IS 革新の為に   作:伝書鳩

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第14話 四面楚歌

 四月下旬のある日、刹那は授業中のクラスメイト達とは離れ、千冬の指示で別行動中の最中だ。入学式以降、連日続いている上級生達からの模擬戦の誘い。刹那はそれを一度として承諾していなかった。ついに限界まで募ったのか彼女達の不満が爆発、その相談を受けた楯無を経由して千冬の耳に届いて今に至る。

 

「…………」

 

 一人を相手にすればその他大勢にも時間を割く必要が出る。だからこそ刹那は放置していたというのに、待っていたのはこの現状である。指示された指定場所である第一アリーナのピット、刹那はこの場所にて現在絶賛待機中だ。

 

「そのあからさまに不機嫌ですって態度は止めて欲しいな。彼女達が短絡的だったのは否定出来ないけど、3年生はこの一年間の数少ないチャンスを逃すとガンダムと戦う機会が無くなるからどうしても焦っちゃうのよ。不満はあるだろうけど、わかってあげて」

 

 そして当然の様にこの場で刹那に声を掛けるのは生徒会長、更識楯無。彼女は現在この学園で刹那と長時間の会話が行える数少ない希少な存在だ。それに加え、緊急時にはガンダムの足止めという役割も含まれている。

 

「俺は格付けの道具になったつもりは無い。……それで、何人の相手をすればいいんだ?」

「わからないわ」

「貴女はいったい何を言っているんだ?」

 

 刹那がこの様に言ってしまうのも仕方がないだろう。今回は相手側が望んで模擬戦を行うのだ。参加人数その他諸々を生徒会長の楯無が把握してあると思った刹那の反応は当然だろう。

 

「どうにも一部の生徒が情報を漏らしたみたいで、参加希望者は現在進行形で急増中よ。教員も止めようと尽力したみたいだけど人数が多すぎて効果は見えないわね」

「……そして貴女も止める気は更々無い、と。」

「ここで無理矢理止めても、また同じ事の繰り返しよ?」

「それはわかっている。しかし、ただで付き合うつもりは毛頭無い。更識楯無、整備科に連絡を入れておくのを勧める。どうやらオーバーホール予定の機体があるらしい」

 

 ガンダムとの模擬戦が望まれているとはいえ、それに回せる訓練機の数は有限だ。実機を用いての各種授業を疎かにしてしまえば学園の本質から逸脱してしまい、本末転倒でしかない。なので、それを理解した上での刹那の発言はこの上なく底意地が悪いと言えるだろう。

 

 刹那は一瞬で機体を展開する。選択したのは未だ謎のままだった4機目、アリオスガンダムだ。数に対応するためか、両手にそれぞれGNツインビームライフルを装備している。

 

「それが高機動型ね。今まで使って無かったそれを出すのは、どういう風の吹き回しかしら」

「……データが取れるのなら文句は無いはずだ、少し黙っていろ」

 

 ツインドライヴという最大の強みにして最大の不安要素を抱えるダブルオー。接近戦に一応対応可能とはいえ、可能ならばそれは避けたいのが本音なケルディム。粒子消費量が多いため、持久戦には難があるセラヴィー。終わりがわからない戦闘に安定性を求めた結果、刹那にはアリオス以外の選択肢が残されて無かった。

 

「アリオスガンダム、目標へ飛翔する」

 

 刹那がカタパルトからアリオスを射出させ、アリーナに出ると、ラファール・リヴァイヴが上空と地上に3機ずつ待機していた。同型機体が6機、随分と豪勢な出迎えである。この場にいる全員が準備完了を伝える合図を送ると、カウントダウンが始まった。同時に刹那が音声を上級生が待機している残りのピットに繋ぐ。

 

「一応警告しておく、今回俺は容赦する気は皆無だ。トラウマを作りたくなかったら止めておけ」

 

 十中八九挑発と取られる言い方だ。刹那としてはこの言葉を聞いて面白がって参加した便乗者がリタイアでもしてくれれば御の字、その程度のつもりで言ったのであまり効果を期待していない。案の定、参加者の多くは男に挑発されるという屈辱にヒートアップしてしまった。

 

