IS 革新の為に   作:伝書鳩

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第19話 十分間の明暗

 学年別トーナメントを翌日に控えたこの日、対戦表が掲示された。一夏を筆頭に専用機持ち達も少しばかり遅れて内容の確認に訪れた。しかし、掲示内容に不可解な情報が含まれているのを見て首を傾げる。

 

「アンノウン、委員会推薦の特別ゲスト?」

 

 名を隠しゲスト枠での特別参戦。疑問は当然あるが、それだけならまだ理解の範疇に収まる。

 

「Bブロックの決勝進出チームとアンノウンが対戦。勝敗に関係無くそのチームは決勝に進む?」

「普通そこは優勝チームとの特別マッチとかになるべきだよな? どう考えても変だ」

 

 問題なのはシードなど目じゃない程の特例措置。それが何らかの意図を持っているのは誰が見ても明白だった。手短にBブロックの詳細を確認した刹那は、自分達がハメられたのを自覚した。

 

 一夏チームとラウラチームは揃ってAブロックであり、この二チームはブロック決勝戦で当たる予定になっている。それに対して自分達の名前の名前が記されているのはBブロック。番狂わせは起きないだろう、例のアンノウンは自分達が相手になるはずだ。

 

 データ収集が目的なら他の二チームと同じブロックにした方が良い。アヘッドのバリエーションの一種であるサキガケは搭乗者の箒はともかく、機体データの優先度は恐らく低い。他の可能性として考えられるのは、打鉄弐式が使用した粒子撹乱のデータか。だが、その使用対象筆頭の自分が同じチームにいるのはわかりきっている事だ。一般生徒が相手なら、わざわざ使う必要は無い。使用すればむしろ味方への影響が大きい。GNミサイルがあるケルディムとアリオスはマシだが、攻撃手段がビーム兵器一辺倒のセラヴィーとサキガケは無力と化し詰む。

 

 ならば本体である打鉄弐式のデータ入手か、と考えるが第三世代の機体が参戦しているので魅力が薄い。既にワンオフ・アビリティーが発現している白式など、他の男性適正者の機体の方が重要度は高いはずだ。

 

(……そうなると、消去法で狙いは俺か)

 

 自分が狙われる理由は――――多すぎる。

 

「企業が開発した新型のアピール、というのが妥当な線だろう。申し分の無い相手だからな」

「ラウラ・ボーデヴィッヒ。……お前から話しかけてくる事があるとは、珍しいな」

「自分が狙っている獲物を横から奪われて、良い顔をする者などいない。それだけだ」

 

 言うだけ言ってラウラはその場から去った。

 

「まるで俺達は眼中に無いみたいだな」

「一夏、ボーデヴィッヒさんはそれを言うだけの実力を備えている。けどこのトーナメントは三人でのチーム戦、僕らにだって勝ち目はあるさ」

「シャルルさん。ラウラさんの他にわたくし達がいることを忘れているのでは?」

「勝手に油断してくれるのは結構だけどね。そしたらドカンと一発くれてあげるわ」

 

 横で起きている一夏達の騒ぎを無視しながら、刹那も自室に戻ることを選択した。トーナメント準備の為、各アリーナは終日使用禁止と言い渡されていたからだ。

 

「刹那」

「何だ?」

 

 一同から離れた刹那に声を掛けたのは、それまで沈黙を貫いていた秋二だった。他人に自分達の話が聞かれない距離まで離れたのを確認すると、何時になく真剣な眼差しで本題に入った。

 

「あのアンノウン…………狙いはお前か?」

「気付いていたか」

 

 刹那の素っ気ない返事を聞き、心外だと言わんばかりに秋二は言葉を返す。

 

「あそこまで露骨だと気付くなって方が難しいだろ」

「それで?」

「それを踏まえた上でお前はどう対処する気か、少し気になってな」

「相手次第では俺だけで戦う」

 

 それが決定事項だと言わんばかりに、秋二の問いに対して刹那は即座に言い放った。

 

「チームメイトの箒達にはまだ言ってないんだろ、そんなの受け入れられるのか?」

「更識簪はこんな男とチームを組む程度に思考が回る、恐らく受け入れるだろう。篠ノ之箒は多少強引にだが、押さえる手段が俺にはある」

「どんな手段かは知らないが、納得しなきゃあいつは暴れるぞ。どうしてそこまでするんだ?」

「今回の件は俺が引き起こした可能性が高いからだ」

 

