IS 革新の為に   作:伝書鳩

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第9話 評価

 新年度の入学式を目前にしたこの日、とある指示を受けた刹那はIS学園を訪れていた。案内された場所はIS学園の来賓用応接室。刹那はここで世界最強の存在【ブリュンヒルデ】、織斑千冬と対面している。ちなみに刹那が受けた指示の内容は現在学園に配備されているジンクスのバージョンアップであり、作業自体は既に終わっていたりする。

 

 ジンクス全15機の内10機はジンクスⅢ、残る5機はアヘッドへの変更になっており、これは部隊運用においてのハイ・ローミックスを意識した編成だ。刹那の個人的意向により、ジンクスⅢ・アヘッドを問わず機体カラーは初期型のジンクスを彷彿させるグレーを基調としている。

 

 いかに世間を騒がすソレスタルビーイングの人員であろうと、世界にその名が知られている千冬の存在を無視する事は無いだろうという学園側の目論見もあって現在の状況が成り立っている。当人達からすれば正直に言って迷惑でしかない。

 

「…………」

「…………」

 

(IS学園の教師ですが、応接室内の空気は最悪です)

 

 刹那と千冬の二人から放たれている凍てつきそうな空気にあてられ、千冬の補佐としてこの場に来ていた学園教師の山田真耶は泣きそうになっている。学園の生徒達と同年代の少年が世界最強の女傑を前にして物怖じせずにしている現状が信じられない、というのが彼女の本音である。

 

「束からこの学園に新型のガンダムの搭乗者が訪れると聞いていたが、まさか少年とはな」

「親友からの情報だけで信じるのは短絡的では?」

「既に男のIS適合者がこの世に存在する以上、そうであっても不思議はないさ。それにあの束が今回のジンクスのバージョンアップを任せる相手だ。最低限の自衛手段を所持していないと逆に不自然になる。事実として、私の言葉は否定されていない」

「……流石はブリュンヒルデ」

「私をその名で呼ぶのは止めて欲しい。ガンダムに関わっているなら理由もわかるはずだ」

「そう言われても自分はそれほど万能ではない。ガンダムにしてもISの内の一つでしかない」

「その言い分をどれだけの人間が信じると思う?」

「そんな存在が一人でも多くいれば、とは思いますが」

「賢しいな、お前を年相応に扱うのは無理そうだ」

「女尊男卑の世の中で育てば、心も腐ります」

「その言葉は束に言うんだな」

「ですね」

 

(互いを値踏みするかのようなこの会話は、横で聞いているだけで胃が痛くなりそうです……)

 

「…………これを」

 

 話が落ち着いた所で、刹那は懐から手紙を取り出すとそれをテーブルの上に置いた。その手紙を受け取った千冬が内容を確認していくと、次第にその顔が険しくなっていく。

 

「この手紙には『篠ノ之箒の護衛として刹那・F・セイエイをIS学園に入学させるように』と記述されているが、これは束とソレスタルビーイングの考えで良いのか?」

 

 千冬は刹那に確認を取る。だが刹那はそれどころではない、これは刹那にも初耳だったのだ。

 

「手紙を確認しても?」

「ああ、構わん」

 

 千冬から渡された手紙を読み終えると、刹那は端末を取り出しそれを操作する。画面を確認し終えた刹那は、腹の底から絞り出すように言葉を発した。

 

「俺としてもこの件は寝耳に水でした。そして残念ながら、非常に残念ながら俺はこの学園に在籍せざるを得ない様です」

「そうか、ならばそちらの意向に沿うとしよう。……今空いているのは第2アリーナだったな。山田先生、更識を呼んできてもらいたい。頼めるか?」

「わかりました」

 

 千冬から指示を受けた真耶が応接室を出ていく。

 

(――――更識楯無、学園の生徒会長にして現在のロシア代表。彼女と模擬戦でもさせる気か?)

 

「私達も移動しよう」

「了解」

「…………」

 

 千冬の先導で移動していた刹那だったが、不意に千冬から声を掛けられる。

 

「CBの目的はいったい何だ? ガンダムという圧倒的な性能のISを保持していながら、束を経由してジンクスを提供する事で自らそのアドバンテージを捨てている。2年前とは違い現在のISならばガンダムを倒すことだって可能だ。ガンダムはもはや敵では無いと言っている国だってある。そこに新型ガンダムとその搭乗者の情報でも流れてみろ、お前は真っ先に狙われるぞ?」