 向こうから罵倒のような返事がされる前に通信を切る。カウントが0になり、模擬戦という名の物量攻めが始まった。現在の撃墜数、0。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼休み、1年1組では珍しく大多数の生徒が学食に向かわず教室にいた。原因はクラスメイトの一人がとある噂を仕入れたからだ。

 

『朝から上級生達がガンダムと戦っているらしいよー』

 

 そう語る口調はのんびりとしていたが、その内容は簡単にスルー出来るものでは無かった。

 

「……数の暴力ですか」

 

 大体の事情を察したセシリアは不愉快そうな表情を浮かべながら、そう呟いた。

 

「セシリア、どういう事だ?」

「違っていた方が望ましいのですが……。恐らく現在、刹那さんは3機以上の相手と同時に戦闘をしているのでしょう」

「何故そう言える?」

 

 一夏に続いて箒が問いただした内容に答えたのは、セシリアでは無く別の声だった。

 

「セイエイは特殊な条件下だったとはいえ、3機同時に相手をした戦闘経験がある。その上、奴が扱う機体はガンダムだ。これはアレの戦闘データを取りたい学園側と、アレと戦って実績を得たい生徒達の思惑が重なった結果だ」

 

 先程まで教室にいなかったはずの千冬が答えた。

 

「そんなリンチ紛いな事が行われるのを、学園が認めていいんですか?」

「織斑、勘違いするな。お前達が対象だったら、学園は如何なる手段を用いてでも中止させる。だがセイエイの場合は違う。CBはどの国や企業にも所属しておらず、今後それが変わることは恐らく無い。その牙が世界に向けられないという保証も無い。あいつはその組織の中核を担っているであろうガンダムを専用機としている。そんな人間を各国が危険視しない理由が無い。だからこそガンダムのデータを欲する。アレを仮想敵として訓練するにしても、そのデータの信憑性は高ければ高い程好ましいからな。――――午後の授業は予定を変更しセイエイの試合の見学とする、場所は第一アリーナだ。課題として各員、後日レポートを提出。授業時間内に試合が終わった場合は速やかに教室に戻れ。今この場にいない者には誰か連絡してやれ、いいな」

 

 千冬がそう言い終えると、一夏は教室を飛び出した。それに続き秋二や箒、セシリアもアリーナへと向かう。少し遅れて他のクラスメイトも続くのだが、廊下にいた他クラスの生徒はその異様な光景に驚いていた。

 

「廊下は走るなと言ったろうに、馬鹿者共が……」

 

 一人教室に残った千冬はそう呟くが、生徒達を注意する気は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏がアリーナに到着すると、既に多くの生徒が試合を見に来ていた。視線の先では、これまで一夏が見たことの無いガンダムが戦っている。オレンジのカラーや、各部の独特な形状が印象的なその機体は両手に装備したビームライフルで手当たり次第狙いを付けて攻撃している。射撃の隙に接近戦を仕掛けようと背後から強襲した一機は、回し蹴りで文字通り足蹴にされた。ISの搭乗者保護機能によって怪我はないだろう。しかし、男が女の顔面を躊躇無く蹴ったという事実に、至る所から刹那に対して文句が言われている。

 

「ブーイングが酷いな。刹那は何をやらかしたんだか……相手の顔面を蹴った!? それならお嬢さん方から文句も出るわな。そもそもあいつは試合中にそんなの気遣う様な奴でもないしな」

「1対6か、セシリアの予想は悪い方で当たったな」

「そうですね、箒さん。現時点での刹那さんの撃墜数は9機、これは約20分に1機のペースです。今展開しているガンダムの攻撃力では、ラファールのシールドは簡単には抜けないのかもしれませんね」

 

 遅れて到着した秋二達が一夏の周りに集まってきた。現在、試合開始から既に三時間以上は経過していた。地面には破壊されたと思われるラファールの武器や装甲などが散乱している。

 

 6機からなる面制圧を目的とした射撃で機体各部に所々被弾しながら、刹那はそれを意に介さず戦闘を続ける。シールドを装備した防御重視のラファールを射撃だけで戦闘不能にするのは、数の差もありそれなりに時間が掛かる。戦闘不能になった機体は回収班と思われる打鉄によってピットに戻され、大急ぎで補給と整備を受けると搭乗者を変更し再出撃となる。

 

