あまりに立とうとしないクララにハイジがブチギレるお話 作:hasegawa
「クララのバカァァァーーーーーッ!!」
アルムの山々にハイジの叫びが木霊します。
「なによ! どうして立てないのよ! 足だってもう治ってるわ!」
これまでハイジは、クララが自分の力で立てるようになるようにと、献身的にリハビリに協力してきました。
しかし先日同様、いつまでも甘えた事ばかりを言って全然立とうとしないクララに……、この腐れ成金のしょんべん臭い小娘に怒りを覚えたのです。
この特権階級のガキの髪の毛を引っ掴んで、そこら中を引きずり回さねばならぬと心に決めたのです。ヤギのエサにしてやるです。
「クララのバカ! いくじなし!
ブス! うじ虫! 陥没乳首! クレイジーサイコレズ!
あたしもう知らない! クララなんて
「ハイジ?! ハイジッ!?!?」
ハイジは天を仰いでわんわん泣きながら、スカートのポケットからなにやら"リモコン"のような物を取り出します。
そしてそこら中に涙をまき散らしながらも、力強くグイっとスイッチを入れました。
「――――
ハイジの声と共に、後方にあったアルムの小屋の屋根が突然〈ゴゴゴゴッ!〉と開き、そこから何かロケットのようなものが発射されてます。
青いメタリックなボディ。
頭部に装着された赤いリボン。
今も炎を吹き出している背中のバーニア。
まるで鉄〇28号のような「しゃきーん!」って感じのポーズで飛ぶそれは、やがてぐるっと空を一周した後、ゴゴゴッと音を立てながらクララの前に降り立ったのです――――
「 !?!?!?!? 」
「どうクララ? これが我がアルムの山研究所の技術の粋を集めて開発した、
いつまでも立とうとしない悪い子おしおき用ロボ! その名もメカクララよ!」
さっきまでの涙はどこへやら。ハイジは勝ち誇った顔で高笑いをしています。
それに対して、クララは口を「アンガー!」と開けて、目の前の巨大なロボットを見上げるばかり。
これこそはハイジの最終兵器、対クララ用ロボット"メカ・クララ"です。人間などアリのように潰せます。
いつまで経っても甘ったれた事を言い、いっこうに車いすから立とうとしない小娘もまた然りです。
「――――さぁいくわよクララ! メカクララ、前進!」
メカ・クララは〈ガッキィーン!〉とカッコいいポーズをとった後、ドシンドシンと音を立ててクララに迫っていきます。
アルムの山は地響きに揺れ、鳥たちが「やばいやばい」とパタパタ飛び立っていきます。
「あ~~はっはっは! さぁ逃げなさいクララ! 逃げまどいなさい!!
このメカ・クララの前にひれ伏しなさい!」
「ハイジ?! ハイジ!!」
クララは即座にレバーを操作し、車椅子の後部から〈ガッシャーン!〉とジェットエンジンを出現させます。
そして今まさにメカ・クララに踏みつぶされようとしたその瞬間、間一髪でその場を脱出しました。
「無駄よクララ! このメカ・クララは時速400kmでガチ走りが出来るの!
いつまでも歩こうとしないクララと違ってね!」
「ハイジィィィーーーーッッ!!!!」
クララの車椅子がジェットを噴出して駆けて行きます。ドシンドシンと踏み潰そうとするメカ・クララの脚を、ドリフトを駆使した蛇行運転で紙一重に躱しながら、アルムの山を駆け抜けて行きます。物凄いスピードです。
「潰れちゃえ! クララなんか踏んづけられちゃえば良いわ!
支配階級の小娘め! 民草の怒りを思い知れ!
パワー トゥ ザ ピーポー! パワー トゥ ザ ピーポー!」
「ハイジッ?! ハイジッ!!!!」
ゴッスンゴッスンと容赦なく振り下ろされるメカ・クララの大きな足。その度にクララのマシンは1メートルも地面から飛び上がり、大きくバウンドします。
その圧倒的な巨体、圧倒的なパワーの前には、いかにクララの家が市民達から搾取して得たお金で作った最新の車椅子と言えども、太刀打ち出来ません。
もう傍から見ていると、今にもクララはメカ・クララに踏んづけられてしまいそう。その圧倒的な破壊力に捕まってしまうのは時間の問題に思えます。
「た……助けて! 助けてちょうだいハイジ!」
「ん? なにクララ、たすけてほしいの?」
もう汗水をたらし必死こいて逃げながら、クララはハイジに懇願します。お慈悲を下さいとッ!