 気持ち悪い位にこれまで冷静沈着を貫いていた男が、この正体不明の相手に対して最大限の警戒をしている? 今までに無い刹那の反応に秋二も内心で戸惑う。

 

「……それは、けじめか?」

「さあな。それに、今言ったのを実行するのは最悪の場合に限る」

「最悪?」

「このアンノウンがモンド・グロッソ出場レベルの実力者の場合だ」

 

 モンド・グロッソ、それは世界一を決定する舞台。ガンダムの登場と、自分達兄弟の誘拐事件が起きた忘れられないキーワード。その相乗効果か、刹那の言った言葉を秋二はスルー出来ない。

 

「おいおい、トーナメントと言ってもこれは学園のイベントだぞ?」

「――――学園ではなく、委員会からの推薦」

「それが?」

「何処ぞの企業なり国が新型を開発したとしても、そう簡単に委員会が肩入れすると思うか?」

 

 IS委員会は各国に睨みを効かせ、ISでの戦争という最悪の事態を避ける為の一面もある。

 

「……! 肩入れすれば前例を作る事になる」

「その通りだ。それをすれば委員会という組織に余所から付け込まれる隙が生まれる。これを考慮すればラウラ・ボーデヴィッヒが言った企業のアピールという線は消え……る。――――!?」

「刹那?」

 

 自分の発言によって生じた微かな違和感、それに刹那は気付く。国や企業が独自に開発した新型という可能性は低い。ならば委員会が委託して開発させた新型となるが……これも違う。ジンクスの譲渡以降、その手の情報には注意を払っている。もしも何かしらの動きがあればヴェーダからの定期報告に載っている筈だ。

 

 残された可能性はアンノウンがイレギュラーの一種か、篠ノ之束が誰かに託した新型。仮に前者のイレギュラーなら容赦なく破壊するだけだが、その存在が委員会の中枢にまで食い込んでる事になるので少々面倒な事になる。後者も後者で面倒な事に変わりはない。なぜなら篠ノ之束という人物は一部の身近な人物にしか興味を持たない。例え優秀な能力を持つ人間が協力を申し込んでも、無視するか問答無用で却下するだろう。その篠ノ之束が機体を託すとすればその対象は一気に狭まる上、加えて委員会とのコネを持っている人物でなくてはならない――――アンノウンは織斑千冬の可能性が高い。

 

「刹那、どうした? さっきから黙ってさ」

「すまない。少し考え事をしていた」

「考え事、ねぇ」

「俺よりも自分の事を考えたらどうなんだ? お前達はブロック決勝でラウラ・ボーデヴィッヒのチームと当たるはずだが」

「成せば成る!」

「そうか」

 

 成せば成る。それに秋二が込めた真意を刹那は聞かなかった。聞けなかったという方が正しいのかもしれないし、それを聞き流しながら先程得た推測に思考を割いていたのかもしれない。どちらにせよ、それ以上会話を掘り下げなかったという結果だけが二人の間に残った。

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、学年別トーナメント本番の日となった。午前中は一年の部から始まり、各ブロックで試合会場は異なるものの第一試合からアリーナの観客席はほぼ満員となっていた。Aブロックの試合が行われる第一アリーナは学園の女子生徒が押し寄せ、Bブロックの第二アリーナは諸々の関係者が多めに集まっている。それが出場者の違いによる関心の差が表れているのは明らかだ。

 

「なんていうか、嘘は付いてないけど拍子抜けだよな」

 

 更衣室のモニターで、とあるチームの試合を観戦しながら一夏がつぶやいた。

 

「拍子抜け?」

「秋二はそう思わないのか? ガンダムの追加武装を解禁するって話だったのに、今の所使ってるのは既に知ってるアリオスだけだ。俺、実は結構楽しみにしてたんだぜ?」

「僕も気になるのは否定しないけど、考えがあるんじゃないかな? 順調に進めばアンノウンとの試合も控えているし、情報を隠したい気持ちもわかるよ」

「そんなもんか?」

「そうなの!」

 

 時計を見て時刻を確認した秋二が、自分を余所に盛り上がってる二人にそれを知らせる。

 

「一夏、シャルル時間だぞ」

「もうそんな時間か」

「この試合に勝てばブロック決勝だよ。油断しないでね、一夏」

「シャルルさんや、なんで俺だけに言うかな」

「秋二は一夏よりも安定して戦えてるから、かな?」

「白式に射撃武装があれば俺だってなぁ……!」

「二人とも、さっさと行くぞ」

 

