仮面ライダーネルヴ -鏑木憐は仮面ライダーである-   作:紅乃暁

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第3話「姉妹と猫と」

いつのことだろうか。幼い風と樹が、公園で仲良く遊んでいた。そこに俺が入って、3人で砂遊びをし始めた。

ああ、これはいつかの時の夢だろう。毎日が楽しくて、希望に満ち溢れていた日々。

なのに何故だろう。いつから、こうなったんだろう。

樹、元気かな。今何してるんだろう。

明日、風に聞いてみよう。

……あれ、俺、そういえば。

 

ーーなんで風の事、犬吠埼って呼んでんだろ。

 

遠くで、アラーム音が鳴っている気がする。

 

 

 

 

先に部室に行っていて、と言われて。なんかいつの日かもこんなだった気がすると思いながら、先に部室へ向かった。

部室に入ると、いつも通りのガランとした空間で。やっぱり何か寂しい。

鞄を置いて、椅子に座ってぼんやりと窓から外を眺めた。今日は何を話すのだろう。また例のモテ話を聞かされるのだろうか。はたまた、依頼が入ったと言ってその打ち合わせでもするのか。

色々考えていると、背後でガラリと扉が開く音がした。

ようやく来たか、と振り向くと。

 

「あ、あれ?」

 

似た色の髪。多分髪型やや変えたら、きっと同じような顔になるんじゃないかなと思うぐらいには似ている彼女は、俺が思っていた人ではなかった。

 

「い、樹?」

 

「……」

 

そこにいたのは、風の妹である樹だった。

想像していた人とは違ったので拍子抜けだったが、それよりも懐かしくて嬉しいものが胸から込み上げてきた。

 

「久しぶりだな、樹!元気してた?」

 

「……」

 

「?」

 

何で何も喋らないんだ。それに、彼女の顔は俺のこの感情とは対照的で、何か言いたげで、というよりどこか怯えているように見えた。

あれ、俺なんかやったっけ。

2人の間に沈黙が走ると、どこからか忙しそうな足音が聞こえてきて。

 

「樹!?」

 

慌ただしい足音の主は風だった。

 

「あ、お姉ちゃん……」

 

よかった、喋れたのね。

 

「もう……先に行くなら行くって言いなさいよ」

 

「ごめんなさい……。でも、その……」

 

「そうよね〜。早く『お兄ちゃん』に会いたかったもんね〜」

 

「お、お姉ちゃん!」

 

顔を真っ赤にして反論する樹。そこ反論されるとちょっと悲しい。

 

「あ、あの……えっと、久しぶり、です。か、鏑木先輩……」

 

「昔みたいにお兄ちゃんでもいいのに」

 

「う、うーんそう呼びたいけど……今は学校だから」

 

「成長したなあ、樹……」

 

兄ちゃんは嬉しいよ、と泣くふり。

鬱陶しいと思ったのか、風はと言えばはいはい、と適当にスルーした。辛。

 

「樹も勇者部だから。これからよろしくね」

 

「というか、この学校にいたのな。2学期だってのに、1度も見なかったからどうしたんだろうと思ったけど」

 

「そ、それは……」

 

「まあ、そこそここの学校人数多いから」

 

「いやそうでもねえだろ」

 

それはさておき、と議論をぶつ切りにされ、樹と俺は椅子に座らされ、風はいつものように黒板の前に立つ。

 

「樹が勇者部に参加するということでお祝いをしたいところだけど、依頼が入ってるから一先ずそっちを優先するわね」

 

「どんな依頼なの?」

 

「迷子の猫探し。他のクラスの子からの依頼」

 

迷子の猫探しとな。なんというか、本当にこの部なんなんだろう。何と思われてるんだろうか。

世間のこの部に対する見方が気になるところではあるが、ひとまず部長の言う通り猫探しをする事となった。

 

「いなくなったのはいつなんだ?」

 

「昨日。いつもなら夕方には戻ってくるらしいんだけど、昨日は戻らなかったらしくて心配だからって」

 

「昨日って事は、まだそんなに遠くへは行ってないかもしれないね」

 