 観客が出てきたこの時間帯になり、相手の練度も上がってきた。どうやら最初の方に出てきた者達は言い方は悪いが、情報収集を目的とした捨て駒なのだろう。そうした者達によって集められた情報を解析し、満を持して主戦力と思しきメンバーが参戦する。ヴェーダを使っている自分が言える立場では無いのは承知の上だが、あまり好きなやり方では無い。

 

 アリオスは直撃コースの散弾を時にはGNビームシールドで防御しながら射撃を続けている。しばらくすると先程同様のパターンで接近戦を仕掛けてきた1機を蹴り飛ばすが、それと同時に左右から瞬時加速(イグニッション・ブースト)で急接近してきた2機がガンダムに抱きつく形でその動きを拘束する。これでは迎撃や回避は不可能だ。

 

「捨て身か!?」

 

 それは言ったのは一夏か、それとも他の誰かなのか。叫ぶ様な声が観客席から聞こえた。上空で射撃をしていた残り3機のラファールは一斉にグレネードを発射した。無論、味方を巻き込む事を理解した上でだ。爆音が場を支配し、アリオスを中心に黒煙が立ち上る。ディスプレイには2機のラファールが戦闘不能になった事とガンダムのシールドエネルギーがこの攻撃を受け、これまでの消費を含めて半分まで削れたという事が表示されていた。

 

 

 

 

 

 機体各所は煙が原因なのか、黒く汚れているアリオスが出てくる。それまで左右に装備していたGNツインビームライフルだったが、片方がグレネードの直撃を受けて破壊された。刹那は機体に抱きついたまま衝撃で気を失っているのであろう二人をピットの出入り口付近に降ろす。それを終えたアリオスが再び上空へ上がると、4機のラファール・リヴァイヴが攻撃を仕掛けてきた。

 

「アンタは邪魔だ」

 

 1機だけ地上にいる、先程に自分が蹴ったラファールへとそう告げてアリオスを急接近させる。迎撃の射撃を教本では教わらない様なデタラメな機動で回避しながら、武器が破壊され空いていた右手で引き抜いたビームサーベルで攻撃する。アーマーに守られていない生身の部位にその一撃が叩き込まれた事によって、絶対防御が発動した。その結果、残り僅かだったシールドエネルギーが尽きてラファール・リヴァイヴは行動不能となった。

 

 1機を下したアリオスに向け、3機のラファール・リヴァイヴからそれぞれ射撃が放たれる。今なら避けようと思えばいくらでも避けられるそれを、刹那は敢えて無視して強引に接近する。近接ブレードでアリオスに対応しようとした相手に対し、左手に持っていたGNツインビームライフルをアーマー部分へ容赦なく叩きつけた。その衝撃で体勢を崩した相手を地面に向け蹴り飛ばすと、次のターゲットの相手にも同様の攻撃を繰り返した。鈍器として扱われたGNツインビームライフルは銃身が歪んで本来の機能は失われ、最後には投げ捨てられた。

 

 2機目のラファールは先の1機目と隣接するように蹴り飛ばされていた。残った1機からの攻撃を受けながらも、アリオスは動きを止める気配は無い。アリオスの両腕の装甲の一部がスライドすると、銃口が姿を現す。内蔵されていたGNビームサブマシンガンから絶え間無く無数のビームが連射され、2機のラファール・リヴァイヴを襲いシールドエネルギーが削られていく。地上への攻撃の最中、アリオスに変化が起こり機体全体が赤く輝いていた――――トランザムだ。

 

 ダメージが増加し、被弾を続けているラファール・リヴァイヴのシールドエネルギーの減少速度が上がる。瞬く間に2機を戦闘不能にすると、アリオスはトランザムを止めた。赤い輝きから元の機体色へと戻ったガンダムは、この場に残った1機のラファールに視線を向ける。全身装甲によって搭乗者である刹那の視線なんてわかりようも無いのだが、それはまるで死刑宣告の様であった。グレネードによる攻撃から5分も経っていないのに、3機のラファールが撃墜。そして残り1機となったラファールも直ぐに撃墜されるであろう事は多くの者達が予感していた。

 

 

 

 

 

