IS 革新の為に   作:伝書鳩

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やっと原作1巻の内容に突入です。
ここからが本番になります。


第10話 ジェットストリームアタック

 織斑一夏、織斑秋二、篠ノ之箒、刹那・F・セイエイ。列挙されたこれらの人物は新入生の中でも第一級の要人達である。極めて希少な男性適合者の兄弟、天災・篠ノ之束の妹、CBのメンバーにしてガンダムの搭乗者……その利用価値の高さ故に、学園が犯罪組織の襲撃に逢う可能性は例年よりも高いと推測されている。この様な事情もあり、学園は一人の女性に負担を強いなければならなかった――――その犠牲者の名は織斑千冬。数日に渡った会議の結果、学園の見解は『劇薬は纏めて管理するべき』という結論に至ったのだ。

 

 千冬が受け持つ1年1組の名簿には、前述の問題児の他に入学試験でトップの成績を出した生徒――イギリスの代表候補生の名前も確認されている。つまり将来的に見るとクラス単位での専用機持ちの数が学年内で頭一つ飛び出すのだ。イベントやトーナメントといった各行事を考慮し他のクラスの担任から不満が出ても良さそうなのだが、意外な事にその手の意見が出ることは無かった。藪を突いて自分が千冬に代わって厄介事の面倒を見る結果になっては本末転倒だからだ。それに2組には本国との調整の為遅れて入学する中国の代表候補生、4組には専用機が先日完成したばかりだという日本の代表候補生の名前が確認されているので、問題はないと担任が判断を下したとも言える。話題に出てこない3組の担任は平穏が好きに違いない。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「という訳で、お前は私のクラスの生徒になる」

「妥当な所でしょう。事実として貴女以上の適任者がこの学園にはいない」

「無理だと思うがトラブルは極力起こすな。それと他の生徒がいる場所では織斑先生と呼べ」

「了解」

 

 教室に向かって廊下を歩きながら、刹那と千冬は会話をしていた。この日はIS学園の入学式なのだが、刹那は学園指定の制服が手元に届くのが遅れた為SHR途中からの合流になるのだ。副担任として現在SHRを進行しているであろう山田真耶は千冬からの信頼も厚く刹那の事情も知っている上に元代表候補生で実力も備えている、と非常に学園にとって都合の良い人材だ。新年度が始まって早々に貧乏くじを引かされた彼女に対し、同情的な視線を送る同僚は少なくない。中には千冬と真耶に胃薬を渡す者もいた。

 

 刹那と千冬が教室前に到着すると、どうやら織斑一夏が自己紹介を始めているらしい。

 

『以上です』

 

 言い切ったその言葉と同時に、期待を粉微塵に砕かれ崩れ落ちたのであろうクラスメイトの姿。それをドア越しに認識した千冬は呆れながらも刹那に指示を出す。

 

「しばらく廊下で待っていろ。私が呼んだら教室に入れ」

 

 刹那の返事を聞く前に教室の中へと足を踏み出した千冬は、音も無く一夏の背後まで近づくと手に持つ出席簿でその後頭部を強打した。縦で。

 

 頭を押さえた一夏が背後の人物を見て反射的に声を出すと、再度出席簿がその頭へ向かい振り下ろされた。突如現れた千冬の存在と織斑兄弟の血縁関係がクラス中に知れ渡るとその数瞬後、教室から黄色い声が発せられる。世界最強と評価される千冬である、そのファンは多い。

 

 騒ぎが収まると千冬の指示を受けて双子の片割れ、織斑秋二が自己紹介をする。兄、一夏の失敗を目の当たりにした弟は出席簿の被害を受けない無難な自己紹介をしたのだろう。ボリュームが押さえられた声は廊下まで聞こえないので、刹那は勝手に判断を下した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――兄共々よろしくお願いします」

「一夏よりはまともな自己紹介だったな。席に着け」

 

 千冬に言われ秋二が席に戻る。彼の席は一夏のすぐ後ろだ。

 

