あまりに立とうとしないクララにハイジがブチギレるお話 作:hasegawa
「クララのバカァァァーーーッ!!」
アルムの山に、ハイジの声が響き渡りました。
「なによ意気地なし! 一人で立てないのを足のせいにしてっ。
もう足はちゃんと治ってるわっ!」
クララは今日まで、ハイジやおじいさんに協力してもらいながら、立てるようになる為の訓練をおこなってきました。
しかしその痛みと辛さから、なによりクララ自身の臆病さから中々思うようにいかず、ついハイジに対して辛くあたってしまったのです。
――――私の事なんてほっといて頂戴。ハイジの言うように、すぐ歩けるようになんてならないのよ。
これまで必死に協力してくれたハイジを裏切るような言葉。思わず出てしまった弱音。
そんなクララの情けない姿に、友達の姿に……、ハイジは怒りを覚えたのです。
「クララの甘えん坊っ! 怖がりっ! 意気地なしっ!
……どうして出来ないのよっ!? そんな事じゃ一生立てないわっ!」
ハイジの目から涙が零れます。それは心からクララの事を思うがゆえの、感情の爆発でした。
「クララのバカッ! 弱虫! 意気地なし!
アホ! ボケ! カス! ブス! ウジ虫! 死ね!!」
「 ハイジッ!?!? 」
この甘ったれた腐れ西洋人のボンボンに、ハイジの怒りが炸裂します。
こちとら親戚中をたらい回しにされ、挙句こんなアルプスの辺境での小屋暮らしだというに! 自室の窓にはガラスすらありません。
なに不自由なく生活してきておいて、甘ったれるんじゃないわよ小娘がと!
「クララのバカ! クソ虫! あたしもう知らないっ!
クララなんてもう知らないわぁ~~っ!」
「ハイジッ! 待って頂戴ハイジッ!!」
ハイジが「うわーん!」と泣きながら、この場を走り去ります。
追いすがろうにもクララの足は動かず、どんどんハイジの背中は小さくなっていきます。
「ピュ~~イ! ユキちゃーん!」
ハイジの指笛に呼ばれ、この場に現れた子ヤギのユキちゃん。
その背中に颯爽と跨り、もう情け容赦の無いスピードでこの場を走り去って行きます。全力です。
「ハイジ! 待ってハイジ!!」
クララも即座に愛用の車いすに乗り込み、何やらガチャガチャとレバーだのスイッチだのを操作します。
するとクララの車いすの後部から〈ガシャーン!〉とジェットエンジンのような物が飛び出し、即座に炎を噴射。
凄まじい速度で車いすが前進していき、ハイジを猛追します。
「なによクララ! そのジェットみたいなの!!
どうせそれも、クララの家が民草から搾取したお金で作ったんでしょうっ!?
クララのバカ! ゴミクズ! 特権階級!! わたしもう知らないっ!!」
「待って! 待って頂戴ハイジッ!!」
〈パカラパカラ!〉と走るハイジ。ジェットエンジンにより〈ゴゴゴゴ!〉とばかりに追いかけるクララ。意外にもそのスピードは互角、白熱した戦いです。
アルムの山サーキットの第2コーナー、第3コーナーを回り、やがて両者は直線に入ります。
コーナリングでは4本足の子ヤギに跨るハイジに分がありますが、直線ではジェットエンジンのクララ有利です。
「ハイジィィィィィィィィーーッッ!!!!」
「クララァァァァァァァァーーッッ!!!!」
「めぇぇぇ~」
ハイジクララの2両はついに、このアルム山サーキット名物“魔の第4コーナー“に差し掛かります。
今まで数多のクラッシュ者、そして死者を出して来たという恐るべきヘアピンカーブです。
「うおぉぉぉぉぉぉーーッッ!!!!」
「まぁがれぇぇぇぇーーッッ!!!!」
バイクで言う所の“ハングオン“の技術を駆使し、ハイジがコーナーを攻めて行きます。
それに対してクララは姿勢をそのままに、己のマシンの性能を信じます。
「きゃあぁぁぁーーーーッッ!!!!」
「……ッ!? クララッ!?」
しかしコーナーを曲がり切れず、クラッシュしてしまうクララ。
身体はマシンから放り出され、凄い勢いで地面に叩きつけられました。
「いたた……。あら、いけないいけない」
ムクリと立ち上がり、クララはスタスタとマシンのもとに向かいます。
転倒はしましたがマシンは無事。どこも壊れていない事をチェックし終えたクララは、まだまだいけるとばかりに再び車いすに乗り込みます。
「ハイジッ!! 待って頂戴ハイジッ!!」
再び炎を噴出する、クララ車のジェットエンジン。
「クララのアホォォーーーーッッ!!」
ライバルが復帰したのを見届けた後、ハイジの乗る子ヤギのユキちゃんも、走りを再開させました。
どんな事があろうとも、この
チェッカーフラッグを受けられるのは、ひとりだけなのだから――――
「あっ、あそこにペーターがいるわ!」
「ちょうどマシンの前方にペーターが!!」
突如コース上に現れたペーター。
勢いを殺す事が出来ず、二人はペーターに突っ込んで行きます。車は急に止まれません。
「うぎゃあぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーッッ!!!!」
天高くペーターの身体を跳ね飛ばし、二人のマシンはようやく停止する事が出来ました。幸運にも二人は無傷です。何の問題もありません。
「よくもペーターを! なんてひどい事するのクララ!