 ――――それから10分が経過した。しかし、未だ最後のラファール・リヴァイヴは戦闘不能には陥っていない。また、修理の資材が尽きたのか味方が復帰する気配も無い。そして現在戦闘中のラファールがアリオスに対して善戦している訳でもない。ただ残酷に、ただ無慈悲に、いつまでも止めが刺されないだけだ。最初にシールドがもぎ取られた。その次にはスラスターが的確に破壊された。順次呼び出した数々の銃器には銃口からビームサーベルが突き刺され破壊された。現在残されているのは一本の近接ブレードだけだ。その剣戟も軽々と回避されている。これは、上級生側が望んだ試合だ。故にこのような状況で惨めな姿を晒す事になろうとも、ギブアップは許されない。基本的に刹那が決着をつけない限り、この試合は終わらないのだ。

 

 ラファールと擦れ違う様な形でブレードの一撃を回避するアリオス。加速したまま機体を急上昇させたガンダムは、機体のシルエットを変えてラファールへと突っ込んだ。アリオスが巡航形態に変形した機首部分を用いた攻撃手段、GNビームシールドクローだ。ラファール・リヴァイヴを挟み込むと激突時の勢いをそのままに締め上げ、大幅にシールドエネルギーを削っていく。敵機のシールドエネルギーが尽きようとした瞬間、クローでの拘束を解除。飛行しながらアリオスは人型へと変形し、地面に相手を降ろすとピットに戻って行った。

 

 アリーナ内はざわついていた。各所から聞こえる会話の主役は勝者である刹那への不満だ。それが聞こえている一夏自身、刹那のあの戦い方には思う所がある。一夏が見る限りでは、秋二は女子の反応を見てビビっている。セシリアは難しい事を考えているのか表情が固い。箒は予想に反して様子が変化している兆しが無く、普段通りだ。

 

(あれ?)

 

 一夏はあんな戦いをした刹那に対して箒が怒り狂う可能性も考えていた。だがそれが無い。

 

(あの箒が納得する理由があるのか? 相手のプライドをへし折る様な戦い方だぞ?)

 

 思考を続けても納得のいく理由が思いつかない。何が刹那をそうさせた? これまでに無い程のダメージを負ったから? これは違う。味方諸共攻撃を行ったから? グレー判定、曖昧だ。

 

(後で聞いてみるか? ダメで元々、答えなかったらそれはそれだ)

 

 秋二に声を掛けられた一夏は意識を戻すと、クラスメイト達と一緒に教室に向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピットに戻り機体の展開を解いた刹那は溜息をついた。

 

「女子の顔面を躊躇無く蹴る。銃は鈍器代わり。トランザムでの弾幕。終いには心を抉る戦い方。全く、あなたは話題に事欠かない人物ね。でも、少々やり過ぎかしら?」

「笑っていたんだぞ」

「誰が?」

「グレネードを撃つ瞬間、味方が巻き添えになるのを理解した上で笑っていたんだぞ」

「それって最後に相手をした3年生の事?」

 

 楯無の確認に刹那は肯定する。

 

「タイミングが悪いとしか言えないわ。女の顔を蹴った時点でそれを見た多くの女子からのあなたへの心象は最悪と言ってもいい。そんな渦中の人物があんな戦い方を取ったら悪い方向にしか受け取られないのは当然じゃない……!」

「勝負を受けた側がこんな扱いになるとは笑えるな」

「あなたは少し黙ってなさい! …………苦情を聞かされる私達の身になってみなさい、今の様な皮肉や軽口は一言も言えなくなるわよ」

「学園の女子から嫌われようとも、俺からすれば学園内に安息の地は無いという事実は今更だし」

「だから黙ってて、お願いだから!!」

 

 ピット中に楯無の悲痛な叫び声が響く。だが彼女の味方はこの場にいない、現実は非情である。少し時間を置いてから刹那は寮へと戻った。時計はこの時間が授業中である事を知らせるが、今日は特例として一日中授業免除と千冬から言われている。自室に戻ると刹那はベッドにて寝そべる。試合中に感じた有耶無耶を思い出したくないのか、直ぐに眠りについた。

 

 この日の夜にあった『織斑一夏クラス代表就任パーティー』だったが、刹那は当然欠席した。




 本当は一夏達と一緒に授業を受けさせても良かったんですけど、それでは初登場となるアリオスのインパクトが薄いと思い変更となりました。
 次話では鈴さんが登場予定です。当然ですが、クラス代表戦の内容も変わっていきます。
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