あまりに立とうとしないクララにハイジがブチギレるお話   作:hasegawa

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おまけ。その2

 

 

「立ちなさいよぉぉクララ! 立ちなさいってばぁ~!」

 

 アルムの高原に「ふんぬぬぬ……!」みたいなハイジの声が響きます。

 

「嫌よ! わたし立ったりなんかしないわ! 立ちたくないのよハイジ!」

 

 なんとか立たせようと、必死に手を引っ張るハイジ。そうはさせるかとクララは抵抗します。

 

「なんで立たないのよぉクララぁ~……! ふんぎぎぎぎ……!」

 

「ハイジ! わたし立ちたくないの! ふんぎぎぎぎ……!」

 

 ハイジに両手を引っ張られますが、クララは両足で〈ガッシリ!〉と柱にしがみつき、これっぽっちも放す気配はありません。クララはまるで鯉のぼりみたいに宙に浮いています。立ちたくないのです。

 

「凄い筋力じゃないのクララ! 足だけで全体重を支えてるわ!

 どうしてそんなに立ちたくないの!? メチャメチャ必死じゃないの!」

 

「駄目よハイジ! わたし立てないの!

 ハイジの言うように、歩けるようになんてならないんだわ!」

 

「ウソよ! そんな身体能力があるのに、立てないワケないもん!

 こんな鯉のぼりみたいになる方が、ぜったい難しいにきまってるわ!」

 

「違うわハイジ! これは私の『立ちたくない』という強い想いが力となって、

 この身を支えているの! 心と体を奮い起こしているのよっ!!

 言うなればこれは“火事場の馬鹿力”というヤツなんだわ!」

 

「そんなパワー出しちゃうくらい立ちたくないのっ?!

 なんでそこまでするのよクララ! もう立っちゃえばいいじゃない!!」

 

「嫌よ! 私は立たないわ! ぜったいに嫌ッ!

 立てだなんて、そんな酷い事言わないで頂戴!」

 

 クララはまるでウルトラマンのようなポーズで浮いたまま、必死に懇願します。

 ――――立ちたくない! 立ちたくないでござる!!

 まるで立ったら死ぬとでも言うかように、クララは泣き叫びます。

 いくらハイジに「おーえす! おーえす!」と引っ張られても、ビクともしません。凄まじい筋力なのです。

 

「なにが酷いのよ! 立てって言ってるだけじゃない!

 バカ! 弱虫! 淫乱! 黒乳首! 資本主義ッ!!

 どうして出来ないのよっ! そんなんじゃ一生立てないわ!

 このうんこクララ!」

 

「嫌っ! わたし立ちたくない! 一生ハイジに甲斐甲斐しくお世話されて、

 ドロドロに甘やかされて生きていくのよ!」

 

「ふざけんじゃないわよ! この便所コオロギ!!

 あんたなんか共産主義政権下だったら、まっさきに淘汰される存在なんだからね!

 いいからさっさとしなさいよ! 腐れクララ!

 耳引きちぎってヤギに食わせるわよっ!?」

 

「嫌よ! わたし立たないのハイジ!

 ぜったいに立ったりなんかしないわ!! 我が矜持に懸けて!」

 

 なんの誇りなのかはよく分かりませんが、どれだけ説得しようとも、まったく立つ気が無い事は分かります。

 そんなクララの情けない姿に、大切な友達の姿に……ハイジは怒りを覚えたのです。

 

 

「――――ファック!! ブチ殺すぞ小娘(ロリータ)ッ!!

 いいわよ! 今日はとことんやってやるわよクララ! ファッキュメェェェェン!!」

 

 

 ハイジは激怒しました。

 この支配階級の甘ったれた小便ガキに、怒りの鉄槌を下さねばならぬと思いました。

 はらわたを全部掴み出して、畑の肥料にしてやるのです。

 クララの墓にツバを吐いてやるのです。

 

「さぁ行くわよクララ! 覚悟なさい! あんたに死のジルバを踊らせてやるわ!」

 

「えっ、どこへ行くのハイジ? もう綱引きはおしまい?」

 

 

 ハイジはクララを車椅子に乗せ、よいしょよいしょと連行していきます。

 

 関係ないけれど、綱引きごっこが終わってしまった事に、ちょっと残念そうな顔のクララなのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルプスの少女ハイジ 外伝

さらばハイジ! 乙女の涙は一度だけ!! の巻

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ぎゃあああああぁぁぁぁっっっっ!!

 痛い痛い痛いぃぃぃ~~っっ!!」

 

 アルムの山にクララの叫び声が木霊します。

 

「わあああああぁぁぁぁっっ!!