 三人が去った更衣室の中、画面内には砲撃とミサイルでの弾幕で他の二機をサポートしているアリオスの姿が映っていた。画面が切り替わりサキガケが敵機を一閃。勝敗が決しブロック決勝への進出を確定させると同時にモニターの電源は切れた。

 

 

 

 これまでの数試合、刹那は徹底してアリオスで戦い続けた。シャルルが一夏に語った様に情報の秘匿という意味が大きい。アンノウンが予想と違っていたとしても、相応の実力者であろう事は確実だ。特殊性の強いケルディムは当然として、総合性能を高める方向のセラヴィーもギリギリまで使わない事に決めていた。幸いな事にチームメイトには恵まれており、現段階で苦戦とは無縁だ。

 

 第二アリーナの男子更衣室。自分しか使用者がいないその空間で、刹那は空間投影ディスプレイに機体から各種情報を表示させ整理していた。対アンノウン戦で箒を強引に試合に出さない為の手段、その調整も平行作業で行っている。自己進化するというISの特性上、一発限りの博打になりかねないからだ。

 

(試合開始には間に合わない、か)

 

 ダブルオーの調整は最終段階に突入しているとの知らせが出ている。だが、アンノウン戦開始時刻までにそれが終わる事は無い。またアンノウンがどの様な機体で出て来るかは知らないが、ガンダムに匹敵するポテンシャを有している可能性は高い。

 

 端末のアラーム機能。その電子音が鳴り、設定していた時刻が訪れた事を刹那に伝える。それを聞き開いていたディスプレイを閉じると、刹那はアリーナのピットへと向かう。対戦相手には悪いが、調整に掛ける時間が惜しい。早急に勝負を決めさせてもらう。

 

 

 

 

 

 

 

「お前の頭は鶏頭ですか? シャルルとの訓練で何を学んだんですか? あんなに懇切丁寧に銃の特性を解説してもらったのに、どうしてそれを生かしきれてないんですか?」

「お、おう」

「次の相手は鈴やセシリア、ラウラのチーム。お前、自分が試合のキーマンだって自覚あんの?」

「あ、ああ」

「真面目に聞いてんの?」

「はい!」

 

 第一アリーナの男子更衣室。試合を終えここに戻った一夏達だったが、当の一夏は秋二から試合内容の指摘を受けていた……正座で。シャルルはこれまでの姿からは想像しがたい光景におろおろとしている。

 

(秋二ってキレると口調が一部、丁寧になるタイプなんだ)

 

 なんて感想が出て来るが、シャルルはそろそろ止めるべきだろうと判断した。

 

「秋二、もういいんじゃない? 一夏も瞬時加速を使うべきタイミングを見極めないと、狙い撃ちにされるって身に染みたよね? それがわかったならこの話はこれで終わり、もうすぐアンノウンとセイエイ君達の試合が始まるよ」

 

 モニターには例のアンノウンと推測される機体が上空に待機している姿が映っている。ジンクスやアヘッドの様に赤とオレンジが混ざった粒子を放出している事から、GNドライヴ搭載機だとわかる。だが、相違点も存在する。

 

「全身装甲?」

「それに学園のアヘッドとかとは違う、独特の形状だな」

 

 シンプルながらも力強さを思わせる各ガンダム。操縦者を選ばない汎用性を高める為に、単純で頑強な構造に行き着いたジンクス系列の機体。だがこの機体はそれらとは大きく異なる。防御よりも回避を重視していると一目でわかる細身のフレーム。従来の機体には見受けられないサイドバインダー。注視すれば両バインダー部にドライヴが搭載されているのがわかる。

 

「機体名も出てるみたいだね」

「えーっと……」

 

 

 

 

 

 

 

「――――ブレイヴ指揮官用試験機。それがあの機体の正式名称だ」

 

 ピット内でその姿を確認し、絞り出すかのような声で刹那はチームメイトに告げた。そして本題へと話を進める、ここからが第一の正念場だ。

 

「お前達はこの試合に出るな」

「断る」

「理由を言って」

 

 案の定、二人共予想通りの反応をしてくれた。

 

「あの機体のスペックを十全に発揮できる相手の場合、お前達では荷が重いからだ」

「それでも、接近戦なら……」

「シングルドライヴのサキガケでダブルドライヴのブレイヴを相手にしてパワーで圧倒できる筈が無い。GNドライヴ搭載機は粒子量が残酷なまでに優劣の差に出るのはわかっているだろう」

