残り四機となったクラス対抗サバイバル戦。甲龍以外の三機は絶えず動きを止めない事を第一に意識して動き続けていた。それは三者揃って甲龍の第三世代型兵器、衝撃砲を嫌っているからだ。
肉眼での知覚は困難なそれは、ハイパーセンサーを用いようがどうしてもワンテンポ遅れた反応を強いられる。それに加えて射角も広いというその特性上、乱戦となったこの場での衝撃砲の驚異は考えるまでも無いだろう。
だからといって甲龍ばかりに注意を割いていては、他の二機から強襲を受けるだけだ。射撃武器が問題無く使用可能な打鉄弐式はともかく、最初から近接武器オンリーの白式と粒子撹乱の効果でビーム兵器を封じられたダブルオーには厳しい状況となっていた。
白式とダブルオーの二機が互いの武器を打ち合っている。両者共に足を止めての鍔迫り合いは起こさずにすれ違い際で切り結ぶ様にしている。それを横目に甲龍と打鉄弐式は互いに射撃武器での牽制合戦……とはいかずに、鈴が優勢に立っている。実働性を重視されて開発された甲龍と鈴自身の能力が見事に噛み合っている結果だ。
補足しておくが、鈴と簪を比較して後者が明確に実力が劣っているワケではない。しかし衝撃砲という第三世代兵器のアドバンテージがここで響いてくる。打鉄弐式の目玉と言える兵装、山嵐のマルチロックシステムは第三世代相当の技術なのだが未だに完成の目処は立っていない。妥協策で運用しているがこの状況では迂闊に使用する事は出来ない上に、ミサイル故に弾数という避けられない上限だってある。衝撃砲、龍砲にも機体のエネルギーという上限は存在する。だが鈴は牽制と本命の攻撃を分ける事で消費エネルギーを格段に抑えている。それは誰もが思いつく基本中の基本な事だが、それを容易に可能にするのも第三世代型兵器の強みだ。
現状が不利ならば状況を無理矢理に変化させれば良い。簪は機体を動かすと白式とダブルオーが次にすれ違うであろう場所が、自分と鈴で挟まれる様なポジションへと素早く移った。あの二機は戦局の一発逆転を可能とするポテンシャルを有している。そんな存在には一機だけでも早々と退場してもらいたいと思うのは、簪でなくとも当然の事だろう。そんな心情は知らぬ存ぜぬと、白式とダブルオーはもう何度目かわからない交錯を成そうとしていた。
「刹那っ!」
「お前は真っ直ぐすぎる……!」
龍砲の重い一撃を受けた先程の刹那と同様、今の一夏は攻撃をする瞬間にターゲットとなる相手に集中している。近接特化である白式の影響なのだろう。無意識で相手のカウンター対策を想定してしまい、相手の一挙一動を見逃さない様にする癖が付いている。それ自体は決して悪くはない。だが条件反射にまで至ったそれ故に刹那は衝撃砲での奇襲に対応出来なかった。そして今も鈴と簪の二人から一夏と共に挟み撃ちにされようとしている。
「馬鹿が……!」
「刹那!?」
その言葉を刹那が誰に対して向けて発したのか、一夏には知り様が無い。そんな事よりも自分がダブルオーに一撃を与えたという事実の方が、一夏には大きな衝撃だった。ここまで微塵もそんな素振りを見せなかったダブルオーが行った急激な方向転換。今まさに剣を交えるというタイミングでそれを行えばダメージを受けるのは明白だったはずなのにである。
何故、刹那はそうした? 一夏が思考する傍らで観客が一拍遅れて沸いたその瞬間、センサーの警告音が鳴ったと同時に背後から衝撃を受けた白式は地表に叩き落とされた。自身に何が起きたのか気が付いた時、一夏の中で疑問の答えが噛み合った。
(衝撃砲か!? 刹那はこれを察してダメージ覚悟でこの場からの脱出を優先したのか……!)
