どうしてこうなった(AA略
心地よい眠りから目を覚ました少年を待っていたのは、ベッドに寝そべる自分を見下ろす様に立っている7人の男女からの視線だった。左から順に紫・赤・赤・緑・緑・薄紫・薄紫……。背中に冷や汗が流れているのがわかる。なぜなら自分は彼らという存在を知っているからだ。
ベッドから身体を起こし、ギギギッと音が鳴りそうな雰囲気を漂わせながら顔を動かして少年は部屋の中を見渡す。第三者と自分の視点という違いはあるが間違い無く見たことがある部屋だ。……アニメの中でだが。
(俺を囲っているのは間違いなくイノベイター……いや、正式にはイノベイドだけど。それにこの部屋は劇場版で脳細胞にダメージを負った刹那を収容した治療室……。ってことはココはトレミー内部? けど何故にイノベイターがこれに乗っててその上俺が居るんだ、わけがわからん……)
自分が置かれている状況を把握しようとするほどにドンドン泥沼に嵌っていく気分になりながら視線を戻すと、集団のリーダーであろう緑色の髪の人物と目が合う。
「おはようございます?」
とっさに出てきたのは朝の挨拶。疑問形なのは時間感覚が無いから。
「時間的にはこんにちはが合ってるね。だけどそんな些細な事はどうでもいいかな。キミには色々と聞きたいことがあるからね。良いかい?」
「ええ、問題無いですよ。……リボンズ・アルマーク」
少年の一言で室内の空気が凍った。
「キミはこちらの事をよく知っているみたいだね」
「多少はですが」
「……キミが僕らについて知っている事を語ってもらっても?」
「別にそれは構いませんが、自分が何を言っても危害は加えないで下さいよ?」
「いいだろう、約束しよう」
一呼吸置いてから少年は語り始める。
「まずはアナタ達の名前についてですかね。右からアニュー・リターナー」
「正解です」
「リヴァイヴ・リバイバル」
「私についても知っているのか」
「ヒリング・ケア」
「物知りね、アンタ」
「1人飛ばしてブリング・スタビティ」
「ほう」
「デヴァイン・ノヴァ」
「違いない」
「最後はリジェネ・レジェッタ」
「よく間違えなかったね」
「……レジェネ・リジェッタ、ジェジェネ・ジェジェッタ。ハハハ、確かに間違えそうな名前だね」
「リボンズゥゥゥ!!」
リボンズからのちょっかいに激昂するリジェネが落ち着いた所で少年は話を再開する。
自分が知るリボンズ達はアニメ上のキャラクターであったこと。彼らがヴェーダの生態端末、イノベイドであることやその搭乗機体。ガンダムマイスターとの戦闘。それぞれの死因。来るべき対話が行われたこと。人類の外宇宙への進出……。少年は自分が知っている事を簡潔にまとめながら語った。
「……以上です」
「キミが語ってくれた事は合っているよ。正直キミが予想以上に僕らの事を知っていて複雑な気分だが、嘆いても事態は変わらないね。だがイオリア計画が無事に達成されたことを教えてくれたのは感謝しよう」
(リボンズは今何て言った? 合っている? 死因まで言ったのに? じゃあ俺の目の前に居る彼らは何だ? そして俺は何なんだ?)
「リボンズ~、この子はアタシ達の事を知ってるのにこっちは何も知らないのよ? せめて名前だけでも言ってもらおうよ」
「……ということらしい。ヒリングだけでなく僕や他の者たちも知りたがっているだろうし、改めて自己紹介をしてもらっても良いかな?」
自己紹介の催促を受け、簡潔に済まそうとした少年だったが、口を開くのに時間がかかった。
「要望通り自己紹介をしたいところだけど『残念なお知らせ』と『もっと残念なお知らせ』どっちから聞きたい?」
「じゃあ残念なお知らせからで」
少年からの問いに答えたのはヒリング。
「了解。残念なお知らせは自分の名前や年齢、これまで何をしていたかとか全く思い出せないこと」
「ありきたりね~。テンプレってやつ? それじゃあもっと残念なお知らせは?」
メタな反応をしながら少年に続きを催促するのもヒリング。
「自分でも意味がわからないが、俺は本来この世界の住人では無いらしい」
「ああ、そのことか。それならキミと僕たちは似たような境遇らしいね」
「え?」
「これを見てごらん」
少年がリボンズに渡された端末を覗くと、この世界を象徴するいくつかのキーワードが出ている。
IS?
