仮面ライダーネルヴ -鏑木憐は仮面ライダーである-   作:紅乃暁

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資料等に目は通したつもりですが世界観等でこれは確実に間違いだろと思われるところがありましたらどんどんご指摘ください。


第4話「声のカタチ」

「ッ!」

 

間一髪のところで横に転がるようにしてバーテックスの攻撃を避けた。

とにかく身動きの取れない2人から離さなければ。スマホを手に取り、ヘンシンアプリを起動する。

 

「変身ッ!」

 

『モード【ネルヴ 】ーーフラワーブロッサム』

 

バーテックスに駆け出しながら、変身完了したと同時にバーテックスの肩を掴み、車から距離を取るように引き剥がす。

幸いこの辺りはどこかの山道らしく人の姿もない。他の人を巻き込む事もないだろう。

適当にところにバーテックスを投げ飛ばした俺はそのまま蹴り飛ばそうとするも、それを避けられ、エネルギー弾を撃たれ直撃してしまった。

 

「ッ……!やりやがったな!」

 

スマホを手に取り、チェンジアプリを起動しグローリーのメモリーチップを中に入れた。

 

『チェンジアプリ起動。モード【ネルヴ】ーーフラワーグローリー』

 

フラワーグローリーに変身し、ワイヤーを取り出すとそのまま飛び上がり、勢いをつけたワイヤーをそのまま鞭のように叩きつけた。

バーテックスの身体に数本が当たり、衝撃で後ろへよろめかせることができた。

その間にヒッサツアプリチップを手に取り、スマホに差し込んだ。

 

「今度こそ年貢の納め時だ!」

 

『ヒッサツアプリ起動ーーブレイヴフィニッシュ』

 

両手のワイヤーをバーテックスに向かって放つと、それがバーテックスの身体を包み込み、絡みつくワイヤーを手前に引っ張り、締めつける。

 

「取ったぁ!」

 

だがその瞬間。先ほどまであったワイヤーの手応えが急になくなり、拍子抜けしてしまう。ワイヤーが解かれると、そこにはいたはずのバーテックスがおらず、辺りを見渡す。すると、頭上に先ほどのバーテックスではない別のバーテックスが、ワイヤーに巻かれていたバーテックスを抱えていた。

 

「チッ、お仲間か……」

 

バーテックスはそのまま森の中へと消えてしまった。

深追いをしても仕方がない、と判断すると変身を解除する。

同時にスマホに電話がかかってきて、画面を見ると風の名前があった。

 

「犬吠埼、大丈夫か?」

 

『なんとかね。あんたは?』

 

「あと一歩で逃げられた」

 

『そう。とりあえず大赦の人がきてるから、こっちに合流できる?』

 

「りょーかい」

 

通話を終了し、ひとまず風たちと合流すべく回れ右をする。

しかしそこで、大事なことに気づいた。

 

「……ここどこだ」

 

 

 

「犬吠埼さん、鏑木さん、お疲れ様です」

 

ーーほんと疲れたわ。

どうにか合流できた後、別の車で改めて目的地へ向かい、やがて大赦の建物らしきところに到着した。

入り口に立っていた白い面をつけた大赦の人間は、ひとまず俺たちに挨拶してきた。

 

「詳しい話は中で。犬吠埼さんは、治療も受けてください」

 

「わかりました」

 

「敬語のお前ってなんか珍らーーうげっ」

 

思い切り足を踏まれ、無理やり黙らされた。いてぇ。

中も外もそうだが、何というか大きな寺のようで和風の建物だった。

ホールを抜けて、会議室のようなところに通され、風は手当てのために部屋には入らず、俺のみここで待つこととなった。

スマホを突こうとするも、ここへ来る前に大赦の人間に預けてしまい、する事がなかった。

部屋をうろちょろとするがすぐに飽きてしまい、結局椅子に座ってグルグルと回っていると頭にガーゼをつけた風が部屋に入ってきて、続けて入ってきたのはーー。

 

「お、親父!?」

 

「……まさか、こんなところで会うとはな」

 

そこにいたのはまぎれもない、自分の父親だった。

 

 

 