「その為の新型でしょう? 開発コンセプトを継承した機体ですけどね」

「この手の問いは同道巡りにしかならんか……。ならCBの目的はどう説明する気だ?」

「CBの目的は『来るべき対話』を果たす事だ」

「来るべき対話だと?」

「俺達の行動はその為の布石でしかない」

「CBがその目的の為に動いている事について、束は知っているのか?」

「篠ノ之束には今後の詳細な事まで話してある、反応を見た限りでは半信半疑だったが。しかし、その上で彼女は利害関係の一致としてCBと正式に協力関係を築いている。一応先に言っておくが、篠ノ之箒にこの事を問い質しても無駄だ。彼女はCBとは無関係な一市民でしかない」

「だがそう言っても世界は納得しないぞ」

「それを踏まえて2年前に連れ出した。貴女もアレのデータは見たはずだ」

「自衛の為にGNドライヴ搭載機を持たせる、それが篠ノ之を守る為にお前達が出した答えか」

「アレは繋ぎでしかない。彼女は貴女の弟の分を含めて3機の専用機を準備している」

「報告では倉持技研が準備するはずだったが?」

「世界初の男性操縦者達の専用機開発を請け負ったが頓挫したので実際は篠ノ之束が開発しました――――自分達が無能だと言い触らすのと一緒だ」

「それについては後で確認させてもらおう。目的地はここだ。予想はついていたと思うがこれから模擬戦をしてもらう、ガンダムの性能把握の為と受け取っても構わん」

 

 そう言った千冬に通された先には、真耶ともう一人水色の髪の少女が先に来ていた。少女は千冬と刹那を交互に見比べると、恐る恐るといった感じで疑問を投げ掛けた。

 

「織斑先生、山田先生に呼ばれたので来ましたがどのような用件ですか?」

「彼の名前は刹那・F・セイエイ、3人目の男性適合者として新年度からの入学が先程決まった。だがこいつは立ち位置が特殊でな、今後を考慮し顔見せを兼ねて呼ばせてもらった。今から模擬戦を行うが更識もここで見学していくと良い、恐らくそれがお前の為にもなる」

「模擬戦の見学はわかりましたが肝心のISが準備されてないですよ。それに対戦相手は誰が?」

「対戦相手はジンクスを改修した新型、ジンクスⅢとアヘッドの特殊テストと言って手が空いていた教師に頼んだ。よって1対3での戦闘になる」

「織斑先生、それでは模擬戦になりません! 彼にトラウマでも出来たらどうするんです!?」

「更識もこいつのISを見れば理由がわかる。セイエイ、ISを展開しろ」

 

 刹那が千冬の指示を実行した一瞬後には、その場に一機の機体が立っていた。

 

「ガンダム!? けどこんな機体は情報に無い……」

「話によると新型との事だ。機体の色や装備から推測する限り、エクシアの系譜だな」

「……話は聞いていましたが、本当だったんですね」

 

 左右のサイドスカートにGNソードⅡを、GNドライヴ部分にはGNシールドを装備したダブルオーを見ての三者三様の反応を見ながら刹那は最低限の機体データを空間ディスプレイに映す。

 

「機体名ダブルオーガンダム、誰かが触れた通りエクシアの後継機だ」

「その言い方だとモンド・グロッソで確認された各ガンダムの後継機があるとでも?」

「その通りだ、更識楯無」

「こちらの情報は知っている、と」

「ガンダムに関わる以上、情報の有無は死と結びつく」

「2年前といい厄介な組織ね、CBは」

「篠ノ之箒の件の文句だったら篠ノ之束に言ってくれ」

「それが言えたらどんなに楽か……!」

 

 楯無は呪詛のような声を発するが刹那は何処吹く風といった感じで受け流している。リボンズや束を相手にした口論を思い出せば、刹那にとってこれ位は生温いレベルのやり取りである。

 

「教員側の準備が完了した。セイエイ、カタパルトでの出撃準備に入れ。後、お前が射出された時点で試合開始になる。覚えておけ」

 

 学園のイベントで行われる試合とは異なり、この模擬戦は実戦を意識しての内容構成だ。対複数での戦闘におけるガンダムのデータ収集、ジンクスⅢ・アヘッドの性能や教員の連携のチェック。急遽決められた模擬戦とは思えない程、得られるであろうデータの重要性は高い。

 

 刹那はダブルオーをカタパルトまで移動させると両手にGNソードⅡを装備する。スラスター兼用のツインドライヴを機体背部に向けると、ドライヴからは円環状にGN粒子が放出され始める。

 

 余談になるが、ISは機体の特色によって各部形状が異なり、共通規格を採用するのは開発元が一緒でなければ起こり得ない。専用機持ちの入学や新型の量産機が配備される事を前提として、多種多様な機体に対応が可能なタイプのカタパルトが学園では選択されている。

 

「ダブルオーガンダム、刹那・F・セイエイ――――出る!」

 

 掛け声と同時にツインドライヴが一際強くGN粒子を放出し、カタパルトが機体を射出する。刹那の視界が三機の疑似太陽炉搭載機――アヘッド一機にジンクスⅢ二機――を捉えるまでのわずかな時間に、ハイパーセンサーが戦闘区域の情報を収集し刹那へ向け表示した。