「それはお前も同じだろう!」

 

 そう叫びながら箒は機体、サキガケを展開する。

 

「その話が事実だとしてもダブルオーが使えない今、私とお前の条件は同じはずだ!!」

「お前達は次の試合に出る必要がある。この試合で潰させる訳にはいかない」

「潰す?」

 

 いきなり出て来た物騒な単語に簪が反応した。

 

「十中八九、相手の狙いはガンダムを倒す事だ。アレの相手をするのは俺だけでいい」

「学年別トーナメントなのに?」

「だからこその勝敗関係無し、だ。わかったな?」

「理解した」

「ならいい」

 

 簪の返事に満足したのか、刹那は機体を展開する。

 

「セラヴィーで出るの?」

「この機体なのは出撃前にやる事があるからだ」

「?」

「相手が誰であろうと、私は出るぞ」

 

 学園に来るまでの間、箒にとって格上の相手と戦うのは日常茶飯事だった。だから刹那に何と言われようとも、引く気は無い。どんな強敵かは知らない、だがそれを聞いて素直に引き下がっていたら、きっと大事な場面でも同じ事をしてしまう。そうなって後悔してからでは遅い。

 

「この猪武者を黙らせる為だ」

 

 刹那がそう言うと、セラヴィーの背部から黒い『何か』が分離する。分離したそれは各パーツを変形させ、次第に人型へと姿を変えていく。

 

「なっ――」

 

 その非常識を越えた光景に箒は絶句してしまう。

 

「…………」

 

 分離・変形とロボットの王道を間近で見る事になった簪は、この光景を見逃すまいとしていた。

 

「――――セラフィムガンダム」

 

 黒い異質のガンダム、その名前が告げられる。同時に機体胸部のガンダムフェイスが、その真髄を発揮するために開かれた。その瞬間、サキガケが操作を受け付けなくなった事に箒が気付いた。

 

「刹那、何をした!」

「セラフィムの特殊機能、トライアルフィールドを使用した。今のサキガケはコントロールを奪われた上に、ドライヴを強制停止したのでしばらくは動けないだろう。更識簪、篠ノ之箒が暴れない様に見ていて欲しい」

 

 セラフィムを再びセラヴィーと合体させると、刹那はカタパルトから出撃する。ピットに残されたのは怒り心頭といった感じの箒と、無表情のままの簪の二人。

 

「更識、お前はこれでいいのか!?」

 

 刹那の意見にただ従ったとしか思えない簪に対し、箒が叫ぶ。

 

「いいわけがない」

「何?」

「私は彼に『理解した』と答えた。けど『納得した』とは一言も言ってない」

「…………」

「彼はただ私達の身を案じたのかもしれないけど、大きなお世話。あのタイミングで反対に回っても物理的に説得されそうだから、大人しくしていただけ」

「狸め」

「誉め言葉として受け取っておく」

 

 機体は動かなくてもステータスのチェックは可能だ。箒と簪は一秒でも早くサキガケが本調子に戻るよう、作業を開始するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ガンダムがピットから出て来たのを確認し、腕組みを止めたブレイヴが左手に武器を展開する。ドレイクハウリング、ブレイヴ専用のビームライフルだ。その光景に刹那は内心で首を捻る。なぜなら、織斑千冬は右利きだからだ。

 

 刹那の考えがまとまる前に試合開始となった。チームメイトの二人が出ていない事には触れられない、こちらの思惑は折り込み済みという事だろうか。 

 

(それにしても、まさかこの機体が出るとは――――)

 

 従来の装備にGNHWで追加された腰部のGNキャノン。計八門での連続した砲撃を行うが、それらはブレイヴに軽々と回避される。高機動高火力を地で行くその機体コンセプトは厄介というレベルではない。

 

 ブレイヴが反撃を行うが、セラヴィーはGNフィールドを展開して防御した。GNフィールドは抜かれていないが刹那は微塵も安心出来ない。相手の最大火力、トライパニッシャーの存在が脳裏から離れない。二撃、三撃と続いて放たれたビームを同じ様に無効化する。しかし、フィールド越しに刹那へと伝わる衝撃はビームが着弾する毎に強くなっていく。

 

(GNフィールドを破れる威力を探っている?)