「ええ! 助けてちょうだいハイジ! どうか命ばかりは!」
「ふっふ~ん。そっか、たすけて欲しいんだクララは」
ハイジはクックックと悪者のように笑い、ズバッと言い放ちます。
「――――ならば鳴けッ! 豚のようにブーブーと鳴いてみろ!!
鳴きなさいクララ!!」
「?!?!」
ハイジのよく通る声が、アルムの山に響き渡ります――――
「さぁどうしたのクララ?! 鳴くのよ!!
豚のように惨めに鳴いてみなさい!!」
もうあの優しかったハイジはどこにもいません。いま目の前にいるのは天真爛漫だった幼い少女ではなく、その支配階級への憎悪に身を焦がし、復讐の鬼と化した憐れな女なのです。
「ほ……本当にっ?! 本当にそれで許してくれるの?!」
「当たり前じゃないクララ。わたし達はこんなにもなかよし。ズッ友でしょ?」
「そ……それじゃあ……!」
クララは風前の灯火となってしまった我が身惜しさに、頑張ってドリフト走行をしながらも必死に声を上げます。
「ぶ、ブゥブゥ! ブーブー!!」
「あっはっは! 鳴いた! クララが豚のように鳴いたわぁ~♪」
ハイジは楽しそうにそれを見届けた後、「よいしょ」っとばかりに手元のボタンを押し込みます。
「――――豚は死ねぇぇぇーーーーッッ!!!!」
「いやぁぁぁああああーーーーッッ!! ハイジィィィーーーーッッ!!」
メカ・クララの身体中から、もうとてつもない数のロケットが発射されます。
それはクララを目掛けて飛ぶばかりか、もう山だの川だのというそこら中を破壊していきます。
辺り一帯に〈ドゴーン!〉とか〈バコーン!〉みたいな音が響きます。
「あっ、ペーター!」
「あんな所にペーターがいるわ!」
ふと二人が前を見ると、そこにはヤギ達の散歩から帰ってきたペーターの姿。
呑気に草笛を拭きながら「~♪」と歩いている彼を余所に、即座に危険を察知したヤギ達が彼の傍から離れていきます。
「うぎゃあああああああああーーーーーーーーッッ!!!!」
ロケットが至近距離で炸裂し、天高く飛ばされていくペーター。
ヤギ達はメーメーとお家に向かって走って行きました。彼をその場に置いて。
「ひどい! なんてひどい事するのクララ!
もうクララの髪の毛一本すら、この世には残さないわ!」
「待って! 違うのハイジ! 聞いて!」
メカ・クララの拳が、地面に向けてゴッスンゴッスンと繰り出されます。それを必死こいて躱すクララ。イニシャルDもかくやという車椅子さばきです。
「みんな! みんな壊れてしまえば良いのよ!
資本家なんかがいるから、私たち労働者はいつまでも貧しいままなの!