 痛いわハイジ! 折れる! 足が折れちゃう!」

 

「あーーっはっはっは! 気分はどうクララ?」

 

 これは時代劇なんかでよくある“ギザギザの床に正座させられる”という拷問。

 今クララは両腕を縛られた状態で、まるで江戸時代の罪人のように、いっぱい角のついた床の上に正座させられていました。

 

「も……ものすごく痛い!!!!

 とんでもない激痛よハイジ!! 耐え難い痛みだわ!!」

 

「さぁ~降参するなら今の内よクララ! はやく立ちなさい!」

 

 ハイジは石で出来た板を、「よいしょ、よいしょ」とクララの膝に乗せていきます。その度に体重が増加し、どんどん床のギザギザが脛に食い込んでいきます。

 

「Oh! なんて痛いのかしらコレ! わーお!!

 このような痛み、未だかつて経験した事がないわハイジ! とってもアメイジング!!」

 

「ほら! 早くしないと足が折れちゃうわよ?!

 さぁ立って! 立つのよクララっ! 雄々しく立ち上がってみせて!!」

 

 立ち上がろうにも膝に石板が乗っているし、両腕も後ろで縛られているのでどかせません。なのでクララはまったく動けないのですが……そんな理屈はアルムでは通りません。立つしかないのです。

 

「ほら立ちなさいよクララ!! えーい!」

 

「ぎゃあああぁぁぁぁ!! 痛い痛い痛いぃぃっっ!!」

 

 えーいという可愛らしい声と共に、ハイジがペチーンと鞭を振り下ろします。クララの服の背中部分が破け、傷だらけの肌が露出していきます。

 

「どう?! 立つ気になった?! 早く立ちなさいよクララ!!」

 

「嫌よ! わたし立たないわハイジ!

 ぜったいに立たないの!! ぎゃあああぁぁぁ! 死ぬぅ~~っ!!」

 

「どうして立たないのよ! いったい何が貴方をそうさせるのよ!

 このファッキン・ゲルマン!!」

 

 どれだけ鞭で打たれようとも、脛にギザギザが食い込もうとも、立とうとしないクララ。

 か弱く儚げに見えるクララは、えも知れぬジャーマン・パワーを発揮し、激痛に耐えます。

 

「ほらもう膝の上の石板が、クララの座高より高くなってるわ!

 どうなのクララ?! 降参? さぁタップしてよ!」

 

「面白いジョークねハイジ!

 わたしタップなんて、そんな馬鹿な言葉は知らないの!

 ドイツ帝国に名だたるゼーゼマン家に、後退の二文字は無いのよ!!

 ――――ぜ っ た い に 立 た な い ッ !!」

 

 クララは「ぬぅえーーい!」という気合と共に、頭突きをかまします。それによって膝にあった石板が木っ端みじんに砕け、クララの足が自由を取り戻しました。

 

「な……なんて破壊力なのクララッ?!

 積みあがった石板を頭突きで粉砕するなんて……超人ハルクでも出来ないわっ!?」

 

「ハイジ! わたし立ちたくないのよ!

 分かって頂戴ハイジ! この想いを!」

 

「そんな人知を超えた身体能力を持っているのに、なんで立てないのよ!

 そんなワケないでしょうクララ!! 分からないわよ!!」

 

 ハイジが天井からぶらさがっている紐を〈ぐいっ!〉と引っ張ります。するとクララの頭上に天井がパカッと開き、視界いっぱいもある巨大な岩が落ちてきました。

 

「 ?!?! 」

 

「死ねぇクララァァァ―――――!!

 死にたくなければ立ちなさい! 立って避けなさいっ!!」

 

 クララを圧し潰さんと迫ってくる巨大な岩。ハイジの高笑いが響く中、クララの目がキュピーンと光ります。

 

 

「ザッ――――せぇぇいッッ!!!!」

 

 

 クララがその場から飛び上がり、サマーソルトキックを放ちます。その途端に巨大な岩が〈バコォォ――ン!!〉みたいな音をたてて、砕け散りました。

 

「なっ……?! なによそれ!? クララいまジャンプしたじゃない!!

 いま3メートルくらい飛んだわよ!? やっぱり立てるんじゃないの!!」

 

「ううん、立ってないわ(・・・・・・)

 確かにジャンプはしたけれど、わたし立てないわ?」

 

「 うそぉ?!?! 」

 

 パニックに陥ったハイジは、バイキングが使うような両刃の斧を投げつけます。

 それをクララが〈くるくる! シュバ!〉っと躱してみせました。

 

「バク宙!? いまバク宙したわよクララ!? クララってそんな事も出来るの?!」

 

「うん、バク宙したわ? でも立てないの(・・・・・・・)

 前宙も側宙も出来るけれど、わたし立ってないわ?」

 

「えっとぉ……足だけで全体重を支える筋力があってぇ~。

 サマーソルトキックやバク宙が出来る身体能力と、

 巨大な岩を粉々にできるパワーがあるけれど、立てないのね?