 

 傍目では堅実な射撃を行っている様で、その内容は実に狡猾だ。防御が破られた場合、火力偏重で図体が大きいだけというセラヴィーの性質を相手は理解している。ヴァーチェから機体の総合性能を向上させたとはいえ、変わらない部分はどうしても存在するのだ。

 

(これは、出鼻を挫かれたか)

 

 例え機体の相性が悪くとも、そう簡単に試合の流れを渡すわけにはいかない。

 

「トランザム……!」

 

 試合開始早々、ガンダムがトランザムを使用。それが意味する事を、一部の者達は理解せざるを得なかった。これから見られる光景から、残りの者達もその内容を理解する事になる。

 

 フェイスバーストモードを発動させ、六刀流での特攻。それは刹那がセシリアとの試合で最後に使用した攻撃手段。初めて見る者はその強烈なインパクトに自身の目を疑うかもしれない。それが今、ブレイヴへと振るわれた。

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

 モニターで試合を見ていた一夏達、その中でシャルルが声を出した。画面内ではブレイヴに肉薄して斬り掛かったガンダムが、逆にビームサーベルでのカウンターの一閃を受けていた。超反応で致命的なダメージは避けたのか、ガンダムは胴体の一部の損傷だけにダメージを押さえた。だが一太刀も入れられずに、完璧な形で反撃を受けたという事実は精神面でのダメージの方が大きい。あのブレイヴという名の新型の機体性能も底が知れないが、それを自在に操る人物の正体は何者なのか疑問が沸く。

 

「――――あれは千冬姉の剣筋だ」

「……そうだな」

「どうして千冬姉が刹那と戦ってんだよ!?」

「馬鹿か一夏、俺が知るわけ無いだろ」

「馬鹿って何だよ。秋二は何とも思わないのか?」

「んなわけあるか。テンパってて自分でも何言っていいかわかんないだけだ」

 

 シャルルの疑問は織斑兄弟の反応によってすぐに氷解した。言われて思い返せばブレイヴの剣筋はモンド・グロッソ時の織斑千冬のそれに類似していた。弟である一夏達が気付いたという事は、彼女の正体に気付く者達は少なからず出る筈だ。

 

 ラウラがこの試合を見ていれば同じ答えに行き着くだろう。あれだけ堂々と織斑千冬という存在を慕っていたならば、少なからず動揺する筈だ。そうなれば集中力が必須なAICの使用にも影響は出る。仮にこの試合を見ていなくても、舌戦での攻撃材料になる。

 

(他人から何と言われようと、僕は貪欲に勝ちにいくよ)

 

 シャルル……本名、シャルロット・デュノアは実にイイ性格をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 試合は再び射撃戦へと移っていた。カウンターを貰い急遽後退したセラヴィーに対し、ブレイヴは近接戦を維持しようとはしなかった。近接・遠距離を問わず、真っ向からガンダムの選んだ策をヘし折るというのが千冬の選択だった。このブレイヴはそれを実行可能なポテンシャルを有している。それに、この機体はまだ隠し玉を持っている。

 

 一際大きな歓声が沸いた。トランザム発動中のセラヴィーが二門のGNバズーカⅡを合体させ機体正面に構えると、巨大な球状のビームを生成した。ハイパーバースト、そう呼ばれるセラヴィー最大の威力を誇る攻撃。上空から下方にいるブレイヴに向けて放たれるが、そんな丸分かりの攻撃に当たる筈が無い。なら刹那は何故それを使ったのかとなるが対峙している千冬は即座に理解した。

 

(機体を隠す程に巨大なビーム。当たれば間抜けが勝手にお陀仏、ブラインドには丁度良いか)

 

 目隠し、ただそれだけにこれ程の粒子を消費するのは無謀だ。

 

(だからこそ、やる。お前はそういう男だ)

 

 死角からセラヴィーがブレイヴに急接近を仕掛ける。しかし千冬はそれを予想していたと言わんばかりに、振り向きながら斬り伏せる。同時にガンダムの姿を確認するが、それからはどうしても違和感がある。

 

(バックパックが無いだと……!)

