イレギュラーとイレギュラーとイレギュラー
日本人は変態(誉め言葉)
缶コーヒー「解せぬ」
荷物を準備している箒を待っている間どのように暇を潰すか悩んでいた刹那だったが、その手に持っていた端末にガンダムからのメッセージが表示されていた。
(伝達事項? このタイミングでいったい何を……)
刹那は疑問を持ちながらも端末に表示された内容を確認すると『後継機解放』の文字の下にその対象と思われる機体の名称が並んでいた。続けて表示されている注意事項と思える文章を読み終えた刹那は、端末を閉じ空を仰いだ。遮る雲の無いその夜空には、無数の星が煌めいている。
後継機の解放、これはこれまでより性能の高いガンダムが運用可能という事を示す。何を以て解放条件を満たしたのかは不明だが、この事は刹那にとって大きな意味を持つのだ。
端末に表示されていた機体の中の一機、ダブルオーガンダム。この機体に搭載されている最大の特徴とも言えるのが、ツインドライヴシステムである。このシステムを搭載した機体を駆る事で、搭乗者は変革を果たすのだ。…………先程機体スペックを確認した限り、ツインドライヴは稼働に不安を残す状態だった。どうやらISになってもこの機体はオーライザーによるシステムの補助は必要らしい。だとしても基本的な機体性能はダブルオーがエクシアを上回っているが。
残りの三機――――ケルディム、アリオス、セラヴィーには大きな問題は無い。ダブルオー同様にこれまでの機体よりも基本スペックは向上しており、機体の特化運用にも磨きが掛かっている。追加装備であるGNHWも問題無く装備可能だが、しばらくは出番待ちだろう。
これまで運用していたエクシアを筆頭とした機体は問題なく使えるので、キュリオスガストでの大気圏離脱については問題無く行える。しかしこれまで扱っていた機体はその後継機と比較した場合では各種性能で劣る事は確かであり、これからは緊急事態に備えた予備戦力的な扱いになる。
(――――いや、実際にミッションで運用するのはまだ先か)
状況次第ではこれからもエクシア達の活躍の場はあるだろう。……多分、きっと、メイビー。
「あのさ~、ちょっと聞きたいんだけど」
刹那から要請された物の射出準備を終え、後は機械制御だけとなり手の空いた束は自らの疑問の答えを得るためにリボンズに声を掛ける。
「どうしたんだい、篠ノ之束。僕に聞きたい事でも?」
「束さんは何であの子がモンド・グロッソに出たのかが疑問でさ、そこの所教えてくれない?」
「わかってるだろう? ガンダムの性能を見せてキミの興味を引く為さ」
「うん、それはわかる。現に私は釣られたわけだし。だけど私が聞きたい内容はそれじゃあ無い。――――ガンダム以上の性能を誇る機体が存在する中で、彼が他のメンバーを差し置いてまであの大会に出たのかが聞きたいんだよ」
束は先程のリジェネの戦闘データを見てこの疑問までたどり着いた。彼女への天災という評価は決して伊達じゃないという事だ。
「確かに僕らのISは現時点でガンダムよりも高性能だ。だけど決定的に異なる点がある」
「機体から放出している粒子の色だよね?」
「そうだ。僕らはオリジナルのGNドライヴには選ばれなかった」
「オリジナル?」
「ガンダムに搭載されている緑色の粒子を放っている機関がオリジナルのGNドライヴだ。それ以外の機体に搭載されている、赤みのある粒子を放つのが擬似GNドライヴだ――――GNドライヴは別称で太陽炉とも呼ばれる事を覚えていて欲しい。IS戦でのこの2つに性能差は殆ど無い。だが根本的な部分で違いが存在する、人類の進化を促す事が出来るか否かというね」
「あの粒子が人の進化を促す、キミはそれを本気で言ってるの?」
天災と称される束の頭脳を持ってしても人を進化させるなどという、馬鹿げた答えが返ってくるとは思っていなかったのだろう。想定外の言葉に思考が停止してしまっている様だ。実際は刹那がツインドライヴを安定して稼働する事が可能なダブルオーライザーに搭乗した上で、ライザーシステムを作動させ高濃度GN粒子による意識共有領域を作らなければならない。だがリボンズはこのタイミングで束にそれを語る必要は無いだろうと判断した。