樹がそう言うと、風も頷いた。

とりあえずその子の家の近辺から探すと言うことになり、家を起点に3人とも個別に探す事となった。

風から受け取った猫の画像を片手に、近くをいろいろ歩いて回った。

しかしそう都合よく見つけられるはずもなく、時刻は5時を回った。

今日は引き上げたほうがいいのではという考えが頭に浮かんできた時。グループチャットで風が猫を見つけたというメッセージが届き、彼女のところに集まる事となった。

どうやら近所の猫の集いの中にいたらしく、何匹かの猫の中に目的の猫が呑気に寝ているところを発見したとのこと。

到着すると、そこはビルとビルの間の路地裏だった。

 

「全く、人騒がせな猫ねぇ」

 

「ま、見つかって良かったよ」

 

「そうねぇ。そういえば、樹遅いわね」

 

「遠くにいたんだろ。とりあえず猫捕まえてとっとと飼い主に引き渡しに行こうぜ。もう暗いし」

 

そうね、と猫の集いの輪に、風が入ろうとした時。

スマホからバーテックス警報が突如鳴り響いた。

 

「バ、バーテックス!?」

 

「どこだ!?」

 

居場所の確認をしようとマップを出すと、すぐ近く、というより真ん前。

顔を上げると、猫の集団のその奥に、バーテックスがいた。

だが時間が静止しているため、猫たちは逃げることができない。このままでは猫たちが奴らに襲われる。

 

「やべぇ!」

 

走りながら変身アプリのアイコンをフリックし、現れたボタンを押す。

 

「変身!」

 

『モード【ネルヴ】ーーフラワーブロッサム』

 

そのまま変身した俺は、猫の集団に近く前にバーテックスをその場から引き離し、路上へと投げ飛ばし、立ち上がろうとしたバーテックスを顎から蹴り上げ、拳を胴体に2発浴びせた。

 

「あ、アンタの戦い方って結構容赦ないわよね……」

 

「気にすんな!」

 

よろめいたところを蹴り飛ばし、とどめを刺そうと必殺メモリーを差し込もうとした時だった。

バーテックスを蹴り飛ばした先の反対側の路地裏から、人影が見えた。

 

「い、樹!?」

 

それは、俺たちがよく知る人物であった。

樹は肩で息をしながら、驚いた様子でこちらを見ていた。

なぜこの状況下で樹が動けるのか定かではないが今はそんなことを気にしている場合じゃなかった。

 

「樹!逃げろ!!」

 

だが、樹が逃げる前にバーテックスは彼女に襲いかかった。樹は捕まり、身動きが取れなくなってしまった。

 

「きゃあああああ!」

 

「くそ!」

 

「鏑木!メモリーケースの中に、黄緑のメモリーがない!?」

 

突然風がそんなこと言い出し、何を言ってるのかと思ったがケースの中を見ると確かに黄緑の色のメモリーチップがあった。よく見ると、他にも紅と青と黄、桜色のカードが中にあり、ひとまず風が言った黄緑のメモリーチップを取り出した。

 

「それをスマホの中に!」

 

「あ、ああ!」

 

スマホをバックルから取り外し、メモリーチップを差し込んだ。

すると、スマホのメニュー画面に新たなアイコンが加わり、それをタップした。

 

『チェンジアプリインストールーー完了。チェンジアプリ起動』

 

「チェンジアプリ?」

 

『モード【ネルヴ】ーーフラワーグローリー』

 

すると身体が発光し、装甲の一部が変化して全身の色が桜色から黄緑色へと変化した。

なるほど、さっきまでの形態が『フラワーブロッサム』で、これが『フラワーグローリー』というわけか。

 

「指の先から、ロープが出る!それで樹を!」

 

「お、おう!」

 

言われるがまま、指先に力を込めると黄緑の指の数と同じ数だけのロープが現れた。片手のロープでバーテックスの足を絡めて引っ張りバランスを崩し、もう一方のロープを樹の身体を絡めてこちらへ引っ張った。

 

「樹!」

 