もう生きてアルムの山から帰さないわっ!!」
「待って! 違うのハイジ!! 聞いて!!」
ハイジはピョインと子ヤギの背に飛び乗り、そこからフライングクロスチョップを慣行します。
「死ねぇぇぇぇーーッッ!!!!」
本職のルチャ・ドーラもかくやという華麗な技が、クララに襲い掛かります。
「ハイジィィィィィーーッッ!!!!」
それを華麗な車いす捌きで回避するクララ。躱されたハイジは〈べちゃっ!〉と地面に倒れてしまいました。
「あぁっ! ハイジ大丈夫? 怪我はない?」
「えへへ、ありがとうクララ。わたしは平気よ♪」
クララはテテテとハイジに駆け寄り、優しく抱き起します。
そしてハイジの無事をしっかり確認した後、再び「よっこいしょ」と車いすに乗り込みました。試合再開です。
「それじゃあ改めて……なによクララのバカ! 意気地なし!
そんなんじゃ一生立てないわ! この便所コオロギ!!」
「ハイジ! 待って頂戴ハイジ!!」
再びハイジがクララに襲い掛かり、今度はハンセンばりのウエスタンラリアットを慣行します。
しかしクララは冷静に対処し、その向かってきた腕を掴んで、そのままビクトル式腕ひしぎ逆十字固めに入りました。
「ぎゃぁぁぁーーッッ!!!! 折れる折れる折れる折れる~ッ!!!!」
「聞いて頂戴ハイジ! 話を聞いて!!」
ハイジの腕をしっかり極めながら、クララはネゴシエーションを試みます。
先ほどはごめんなさい。私これからしっかり練習する。そして立てるようになるわ。どうしてもそうハイジに伝えたいのです。
逃げ出せないようしっかり腕をギリギリしながら、真心を持ってハイジに語りかけます。華麗な技です。
「腕の一本くらい、クララにあげるわ!
二度とステーキの食べられない身体にしてやる!!」
「ハイジ! 待って頂戴! ハイジ!!」
渾身の力を込めて、ハイジが技を振りほどきます。
腕ひしぎを外されたクララがテテテと車いすに駆け戻り、三度「よっこいせ」と座り直しました。
「いくわよクララ! 半月板損傷し…………。
ってあれ? クララいま立ってなかった?」
「ううん? 立ってないわ?」
「そっか!
さっきからチョイチョイ立ってるような気がしたけど、わたしの気のせいね!
じゃあいくわよクララ!! アバラへし折ってやるわ!!」
「お願い! 話を聞いてハイジ!!」
……その後も暗くなるまで拳で語り合った二人は、迎えに来てくれたおじいさんと一緒に山を下り、仲良く手を繋いで家に帰って行きました。
今夜のご飯は、チーズの乗ったパンとミルク。
やがて沢山食べてお腹がいっぱいになった二人は、一緒に干し草のベッドに入りました。明日はどんな事をしようか、そう楽しく語らいます。
「ねぇクララ? やっぱり今日、普通に歩いてなかった?」
「ううん? 歩いてないわ?」
明日もたくさん、一緒に遊ぼうね――――
そう約束し合い、眠りに落ちていくのでした。