アクセル・ワールド ありふれたエネミー・ハンティング   作:逃ゲ水

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VS小獣級植物系エネミー(×6)1

 遠くから、ガサガサドタドタと草をかき分けて走るような音が聞こえてきた。音の感じからして走っているのは数人、あるいは数体だろうか。

「クロウ」

「はい!」

 隣のコマンダントと短く言葉を交わすと、ハルユキは両足で地面を蹴りながら翼を振動させて一気に離陸、垂直にまっすぐ飛び上がって前方に目を凝らした。

 見えたのは緑色と茶色が絡み合った塊だ。塊の上部からは周囲の草にも似た細長い葉が何本か直立して生え、下部にはよく分からないが脚のようなものが二本生えているように見える。

 数は全部で六体。六体全てがひとかたまりになってこちらに向かって走ってきていた。

 すぐさまハルユキは高度を下げて全員に情報を伝達する。

「小獣級エネミーが六体、こっちに向かってます!」

 すぐに応じたのはピラーだった。

「特徴は? 植物系かな?」

「はい、二本足で、なんか根っこがこんがらがったような感じの奴です」

 すると、コマンダントが顎に手を当てながら発言した。

「特徴からしておそらく小獣級エネミー《ウッド・ステッパー》。伸びる脚が少々厄介なエネミーですが、六体であれば十分に対処できる範囲内かと」

「ウムウム、拙者も同感だな。この八人なら苦戦することはあるまい」

 鬼を模したフェイスマスクを頷かせながら言うスラッシャーに対し、反論を唱える声はない。

「よし、決まりだね。さてキュー、いつもの頼むよ」

 ピラーにキューと呼ばれたのは、小柄なM型のカッパ風アバター、黄緑色のレベル4、サラダ・キューカンバーだ。

 キューカンバーは腰に手を当てて小柄な体で精一杯ふんぞり返った。

「ああ、任せとけ! きっちり足止めくらわせてやるぜ!」

 

 足音がより一層近づき、もう根の塊のようなボディとその上から生えた髪の毛のような草が草原の向こうにはっきり目視できるようになった。距離はそろそろ五十メートルを切るくらいだろう。

「足を伸ばして掴んでくることがありますので、高度を下げすぎないようご注意を。それと、投下(・・)後は効果圏内のエネミーには攻撃しないように。無差別な拘束技なので」

「了解です!」

 そう答えたハルユキは、現在高度五メートルでホバリング中。そして、両手で掴んでいるのは黄緑色の甲羅――すなわちサラダ・キューカンバーの背中だ。

「頼むぜクロウ。ここが俺の一番の見せ場だからな!」

 腕を振り回して叫ぶキューカンバーは見た目のわりには少々重いが、あのクロム・ディザスターを引っ張って飛んだ経験と比べれば問題にならないほどの重さだ。これなら飛行に支障はないだろう。

「じゃあ、行きます!」

 そう宣言してから、ハルユキは背中の金属フィンを一気に振動させてエネミーの群れ目掛けて飛行を開始する。

 

 今から実行する作戦を一言で表すならば、「爆撃」である。爆撃機はもちろんシルバー・クロウで、投下される爆弾の代わりになるのがこのサラダ・キューカンバーだ。

 とはいえ、間接の黄と防御の緑の中間色に当たる黄緑色のサラダ・キューカンバーが赤系に属する広範囲攻撃技を持っているわけはなく、仮にそんな技があったとしても、レベル4のキューカンバーの技ではレベル7バーストリンカー相当の戦闘力と言われる小獣級エネミーの集団に対してはせいぜいヘイトを集めるくらいにしか使えないだろう。

 というわけなので、今回の爆撃の目的は攻撃ではない。サラダ・キューカンバーという爆弾が担うのは広範囲拘束技による妨害だ。六体のエネミーの内、四体か五体ほどをサラダ・キューカンバーの拘束技で足止めし、残った一体または二体に攻撃を集中させて速やかに撃破。拘束技が終了し次第、分散して残りを撃破していくという作戦だ。

 

「うおお、飛んでんじゃん……」

 驚いているのか喜んでいるのかよく分からないキューカンバーの声を聞きながら、ハルユキは高度と速度を一定に保って飛んでいく。

 作戦の鍵は狙った通りの数を範囲内に巻き込めるかという一点だ。もしも取りこぼしが多ければ戦力が分散してしまい相手の数を減らせなくなる。一方で全部を取り込んでしまうと、近接チームも拘束技に邪魔されてしまい攻撃が届かなくなる。

 なので、必要なのは技の効果範囲を知っているキューカンバーの的確な指示と、いつでも動けるようなハルユキ自身の心構えだ。

 と、急にキューカンバーの手が動いたかと思うと、びしっと右斜め前を指差した。

「右から二番目と三番目の間。あの辺りに飛んでくれ!」

「了解!」

 すぐさま針路を微調整、言われた通りの地点に向かってさらに飛ぶ。と、何体かの攻性化範囲(アグロレンジ)に入ったか、これまで一直線に走っていたエネミーの挙動が変化した。具体的には走るスピードを落とし、何かを探るように頭の葉をひゅんひゅんと回転させる。あの葉がレーダーや触角のような役割を果たしているようだが、まだこちらの位置は掴めていないようだ。

「そろそろだ」

 キューカンバーがそう言いながら手足を緩く曲げて着地の体勢を整える。

 エネミーまでの水平距離はもう十メートルもない。そろそろ投下のタイミングだ。

「行くぜ……三秒前、二、一、――投下!」

 キューカンバーの号令と同時にハルユキはパッと手を放し、遠ざかっていく黄緑の甲羅を目で追った。

 指示通り群れの中心やや右寄りに投下されたキューカンバーは両手両足で堅実に着地。その四つん這いの姿勢のまま、必殺技を発動させた。

(つる)地獄へようこそってな! 《トワイニング・ヴァイン》!!」

 直後、キューカンバーを中心に半径十メートルほどの地面が黄緑色に発光したかと思うと、草原ステージの草をかき分けながら何本もの蔓が勢いよく伸長し始める。蔓はエネミー《ウッド・ステッパー》達の根をより合わせたような脚に触れたかと思うと、絡みつきながらさらに長さを伸ばし、胴体部分までをも締め付け、絡め取っていく。

 範囲内に取り込まれたのは六体中の四体。きっちり狙い通りの数だ。

「……よしっ」

 作戦の成功に思わず拳を握りしめていると、下からキューカンバーが叫んだ。

「クロウ、こっちはもう大丈夫だ! 近接チームに戻れ!」

「了解!」

 叫び返しながら空中でUターンし、ハルユキはピラー達の元へ急いだ。


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