篠ノ之束?
白騎士事件?
アラスカ条約?
少年にはどの語句も聞き覚えが無かった。だが思ったことはある。
「IS……女性にしか扱えない究極の兵器? その時点で致命的な欠陥じゃんかよ」
「同感だね。だけど僕らは専用のISを所持してる。恐らくキミもIS……いや、GNドライブに選ばれる」
「イノベのそちらは兎も角俺は男だよ? それにGNドライブに選ばれるって意味がわからんのだが」
少年の問いかけを無視する形でリボンズは自分達の境遇を語り始める。
「一週間程前、僕たちは気がついたらこの戦艦プトレマイオス2改の一室にいた。自分達は死んだのだと思っていたからね、それは混乱したよ。驚いたことにここでもヴェーダとのアクセスが可能だったので情報を集めると驚愕したと同時に納得もした。……ここは『僕たちが存在していた世界とは異なる場所』だとね。そこにキミという『この世界とも僕たちの世界とも違う第3の世界』の存在が現れたわけだ。ここまでは良いね?」
少年は無言で頷く。
「続きは場所を変えてから話そう、こっちだよ」
――――――――――
リボンズに案内されたのは格納庫らしき場所だ。ただしMSなどはほとんどないのでかなり広いスペースが確保されている。
「百聞は一見に如かずとも言うしね、実際に見てもらおうか」
その瞬間、リボンズが光に包まれたと思ったら少年が知るシルエットのMSが2m前後の大きさで現れた。
「……リボーンズガンダム」
「その通り。この機体のように僕らのISには疑似GNドライブが搭載されている。キミは知っていると思うけど、このガンダムは例外として疑似のツインドライブだけどね」
「疑似? オリジナルにあれだけ固執していたのに?」
ISの展開を解除し、リボンズは話を続ける。
「当然そっちもあるさ、考えない理由がない。ただしそれは5基しかないオリジナルのGNドライブ全てを1つのISに搭載したモノだけどね」
たった今リボンズから告げられたことを少年は脳内で繰り返す。
……………………。
「は?」
結果、それしか言えなかった。
「疑似・オリジナルを問わず、GNドライブは最初からISに搭載されていたわけじゃあない。当初の予定ではISで僕らの世界の各ガンダムを再現するつもりだったからね。……だがそのISは僕たちの目を盗んで全てのGNドライブを搭載してしまった。その上こちらからの制御は無視、僕らでは起動もできないという事態になってしまってね、完全にお手上げ状態だった」
「うわぁ……」
「この問題のISを含めて僕たちの手元にあるISは8機、この戦艦に居たのは僕たち7人だったわけだ。そんな誰も起動できなかったISの元にキミという8人目が現れた。……何者かの作為を感じないかい?」
少年は自身を襲う悪寒に冷や汗が止まらずにいる。目の前に居るリボンズが語った内容を吟味すると、確かに話としては怖いくらいに出来すぎであるからだ。だがそれには問題もある。
「男の俺にISが起動できると思っているのか?」
少年の疑念はこれだった。ISはその特徴として『女にしか起動できない』という前提がある。イノベイターである彼らは本来性別の概念がな「キミの知識とは違い、何の因果かアニューとヒリングは女性型、2人以外は男性型にされてしまったよ」いわけでは無いらしい。というか思考を読むな。
「僕らも手元にあるISでしか確認してないから確信は無いが、アニューたち女性型を含め僕らは自身の専用ISしか起動できないらしい」
リボンズは少年の肩に手を置きながら一言告げる。
「あきらめたらどうだい?」
「はい」
少年が覚悟を決めた所でリボンズに促され奥へと案内された。そこに保管されているのは1つのISコア。誰も起動することが出来ずにいたそれは、この瞬間を待っていたと言わんばかりに強い輝きを放っている。
「この反応、当たりみたいだねリボンズ」
「らしいね。アニュー、計測準備は?」
「バッチリです」
