アクセル・ワールド ありふれたエネミー・ハンティング 作:逃ゲ水
――うわー、あれってエネミーだったのか。やっちゃったなぁ……。
と、自分の失態にハルユキが頭を抱えている間に、最前列の二人――ウリン・ピラーとヒアシンス・スラッシャーが猛然とタルに向かって突撃していく。
「セアッ!」「ぬぅん!」
気合と共にピラーは左脚を振り上げてミドルキック、スラッシャーは大太刀をバットのようにフルスイングし、灰色の脚と水色の刃が同時にタルを強打。大型近接系アバターの渾身の一撃を二撃同時に浴びたタルもとい小獣級エネミー《デストラクト・バレル》は、強烈な衝撃で一メートルほど弾き飛ばされ、同時に一本しかない体力ゲージの二割ほどをスパークに変えて散らす。
「近接型はゲージ消費を抑えつつ総攻撃! 遠隔型は待機です!」
指示を飛ばすコマンダントに従って、レベル4三人組の中から黄緑色のサラダ・キューカンバーが走り出し、その上を閃光のように薄黄色のキャナリー・ショッカーが猛スピードで飛び越えていく。
最後列からエネミーの元までの十メートル近い距離を一度の跳躍で詰めたショッカーは、振りかぶったスタンロッドに跳躍の勢いを全て乗せ、居合のようにすれ違いざまにエネミーの側面を強打。同時に瞬間的に電撃を流し込んでダメージを上乗せする。
ショッカーの後を追う形になったキューカンバーは、弧を描くように走ったかと思うとエネミーに背を向けて跳躍。走り高跳びのフォームで五メートル近くも飛び上がり、エネミーの真上に背面――背負っている甲羅型装甲から勢いよく落下して、激突。シュールな見た目ながらその破壊力はこれまでの三人にも劣らないほどだ。
と、近接型メンバーの四者四様な攻撃に見入っていると、急かすようにコマンダントに背中を小突かれた。
「さあ、クロウも早く」
「あ、はい! 行きますッ!」
とりあえず飛び出しながら両翼を展開。ゲージ消費はなるべく抑えつつ、手早く大きなダメージを与えるとすると――これだな。
地面を走る両足の回転速度を上げ、エネミーの間近まで加速しながら接近。蹴りがギリギリ届かない間合いで上体を倒しつつ左脚を振り上げ、後ろ回し蹴りの要領で右脚を軸に左回転。振り上げた左脚の踵がエネミーの手前を通り過ぎるのを確認してから右脚で地面を蹴った。
今現在シルバー・クロウに掛かっている力は、全力疾走による前へ向かう慣性力と、右脚を軸に左回転する回転運動の二つ。あえて一回蹴りを外したことで一回転分の猶予を稼ぎ、その間に両翼の翼をそれぞれ逆方向への推力を生むように瞬間的に振動させる。すなわち、回転速度をさらに上げる。
これによって全力疾走の慣性力プラス一回転分の翼の加速を上乗せした回転速度による遠心力が左踵に集中し――
これまでの四人に負けず劣らずの衝撃音と共に、シルバー・クロウの銀甲に覆われた踵がタル型エネミーの体表に鋭利な穴を穿った。
ピラー、スラッシャーの二人からハルユキの後ろ回し蹴りまで、五人の近接型による絶え間ない強打のラッシュによって一気にデストラクト・バレルは体力ゲージを削られ、残り体力は半分を割り込んでいる。
計算上はもう一度五人でラッシュをかければ削り切れるはずだが、エネミーも棒立ちでやられっぱなしなわけはない。
そんなハルユキの思考を読んだかのように、エネミーの上部、つまりタルのフタがパカッと開いた。
「おっと、攻撃が来るぞ。前衛は射線を避けながら回避して後退!」
ピラーの指示通りバックステップをしたハルユキの目の前で、タルの中から飛び出してきたのはオレンジ色の丸い果物、つまりミカンだった。
「えっと……あれが攻撃ですか?」
答えたのは、いつの間にか隣にいたキャナリー・ショッカーだった。
「アンタは警戒した方がいいぜ。あれの属性は酸だからな」
一瞬ぎょっとしてから、しかしふと思い出す。確か銀は貴金属だから酸には強かったような……? いや、でも何の酸か分からないしわざわざ食らいに行くこともないか。
「銀は貴金属なんで多分大丈夫ですけど、でも、ありがとうございます」
「……そうかよ」
そんな会話を交わしながらさらに数回バックステップをする。そして安全域らしきところまで退避してからエネミーの方を見遣ると、ばらまかれたミカンっぽい果物が地面に落下して黄色い果汁を撒き散らしているところだった。しかし、指示通り回避した前衛五人には酸攻撃は命中していないようだ。
「遠隔型、一斉射!」
直後、コマンダントの号令通り、遠隔型の二人――カメリア・アーチとバーミリオン・ファイアワーカーと、コマンダントの使役する弓兵型人形四体が一斉に射撃を開始した。
ドゴッ、ドゴッ、と恐ろしい音を立てて突き立っていくのはカメリア・アーチの放つ赤い矢。それを追うようにドドドドッとほぼ同時に刺さる四本の矢は人形の放つ矢だろう。それに加えて、
「《スカイ・ロケット》! 五本斉射!」
かわいらしい声の技名発声と共に放たれたのは、甲高い音を吹き鳴らしながら飛ぶ五本の小型ペンシルロケットもといロケット花火。それらは煙を吐き出して一直線に飛翔したかと思うと一斉にタルの表面に突き刺さり、数秒後に腹の底に響く轟音と共に爆発。それによってエネミーの体力ゲージは残り三割を切った。
あとはもう一押しで決着が付く。タゲが遠隔型の後衛組に移った瞬間にもう一度近接型でラッシュをかければ終わるだろうと計算したハルユキは、必殺技ゲージをほとんど使わないハイジャンプからの省エネ式ダイブキックで決めるべく膝を曲げて腰を落としたのだが。
「さて、これで終わりだ。後始末は僕でやろう」
そう宣言したかと思うと、ピラーが一人で前に出た。しかし、エネミーの残り体力はまだ三割弱残っている。レベル6の近接型とはいえ、火力型ではないピラー一人でとどめを刺せるとは思えないのだが……。
と訝しんでいると、エネミーの方にも動きがあった。何やらフタの隙間からロープが垂れ下がってきたかと思うと、ボッとその先端に火が灯った。あれではまるで導火線――つまり、自爆!?
「一応解説しておくと、このデストラクト・バレルは残り体力が三割を切ると自爆技を発動するんだ」
淡々と説明しながらピラーは自爆体勢に入ったデストラクト・バレルのそばまで歩いていき、身を屈めて片手を地面に着けた。そこでようやくハルユキはピラーの狙いに気付いた。あれはピラーが必殺技を使う時の予備動作だ。
見る間にジリジリと燃えて短くなっていく導火線。その残りが数センチにまで至った瞬間、ピラーが動いた。
「――《ライジング・ピラー》!!」
技名コールと同時に、光り出した右手を地面に着けたまま素早く前方へスライドさせる。それから若干のタイムラグを置いて――
ズザァッとエネミーの真下からそれは現れた。
太さ二十センチほどの、ピラーと同じ灰褐色の、一本の柱。
猛烈な勢いで生えてきた柱は、タル型エネミーを真下から突き上げながら一瞬にして高さ二メートルまで伸長。勢いをそのままにエネミーは上空へ突き飛ばされ――地上から十数メートルの高さまで打ち上がったタイミングでドォンと爆発四散した。