父親は俺が幼い頃からよく家を空けており、遊んでもらった記憶があまりない。

一方、母親は既に死んでいる。その辺りも正直覚えていない。多分、物心がつく前にでも死んだのだろう。

所謂鍵っ子という奴だった俺は、家に帰っても渡された夕食代で食事をして寝るだけ。そんな毎日だった。

自然とコミュニケーション能力が欠如していき、友達も少なかった。まあいいか、と当時思っていたある日。体育の時に2人組を組めと言われた時だった。ベッタベタな話だが、当然友人のいない俺に気軽に組もうと言える人間なんていなかった。

このままこっそり抜け出してしまおうか、とさえ思った時。

 

ーーねぇ、アタシ組も!

 

多分、これがきっかけだった。

それが犬吠埼風だった。なんでこんなぼっちに声をかけてきたのだろうと今でも思う。

 

 

 

「……ライダーになってから、身体はどうだ?」

 

「知ってたのか」

 

「ライダーシステムを作ったのは、俺だからな」

 

鏑木仁(かぶらぎひとし)は、淡々とそう言った。

席に座り、風と俺を挟んだテーブルの向こう側に親父が座って話をしていた。

よく考えるとそうだよな。あのスマホにそんなシステムを黙って入れられるのは、身内しかいないから。

 

「……別に。特に変わんねーかな」

 

「そうか。ブレイヴチップーーあのメモリーチップを使うときに不具合のようなものは?」

 

そんな名前だったのか。

 

「いいや、ない」

 

「経過は順調、か」

 

ファイルにメモをし始める親父。

 

「……なあ親父。なんで黙ってたんだよ?ライダーシステムをスマホに勝手に入れたのを」

 

「……」

 

だんまりかよ。

まあ、そういう人なのはわかっていたのでその質問は置いておくことにした。

 

「で、俺らを呼んだのはなんだ?」

 

それを言うと、ふむ、と言って立ち上がり部屋の照明を消すと俺たちの方向にスクリーンが降りてきて、そこに映像が浮かび上がった。

その映像には、非常に巨大な怪物のようなものが映し出されていた。

 

「な、なんだこいつ。まさかバーテックスか?」

 

「ああ。そのまさかだ」

 

デカすぎるだろ、と絶句する。

 

「お前や犬吠埼さんが戦っている人型のバーテックスは、最近現れた新種だ。バーテックスが人類に現れてからの長い歴史の間で、初めて確認した種類でな。このバーテックスは、その新種が現れる前に出現していたバーテックスだ」

 

「……マジか」

 

「新型バーテックスは、1ヶ月前の戦いで神樹様の力が大幅に弱まり、樹海化をする事ができなくなってから現れた。おそらく、バーテックスがこちらの状況に合わせて個体を調整したのだろう」

 

「1ヶ月前の戦い……?」

 

「……!」

 

その言葉を聞いた瞬間、風の身体がピクリと動いたのが視界の端で見えた。

 

「……神樹様の力が弱まったって、どういうことだ?」

 

「1ヶ月前、四国と外の世界を阻む壁が崩壊する事故がおこった」

 

「事故?ってか、外の世界ってなんだよ」

 

「ウイルスによって四国以外の世界がなくなったと習っているだろうが、それは間違いだ。ウイルスではなく、バーテックスによって四国以外の世界が破壊されているのだ」

 

突然の事実に、俺は言葉を失った。

 

「バーテックスを防ぐべく、四国より外は壁が作られている。だがその壁が……崩壊した」

 

「そんな……」

 

「バーテックス達の進行は勇者……犬吠埼さんらによってどうにか防ぐことはできたが、神樹様はその時の事で力を大幅に失うことになった。バーテックスが出現した際、本来は神樹様が樹海という結界を張る事により現実世界までの影響を最小限にまで防ぐ事ができたのだが、それができなくなった」

 

そうか、バーテックスが現実世界に現れて足を踏み入れると、いつか学校で現れた時のように腐敗したようになってしまう。それを防ぐのが樹海化ってわけなのか。

 

「……そして、同時にバーテックスが人型となって現れだしたと」

 