「織斑先生、弟の方の織斑君の後ろが空席になってますけど……」

 

 女子の一人が挙手しながら疑問を口にした。疑問の対象となっているのは、教室中央の列、その前から三番目の席だ。教室中央付近という場所だけに空席なのは非常に目立つ。

 

「そこの席は先日急に入学が決まった影響で制服の準備が間に合わず、入学式に出れなかった生徒のものだ。今は廊下で待たせている。今から呼ぶが、いいな先程の様に騒ぐなよ?」

 

 急な入学。制服の準備。クラスメイトが騒ぎかねない人物。千冬の念押しの様な物言いを聞き、これらの要素に当てはまる人物が自分には一人だけ存在することを思い出し、箒の脳内で警鐘が鳴り響く。まさか、と思うがシスコンを拗らせているあの姉ならばそれが引き起こす混乱を承知で実行に移しかねない。状況証拠が揃い過ぎていて脳が拒否を受け付けない。これが世界の悪意か。

 

「――――セイエイ、入れ」

 

 低く響いた千冬の声の後、教室のスライドドアが開きその人物が姿を現す。緊張とは無縁なのか物怖じするでもなく千冬の横まで移動すると、それは自己紹介を始める。

 

「刹那・F・セイエイだ。見た目通り男だが、以後よろしく頼む」

「……この際だ全部言え、私が許可する」

「トラブルは避けたいのでは?」

「永遠に隠せる内容でないなら、早々に打ち明けて早期に膿を出し切ってしまえ」

 

 この会話の意味を理解できるのは、当人達以外にはこの場で二人――――真耶と箒だけだ。初日のこのタイミングで刹那が正体をバラす事で起きるであろう事態を、予測出来ない千冬では無いはずだ。ならばそこには何かしらの意図があるはずだが、経験の浅い箒にはそれが思いつかない。

 

「お断りします。全員が織斑先生の様に冷静に判断を下せるとは思えないので」

 

(あの千冬姉の指示に逆らうだと、死ぬ気か!?)

 

 これはそんな二人のやり取りを至近距離の席で聞いている一夏の感想である。他のクラスメイトの反応も一夏のそれとほとんど大差無く、同様に驚いているがそれには理由がある。刹那が廊下で呼ばれるのを待っている際に千冬は教室内でこう言ったのだ――――私の言うことは聞け。この学園の特殊性を考慮しなければ暴論としか受け取れないその言葉だが、千冬にはそれを言っても許されるだけの圧倒的な実力がある。ところが刹那はそれを真っ向から拒否したのだ。

 

「それは『上』の判断か?」

「俺自身の判断です。あの日以降、コンタクトなんて取ってません」

「…………好きにしろ。セイエイ、席に着け」

 

 数瞬の間、両者共に鋭い視線で睨み合った後に千冬は刹那の発言を受け入れた。それを知りさらに驚愕するクラスメイト達の中、秋二は驚愕や戸惑いといった複数の感情が折り重なった複雑な表情で自分と擦れ違った刹那を不自然にならない範囲で視界に捉えていた。

 

 チャイムが鳴りSHRの時間が終わったことを告げる。続く一時間目の授業との合間には僅かな休憩時間が設けられている。多くのクラスメイトがそうするように、男子の三人も授業の準備をしておりその姿に周囲の席の女子からチラチラと視線が送られる。女の園に現れた希少な異性と同じクラス、これは他のクラスの生徒や上級生に大きくリードしている事を示す。だが――――純粋に男子とお近づきになりたい派、男性適合者の各種データが欲しい派、身柄そのものを自国に引き抜きたい派……様々な思惑があれど、クラスメイトというステータスは最初のハードルが低いだけであり勇気を持って行動を起こさなければならないのは変わらない。

 