 

(これ位の広さなら大丈夫そうだな)

 

 長射程を誇るケルディムや機動力を活かして戦うアリオスの場合、フィールドが狭い場合は機体特性を殺してしまう可能性が高い為確認しておきたかったのだ。

 

 刹那は思考を中止すると、自らの意識を戦闘のそれに切り替える。左右のドライヴの向きを自在に動かし、機敏な機動で自身に向け放たれたビームを回避すると、GNソードⅡをライフルモードに変え反撃の射撃を行う。放たれたビームは指揮官であろうアヘッドの装甲の一部を掠める程度で回避された。逆に言えば、アヘッドはビームを完全に回避する事は出来なかったという事だ。

 

 相手がガンダムという事、ガンダムの攻撃は当たるのに自分達の攻撃は防御や回避され続けている等、理由を挙げようと思えば色々とあるだろうが、刹那が男であるというのが大きな要因なのだろうか――――それまで保たれていた均衡は呆気なく崩れる事になる。

 

 一機のジンクスⅢが痺れを切らし、GNランスでの接近戦に持ち込んだ。ランスならば剣を相手にしても有利と判断したのかもしれないが、明らかに悪手でしかなかった。急な飛び出しで満足な援護も無い相手に対し、GNソードⅡをソードモードに切り替えたダブルオーが各スラスターを全開にして襲い掛かった。

 

 両者の武器が交錯した瞬間、ジンクスⅢのGNランスはその先端から持ち手部分まで一直線に斬り裂かれ、勢いそのままにGNソードⅡがその胴体に叩き込まれる。右手のGNソードⅡを振り抜いたダブルオーは流れ作業の如くジンクスⅢを蹴り飛ばすと、両手のGNソードⅡからビームを発生させ追撃を行い相手のシールドエネルギーを削りきった。三機でガンダムを包囲し、持久戦の後に撃破するという当初の作戦が破綻した事で残りの二機も順当に各個撃破される結果になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この試合をモニターで見ていた織斑千冬・山田真耶・更識楯無の三人の内、真耶と楯無の刹那への評価はほとんど一致している。それは『平均よりは優秀』というものだ。接近戦は多少過激だったかもしれないが、インファイト・ガンファイト・機動・防御・回避、そのどれもが一定以上のレベルと言える。だがそれはモニターに表示されたガンダムの性能を省みれば十分に実現可能な範囲であり、普通なのだ。普通に攻撃し、普通に防御・回避し、普通に勝利した、それだけだ。

 

 一方、千冬はある点に着目していた。それはダブルオーが最初の接近戦に移る瞬間、一見すれば普通に迎撃した様に見えるがそうではない。ジンクスⅢの行動を見てからの刹那の反応は一般的なタイミングよりもワンテンポ早い。千冬はこれに似たケースに一つだけ心当たりがあった。それの名称は『超兵計画』。最高のパフォーマンスを発揮できる軍人を求めた結果行き着いた、非人道的と思える計画だ。脳裏にドイツにいる自分の教え子の姿を思い浮かべ、刹那がその同類とも言える存在なのではないかと思考するが千冬はすぐに否定した。辻褄が合わないからだ。アレの処置はISの適性上昇が目的なので、男である刹那に施される理由が無いのである。

 

 千冬達の元に戻ってきた刹那はISの展開を解除した。今回の戦闘時間はおよそ三十分といった所だが、刹那の顔に疲労の色は見えないし表情に変化も無い。普通ならば戦闘中に感じた高揚感や恐怖といった内面が表情に出ていても何ら不思議ではない、多感な思春期の年頃なら尚更だ。ところが刹那にはそれが無い。これまでの会話を振り返れば感情が欠如しているといった可能性は限り無く低いが、刹那の立ち振る舞いは不気味な程に淡々としている。ハッキリ言えば異常なのだ。

 

 新たな男性適合者で、CBのメンバーで、新型ガンダムの搭乗者で、内面はどこか壊れている。自分達の手元にある最大級の爆弾の危険要素を並べるだけで、千冬は頭痛を感じてきた。だが嘆いてばかりではいられない。模擬戦を終えた刹那を一時的に来客用宿泊室へと案内した後、千冬達は今後の様々な調整を行う為の会議を始める。

 

 新年度を前にしたこの日、学園教師+αは終わりの見えないデスマーチに招かれたのだった。




会話が多すぎて話が進まないでござる。
試験的に戦闘場面で台詞が無いように書いてみました。意見を頂ければ嬉しいです。

今回からソレスタルビーイングをCBと略します。
ぶっちゃけ何回も打つのが面倒に(ry
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