「擬似太陽炉搭載機については時機を見て一部の情報もしくは機体自体を特定の機関、IS学園にでも譲渡するつもりだ。そしてISの技術レベルを強引にでも引き上げる」
「その意図は?」
「端的に言えば人類が宇宙に進出する為だ。ISなら宇宙での作業も容易に行えるだろうしね」
「それとあの子が世に出る事とが、如何繋がるのかな?」
「ガンダムは擬似太陽炉を利用して馬鹿な事をする勢力が出た場合のカウンターさ。例え戦場でもガンダムの存在は一目でわかる、何故なら粒子の色が違うのだから。」
「どうせ、それだけじゃ無いんでしょ?」
「言っただろう、進化の為だと。一番最初に革新を果たすのは彼さ」
「それが彼である必要性は?」
「ISが自ら選んだとしか言いようが無いね。先に言っていた通り、ソレスタルビーイングが所持するISコアの出自については不明だよ。むしろこちらが知りたい所だ」
「……私は遺憾の意を表明したい気分だよ」
「本来あの四機は別々の機体として運用する予定だったしね、あのISは別次元で異常な存在だ。そして彼だけがそれを起動する事が出来る」
「ここで話を簡潔に纏めると?」
「オリジナルの太陽炉に選ばれた彼には様々な経験を積んでもらいたい、そんな所だね」
「…………色々と不満な部分はあるけれど、今はこれで納得しておいてあげるよ」
「キミがそう言うのなら、それでいいさ。納得したなら妹の歓迎の準備をしておけばどうだい?」
「おお~、良い事を言うじゃんか! 久しぶりに生の箒ちゃんとスキンシップが取れるからね~、どの位成長したかじっくりと確かめないと」
女性が発すべきではない下品な笑い声を出している束を尻目に、リボンズは思案をする。
(僕も丸くなったものだ……)
この世界に来るまでのリボンズの事を知る人物が現在の彼を見たら、自分の正気を疑うだろう。自分以外の存在を信じず、己の力で人類を支配しようとしていたのが様変わりしているのだから。
リボンズや他のイノベイターの考え方が変わった事には相応の理由がある。その大きな要因は、自分達が一度死んだという記憶を所持している事だ。それ以外の要因として挙げられるのは、この地が彼等にとって異世界であるという点。ISという絶対的性能を誇る兵器が存在する世界。宇宙開発は進んでいなく、自分達にとっては存在して当たり前だった太陽光発電システムや軌道エレベーターといった物が無い世界。ここまでならまだ許容範囲内であった。
問題はオリジナルのGNドライヴを搭載したISを彼らの内誰も扱う事が出来なかった事だ。その事実は『自分達こそイオリア計画の真の遂行者である』というプライドを彼らが持っていた事と重なり、計画の要の一つとも言える太陽炉に選ばれなかったという現実は精神的に大きなダメージを与えた。言葉を変えると芯が折れたと言うべきか。
イノベイター達の行動指針はこの世界でも『来るべき対話』の準備をする事だ。なので太陽炉の適応者が現れた場合は、その人物を全面的にバックアップする準備をしていたわけである。彼らにとって幸いだったのは、突如適応者として現れた少年は彼らの事情を詳しく知っていながらも協力的だった事だ。それもソレスタルビーイングにとって都合が良い位に、だ。
リボンズはお膳立てでもされたかの様な、これまでの状況の流れを見て楽観的な結論に至れる程間抜けでは無いつもりだ。そんな彼が自身の手元に表示させたディスプレイに2つのデータを並べる、それは先のモンド・グロッソ3回戦――――刹那がキュリオスを使用した以降の彼のパーソナルデータをそれ以前の物と比較をするためだ。
(刹那の脳量子波のランクは明らかに上昇している。これは本来なら変革を果たすまでの過程でしか起こり得ない現象だが彼はまだツインドライブ搭載機、ダブルオーガンダムを駆ってはいない。つまり、刹那には革新以外に何かしらの変化が起きていると言える…………例え太陽炉にブラックボックスが存在するとしても、この現象はナンセンスだ。いったい彼に何が起きている?)