リボンズは視線で少年にISコアに触れるよう合図を出す。ゆっくりと差し出された少年の手がコアに触れた瞬間、少年を中心にした一帯を光とオリジナルのGNドライブを象徴する緑色のGN粒子が包み込む。光が収まりその場に立っていたのは灰色の機体―――
「……エクシア。ガンダムエクシア」
リボンズがその機体の名を呟く。本来の機体色で無く灰色なのは、まだ一次移行(ファースト・シフト)を経ていないからか。
「GNドライブの出力は単独で運用しているのと同規模みたいです」
アニューが計測内容を報告する。
「……見間違いじゃなければ、彼の体格変わってない?」
ヒリングが疑問を口にする。語られてなかったが、現在ISを展開している少年は見た目からして10歳程度であり、精神年齢は別として幼さを宿す体だった。しかし目の前に居る展開されたエクシアは先程のリボーンズガンダムより少し小さい程度、つまり2m前後の大きさを誇っている。
「どうやら戦闘行動に支障が出ないように身体を量子変換しているみたい」
「どんだけ規格外なのよ……」
実際はこの場にある他のISも同様の機能が搭載されているが、その機能が利用される機会が無いからかその存在は知られていない。
半ば呆れたようにヒリングは呟くと、指示に従いながら格納庫内を飛行しているエクシアを見上げた。飛ぶという行為が初めてなのか時折フラフラとバランスを崩しているのが分かる。四苦八苦しているエクシアの観察をしていると、エクシアが再度GN粒子を伴って強い光を発した。一次移行を終えたのだ。
(一次移行したってことはエクシア本来の色になるわけよね~)
光が収まりそこに居たのは……
(そうそうオレンジ色の羽付きで―――ってキュリオス!?)
驚いているのはヒリングだけではない。実際、エクシアが一次移行を終えたと思ったらキュリオスに変化していたのだから驚かない方が可笑しいが。一同が茫然としている中、キュリオスはMA形態へと変形したりその特徴的なシールドの動かし方を確認している。一通り確認をし終えて満足したのか、三度光が発せられる。次に変わったのは緑色のシールドが目を引く機体―――
(次はデュナメスか。ならヴァーチェにも変化可能と判断しても良さそうね)
ヒリングの予想通り、デュナメスも武器やシールドなどといった一通りの装備の確認を終えるとヴァーチェになり、同様に確認を経て再度エクシアへと変化した。ちなみに再度変化したエクシアは本来の青を基調としたカラーだ。右手にGNソード、左手にはGNシールドを持ち、機体各部にGNロングブレイドとGNショートブレイド、ダガー兼用のビームサーベルを4本装備しているその姿はコンセプトのセブンソードを文字通り体現している。……ふと自分の片割れとも言えるリボンズを見ると、どうやら考え事をしているようだ。
「エクシア、ISの展開を一度解除してくれないかな?」
リボンズの指示に従い、少年はISの展開を解除し元の姿へと戻った。目の前に立つ少年にリボンズは語る。
「僕の予想通り、キミはこの世界で唯一のガンダムマイスターになったわけだ。気分はどうだい?」
「嬉しさと困惑が半々、後はこれから先の事を考えるとイヤな予感しかしないです」
「そこは状況を受け入れるしかないよ。マイスターとしてミッションを行うにしても、僕たちがサポートする。これからの戦闘訓練にもきちんと付き合うから安心してほしい、僕たち自身の訓練も兼ねているしね」
「……お手柔らかにお願いします」
「それと名前が無いのは不便だからね、キミにはコードネームを与えよう」
「もう好きにしてくれ」
投げやりになっている少年にリボンズは告げる。少年も知る、元の世界で自分と死闘を繰り広げた宿敵の名を。
「キミのコードネームは刹那・F・セイエイ。この世界でのソレスタル・ビーイングのガンダムマイスター、刹那・F・セイエイだ。」
・トレミー:プトレマイオスの略称
・おはようございます:ポポポポ~ン
・間違えそうな名前:介入できないシリーズ
・身体を量子変換:MAにはこうするしかなかった
・コードネーム:理由は次回で