共産主義こそが世界のあるべき姿なのよ! 全部ぶっ壊してやる!」
「落ち着いて頂戴ハイジ! 話をきいて!!」
もうハイジがマルクス主義みたいな事を言い出しています。
ペーターという友を失い、悲しみに暮れるハイジ、もう彼女の暴走を止める者は誰もおりません。
クララやアルムの山どころか、えも知れぬ憤怒によってその身すらも焼き尽くそうとしているのです。
いま自ら破滅の道を歩もうとしている大切なともだちに向かって、クララはその弱い身体に鞭を打ち、必死に語り掛けます。
ハイジ、優しい貴方に戻って。いつものように明るい笑顔を見せて頂戴――――
そしてついでに、共産主義などまやかしよと。優しく語り掛けます。
『――――お嬢様! ご無事ですかお嬢様!?』
「ハッ! ロッテンマイヤーさん?!」
その時、クララのマシンに備え付けられていた無線機から、クララの家の使用人であるロッテンマイヤー夫人からの通信が入りました。
「よし、ロッテンマイヤーさん、ハイジを助けたいの。
テンド〇ビウムをこちらに向かわせて頂戴」
『御意。お嬢さまのお心のままに』
そして即座にこちらにやってくる、ロッテンマイヤーさん操る巨大な宇宙船のような機体、テンド〇ビウム。
クララの車椅子が〈シャキーン!〉と翼を広げ、テンド〇ビウムに向けて空へと舞い上がります。
「よし、オーキスを射出して。
Kulala―Link Systemでドッキングよ。タイミングはこちらに合わせて頂戴」
『ラジャー!』
テンド〇ビウムの空いた前面から二本のビームのような物が発射され、それを目印にして、クララの車椅子がテンド〇ビウムとドッキングします。
「ドッキング・クロス!! ――――いざ空を駆けろ! テンド〇ビウム!!」
まるで巨大な戦闘機の前面に、むき出しの車椅子を張り付けたような姿。
クララの操るテンド〇ビウムが、今も狂ったように破壊活動を続けるメカ・クララへと襲い掛かります。
「く、クララ?! なによその飛行機みたいなヤツ!!
それを作る為に、いったいどれだけ民草の血が!!」
「総員! 対ショック姿勢を取って! 一気に突破するわ!」
テンド〇ビウムの前面に備え付けられた、まるで戦車のように長い砲身から、極太のビームが発射されます。
物凄い轟音と破壊をまき散らしながらも、そのままテンド〇ビウムは放たれた矢のような速度を持って、一気にメカ・クララへと突撃していきます。
「――――この一撃が、歴史を変える。
ハイジィィィィイイイイイーーーーーッッ!!!!」
「クララァァァァアアアアアーーーーーッッ!!!!」
テンド〇ビウムの零距離砲が、その身体ごとメカ・クララへと叩きこまれます。
とてつもない轟音を伴い、爆散する両者の機体――――凄まじい爆発によって世界が白く染まり、沢山の破片がアルムの山に降り注いでいきます。
「あぁ……メカ・クララ……わたしのメカクララが……」
ポトリとリモコンを落とし、そのまま地面にガックリと両膝をつくハイジ。
今そんな彼女の眼前に、パラシュートでこの場に帰還したクララがフワッと降り立ちました。
「あぁハイジ! 大丈夫? しっかり!」
「えへへ。わたしは平気よクララ♪ ありがとう♪」
スタッと華麗に着地したクララは、その足でテテテとハイジのもとに駆け寄ります。そして優しくその肩を支え、立ち上がらせてやりました。
「あ~あ、まけちゃった。今度こそクララに勝てると思ったんだけどなぁ~。
おしかったなぁ~」
「うふふ♪ 流石に私もちょっぴり焦っちゃったわ♪
でも楽しかった――――また勝負しましょうハイジ」
二人は仲良く肩を並べ、今も巨大なキノコ雲が上がっている大空を見つめます。
それは夕焼けと相まって、とても心が震えるような美しい光景でした。
関係の無い事なのですが、あれに乗っていたロッテンマイヤーさんはいったいどうなったのでしょう? 二人は気にしませんでした。
「あれ? クララ車椅子は? クララ普通に立っ
「――――さぁお家まで競争よハイジ! つかまえてごらんなさ~い♪」
「あ、まってよクララ! ずるい! まってったらぁ~!」
「あははは♪ ほ~らハイジ! 私はここよ♪ 早くいらっしゃ~い♪」
そうしてハイジとクララの二人は、まるで波打ち際で追いかけっこをする恋人たちのように遊びながら、おじいさんの待つアルムのお家へと帰って行きました。
今日のばんごはんは、チーズの乗ったパンとミルク。
むしろ「今日もチーズの乗ったパンとミルク」といった感じですが、ハイジもクララも何の文句もありません。贅沢は敵なのです。
やがてお腹いっぱいになった二人は、仲良く一緒に干し草のベッドに入り、手を繋いで眠りへと入ります。
明日はどんな事をしようかな? そう二人で楽しく語らいながら。
「ねぇクララ? さっきダッシュしてなかった?」
「ううん、ダッシュしてないわ?」
明日もいっぱい、仲良く遊ぼうね――――
そう約束を交わし、眠りに落ちていくのでした。