アクセル・ワールド ありふれたエネミー・ハンティング   作:逃ゲ水

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ウリン・ピラーのパーティー1

 海かと見紛うような、一面の波打つ緑色。その中にぽつぽつと島のように浮かんでいるのは石造りの建造物。

 それら建造物の中でも、複数の広場と共に並んだひときわ目立つ、いわば大きな島のようになっている場所を目掛けて、ハルユキ――シルバー・クロウは飛翔していた。

 

 ここは無制限中立フィールドの中、今は草原ステージとなっている世田谷区の上空。邪魔するものなど何一つない大空を、ハルユキはのびのびと飛んでいた。

「やっぱり、飛ぶっていいな……」

 しみじみと呟きながら、あらためてハルユキは自分の翼に感謝の念を送る。

 ダスク・テイカーの襲撃を発端とする一連の事件が解決したのがおよそ一か月前。いろんな人の助けによって翼を取り戻せたハルユキだったが、あれから結構時間が経ったにも関わらず、自分が飛べることに対する感動はなかなか収まりそうにない。

 ――この翼は単なるアドバンテージじゃない、僕の心が生み出した希望なんだから。

 と、感慨にふけっているハルユキがふと視線を下に向けると、いつの間にやら目的地が近づいてきていた。

「っとと、そろそろ気を引き締めないとな」

 言いながら、ハルユキは体を水平にして飛ぶ巡航モードから、体を起こしたホバリングの体勢に移行し、翼の角度を操作して滑空を開始する。

 目的地は下に見える建物と広場の集まった場所。前世紀の方のオリンピックで使われたのが名前の由来となっている駒沢オリンピック公園だ。

 陸上、野球、サッカー、テニスなど各種の競技場が集まった駒沢オリンピック公園は、少なくとも上空から見た限りではこの辺り一帯で一番目立つランドマークだ。空を飛ぶハルユキのためにこの場所を待ち合わせに指定してくれたのは流石の気遣いと言う他ない。

 ――僕もあんな感じの大人っぽい人になりたいなぁ。

 などと心の中で呟きながら、ハルユキは公園のど真ん中に向かって空中を滑るように降りていく。目指す場所は体育館と陸上競技場の間、オリンピック記念塔も立っている砂利と石畳の敷き詰められた広場だ。

 その広場に向かって高度を下げていくと、予想した通り色とりどりの小さな点が見えてくる。赤、オレンジ、黄、黄緑、水色……あと赤っぽい茶色と、地面の色と同化して見えないが灰色もあるはずだ。

 この無制限中立フィールドにおいて、色とりどりの点の集合と言えばデュエルアバターの集団だ。

 その集団に向かって手を上げながらハルユキは一気に高度を下げ、着地寸前で一瞬のバックスラストをかけてからストンと着地した。

「クロウ、こっちだ」

 声のした方へ向き直ると、予想通りそこには七人のバーストリンカーがいた。その中でもひときわ大きいグレーのアバターが、こちらに向かって手を上げている。

 どうも自分が最後らしいと気付いたハルユキは、丸っこい頭を下げながら、ガシャガシャと彼らに駆け寄っていった。

 

「ようこそシルバー・クロウ! 招待を受けてくれたこと、感謝するよ!」

「い、いえそんな……こちらこそよろしくお願いします、ピラーさん」

 出会うなり、力強い握手と共によく通る低い声でハルユキを出迎えたのは、ウリン・ピラーというバーストリンカーだ。

 円柱を基本としたシンプルなデザインで、二メートル近い長身でありながら細さを感じさせないほどの屈強な体格のアバターは、その見た目通り非常にタフな近接型だ。

 そんな彼の最大の特徴と言えば、やはりカラーネームの『ウリン』だろう。

 ウリンとは、アイアンウッドや鉄木と呼ばれる非常に硬い木材の名前だ。その鉄のように硬いと評される装甲を存分に生かした彼の戦いは、ギャラリーとしてしか見たことのないハルユキもよく知っている。刃や銃弾をものともせずに接近し、その強固な装甲でぶん殴るという、超王道の近接格闘型だ。正直、シルバー・クロウとしては一番戦いたくない相手だが、今回は味方なので頼もしいことこの上ない。

「さて、初対面の人同士もいると思うし、まずは自己紹介から始めようか」

 ハルユキとのあいさつを終えたウリン・ピラーは、集団の中心に戻ると場の全員に向かって話し出した。

「とりあえずは僕から始めようか。僕はウリン・ピラー、見ての通りの近接型で、レベルは6。去年まではレオニーズにいたんだけど、諸事情あって今はこの世田谷をホームに無所属でやらせてもらってる。まあこんなところかな」

 パラパラと拍手が起き、つられてハルユキも手を叩く。ヤジだの歓声だのが上がらないところを見ると、おとなしめの集団なのだろう。

「さて、じゃあ次はスラッシャー」

「ウム」

 ピラーに言われて一歩前へ出てきたのは、これまたピラーにも負けず劣らずの大型アバターだった。

 色は水色、身長はピラーよりは低そうだが、その分が体の厚みになっているような感じだ。全身を覆う装甲は滑らかでプレートアーマーを思わせるが、肩を覆う装甲が大きく張り出している部分が日本の甲冑の袖にも見える。そのつもりで見ると兜も心なしか和風な雰囲気がある。

