IS 革新の為に   作:伝書鳩

18 / 20
第18話 波乱の予兆

『学年別トーナメント、一年生は三人一組のチーム戦で行う事とする』

 

 ある日、唐突に知らされた伝達事項は学園に大きな波紋を呼んだ。

 

「刹那、お前はどうするんだ?」

「学年別トーナメントの件か」

「ああ。お前もチームメイトを探すなきゃならんだろ、当てはあるのか?」

「一人、心当たりがいる。後で接触を試みる予定だ」

「単純に戦力だけで見ればお前やボーデヴィッヒは見逃せない逸材だけど、近寄り難いからな」

 

 秋二はそう言ったが、実際はこの時点でラウラは既にチームを組んでいた。そのチームメイトはセシリアと鈴。三人全員が第三世代の専用機持ちであり、前評判で優勝候補の一角となっている。

 

 その対抗馬として周囲から期待を集めているのが、一夏・秋二・シャルルのチームだ。零落白夜での一撃必殺を可能にする一夏を主軸に据え、多種多様な場面に臨機応変に対応出来る他の二人がそのサポート役を担う……というのが理想のチームだ。最初は飢えた女子軍団からの勧誘を避ける為に組んだ過去も見て取れるが、思いの外バランスが取れた編成になっている。

 

「人気者は大変だな」

「その原因はお前だけどな」

 

 噂が噂を呼び、学園内で『刹那・F・セイエイは二重人格。戦闘中には嗜虐性が増すので注意』という話が広まっている。刹那自身がそれを強く否定していないのが、話に更なる拍車を掛けた。その結果自主的に刹那に近寄る女子はほぼ皆無となり、その分が一夏達に集中する事となった。

 

「最近は動きやすくて助かる」

「まさかお前、それが狙いで……」

「狙って出来るか。偶然に決まっている」

「だ、だよな」

 

 ふと気が付けば、教室の入り口辺りにクラスの視線が集まっている。秋二と刹那の二人も会話を一度切り上げると、その原因を一目見ようと顔を向けた。そこにいたのは4組のクラス代表である更識簪。先に行われたクラス対抗戦の優勝者・目立った悪評は無い・数少ない専用機持ち・同郷の多い日本人……といった諸々の要素が掛け合わさり、現在至る所からチームへの勧誘引く手数多。そんな人物が余所のクラスを訪れた理由は十中八九、学年別トーナメント関連だろう。

 

「あ~、かんちゃんじゃん!」

「悪いけど、今日は本音に会いに来たわけじゃないから」

「ぶーぶー」

「話だったら後でね」

「はーい」

 

 知り合いらしい1組の女子と一言二言会話を済ませた簪は、迷う事無く刹那が座っている席へと歩みを進めた。大まかに簪の目的を察した者達がいるのだろう、ざわつきが大きくなった。

 

「今、良い?」

「問題無いが」

「貴方とトーナメントのチームを組みたい」

「俺も同様の提案をしようとしていた。是非も無い、よろしく頼む」

 

 ガンダムの主兵装であるビーム兵器に有効とされているのは零落白夜、AIC、粒子撹乱と手段が限られている。その内の一角がガンダムとチームを組む。それは敵に回る一般生徒にとって一種の死刑宣告でしかなかった。

 

「もし三人目が決まっていないのならば、私が立候補しても良いか?」

「俺は構わない」

「貴女なら私も文句は無い。よろしく」

 

 倍プッシュとばかりに三人目のメンバーが立候補した篠ノ之箒に決まる。箒は純粋な剣技に限定すれば他の追随を許さぬ技量を持つ。だがGNドライヴ搭載機の宿命として特定の機体には極端なまでに苦戦を強いられる弱点がある。先程挙げた機体の搭乗者……一夏にラウラ、そして簪。自身の天敵になる人物の内の誰かとはチームを組もうと思っていた所に簪が1組にやって来たのは、箒にとっても渡りに船だったのだ。

 

 噂好きの女子数人が、生まれたてのニュースを知らせに教室から出て行く。学年別トーナメントという一大イベントに関する話は、瞬く間に広まる事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 学園の応接室。現在この場ではテーブルを挟んで二人の人物が会話をしていた。

 