リボンズは画面上に表示されているデータを確認しながら思案を巡らすが、確信を持てる答えに至るまではいかなかった。そんな五里霧中を思わせる思考の中でも、刹那に起こっているこの事象は偶然では無いという事だけは感じていた。
特筆するようなトラブルも起きず、刹那は荷物を抱えて再びこの場に戻ってきた箒と合流した。そして刹那からの合図を受け、あらかじめ要請されていた物が上空から飛来してきたのだった。
「刹那、これは……!」
誰に知られる事もなく大気圏突入を果たしたそのケースの中に入っていた物、それは――――
「荷物を持ったままで良い、それに触れてくれ。後はシステムがサポートしてくれる」
刹那が頼んでいたのはISだが、それは通常のISではない。大気圏突入や離脱を主軸に、宇宙空間での活動を視野に入れた全身装甲タイプのISだ。
「展開は出来ても、私はISを満足に動かすことは出来ないぞ?」
「そこは折り込み済みだ。ISの起動さえしてくれれば、後はこちらに任せてくれればいい」
状況が飲み込めずにいた箒だったが、刹那の指示に従いISを起動させる。箒自身が確認する事は叶わないが、展開されたISは急遽用意された事も重なり無骨な形状をしている。実際に用意した束が妹の安全を確保するために、二重三重の安全対策を詰め込んだ為である。
「刹那、ISを展開したぞ?」
箒がそう告げた瞬間、刹那を中心に光が発せられた。ISのハイパーセンサーが現在の乗り手である箒に、目の前の人物がISを展開した事を知らせる。
「ガン、ダム……?」
静寂の中姿を現したのは彼女の姉同様に現在進行形で世間を騒がせている存在だ。ちなみに刹那は直接キュリオスガストを展開している。想定外の事態にオーバーヒートを起こしかけている箒に対し、刹那は改めて自己紹介をする。
「見ての通り、俺がソレスタルビーイングのガンダムマイスターだ」
「刹那、お前が本当にあのガンダムなのか?」
「ああ、俺がガンダムだ。言いたいことはあるだろうが、時間が惜しい。先に進ませてもらうぞ」
「そ、そうだな」
刹那はキュリオスガストを巡航形態へと変形させ、その背に箒を乗せる。箒にしっかりと掴まっているように指示を出すと、機体を上昇させていく。
「刹那、私達はどこに移動するんだ?」
「ソレスタルビーイングの母艦だ。衣食住は完備している、安心してくれ」
「場所は?」
「宇宙だ」
「え?」
「宇宙だ。これから大気圏を離脱する」
「え?」
思考が追いついていない箒をスルーし、刹那は大気圏離脱を決行した。頻繁に大気圏突入と離脱を行っても問題無いのは、ガンダムのスペックとヴェーダの恩恵があればこそである。
この日を境に篠ノ之箒の足取りは消失する。その事実を確認して慌てふためく日本政府の元に、篠ノ之束から連絡が入った。まさかのコンタクトに、どうにか束との繋がりを確保したかった政府関係者を意に介さず天災は決定事項だけを告げ通信を終えた。通達内容は主に以下の通りだ。
・篠ノ之箒は自分の保護下にある
・時期が来たら箒をIS学園に入学させる
・学園に新型ISを送る
・新型ISはデータに限り各国への配布を許可
・新型ISは学園の管轄外への移動を禁止する
直訳すると「IS学園に新型ISを送るから今回の件は黙認しろ、な?」という訳である。日本側としても学園に配備されるISが増えるので容認せざるを得なかった。
後日学園へと送られた疑似太陽炉を搭載した機体はジンクスだ――――その数は15機。それを実際に目にした学園関係者は驚愕するしかなかった。機体の詳細データを確認する限り、それらにはモンド・グロッソで驚異的なスペックを晒したガンダムと同型列と思える技術が使われていたからだ。ただし、今回提供された機体には全身装甲の搭載はされておらず、現行IS同様に搭乗者の各部にISアーマーを纏わせる展開方式となっている。
得られたデータはISを保持する各国へと厳重な手段を以て配布された。データの内容が確認されたであろう直後、多数の国や企業から実物の譲渡が打診されたが学園は篠ノ之束から直々に禁止されていることを理由に断固拒否の姿勢を保った。それと同時期に各国へ束から通達が送られた。その内容は『新型ISを強硬手段を駆使して入手した勢力には国や組織を問わず然るべき制裁をガンダムが加える』というものだ。この時点で各陣営は篠ノ之束とソレスタルビーイングが結託している事を確信した。
技術面で圧倒的なアドバンテージを確保しながらも行われた、ソレスタルビーイングの行為を事情を知らずに理解できる者は当然ながら存在しない。だがジンクスからもたらされたデータの恩恵で各国のISの技術は着実に進歩するのだった――――ソレスタルビーイングが望んだ通りに。
そして2年もの月日が過ぎた。世界初の男のIS操縦者の双子の兄弟が出現し、そのニュースが世界を震撼させた。季節は春、正史とは大きく異なった世界で運命は本格的に変化を果たす。
更新が遅れて申し訳ないです。
追記:指摘頂いた部分を訂正しました。
更に世代関連の部分を修正しました。