 

 このままではマズい。千冬がその場から離れようとした瞬間にブレイヴの両腕両足がセラヴィーに掴まれた。センサーが上方にいる未確認機の存在を知らせる。それは黒いガンダム、セラフィムだ。

 

 今の今までその存在を隠し通したセラフィムでの奇襲。自身よりも格上であろう相手に刹那がこれを選択したのは当然であろう。脳内知識にあるティエリア・アーデがブリング・スタビティを撃破した手段、決まれば有効なのは確かだ。だが状況が違う。現在目の前にいる相手はガラッゾではなくブレイヴ、迎える結果が異なるのは必然だった。

 

 ブレイヴのサイドバインダーが動き、その先端がセラフィムへと向けられる。サイドバインダー内部に装備されたGNキャノンから放たれた無数のビームが、両腕のGNキャノンのビームをチャージしていたセラフィムを襲った。名称は同じGNキャノンと言えど、一発の火力を求めたセラフィムに対しブレイヴのそれはドレイクハウリングのチャージをサポートする為に連射性を重視した性能になっていた。この撃ち合いの結果はその差が顕著に出た。

 

 本来の役割から前線で戦う事を求められていないセラフィムの装甲は、他の機体と比較して薄く脆い。諸々の被弾箇所から次々と爆発を起こし、黒い機体が地面へと落下する。トランザムの限界か自身への拘束が緩くなったのを感じたブレイヴがセラヴィーを強引に引き剥がす。自由になったブレイヴは、セラヴィーの隠し腕を含めた四本の腕をビームサーベルで斬り裂いた。

 

 力を失ったのか、セラヴィーはセラフィムと同じく地面へと落下する。二機の墜落の影響か土煙が発生したのを、ブレイヴのセンサー越しに千冬は確認する。ガンダムのシールドエネルギーは尽きていないが、追撃は無しだ。自分が戦いたいのは『コレ』ではない。その為にトランザムの使用を温存しているのだから。

 

 突如、煙の中から一筋のビームがブレイヴを襲う。奇襲ではあったが、ブレイヴは余裕を持って対処した。具体的にはブレイヴのサイドバインダーをディフェンスロッドとして扱って防いだ。

 

 二機目のガンダムが出て来る。機体の右肩と臀部に同形状のパーツが複数追加され、元々臀部に装備されていたシールドビットは左肩に一纏めに集められている。ケルディムガンダム……射撃に特化した機体、そのGNHW形態である。

 

(この機体も違う。まあいいさ、ダブルオーを出すまで叩き潰し続けれるだけだ)

 

 シールドビットの一部を分離させたケルディムは両手にGNピストルⅡを装備した。ブレイヴを相手に狙撃は現実的ではないと判断を下したのか、手数を優先した。

 

「それでは第2ラウンド、スタートだ」

 

 千冬は挑発とも取れる言葉を刹那に告げると、機体を動かした。

 

 

 

 

 

 

 

 いつしか歓声は鳴りを潜めた。誰もがブレイヴの圧倒的な強さを前に、息を呑むしかなかった。ケルディムの追加装備、ライフルビットは早々に全て破壊された。シールドビットは大半が高出力モードのドレイクハウリングのビームを耐えきれずに爆散し、残りは3基だけとなっていた。

 

 上段から振るわれたブレイヴのビームサーベル。それを両腕のGNピストルⅡで防御しながら、ケルディムはフロントスカートに内蔵されたGNミサイルを全弾撃ち込んだ。だが上体を仰け反らすだけでそれらは全て回避される。目の前で見せられるデタラメ具合に舌打ちをすると、刹那は攻撃が緩んだの見計らって牽制しながら距離を取った。

 

(まさか、ここまで酷いとはな)

 

 トップクラスの性能を誇るMSと織斑千冬の組み合わせ。それが計画に必要なのは理解していたが文字通りレベルが違う、今の彼女は理不尽なまでに強い。

 

(調整が終わるまで残り十分)

 

 各種処理を戦闘と平行しながらの作業、遅くなるのは仕方がない。だが、長い。セラヴィーでの戦闘内容はお世辞にも良くなかった。あの場面ではもう少し時間を稼ぐべきだった。

 

(この十分間が瀬戸際か……!)

 

 多くの者の明暗を分ける、最長の十分間が刹那の両肩に重くのし掛かった。




 お久しぶりです。ギリギリで2月中に投稿が間に合いました。

Q.どうしてこんなにも投稿が遅れたんでしょうか、スランプにでも陥ったの?
A.前話投稿後、メタルマックス2Rを購入したからです。

 欲しかったゲームの限定版が売ってたら購入一択だよね。賞金首のレアドロップを厳選するのも自然の流れだから仕方がないよね! …………一部妥協したのもあるけど。
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