空へ投げ飛ばされた樹の身体を風がキャッチした。

 

「樹、大丈夫!?」

 

「うん!」

 

「あいつは!?」

 

バーテックスの方を見ると、立ち上がって俺たちに向かってエネルギーで出来た弾丸を撃ってきた。

 

「させるか!」

 

再び指先に力を込めてロープを出し、それを俺たちの周囲に展開してロープの壁を作り、エネルギー弾を防いだ。

 

「す、すげえ……!これなら!」

 

ロープの壁を俺の周りに展開し直し、そのままバーテックスに体当たりをした。

硬い壁のような物に真正面から衝突したバーテックスはそのまま吹き飛ばされ、ビルの壁を突き破り中へと消えていった。壁を解除し、とどめを刺そうと中に入る。

 

「あ、あれ?」

 

だが、そこにバーテックスの姿はなかった。どうやら逃げられたらしい。

 

「ちっ、引き際はわかってるってわけか」

 

変身を解除し、ビルから出ると時間はまた動き始めていた。

風は探していた猫を抱いて、樹がその猫の頭を撫でていた。とりあえず依頼の方は無事に終わったようで。

逃げたバーテックスの方が気になるが、一先ず猫を飼い主の元に届ける事になり、俺たちは依頼人のところへ向かった。

 

「え、帰ってない?」

 

「友達と遊びに行ってるかもって。猫は一先ず家族の人に預けたけど」

 

飼い猫が帰ってきてないって騒いで人に探してもらうように言った割に呑気な人だな、と思いながらも依頼は完了した為また明日にでも学校で本人に言えばいいだろう、という結論になった。

 

「さーて、では樹の歓迎会をやりましょうか!」

 

アタシ達の家でいいわよね?と、俺に確認を取ってきた風。

 

「いやまあいいけど、大丈夫なのか?色々と」

 

「何が?」

 

「あー。まあいいや。うん、行こう」

 

女の子2人だけが住む家に果たして年頃の男を入れていいのか、という意味で聞いたのだがまあ気にしてないようだ。

ちゃんと言葉にして聞くべきだったろうか、と思ったが楽しそうにしている犬吠埼姉妹を見るとまあいいかと思ってしまった。

 

 

 

風と樹の両親はいない。最初からいないと言うわけではなく、風が中学1年生の時に亡くなった。詳しいことはよく覚えていないが、確か事故だったと聞いた気がする。

俺も犬吠埼家にはよく遊びに行っていたのでお世話になったし、当時俺もかなりショックだったのは覚えてる。

キッチンに向かっている風の後ろ姿をぼんやりと眺めながら、何となくそれを思い出した。

 

「か、鏑木先輩」

 

「……ここ学校じゃないよ?」

 

「うー……」

 

「……どしたの、樹」

 

久しぶりだからか、樹の態度もまだぎごちない。あんなに遊んだのに、そこまで畏まらなくても。

軽くショックだったが、樹の成長の証だろうとここは欲を出すまいと耐える事にした。

 

「あの、身体、大丈夫ですか?」

 

先ほどの戦いの事を言ってるのだろう。

そういえば、樹の前で変身解除してしまったので、俺がライダーである事を知られてしまった。いいのかなと思ったが風も特に何も言ってなかったので多分大丈夫なのだろう。

 

「大丈夫だよ。樹こそ、大丈夫だったか?」

 

「は、はい。大丈夫、です」

 

うーん、これは慣れてくれるまで時間がかかりそうだな。

 

「なーに、アタシの妹を誑かさないでくれる?」

 

背後からすこし機嫌の悪そうな声が聞こえると思って振り返ると、お盆にいろんな料理を載せて立っている風がいた。

 

「誑かしてなんかねえよ……」

 

「じゃあよろしい。樹、着替えてきたら?」

 

「うん。わかったー」

 

樹がそう言うと、すぐ横の本人の部屋らしきところに入って言った。

その間に風は料理を机の上に並べる。

 

「なんかするよ」

 

「いいの。あんたは座ってて」

 

「……んじゃ、まあ」

 