「その話、受けましょう。無論、こちらの条件を呑んでもらった上での話になりますが」

「……何を望む?」

「そう難しい内容ではありません。私が使用する予定の機体に関して、あらゆる国家・企業・組織が要求するであろうデータの提出を拒否出来る権利が欲しい」

「キミのデータを各国に得られるのは好ましく無い。良いだろう、その条件を呑もう」

 

 女の告げた要求は本来なら認められるものではない。だが相手はその無茶苦茶な内容を呑んだ。そうしなければならない理由があった。

 

「後で勘違いされても困るので先に言っておきましょう」

「ん?」

「対象にはもちろん、IS委員会も含まれているので」

「その発言、正気かね……!?」

「正気ですよ。私は別にこの件を蹴っても支障は無い、断られて困るのはそちらだ」

「……今回はこちらが折れるしか無さそうだ。上層部は説得しておこう」

「頼みます」

 

 譲歩する様な物言いだが、各勢力に渡さないデータを委員会が所持していれば攻撃材料になりかねない。二人ともそれを承知の上での会話である。

 

「結果は出してくれよ?」

「IS学園、引いてはIS委員会のプライドの為にですか?」

「このままでは各国に示しが付かんのだよ、織斑君」

 

 各国政府関係者、研究所員、企業エージェント。諸々が集まる場でガンダムと試合を行い、勝利を収める。それが千冬に届けれられた依頼の内容だった。

 

 初搭乗の不慣れな機体だったとは言え、教師三人を相手に勝利。上級生の集団を一蹴。クラス対抗戦ではマシントラブルで敗れたが、内容を見れば限りなく勝利に近いと評価される。そしてつい先日にやってのけた『超兵』ラウラ・ボーデヴィッヒを相手に、AICを完全回避しながら無傷での立ち回り。

 

(各勢力から危険視されるのも当然の流れだ)

 

 千冬がそう思うのも無理はない。事実、刹那はやり過ぎた。各国のエリートや埋もれていた優秀な人材が多数在籍する中で、刹那の異質具合は飛び抜けている。相応の能力・伸び具合を記録している一夏や秋二が比較対象でいる故に、否が応でも気付かされる。

 

 IS学園にはガンダムを力で押さえつける事が可能だという、首輪を付ける実績が要求された。そうでなければIS委員会の各国への威信が崩れてしまい、抑止力として正常に働かない可能性が高くなる。だが下手な人員を送って返り討ちにあっては逆効果になってしまう。そこで千冬に声が掛けられたのが、ここまでの話の流れだった。

 

 IS委員会担当者との会談を終え、一人になったのを確認してから携帯電話を操作する。その通話相手は親友であり希代の天才、篠ノ之束。数コールの後に、聞き慣れた声が千冬の耳に届く。

 

「おお! ちーちゃんから連絡が来るとは珍しい。束さんのことが恋しくなった?」

「馬鹿を言うな。例の機体を早急に手配して欲しい」

 

 その言葉を聞いた束の雰囲気が、一瞬だけ険しくなったのを千冬は感じていた。

 

「一応データは送ってたよね。アレが必要になったの?」

「そういう事だ」

「うん、時期的に丁度良いかな。よかろう! パパッと調整して今夜には納品しちゃうよん」

「早いのは有り難いが、聞かないのか?」

 

 思う所があるはずなのに、自分の用件に素直に応える束が千冬には理解出来ない。

 

「何と戦うつもりなのかって、せっちゃんとでしょ? 少し頭を回せば誰でもわかるよ」

「お前はCBと手を組んでいるんじゃなかったのか?」

「ちーちゃんも論点がズレてるんだよね~。別にガンダムが最強である必要は微塵も無いんだよ?彼らは彼らの掲げる目的さえ果たせれば良いんだから」

 

 CBの目的。それは千冬が一度だけ刹那から聞いた言葉。

 

「『来るべき対話』と言っていたな。詳細は全く知らないが」

「知らないままの方が良いよ。普通の思考じゃとても信じられないから」

「束、お前から見て私は『普通』か?」

「うん、普通だよ。ちーちゃんは誰よりも強いだけの、私の大切な親友」

 

 この世界に生きる者の中で、千冬の功績を知るどれ程の人物が同様に答えれるだろうか。

 

