地悪な事をするけれど、ちゃんとこちらを受け入れてくれている。

 冷たいふりして、優しい。私は、先生のそんなところが大好きだ。

 そして、私の「先生大好き時間」の中で、そんな風に先生が大好きだと思えるこの時間が一番好きだから、私は先生への呼びかけをしばらくやめる。むしろ先生より大好きかもしれない。

 万が一、どうして黙ってしまうのか聞かれても、これは絶対言えない。言ってしまうと恥ずかしいし、私自身、何を言っているのか分からなくなるからだ。

 大好きだからの一言で済ます心の準備は、いつだって万端だ。

 

「…………」

「…………」

 

 私は、呼びかけない。先生も、動かない。

 太陽のスポットライトを浴びるステージで、風が奏でる葉っぱ演奏会。木陰の観客席には、先生と私の2人だけ。ふふ、2人占めだ。

 ただ、先生はその演奏を見ない。音に聴き入るだけ。私は、風が怒ってしまうのではないのかと不安になる。

 それに、先生は私の膝を枕にしない。相変わらず自分の腕。私は、こっちの方が気持ち良いのにと寂しくなる。

 そんな不安と寂しさが、入り混じりながら募っていくと、私はいつもこう思う。

 強い風が、私の時間をさらって行ってしまうのではないかと。

 嫌だ。そんなの嫌だ。

 

「……そろそろ起きようよ、センセー」

「センセーじゃなくて、せんせ『い』だ」

 

 半分(まなこ)は起きぬけのようだけど、先生のそれは、いつもの注意の呆れ(まなこ)。毎回タイミングよく寝たふりをやめてくれるのは、もしかしたら声に色々出ちゃってるのかもしれない。

 そう思うと何だか恥ずかしいけど、そんな先生の優しいところが、大好きだ。

 でも、それなら最初から起きて欲しいとも思うので、意地悪だ。

 そんなところも、大好きだ。

 

「おはよ、センセー」

 

 いくら言われても直さない呼び方をオマケに付ける。

 わざとだ。だって、先生の怒った呆れ顔も好きだから――なんて言ったら、もう怒ってくれないかもしれないので、言わない。

 

 ここまでが、いつも通り。何度も飽きずに繰り返す、私と先生だけの、始まりの朝の挨拶――

 

「こんにちは、トーポリ」

「……なんで?」

「寝てないから」

 

――間違えた、昼だ。先生はやっぱり意地悪だ。

 だから私は、先生が大好きだ。

 

 

 

 

――――けれど、もう会えない。それが、先生との約束だから。

 

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