復帰の為に一夏が素早く周囲の状況を確認する。GNバスターソードⅡを放棄しGNカタールを両手に装備したダブルオーが甲龍と打ち合っている。地面に捨てられたバスターソードは、焦げと共に刀身の一部が大きく欠けていた。ハイパーセンサーからそれが荷電粒子砲を受けた影響なのだと一夏は知るが、今はそれ所では無い。
再び警告音が鳴る。スラスターを強引に操作した白式が回避行動を取ると、先程までいた場所に例の荷電粒子砲が撃ち込まれた。どうやら目の前の打鉄弐式を対処しない限り、鈴や刹那と再度剣を交える事は叶わないらしい。ならばやる事は一つ、この敵を倒すだけだ。
精神を集中させ、零落白夜を起動させる。それと同時に加速姿勢に入る。この日の為に猛特訓で身に着けた瞬時加速(イグニッション・ブースト)を零落白夜と組み合わせる。単純故にその効果は絶大。それはタイミングを逃さなければ代表候補生にだって通用する攻撃手段。
打鉄弐式がその手に武器を呼び出す瞬間、白式が一気に飛び出す。いつぞやの授業で見せた急降下とは段違いの加速で打鉄弐式に肉薄すると、白式は雪片弐型を振るう。一筋の鋭い光が打鉄弐式へと襲いかかった。
ダブルオーは甲龍を相手に攻めきれずにいた。ここ数度の打ち合いで実感したのは、ダブルオーが甲龍に力負けしているという現実だ。次世代機の礎の側面がある第三世代機とは思えない程に、甲龍の完成度は高い。今もこちらに振るわれる連結した異形の青竜刀、双天牙月を受けて吹き飛ばされない様に耐えるのが刹那にはやっとだった。
こちらの武器が大型実体剣であるGNバスターソードⅡなら、結果は違っていたかもしれない。しかし、よく考えればこれが破壊されたのは必然の結果だろう。シールドモードのGNフィールドは確かに有効だった。しかしその機能を搭載する為に採用されたスライド機構、あれが逆に剣本体を脆くしてしまい壊される隙となってしまった。
(元々ツインドライブが完全に同調しているのが前提のプラン、当然と言えば当然か)
内心でそう愚痴るがこの状況が刹那にとって好ましくないのは変わらない。鍔迫り合いから至近距離で衝撃砲を左肩付近に受け、体勢を崩した。鈴は衝撃砲の威力が下がるのを承知でチャージに掛ける時間を短くする事で、刹那がこれに対応するのを防いだ。ダメージは微々たる物だが体勢を崩したのだ、追撃するには十分な程の時間が稼げた。
「落ちろ!!」
連結を解除した甲龍の双天牙月がダブルオーに向けて振るわれる。ラファールの近接ブレードとは異なり、甲龍の近接武装はGNカタールで打ち合っても未だに破壊出来ずにいる。専用機の特注仕様の武装が対象だからなのか、GNカタールの試作武器という側面が問題になっているのか、それとも同調が完全ではないツインドライヴが原因なのか。この問題は解明しておきたい事柄であるが、それは試合後にするべきだ。今この瞬間で自分が成すべき事は違う。
「……ちっ」
出来れば使いたくは無い。オーバーロードを起こす可能性が非常に高く、リスクが大きすぎた。しかし、このまま黙って斬撃を貰って敗北に歩みを進める事は認められない。それは許容出来ない負け方だ。この場で妥協した先には何も残らない、何も変えられない。
先の舌打ちはこの状況を自力で打開出来ない自分に対しての苛立ち故に。自らを弱者と認めろ。その上で歩みを進める。敗北を恐れず、全てを受け入れろ。その先にこそ――――
「――――トランザム」
静かに、けれど耳に残る声が発せられた。機体全体を赤い光で染め上げたダブルオーは直撃寸前だった斬撃を紙一重の機動で回避した。アリオスが以前にトランザムを使用した時には足を止めて単純に武装の火力アップを意図していた。なので、一時的に機体の全性能をスペックアップさせるというトランザムの真価は公的にはこの場で初のお披露目となる。