 ――――そんなワケないでしょクララ! うそつき! クララのウソつき!!」

 

「分かって頂戴ハイジ! おねがいよ!

 その代わりにわたし、立つ以外の事(・・・・・・)なら、なんだってやって見せるから!」

 

「あたしそんな屈強な女みた事ないわよ! どうして立たないのよクララ!」

 

 手元にあった鉄パイプを〈ぐにゃ!〉っとへし曲げてみせながら、クララが誠心誠意お願いします。肉体の強靭さを示します。

 それを見て、また「むきゃー!」っと怒ってしまうハイジ。

 

「もっ……もう知らないっ! あたしクララなんて知らないっ!

 クララなんて一生そのままでいれば良いんだわぁ~! うわ~ん!!」

 

「は……ハイジ?!」

 

 今見た物にショックを受けたのか、情けない事を言う友達に愛想を尽かしてしまったのか……ハイジが泣きながらこの場を駆けだして行きます。

 

「ま……待って頂戴ハイジ! 待って!」

 

「うるさい! クララのアホぉー!! 特権階級!!

 クララなんてもう知らないわぁぁ~~!!」

 

 ハイジは涙をまき散らしながら、どんどん遠ざかっていきます。クララは歩く事が出来ないので、ただこの場でそれを見送るばかり。

 しかし……その時。

 

「 ぬぅわーーーーーーー!! 」

 

 あぁなんという事でしょう!? ハイジが今、崖から落ちてしまったのです。

 えんえんと泣きながら走っていたハイジは、足元にある崖に気づく事が出来ず、そのまま落ちてしまったのでした!

 

「……ハイジッ?! ハイジ!!」

 

「ひぃぃぃっ!! お助けぇぇぇ~~っ!!!!」

 

 とっさに岸壁に手をかけたものの、とても這い上がる事など出来ません。今にもハイジは崖から落ちてしまいそうな様子。絶体絶命です。

 

(……あぁ、これはもう助からないわ……

 おじいさんを呼んで来てもらおうにも、クララは立つ事が出来ないんだから。

 あたしこのまま死んじゃうんだわ)

 

 クララの悲痛な声が遠くに聞こえる中……ハイジの頭に今までの思い出が浮かんできます。

 私をおじいさんに預けてとっとと去りやがった、あの腐れ叔母さん。

 何度死んだらいいのにと思ったか分からない、いつか刺してやると心に誓ったロッテンマイヤーさん。

 ハイジの貧乏でしみったれた人生の思い出が、まるで走馬灯のように次々に浮かんできました。

 

 今この瞬間も、あのアバズレやクソババアは美味いモンでも食ってるのかと思うと、死んでも死にきれません。

 でももし死んだら、知ってる人間を全員呪い殺してやろう。悉くを黄泉平坂の無間地獄に落としてやろう。

 ハイジはこの世を呪って死ぬ事を、しっかり心に刻みます。

 

(さよならクララ……色々あったけど、クララの事は嫌いじゃなかったわ。

 あたしが居なくなっても、どうか元気でいてね……。

 いつかきっと、立てるようになってね――――)

 

 クララの手から、だんだん握力が無くなっていきます。

 そして「もう駄目だ」という、ハイジが心の中でちょっと早めの般若心境をムニャムニャし始めた、その時……奇跡は起こったのです!

 

 

『――――ハイジッ!! 死なないでハイジッッ!!』

 

 

 なんという事でしょう! だんだんと大きくなる声と共に、いまクララが走っているのであろうバタバタという足音が、聞こえてくるではありませんか!!

 

「死んじゃダメ! 死んではダメよハイジッ! ハイジィィィーー!!」

 

「く……クララ?! まさか助けに来てくれたのっ?!」

 

 今も聞こえてくる、クララのドタドタという大きな足音。

 ハイジはあまりの嬉しさにアドレナリンが出ちゃったのか、思わず「よっこいしょ」と懸垂の要領で身体を持ち上げ、崖からヒョコッと顔を覗かせました。

 そこには……。

 

『――――ぬぅぅおおおぉぉぉぉぉっっっっ!!