「ならお前は、セイエイをどう見る?」

「せっちゃん? あの生き急ぐ様な危うさが束さんの母性にキュンキュン来るよ!」

「………………」

「じょ、冗談だからね? そんな汚物を見た様な沈黙を私に向けて発しないで欲しいな~!」

「なら真面目に答えろ」

「この際だから言うけど、アレは一言で表すと『不気味』だね」

「……どういう事だ?」

「私が初めて会った時点で『刹那・F・セイエイ』という存在はほぼ完成していたよ。ちーちゃんは学園でせっちゃんと話す機会が多いと思うけど、彼の性格や行動指針は数年前から変わらない。あの年で自身の名声よりも組織の益を選択する……箒ちゃんやいっくん、しゅーくんがその立場で同じ事が出来たと思う? 無理だよね。私だって利己的に動いてISを開発していた時期だよ。今でもそうだけど」

「――――『自身の名声よりも組織の益を選択』だと?」

「ちーちゃん、気付かないフリをするのは止めたら? あの日モンド・グロッソの決勝戦を蹴っていっくん達を救出したガンダムエクシア、せっちゃんはソレだよ」

「……それについては薄々感じていた」

「けど私が指摘した点は違うよ。あの時のCBの目的は私。決勝戦より二人の救出を優先したのも、私やちーちゃんの交友範囲を彼らは把握していたから」

「束、前置きは必要無い」

「CBにとってちーちゃんはどう扱おうとも問題無かった」

「…………」

「ちょっと言葉が違うかな? 実際せっちゃんはちーちゃんに一目置いてると思うよ。優先順位の問題で決勝戦は切り捨てられただけ」

「……フフ、ハハハハ!」

「ちーちゃん?」

「スッキリしたよ、束。ブリュンヒルデと呼ばれるのを嫌っていたが、私の中にもプライドというものが存在していたらしい。正直今回の件は気乗りしていなかったがこうなっては話は別だ。委員会の思惑に乗るのは癪だが、私は私の都合でセイエイを潰す」

「け、健闘を祈ってるよ。……ちーちゃん、間違ってもせっちゃんを殺さないでね?」

「わかっているさ」

 

 束との通話を終えた千冬は一息吐いた。束にガンダムを潰すと宣言した以上、中途半端な内容で事を終えるわけにはいかない。それは千冬が己に課した誓約。

 

(まずは武術組み手を十本程やるか。相手は――――山田先生でいいだろう)

 

 山田真耶、己の知らない場所で千冬の訓練に付き合う事が決定した瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

 放課後、第二アリーナ。この日は一年生の割り当てだったが、訓練機の申請が出ていない一年生は別として上級生の姿もちらほらと観客席に見られた。彼女達のお目当てはトーナメントに向けて訓練を重ねている専用機持ちに関しての情報収集だ。

 

 セシリアと鈴はラウラを相手にした模擬戦を繰り返している。仮想敵は当然ながら刹那だ。超反応持ちである事が発覚した今、ラウラは絶好の訓練相手だった。ラウラとしても他国の代表候補生との訓練はそれなりに刺激になる。長時間の模擬戦はAIC使用の際に必要な集中力を更に高めるだろう。同じく近くで訓練を行っているガンダムと戦いたいが、事前に千冬から釘を刺されていたので逸る気持ちをグッと抑えている。

 

 一夏と秋二はシャルルの主導で訓練をしている。感覚派の箒、天才肌の鈴、理論派のセシリア。今までのコーチ達とは異なるシャルルの丁寧ながらも分かりやすい説明に、二人は揃って感動していた。刹那? あれはコーチと呼んではいけない。それはコーチという言葉への冒涜になる、というのが織斑兄弟の感想だ。現在シャルルは接近戦しか攻撃手段を持たない一夏へのアドバイスに注力している。このチームの生命線は白式の零落白夜、貪欲に勝利を狙うならこれは当然の判断である。

 

 アリーナの一角では、ピリピリとした空気が微塵も隠されずに渦巻いていた。その空気の生成源は刹那のチームメイト、篠ノ之箒その人だ。それに加え横にいる更識簪も珍しく驚いた表情を顔に出している。大本の原因は刹那が二人に伝えた内容だった。

 

「ダブルオーは使えない、だと?」

「正確には『学年別トーナメント終盤まで調整に時間が必要』だがな」

「どちらにしても対策は要る」

 