ソレと対峙する鈴は、この状況で笑っていた。実際に戦うと一夏がガンダムを意識しているのも理解出来る。須く才能を持つ者が集まる代表候補生、その中でも鈴は抜きん出ていた。本国に帰国して一年程で専用機を得て、今この場で戦っているのがその証拠でもある。そんな自分をこの不利な状況から逆に追い詰めようとしている相手が今、目の前にいるのだ。本国の上層部、彼等の思惑に踊らされようが構わない。ガンダムとの実戦データが欲しければ、幾らでも戦ってやる。
知るべき事、知らなければならない事は山程存在する。それは自分以外の各国の生徒達にも当て嵌まる事だ。だが今はそれらをまとめてゴミ箱に放り投げる。同年代の強敵、これまでその存在をただ渇望していた。今この瞬間を蔑ろにすれば自分にとって損なのは、考えるまでなく明らかだ。当たらないと半ば確信しながらも衝撃砲を放つ。それは鈴の意地の表れだった。
甲龍の非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)がダブルオーによって破壊された。真正面から急加速で接近しながら、強引に各スラスターを操作。甲龍の背後に回り込む様に切り返してからの攻撃だった。教本を無視するかの如く無茶苦茶な行為。だが、そのデタラメな挙動によって衝撃砲は封じられた。甲龍とダブルオーの決着は接近戦に委ねられると思った矢先に、大量のミサイルが二機を襲う。この場でそれを可能とするのは打鉄弐式の山嵐だけだ。
「一夏!?」
至近距離で回避は間に合わず、一夏は複数のミサイルに被弾。爆発による黒煙を帯びながら白式は地面へと墜落していく。自身に迫り来るミサイルを捌きながら、それを見た鈴が反射的に叫ぶ。叫んでしまった。
それはたかが一瞬の出来事。だが鈴の意識が自分から逸れた事実は変わらず、それにより生じた隙を刹那は見逃さない。右手のGNカタールを甲龍に向け、回転を加え投擲。GNカタールは途中でミサイルを斬り裂きながらも、その勢いは衰える様子も無く鈴を襲う。
「っ!? そんな攻撃――――当たるかぁ!!」
破壊されたミサイルの爆発の影響か、鈴は一瞬だけ驚いた表情を見せるも双天牙月で迎撃する。これまで酷使され限界に達したらしく、GNカタールのクリアグリーンの刀身は砕け散り地面へと落下していく。しばし遅れて、迎撃に用いた側の双天牙月の刃も根本から砕けた。
(これで――――)
鈴が自分とダブルオーの状況を確かめたその時、ソレは煙の奥から猛スピードで姿を現す。決着をつける為の最後の勝負と言った所だろう。互いの武器がぶつかり合い、火花を散らす。これまでとは異なる光景が見られる――――最後の最後で甲龍がダブルオーに力負けし始めたのだ。
「なんでアンタはソレを最初から使わないのよ!?」
「使ったんじゃない」
「現に使ってるじゃない!」
「お前達が使わせたんだ」
「端からそれを使う気は無かったってこと? なめんじゃないわよ!!」
ダブルオーが押し込む形での鍔迫り合い。その最中の口論だったがそれも終わりを迎える。二機の武器が再び限界を迎えたのか、刀身がひび割れ始めた。それを察したのか刹那は空いていた右手で何かを引き抜くと、がら空きとなっていた鈴の腹部に突き当てた。
「それってまさか、ビームサーベルのグリップ……?」
「粒子攪乱されようが零距離なら関係無い。――――これで、終わりだ」
いつの間にか二機は壁際にまで移動しており、鈴に逃げ場は残されていない。トランザムの恩恵もあるのだろう、解放された大出力のビームは甲龍のシールドエネルギーを残さず削り切る。戦闘不能の判定と共に甲龍は地面に力無く崩れた。
ダブルオーはその姿を最後まで見ず、即座に動き出す。ほぼ同じタイミングで白式に止めを差した打鉄弐式も、その動きに応じるかの如く反応する。荷電粒子砲が放たれるがトランザム発動後のダブルオーに直撃する気配はまるで無い。