申し訳ない気持ちになるが、ここは風の言う通りにした。

こうして見ると、本当に女子力の高い女の子だな、なんて思う。

気が強いところもあるし、よくわからんテンションになる時もあるが両親や樹の事もあるから長女としての責任を感じるところがあるのだろう。全く、本当にこいつはーー。

 

 

 

ーー大丈夫だから。

 

 

 

ーー俺が、風を守るから。

 

 

 

「……?」

 

「おーい、何ボーッとしてんの?」

 

ハッとすると、すでに料理を運び終え着席している風と着替え終えた樹が俺の顔を覗き込んでいた。

 

「あー。わりい。食べようか……って」

 

テーブルをよく見ると、素うどんにさぬきうどん、肉うどんに温玉うどんと所狭しとたくさんのうどんが並べられていた。

2人はというとまだかまだかと待ち焦がれていた。なぜかぶんぶんと引きちぎれるのではないかと思うぐらい振っている尻尾が見えてきた。

 

「……いただきます」

 

「「いただきまーす!」」

 

ちなみにうどんは絶品だった。

 

 

 

「はぁ?結局学校に来てない?」

 

次の日。風から昨日の依頼人が今日学校を休んでいるという事を聞いた。

 

「友達と遊びに行って、はしゃいで風邪でも引いたのか?」

 

「先生に聞いてみたんだけど、どうやら家にも帰ってないらしくて。ちょっとした騒ぎになってるらしいわよ」

 

「……」

 

まさか、何か事件に巻き込まれたんじゃないだろうか。

嫌な予感が頭をよぎると同時に、風がスマホを片手にちょっとごめん、と席を外した。

色々気になるところもあるが、とりあえず放課後に今後の行動を決める必要がありそうだな。

そう思っていると、風が真剣な顔をして戻ってきた。

 

「鏑木。放課後、予定ある?」

 

「いんや」

 

「ちょっと一緒に来て。あの依頼人の事もあるから」

 

「……わかった」

 

どうやら、事態は思ったより深刻らしい。真剣な彼女の顔を見てそう確信した。

放課後。風と共に校門から少し外れたところに連れて来られると、そこに黒塗りのセダンが止まっていた。

俺たちがその車に近づくと、運転席のドアが開く。そこから、白い束帯を着た人間が現れ、後部座席のドアを開けてくれた。

 

「な、なあまさかこの人……」

 

「大赦の人間よ」

 

小声で尋ねると、風が答えてくれた。

ーー大赦が出てくる?何がどうなってるんだ。

風に続くように車に乗りながらこれはどうやら只事でないという事がヒシヒシと伝わってきた。

やがて俺たちを載せた車は発進した。重苦しい空気が車内を包んでいた。

 

「……なあ、何があったんだ」

 

「……確証はないから、はっきりとは言えないけど……」

 

ーー昨日現れたバーテックス、もしかすると。

風がそう言った瞬間。突然前方から大きな音がして、俺たちの身体は前へと投げ飛ばされた。

前方のシートがクッションにはなったが、頭を打って感覚が宙に浮いている。

フラフラとする頭を無理やり起こしながら、隣の風を見る。

そこには額から血を流す風の姿があり、サッと血の気が引くのを感じた。

 

「ふ、風!?大丈夫か!?」

 

「え、ええ……」

 

意識あるらしい。どうやらシートではなく、ドアの側に頭を打ってしまったらしい。

ハンカチをポケットから取り出し、風の額に当てた。

 

「とりあえずそれ当ててろ……!」

 

運転手の方を見ると、エアバッグにもたれこむように倒れていた。うめき声が聞こえたので、まだ息はあるようだ。

動けるのは自分だけだったので、状況を確認すべく、変形しているのか中々開かなかったドアをどうにか力を入れてこじ開け、前方を見ると。

 

「!?」

 

そこには、昨日のバーテックスが車の前に立っていた。

だがバーテックス警報は鳴っていない。なのにどうしてバーテックスがここに。

だがバーテックスは、わからないことばかりで混乱している俺に気にせんとばかりに飛びかかってきた。

 

 

 

 

 

 


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