戦場を駆る歌姫と記憶を無くした鍵使い   作:ネヘモス

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「おかしい、奏はここで死ぬはずだったはず。あの子が、黒コートの言っていた特異点ね…。見せてもらいましょう。キーブレードに選ばれた勇者さん。あなたが私の計画を、どこまで狂わせられるのか…」


その歌は誰がために

(ここは、どこだ?)

 

奏は気がつくと真っ暗な空間にいた。

 

『君はどうして戦うの?』

 

虚空から聞こえる謎の声。その空間には自分以外に誰もいない。だが、少年らしき声が聞こえる。

 

「決まってるだろ、ノイズをぶち殺すためだ!私の、家族の仇を打つためだ!!」

 

『質問を変えるね。君は、何の為に歌を歌うの?』

 

奏は、その質問に答えられなかった。

考えたこともなかった。私は何の為に歌ってるのか。最初は面倒で翼に色々と迷惑をかけたかもしれない。だが、いつしか私は歌を歌うのが好きになっていた。

 

「わ、私は…」

 

『君は、自分たちの歌を聴いてくれる人がいるから歌える。そうだろう?』

 

奏は答えなかった。

 

『答えは今じゃなくていい。今は、俺に力を貸してくれ。俺の攻撃(キーブレード)ハートレス(アンノウン)には通用するけど、ノイズには届かない。君の力は俺と逆だ。それに、君はボロボロじゃないか!だから俺が代わりにノイズを倒す。君の歌の力を、俺に貸してくれ!』

 

歌の力を貸す?なかなか面白い発想だ。奏は少し笑うと、

 

「私の事は奏でいいよ、謎の声の人。私の代わりをしてくれるなら、いくらでも歌ってやるよ!」

 

『俺は立花宙。奏、俺の為に歌ってくれる?』

 

「勿論だ!それでノイズが倒せるなら!」

 

突如として、奏の足元に光が灯る。それは、徐々にステンドグラスの体を成していき、足元に巨大な絵が出現した。

 

交錯する槍と鍵。槍の方に自分と瓜二つの少女が歌っているような姿、鍵の方にツンツン頭の少年が自分のガングニールを纏っているような姿だった。

 

奏は、ガングニールの聖詠を歌った。

 

「Croizal ronzell Gungnir zizzl」

 

奏の意識は現実世界に引き戻された。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

それは、奏の絶唱の後に起こった。突然、宙のキーブレードが眠れる獅子(スリーピングライオン)に変化したと思えば、奏の絶唱のエネルギーを吸収し始めた。そして、

 

キーブレードは大型の槍に変化して、彼の服の色が少し赤みがかったオレンジに変化した。

まるで、奏がガングニールを纏っているかのように。

 

「奏!何で絶唱を使ったの!?ガングニールは?やっぱり限界だったんじゃ…」

 

「翼はせっかちだなあ。どうやら私は、戦うことは出来ないらしいよ。だから、私の力(ガングニール)は、そこの少年に託したから。それでも、歌はやめないけどね!」

 

※推奨BGM「逆光のリゾルヴ」

 

突然頭に湧いた、新しい曲。一時的にでもお前と翼の為に歌うんだ。私の力、無駄にするんじゃないよ!

 

「行きますよ、翼さん。この場に剣と槍を携えてるのは、俺達だけだ!」

 

宙がノイズに突っ込んでいく。そして、それを大槍でなぎ払い殲滅する。しかし、ノイズは減るどころかハートレスが増えてかえってこちらが不利になる。

 

「行くよ!STARDUST∞FOTON!!」

 

「こちらも行くぞ!千ノ落涙!!」

 

翼が飛び上がり、宙が槍を空中に投げる。コンマ数秒のうちに、槍と刀の雨がノイズとハートレスに降り注ぐ。しかも、刀はノイズを中心に、槍はハートレスを中心にそれらを穿つ。

 

(凄い、この子とは初めて連携したはずなのに、まるでそばに奏がいるみたい…!)

 

ノイズとハートレスとの戦いの中、翼は目の前の少年の実力に圧倒された。

 

彼は恐らく一般人だったのだろう。少なくとも、今この場の戦場に来るまでは。だけど、いくらなんでも動きが一般人のそれとは違いすぎる。まるで、いくつもの戦場を潜り抜けてきたような、そんな動きだ。

 

「翼さん!伏せて!!」

 

咄嗟に後ろを振り返るとノイズが自分にぶつかってきた。

 

「キャア!?」

 

何とか寸でのところで躱しはしたが、肩口に浅い傷を負った。

 

「翼さん、じっとしてて!燃えろ(ファイア)!!」

 

宙は翼のそばに駆け寄り、槍を掲げて自分と翼を中心に小さな炎の渦を作り出し、ノイズとハートレスを焼き尽くす。

 

癒しよ(ケアル)

 

もう一度槍を掲げると、緑色の優しい光が翼の傷口を塞いでいた。

 

「あ、ありがとう…」

 

「どういたしまして。でも、ここからが本番かもよ?」

 

「え?」

 

宙が上を見上げ翼がそれを目で追うと、

 

無数のノイズとハートレスが集まり、四肢と首、胴体が離れた鎧が現れた。その胴体部分には、ハートを×字に切ったような赤いエンブレムがあった。

 

「これは、骨が折れそうだ」

 

宙は余裕が無いような声を上げたが、その表情は余裕が無いようには翼には全く見えなかった。

 

「さあ、歌うだけなら私にもできる。翼、私と合わせられるな?」

 

「奏…。分かった、2人、いや、3人(・・)で力を合わせよう!!」




「せめて、私に力があればな…」

奏は歌いながら呟いた。その右手に僅かな光が宿っていた。
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