 事情を説明しろと言わんばかりのキツい視線を箒から向けられるが、刹那はそれを無視。先程の千冬とのやり取りの結果か、クラスメイトからの視線の数は男子三人の内刹那が最も多い。明らかになっているのは名前だけで、情報が少ないのが拍車をかけている。この年頃の女子は謎めいた存在というのにどうも弱いらしい。ともあれ注目を集めているタイミングで箒と接触するのは不要な憶測を生みかねないのだ、それでは困る。故に無視。後で文句を言われるだろうが、覚悟の上だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は織斑一夏。数少ない男子だ、よろしくな!」

「織斑秋二だ。よろしく」

「自己紹介でも言ったが刹那・F・セイエイだ、よろしく頼む。呼び方は好きにしてくれ」

 

 一時間目のIS基礎理論授業が終わった後の休み時間、刹那は織斑兄弟と会話を交わす。周囲の殆どが女という特殊な空間の中で初日から授業が行われるのだ、気軽に愚痴が言える相手を求めようというのも理解できる。

 

「……廊下、凄いな」

 

 一夏の言葉に従い視線を廊下に向けると、多数の生徒が押し寄せているのが確認出来る。

 

「廊下にいる女子はお前達兄弟が目当てだからな?」

「はあ? どういうことだよ」

「刹那、一夏にもわかるように説明してくれないか?」

 

 自分達への発言に思い当たる節が無い二人の為に、刹那は続けて説明をする。

 

「事前に世界中でニュースになったお前達と違い、俺の情報はSHRまで学園内で厳重に秘匿されていたからだ。だから学内の多くの女子にとって俺はいつの間にか存在している三人目の男性適合者でしかないわけだ」

「でもSHRで千冬姉さんと何か言っていたよな。『全部言え』だっけ?」

「一夏、少しは察しろ」

「秋二はわかってるのか?」

「『上』とか『コンタクト』とか聞こえただろ? 刹那だけの問題じゃないんだよ」

「つまり、大人の事情というやつか」

「…………アア、ソウダ」

 

 一夏のたどり着いた答えは確実に正解からずれているはずだが、長年の勘でその訂正には骨が折れそうだと秋二は判断を下し肯定しておいた。そんなやり取りをしていた三人の元へ、一人の女子が近づく。

 

「……歓談の途中ですまないが、ちょっといいか」

「……箒?」

「久しぶりだね。ところで用事があるのは一夏? 俺? それとも大穴で刹那?」

「刹那には申し訳ないが、一夏と……秋二も来てくれ。近況報告をしておきたい」

 

 言うだけ言うと箒は教室から出ていく。

 

「そういうことらしい、悪いな刹那!」

「彼女には注意しておくから」

「知り合いなんだろう? 時間は限られてる、俺は気にしてないから急いで追ってやれ」

 

 箒の後を追って一夏と秋二が教室から出ていく。突然の事態に教室内も廊下もざわめいている。現在教室にいる男子は刹那のみであり、結果周囲からの視線はその一身に集まる――――美人には三日で慣れると言うらしいが、自分達男へのこの扱いは何日続くのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほとんど全部わかりません」

 

 二時間目の授業中、真耶にわからない所を聞かれた一夏は臆すことなく素直に答えた。その後に待っていたのは一夏と千冬によって送られる、傍から見ればコントとしか思えないやり取り。その途中で入学前の参考書を古い電話帳と間違えて捨てるといった一夏の暴挙がクラス内に知れ渡る。秋二はきちんと予習を済ましていたのも影響し、一夏は出席簿の連撃を千冬から貰った。

 

「セイエイ、お前はどうだ?」

 

 そして千冬の矛先は刹那に向けられる。

 

「授業の内容で理解出来ない部分はありませんが」

「ならいい」

 

 刹那に学園で学ぶ内容について知識面での問題は無い。ISについての各種知識はCBの活動の一部として既に学んでいたからだ。どちらかと言えば先程読まれていた教科書の内容を守る気が皆無な組織に所属している方が問題だろう。

 

「ISはその機動性、攻撃力――――」

 

 千冬の声が教室中に響く、その内容は一から十まで正論だ。

 