「ああ。力はこれまでと同じく、個体が小型化ために機動力が高まり、その上に樹海化ができない。バーテックスはこれまで以上の脅威となっている」

 

どうやら、俺はとんでもない戦いに足を踏み入れてしまったらしい。

絶句していると、続けて別のスライドが映し出された。それは、人間の身体が半分バーテックス化している画像だった。

それを見て、風はやっぱり……と呟いた。

 

「どした」

 

「あの子……アタシに猫探しを依頼してきた女の子なの」

 

「おいまじか!?」

 

ちょっと待て、と改めてスクリーンに映し出されたバーテックス化した子のスライドを見る。あのバーテックスに見覚えがあった。

その答えはすぐに導き出された。つい先ほど、そして昨日俺が戦ったバーテックスと同じ姿だった。

 

「あの引き際の良さの意味がわかったよ……」

 

人間としての知性があるから、逃げるタイミングが良かったんだ。

 

「そういえば、バーテックス警報が鳴らなかったけどあれはなんだ

 

「本当か?……それは調査の必要があるな」

 

わかり次第、また連絡する。親父はそう言った。

 

「……ところで、このバーテックス化した人間って救う方法はあるのか?」

 

「……初めて確認したケースなので何も言えん。ただ、もしこれまでと同じように撃退した場合、恐らく彼女も死亡する可能性がある」

 

俺たちは、完全に言葉を失ってしまった。

 

 

 

システムをアップデートしておいた、という言葉を半分聞き流しながらスマホを受け取り、俺たちは行きと同じように車に乗って帰った。今日一日、あの短時間であまりにも衝撃的なことが続きすぎた。

帰りの車内の空気も悪かった。風も俺も、中々口を開こうとしなかった。と言うより、何を話せばいいのかわからなかった。

結局俺たちは風の家の近くに降ろされた。また何かあれば連絡します、と運転手が言うと車は来た道を走り去って行った。

 

「……ご飯、食べてく?」

 

無理に作った風のその笑顔は、あまりにも痛々しかった。

その気遣いを無下にするわけにはいかず、うん、とだけ言った。

風の家に入ると、まだ樹は帰宅していなかった。嫌な予感もよぎったが風のスマホに今帰っている、というメールがあったらしいので多分大丈夫だろう。

 

「……ねえ」

 

「ん?」

 

「……『風』って、久しぶりに呼んでくれたね」

 

「……あー」

 

バーテックスに襲われた時のことを言っているのだろう。

あの時必死だったので、思わず風と呼んでいた。

 

「……いつからだっけか、呼ばなくなったの」

 

「……さあ、忘れちゃった」

 

ソファに座っていた俺の横に、風もドサっと座り込んだ。ふわっと風の香りがした。

 

「……『燐』」

 

「ん?」

 

「辛い?」

 

「……化け物相手ならいいけど、人間相手だと、な」

 

「……だよね」

 

アタシも、どうすればいいのかわかんない。

そう言って天井を見上げる風。

世界を守るために、みんなを守るためにと戦うと決意したのに。

そのみんなを守るために、みんなの中の1人を殺さないといけないかもしれない。そんな矛盾が、こんなにも息苦しい。

 

「……」

 

 

 

ーー諦めちゃダメですよ、燐先輩!

 

 

 

「……」

 

 

 

ーー勇者部五箇条!『なるべく諦めない』!ですよ!

 

 

 

「……なるべく諦めない」

 

「え?」

 

「勇者部五箇条にあんだろ?なるべく諦めないって。まだバーテックス化した子が死ぬかわかんないんだから、こんなところでヘタレちゃダメだろ」

 

「……ねえ、燐」

 

「ん?」

 

「この前も言ってたけど、なんで勇者部五箇条知ってるの?」

 

あれ。

言われてみればそうだ。

なんでだろ。

 

「んー……なんかこう、前にもどっかで言った気がするっつーか、誰かが言ってた気がするっつーか……」

 

「……はは、なにそれ」

 

「ま、まあいいんだよ!つーか飯食おうぜ飯!腹減ったわ」

 

「はいはい。食べ盛りの子供がいると大変だわ〜」

 

「おめえだけには言われたかねえよ」

 