 ここで簪が言った対策とはラウラを擁する第三世代チームと、一夏達男性操縦者チームを指している。贔屓目で見なくても、ダブルオーが使用不可能程度のアクシデントで一般生徒にこのチームが負ける光景は想像出来ない。

 

「その前にもう一つ伝えておく。トーナメントからは各ガンダム、GNHWの形態で出る」

「ボーデヴィッヒとの模擬戦の時に見せた、アリオスの様にか」

「そうだ」

「ヘビーウェポン……重武装化?」

「その認識で間違い無い。基本的に追加武装による攻撃力の底上げとでも思っていてくれ」

「わかった」

 

 その後三人で話し合ったが、具体的な案は生まれなかった。ラウラの相手は刹那が引き受ける、セシリアのBTは山嵐などの面制圧で封じる、鈴の衝撃砲への注意を怠らない、箒は一夏が零落白夜を起動させたら相手にしない……どれもこれもその二チームと対峙する際には初歩の注意事項だ。しかも本番は不意打ち上等のチーム戦、上手く試合が運ぶ事は期待出来ない。

 

「ひとまず、俺達は連携を高めるべきだな」

「そうだな」

「一理ある」

 

 自分達の脳筋っぷりから視線を逸らしつつ、三人は訓練を再開する事を選んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 夜。約束通り千冬に機体を届ける為の端末操作を終えた束に、後ろから声を掛ける人物がいた。

 

「あの機体を織斑千冬に渡したんだね?」

「止めようとしても、もう手遅れだよ? リボンズ・アルマーク」

「いや、僕達はキミの考えを肯定するよ。あれを扱うのが彼女なら文句は無いさ。それに、彼女に合わせてカスタマイズを済ませているんだろう?」

「ヴェーダ内のデータにあった武装を足しただけだよ」

「それでも今の彼には十分以上に驚異な性能だ。最悪、為す術も無く負けるかもね」

「嬉しそうだね。私には理解出来ないよ」

「これを見てごらん」

 

 リボンズが端末を操作すると、大型ディスプレイにある機体のデータが映る。

 

「ダブルオー? でもこの姿は……」

 

 これまで束が見ていた通常のダブルオーやセブンソードとは異なるその姿。左右のドライヴ部や機体背部への追加パーツはどう見てもアンバランスとしか思えない。全体のシルエットをもう一度見直す――――不細工な代物だ。これは完璧ではない。

 

「私はGNHW装備の他のガンダムの方が好みかな。あっちの方が全体的にスマートだし」

「キミの好みは聞いていないよ。これはヴェーダが関知した現在構築中のガンダムのデータだ」

「構築中、二次移行(セカンド・シフト)とは違う? 普通ならそんな現象は起こり得ないはず。だけどガンダムのコアは私が作った覚えが無い代物。何が起きても不思議じゃない――――」

 

 キーワードを聞き一瞬で己の思考に潜った束。こうなっては彼女は自分の話を聞かないだろう。リボンズは束と会話を続けるのを断念した。一心不乱に端末のキーボードを、常人では不可能と思える速度で打ち続ける束を余所にリボンズは思いを馳せる。

 

(変革はもれなく起こる。ここから人類の革新が始まる)

 

 計画を実行に移す時は、着実に近付いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 その人物はある機体のデータを見ていた。それは本来なら巧妙に隠されている機密事項。

 

「……VTシステム、この世界の人間も行き着く発想は同じという事か」

 

 優れた能力を持つ存在。それに憧れ、己の無力に嘆き、妬み、それでも力を欲する。

 

「変わらない、そしてくだらない。だが余興としては丁度良い」

 

 背後に並んでいたアナザーコアの一つが輝くと、人型の姿を取る。それはその特殊性故に凡庸な戦闘力しかなく、歴史の表舞台には出る事が叶わなかった機体。

 

「今回は小手調べといった所かな?」

 

 対策さえ取れてしまえば雑魚同然の機体、捨て駒だ。これを相手に彼等がどの様に反応するのかを直に見る為、援護を兼ねて自分を含む数機を付随させる事を決めた。

 

「私にキミが持つ力を示してくれ」

 

 しばらくの間、笑い声だけが室内に響いた。




お待たせしました。
目を凝らせば見えるはずです。オリ主チーム三人の頭上に輝く死兆星を……!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。