(だが、教員という立場だとしてもそれを貴女が言うか)

 

 当時ではアレしか方法が無かったのは仕方が無い。が、ISを現在の立ち位置へと確立した存在の片割れがそれを言うのは皮肉でしかない。千冬に気付かれぬ様に内心を微塵も表に出さず、刹那は授業の続きを聞くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二時間目の授業が終わり休み時間に入ると刹那は早急にトイレへと向かう。さっさと済ませなければ次の時間に間に合わないのだ。IS学園にとって男性は各国の技術者というのがこれまでの常識だったので、彼らが活動する範囲に合わせてトイレを配置しておけばよかった――――結果、教室から最寄りの男子トイレまでは往復すると休み時間を潰す程遠いのだ。解せぬ。

 

 チャイムが鳴ると同時に刹那は教室に入る。基本、学園の構内は走るのが禁止されているので今後もこうなるのは避けられないだろう。腹を下してしまった場合は試合終了、諦めるしかない。

 

「――――よくって!?」

 

 怒り心頭といった感じの少女の言葉に一夏が頷いている姿が見える。

 

(どの世界でも女のヒステリーってのは変わらねぇのな、メンドクセェ)

(ハレルヤ、黙ってろ)

(あの手の女の矛先はその周囲まで飛び火すんぜ?)

(降りかかる火の粉は掃うだけだ)

(そりゃそうだ。それでこそ俺達の宿主だ、お前はそうあればいい)

(詳しい説明をしないのなら引っ込んでろ)

 

 以前とは異なり、刹那は割と自由にハレルヤとのコンタクトが可能としている。先日の模擬戦で千冬だけが気付いた刹那の反応の正体は、脳量子波のランクの上昇に伴った超反応の片鱗だ。それでもまだ説明をするタイミングでは無いらしく、今回の様にそれっぽい事を偶に呟くだけだ。ハレルヤとの会話を終えると、千冬が授業の前にクラス代表を決める事を告げた。クラス代表とはそのままクラス長のことであり、対抗戦への出場や各会議や委員会への出席――――つまり雑用役だ。再来週にあるというクラス対抗戦は千冬曰く、クラス毎の実力推移を測るものらしい。

 

「織斑君を推薦します! あ、お兄さんの方です」

「私は弟の方の織斑君を推薦します」

「じゃあ私はセイエイ君を推薦で」

 

 案の定挙げられる男子三人。

 

「では候補者は織斑一夏、織斑秋二、刹那・F・セイエイの三人か……他にはいないか? ちなみに自薦他薦は問わないぞ」

 

 確認を取る千冬の声を聞き、自分が挙げられた事に遅れて自覚した一夏が声を上げる。そんな役目は御免だ、と拒否しようとするが千冬によって却下される。そこに一人の少女が意見を出す。

 

「――――織斑先生。私は刹那・F・セイエイを候補者から取り下げるべきだと考えます」

「篠ノ之、その根拠を言え。皆が納得出来る内容なら考慮しよう」

 

 ――――あ、これはダメだ、間に合わない。

 

 刹那がそう判断したと同時に箒の口から爆弾が投下される。

 

「彼はCBのメンバーで専用機は新型のガンダムです。他を差し置いて『ガンダム』がクラス代表になったと知られたら各国のメンツが落ちるのでは?」

「何故セイエイの正体をお前が知っている?」

「私の姉は篠ノ之束です。私は姉と共にこの数年をCBの元で過ごし、その時に知り合いました」

 

 正確には爆弾は二つあり、その連鎖反応で事情を初めて知ったクラスメイト達を混乱させる。

 

「セイエイ、言う事はあるか?」

「彼女の言葉は事実ですよ」

 

 ――――お前達、本当はグルだろ。

 

 喉から出掛かった言葉をギリギリで飲み込みながら、刹那はこれから起きるであろうトラブルの対処方法を列挙し始めるのだった。




サブタイトルは迷った結果、ネタに走ってしまった……偶には良いよね?
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