そのタイミングで、玄関からただいまーという声が聞こえた。どうやら樹も帰ってきたらしい。

その後、夕食を食べ終え、風が皿を片付けている時だった。

 

「鏑木先輩」

 

「ん?」

 

樹がいつになく真剣な顔で俺に話しかけてきた。

何やら只ならぬものを感じた俺は樹の方に身体を向けた。

 

「どした?」

 

えっと、その、と何やら煮え切らない態度だった。ちらちらと風の方を見ており、俺は樹の心情を察した。

 

「風、そろそろ帰るわ」

 

「え、もう?」

 

「明日も学校だしな。樹、下まで送って〜」

 

そう言って樹を引っ張って、後ろから聞こえる風の声を無視しながら犬吠埼家を後にした。明日怒られるなこれ。

 

「あーっと、何の話だっけ」

 

階段を下りながら、樹に話を振った。

樹は最初困ったように笑っていたが改めて表情を真剣なものに変えて、ようやく口を開いた。

 

「……今日、大赦に行ってましたよね?」

 

「……なんで?」

 

「学校から帰るときに、見えたから……」

 

大赦の人と、お姉ちゃんと鏑木先輩が車に乗ってるところを。

なるほど、あまり見られたくないところを見られていたらしい。

 

「……樹、もしかして、お前も勇者なの?」

 

「……うん。そう、だよ」

 

なるほど、昨日バーテックスが現れても動けていたのはやはりそういう事だったのか。それに放課後のあの風景を見ただけで大赦に向かっていると分かったということは、樹も何かしら大赦の人間と接する機会があったためだろう。

 

「……昨日のバーテックス、元は人間なんですよね?」

 

貫くような視線で、俺を見ながらそう言った。

どうやら聞かれていたらしい。タイミングよく帰ってきたというより、タイミングを計って帰ってきたようだ。

 

「らしいなぁ」

 

「……鏑木先輩は、バーテックスと戦うの、怖くないですか?」

 

続けざまに質問をしてくる樹。

 

「……あー。まあ、怖いよ」

 

「じゃあ、どうして?」

 

「うーん……なんか、色々聞いちゃった以上はやらないといけないっていうか、戦う力があるならやらないとなっていうか」

 

「……」

 

「でもまあ一番は、みんなで笑ってうどん食べたい、っていうのがあっからさ」

 

「……うどん、好きだもんね」

 

「お前もだろ」

 

そうこうしてるうちに、マンションの入り口まで来ていた。

んじゃ、また明日。と言って帰宅しようと前を向いた時だった。

 

「……?」

 

前方でゆらゆらと何かが揺らめいていた。

なんだ、と目を細めてそこを凝視する。

 

「あ、あれ、バーテックス!」

 

だが先に声を上げたのは、樹だった。

街灯に照らされて、姿を現したのはバーテックス。それも、やはりというべきか依頼人が変化したバーテックスであった。

 

「タイミングがいいっつーか、なんつーか!」

 

スマホを手に取り、ヘンシンアプリを起動する。

その直後、スマホを手に持った樹が俺の横に立った。

 

「樹?」

 

「私も、戦う!」

 

「お前……」

 

「もう逃げない!お姉ちゃんと……お兄ちゃんと一緒に、ちゃんと戦うから!」

 

その目には、強い意志があった。

彼女にも、何か理由があって勇者として戦えなかったのだろう。俺は静かに頷いた。

 

「2人とも遅いと思ったら、こんな事になってたのね」

 

背後から声が聞こえ、振り返るとそこに風が腰に手を当てて立っていた。

風はため息をつきながら、彼女も俺の横に立ってスマホを構えた。

 

「樹、いいのね?」

 

「うん。私、もう迷わない」

 

「……そっか」

 

「行くぞ!風、樹!」

 

 

 

「「「変身!」」」

 

 

 

『ヘンシンアプリ起動。モード【ネルヴ】フラワーブロッサム』

 

ネルヴに変身し、風も樹も同時に勇者に変身した。樹の勇者の姿は黄緑を基調とした服で、フラワーグローリーを連想させるものだった。

変身が完了すると同時に、俺と風は一緒にバーテックスへと駆け出す。樹はやはりグローリーと同じようなロープを出し、バーテックスの動きを封じようと手足へそれを飛ばした。