セブンソードで唯一安定して使用可能なGNソードⅡロングを再び呼び出したダブルオーは地上から急上昇すると、上空で待ち構えている打鉄弐式に向かっていく。両機共に満身創痍に近い。武装の大半を失ったダブルオーは言わずもがな、打鉄弐式もギリギリだった。エネルギー残量は二割を切っている――――白式の零落白夜による渾身の一撃は当たっていたのだ。
(……データ通りだとしても、この威力はふざけている)
刀を最後まで振り抜かないカス当たりだったからこそ、このダメージで済んだ。直撃していた場合、自分と織斑一夏の立場は逆転しているだろう。
(……ガンダムも同じ)
機体が光る現象と同時に、それまでの甲龍とのパワーバランスが逆転していた。それを意図的に発動可能なくせに、出し惜しみをする。一体この男の頭の中身はどうなっているのだろうか……。
(それはどうでもいいかな。けど試合では、負けない)
薙鉈を持つ簪の両手に力が入る。これから先、シールドエネルギーをただ無作為に消費するのは避けたい。ガンダムのあの速度に対応するには山嵐で面制圧するのが一番なのだが、ミサイルに残弾は無い。白式に使用したあの場面で撃ち尽くしたのが痛い。想定外のスピードに発射弾数に制限を掛ける時間が無かった。
一際大きな、悲鳴混じりの歓声がアリーナに響いた。打鉄弐式の薙鉈。打ち合いの中で薙払った際に、その柄がダブルオーに握られた。振り払おうにもパワー勝負で簪に勝機が無いのは、この場にいる誰もがわかっていた。後はガンダムがその剣を打鉄弐式に叩き込んで終幕。誰もが、刹那と簪の二人ですらそう思っていた。
「ここで来るのか……」
「え?」
両肩部から煙を発生させながら、ダブルオーは地面へと落下していく。ハイパーセンサーからはドライヴの異常を示す警告が音と視覚の両面で絶えず刹那に送られる。トランザムは想定していたよりは保ったが、どうせなら後十秒位動いて欲しかった。一度だけため息を吐くと、刹那は通信を行う。何とも締まらないが、この試合はこれで終わりだ。
「ガンダムはギブアップ。原因は……オーバーロード?」
簪はアナウンスで知らされた内容を呟く。観客席を見ると、4組のクラスメイト達が簪の勝利に盛り上がっている。その姿を見ている自分の心が逆に冷めていくのを簪は他人事の様に実感する。相手の自滅で終幕とは後味が悪い。この結果にどれ程の価値があるというのか。
(訓練の段階を上げなきゃならない、かな)
後は山嵐関連のシステムも早急に仕上げる必要も出てきた。まだ自分は強くなれる余地がある。機体をピットに戻しながら、簪は静かに奮起した。
薄暗い室内。モニターを見つめるその人物の表情からは何も伺えない。
「所詮、この程度か」
出てきた言葉は、落胆だった。
「人形の限界と言えばそれまでだが、このままでは一方的な展開で終わってしまうぞ?」
片手間で打ち終えたばかりのデータを『彼女』に送る。これまでの機体とは異なり、それは屈指の性能を誇った二機のデータ。禁忌を犯してまでも貪欲に勝利を欲した者達が望んだ圧倒的な力。
「君が己の役割を放棄するというのなら、私は私を貫き通すさ! その果てに待つのはいつまでも続く争いの狼煙だけだ! 例え世界が変わろうとヒトの本質は変わらない――――後戻り出来なくなるその時までな!!」
室内を笑い声が支配する。勝ち負けに関係なく待っているのは、破滅。その対象が世界か自分かの違いだけだ。気掛かりなのはデータの閲覧を許されない機体の存在。それ以上の性能を持つ機体やその兄弟機も確認出来る自分だが、それらの機体にだけは踏み込めない。
「後顧の憂いとなるのか、確かめてみるか」
人気が無くなり、研究室を思わせるその部屋に静寂が戻る。室内に残されたのは、元々の原型が判断不可能なまでに跡形も無く破壊された蜘蛛型ISとその搭乗者だったモノ。
ある組織の拠点が一つ、壊滅した。それが周知の事実になるのはもう暫く先になる……。
フラグは回収する物。こうなるのを予想していた方もいるでしょう。
最後に謎の人物が登場しました。い、一体何者なんだ(棒)