 侍型のアバターか、とハルユキが勝手に納得しかけていると、くるっと顔がこちらを向いた。

 吊り上がった真っ赤な目もといアイレンズと、大きく広がった口から覗く一対の牙。見るからに鬼そのものの顔立ちだ。

 ――侍というより、鬼武者って感じだな。

「拙者はヒアシンス・スラッシャー。レベル5、グレート・ウォール所属。そして――」

 言いながら、スラッシャーは肩に手をやり、それを引き抜いた。

「これが我が愛刀、牙襲丸(ガシュウマル)なり」

 現れたのは一本の大太刀。長さはスラッシャー自身の身長と同じくらいで、流麗な曲線を描く刀身は、しかし鋭さよりも強靭さを感じさせる。

 なんでいきなり刀の紹介をしたんだろうとハルユキは一瞬訝しんだが、要するに、これを使って戦う近接型だということを言いたかったのだろう。確かにこの方が口で説明を重ねるよりも手っ取り早いかもしれない。

 ――しかしガシュウマルってシステム名っぽくないよなぁ、自分で付けた名前なのかな。ちょっとうらやましいな……。

 などと考えていると、ピラーがさらに説明を付け加える。

「スラッシャーは僕と一緒に最前列で戦ってもらう予定だ。盾役ってやつだね」

 ピラーの言葉になるほどと思いながら、ハルユキは改めてピラーとスラッシャーを見る。確かに、この体格の二人ならエネミーの攻撃もしっかり受け止めてくれそうだ。ハルユキのよく知る大型の近接型といえばタクムのシアン・パイルだが、この二人はパイルと同じくらいに頼もしく見える。

「さて、じゃあレベル5の人達に先にやってもらうかな。というわけで次はショッカー」

 言われるや否や、ガッと鋭い足音を立てて一歩踏み出したのは、少し薄い黄色の、ドレッドヘアのアバターだった。身長はシルバー・クロウよりも少し高くて、体も細身ながら華奢な感じはない。

 黄系統にしては戦闘能力高そうなアバターだなとハルユキが観察していると、ショッカーと呼ばれた黄色アバターは口を開いた。

「オレはキャナリー・ショッカー。レベル5の無所属。黄色だけど間接系は得意じゃねえ。以上」

 その瞬間、思わずハルユキは目を見開いていた。驚いたのは話の内容ではない。声が、明らかに女の人のものだったのだ。そのつもりでもう一度観察してみれば、確かにライダースーツ風の衣装に浮かぶボディの輪郭は女性のそれだ。

「姉御! 今日はバチバチやんないんすか?」

 と、急に声を上げたのは黄緑色で小柄な……カッパ? みたいなアバターだ。

 バチバチ? 何のことだろうとハルユキが首をかしげていると、

「あ? テメエが食らってくれるってんなら、してやってもいいぜ?」

 目にも止まらぬ速さでショッカーが動き、カッパ風アバターが顎を掴まれてのけ反らされていた。

 そして、いつの間にやら取り出されたゴツい警棒の先端が、カッパ風アバターの喉に突き立てられている。

「ひえぇ、すいません冗談です! 勘弁してください!!」

 ――ナニこの状況? 止めた方がいいのコレ?

 すると、無理矢理のけ反らされていたカッパ風アバターがポーンと突き飛ばされ、どさりと背中から落下。そして、喉元から離れた警棒の先端で、バツンと刺激的な音と光が炸裂した。

「……つーわけで、オレの武器はスタンロッド。他にもいくつか電撃技を使う。以上だ」

 そう言うと、ショッカーはドレッドヘアを一振りし、輪の外側まで歩いていってしまった。

「あー、僕から一つ補足すると、ショッカーは結構近接戦もいけるクチだから二列目で戦ってもらうつもりだ。いろいろ参考になるところもあると思うから、余裕があったら彼女の動きも見てみるといいと思うよ」

 なるほどなと思いながら、ハルユキは拍手をした。

 確かに間接型の黄系統はアバターの性能的にアビリティや必殺技、あるいは強化外装頼りになりがちなのだが、その頼りの強化外装が警棒型スタンガン――スタンロッドともなれば格闘戦にも強くなるというものだ。

 

「さて、次はコマちゃん。よろしく」

 ピラーにそう呼ばれて歩み出てきたのは、近世の軍人風の衣装を纏った赤茶色のF型アバターだ。

 てっぺんに大きな羽根飾りの付いたつば広の帽子に、軍服をアレンジしてワンピースのように裾を膨らませて伸ばした上着と、ズボンとブーツ。格好としては戦列歩兵とかやってた頃の兵士の服装に近い気がして、ピストルかマスケット銃でも持っているのかと思ったのだが、腰から下がっているのはどうもサーベルのようだ。

「私はローズウッド・コマンダント。無所属のレベル5です。ええと、一応遠隔型で……紹介も兼ねて召喚しておきます。サモン、《フォー・アーチャーズ》」

 パドさんの例もあるし赤系の近接型かも、というハルユキの予想に反してコマンダントは遠隔型だと言う。そして呼び出されたのは、等身大の人型の人形が四体だった。顔はつるりとのっぺらぼうで、それぞれが胸当てや小手を身に着けて弓を携えて立っている。つまりは射手だ。

「このように人形を呼び出して使役するのが私の戦闘スタイルです。簡単な命令しか受け付けませんが、装備の換装が可能なのである程度柔軟に対応できるのが強みですね」

 そんなコマンダントの説明を聞きながら、ハルユキはしげしげと召喚された弓兵を眺めていた。

 ――噂には聞いたことあったけど、本当にいるんだな人形使いって。同レベル同ポテンシャルの原則があるから一体一体は強くないんだろうけど、囲まれたら大変そうだなぁ……。

 つい自分が戦う時の想像をしてしまうハルユキであった。

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