 ハァァイジィィィィ―――――――――ッッ!!!!』

 

「!?!?」

 

 するとそこには、逆立ちの状態で駆けてくる(・・・・・・・・・・・・)クララの姿。

 憤怒の顔で目を血走らせ、凄まじい勢いをもって両手で〈バタバタバタ――!!〉っと駆けてきます。

 

 クララの逆立ち走りは、もしかしたら普通に走っている大人よりも早いかもしれません。とんでもない速度です。

 

『ハァァァイィィィジィィィィィッッッッ!!!!

 マイフレェェェェェェェーーーーンド!!!!』

 

「 怖い怖い怖い!! 何してるのよクララ?!?! 」

 

 そのあまりの恐怖に、思わずハイジはズルッと手を滑らせます。そこを間一髪でパシッと掴んだクララ。

 

『ずぅぅああああああああぁぁぁぁぁぁっっ!!

 ――――――――せ ぇ い ッ !!!!』

 

「わー!」

 

 ハイジの身体がポーンと投げられ、そのまま地面に〈ドテッ!〉と着地します。

 とっても怖かったし、なんかもう半泣きだけれど……、無事生還です。

 

「あぁっ! 大丈夫ハイジ?! 怪我はない?!」

 

「えへへ……ありがとう。私は平気よクララ♪ 」

 

 なんか〈グルグルグル!〉と高速ででんぐり返りをし、ハイジのもとへ駆けつけるクララ。まるでストⅡのブランカみたいです。途轍もない身体能力。

 

「ありがとう助けてくれて♪

 クララがいなかったらあたし、ミート・パテになってたわ」

 

「良いのよハイジ! あぁ、本当に無事で良かったっ……!

 命って素敵ねハイジ! キラキラと輝いているわ! まるで水面(みなも)のように!」

 

 クララに優しく手を引いてもらい、そのままギュっと抱きしめ合う二人。美しい光景です。

 

「あぁハイジ! ハイジッ! 我が生涯の友ッッ!!

 何があろうと、ぜったいに貴方を離しはしないわ! 一生逃がさないからッッ!!!!」

 

「あはは♪ クララったらおもーい♪ クソレズぅ♪

 ――――さぁクララ、帰りましょ! あたしお腹空いちゃった♪」

 

 

 

 

 やがて二人は肩を並べ……いえ片方は“しゃくとり虫みたいにウネウネしながら”、おじいさんの待つ家へと帰って行きました。

 

 クララは歩く事が出来ないので、いつもこんな風にウネウネしながら、家の中を移動するのです。

 ちなみに夜中に見たら、悲鳴を上げる位の気持ち悪さです。ハイジはいつまでたっても慣れません。

 

 そして家に帰った二人は、いつもの如くチーズの乗ったパンを食べ、腹を満たします。

 毎日毎日こればかりで、正直な話もう飽き飽きしているのですが、ハイジもクララも死んだ目をしながら黙々と食事を進めました。贅沢は敵なのです。

 

 やがて、しみったれた粗末な晩飯を終えて曲がりなりにも腹を満たした二人は、いつものように藁のベッドで眠りに入ります。

 こんなアルムのド田舎、しかも貧乏人であるハイジには、夜になったらする事など無いのです。

 節約の為にランプの明りを落とし、とっとと寝るに限るのでした。

 

 

「あ、ごめんなさいハイジ。すこし待ってもらえる?」

 寝る前にやりたい事があるの」

 

「ん? いいよクララ、待っててあげる♪ なにするの?」

 

 そうしてベッドに寝転ぶハイジが見守る中、クララは日課であるヒンズークスワット

に励みます。

 

「456……457……458!」

 

 身体中から蒸気を発しながら、クララはえいさほいさと身体を上下します。

 その肉体はまるで、鋼のよう――――

 アルプスの空気や環境が、きっとクララの健康に良い……そう言っていたおじいさんの言葉は、やっぱり間違いでは無かったようです。

 クララの大腿四頭筋が、岩のように隆起していました。

 

「――――1000ッ!!

 ふぅ……おまたせハイジ♪ さぁ一緒に眠りましょう♪」

 

「うん! それじゃあ寝よっかクララ♪

 あっ、あたしの胸とかお尻さわったらダメよ?

 こっそりやってるつもりなんだろうけど、バレてるからね?」

 

 

 そして二人はベッドに並び、仲良く眠りに入ります。

 明日はどんな事をしようか……そう楽しく語らいながら……。

 

 

 

「ねぇ、いま立ったり座ったりしてたよね?」

 

「ううん、してないわ?」

 

 

 

 

 明日もまた、精魂尽き果てるまで遊ぼうね――――

 

 そう約束し、眠りに落ちていくのでした。

 

 

 

 


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