ロープが足に絡みつき、動きが鈍くなる。その隙にストレートを浴びせ、よろめいた瞬間に風が大剣で斬りつける。それから俺が回し蹴りをして、バーテックスを吹き飛ばした。

そのままバーテックスまで駆け出し、馬乗りになって呼びかけた。

 

「目を覚ませ!あんたは人間だろ!バーテックスなんかになってどーすんだよ!」

 

呼びかけてみるも反応はなく、暴れて振り回した腕が当たり、後ろへ倒されてしまった。

だが立ち上がりバーテックスの方を見ると、少し様子がおかしかった。頭を抑えて暴れているのだ。

 

「ひょっとして、自我がまだあるのか……?」

 

「でも戻す方法が……」

 

「……一か八か、やってみるしかねえか」

 

本当に思いつき、というよりこれしか他にわからなかった。

ケースからフラワーグローリーのチップを出し、スマホに差し込んだ。

 

『チェンジアプリ起動。モード【ネルヴ】ーーフラワーグローリー』

 

「どうするの?」

 

「……あいつを倒す」

 

「あんた、正気なの!?そんなことしたらあの人が……」

 

「他に方法はねえだろ!……それに……」

 

もし、このまま人間だからといって放っておけば、被害がもっと広がる。

そうなってしまえば、何のために俺たち勇者とライダーがいる。

 

「燐……」

 

「……」

 

本当は嫌だった。バーテックスを倒すと同時に、人間を殺してしまう。

そんな事をしてしまって、それが勇者と言えるのか。ライダーと言えるのか。

答えはわからない。それでも。

 

「世界を守るためなんだ……!」

 

「燐!」

 

「お兄ちゃん!」

 

『ヒッサツアプリ起動。ブレイヴフィニッシュ』

 

ワイヤーを展開し、バーテックスの全身に絡みつける。

そのままワイヤーごとバーテックスを引っ張り、エネルギーの溜まった足で、そのままバーテックスを蹴りつけると、バーテックスは目の前で爆散した。

 

「燐!」

 

爆散したバーテックスから御霊が現れた。

 

「……封印、頼む」

 

風と樹に封印を頼むと、2人は御霊の封印を始めた。

倒した瞬間に人間に戻れる、なんて淡い期待をしていた自分が甘かった。

人を殺してしまった、そんな後悔が少しずつ表れてきて、心臓の鼓動が早くなっていった。

だがその時だった。

 

「えっ?」

 

御霊を封印した瞬間、三角錐から黒い影がコンクリートの道路に落ちていった。

まさかと思って顔を上げると、そこには制服を着た女の子が倒れていた。

 

「な、なあ風。この子……」

 

「……よ、良かった……」

 

風が口に手を当て、目に涙を溜めていた。彼女のリアクションを見るに、バーテックス化した女の子で間違いないのだろう。

樹は風の腰に抱きつき、喜びを分かち合っていた。

 

「……」

 

俺も素直に喜びたい。なのに。どうして喜べないんだろう。

……ああ、そうか。

 

ーー世界を守るためなんだ……!

 

世界を守るためなら、平気で人を殺そうとする。そんな自分にドス黒い感情を抱いていた。

 

 

 

 

同時刻。

羽波病院の病室。

 

「……樹ちゃんも、勇者部に戻ったそうね」

 

「らしいわよ」

 

「……私は、先輩にどんな顔で会えばいいのかわからない」

 

「それは私だって同じよ。……でも、アイツは風が支え続えてきて、ようやく立ち上がれた。樹も悩んでいたけど、彼女なりの答えを出すことができた」

 

「次は、私たちの番、ね」

 

「……東郷、あんたに整理の時間が必要なのはわかってる。だけど、その時間が残り少ないのも事実なの」

 

「……」

 

「私は……行くわ、勇者部に」

 

「夏凜ちゃん……」

 

「……覚悟を決めなさい、東郷」

 

 

 

「……」

 

「ねぇ、私は、どうすればいいの」

 

「どうすればいいのかな……」

 

「……答えてよ……友奈ちゃん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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