戦場を駆る歌姫と記憶を無くした鍵使い   作:ネヘモス

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「それにしても、宙って歌上手いな。私から見ても素人には思えないぜ」

「そうそう、それ思った。ねえ、二課に来れる手っ取り早い方法思いついたけど」

「それならもう手を打ってある」

以上、ツヴァイウィングと風鳴弦十郎の会話より。


響き渡る覚醒の歌

立花響。今年から私立リディアン音楽院高等科に通うことになった高校1年生。彼女は、あの惨劇の生き残りとなったせいで世間からこう呼ばれていた。

 

人殺し。

 

ノイズひしめく惨劇の最中、彼女は逃げようとして義弟の宙とはぐれてしまった。彼を探す中、彼女は見たことない大槍を振るう天羽奏の姿を目撃する。だが、それが運の尽きだった。奏さんの纏っていた鎧の破片が彼女の心臓近くを穿ったのだ。

 

ここで死ぬのか、諦めたくないのに。そんな事を考えた矢先、

 

「生きるのを諦めるな!!」

 

奏さんが駆け寄ってきて私に檄を飛ばしてくれた。私は、生きたい。例え、この身体が動かなくなっても、生きるのを諦めたくない!

だが、現実はどこまでも非情である。後ろに迫るノイズとアンノウン、宙はハートレスと呼んでるが、その大群が奏さんの背後に現れた。私はそれを見た後、絶望して気絶した。

 

私はこの時夢を見た。

 

いくつもの鍵が突き刺さる墓場のような場所。

 

その岩山の頂上に立つ金色の双眸の老人。

 

老人を取り囲むように浮遊する13の黒い鍵。

 

老人に捕えられている赤髪の、自分と同じ年頃だろう少女。

 

そして、老人が少女を慈悲もなく斬り捨てる。

 

少女は霧散し、その世界から消滅する。

 

「カイリーーーー!!」

 

残ったのは、悲痛な少年の叫び。その声は偶然なのか、宙によく似ていた。ここで視界がブラックアウトして、私は真っ暗な空間にいた。

一歩前に踏み出すと、私の足元に大きなステンドグラスが現れた。

 

私が眠ってる姿。だけど、見覚えのない何かを纏っている姿の。その寝顔の隣に3人の少女の顔。2人は分かった、ツヴァイウィングの風鳴翼さんと天羽奏さん。あと1人の銀髪の少女は分からない。

そして、交わる3本の鍵。左右に白と黒、真ん中に古いような鍵。真ん中の鍵は、宙が使っていたものだろうか。なら、残り2本は誰が…?

 

『そろそろ起きる頃だよ、響』

 

その声を皮切りに、私の意識は現実に戻され、私は病室のベッドにいた。私が運ばれてきた時は胸の傷以外全て完治、生きていたのが不思議なくらいの出血をしてたにも関わらず生きていた。そして、隣を見るとそこには未来の姿があった。気持ち良さそうに眠っていて、起こすのが可哀想だなと思ったその時。

 

「目覚めたか」

 

未来の反対、場所的に窓際にあたる場所に黒コートの少年が佇んでいた。

 

「お前も厄介な運命(モノ)を背負っちまったな」

 

「何の、話…?」

 

少年が右手を掲げる。するとそこに黒い刀身に鎖がついた、悪魔のような黒い鍵が現れた。

 

「キー、ブレード…?」

 

「やっぱり、ソラからキーブレードの事は聞いてるようだな」

 

「あなたは、誰…?ソラの、知り合い…?」

 

「知り合い、ね。そんなヤワな関係じゃない。何せ俺は」

 

「ソラ」から生まれた存在だからな。

 

頭がフリーズするのを感じた。少年の言ってることが分からなかったのだ。

 

「まあ、ソラが自力で思い出すことに賭けておくよ」

 

すると、少年の周囲にハートレスが出現するような門のようなものが現れ、少年はその姿を消した。

 

(ソラから生まれた存在ってどういう事…?)

 

私はそのまま眠りに落ち、次の日、退院することが決定した。宙がようやく見舞いに来たのでとりあえずホッとした。

 

だが、私に地獄が待っていた。

 

『近づくな人殺し』

 

『何でお前だけ生き残ったの!』

 

私の、正確には私達姉弟だけが生き残った事実は、この国の世間を敵に回した。惨劇の生き残り、響きは良いが被害者からすればこれほど憎たらしい存在はいないだろう。私だって死にかけたのに、何でそんなこと言うのかと家に引き篭ったこともあった。だがある日、いつもの嫌がらせを受けていた時、ハートレスが現れた。ハートレスは私を嫌がらせした人たちを襲おうとした。一瞬、自業自得と思って見捨てようとも思ったが、私はその人たちを突き飛ばした。今度こそダメかと思ったが、私はすっかり忘れていた。

 

スパァン!

 

ハートレスを倒す存在が身近にいた事に。そして、それがハートレスを倒した事に。

 

「もう大丈夫。ハートレスは倒したから」

 

その存在、宙はキーブレードを消し去ると、私にだけ聞こえるように囁いた。

その日以降、私が人殺しと呼ばれることはなくなった。嫌がらせをする人を命を張って助ける人が人殺しな訳が無いと言い始め、本当の人殺しは宙だと言う人が多くなった。

 

何も知らないくせに。

 

宙がハートレスを秘密裏に倒してるのを知らないくせに!

 

だけど、宙はいつも笑っていた。これが日常だから仕方ないと。そして、彼は近所の一般私立に、私はリディアンに通うことになった。だが、

 

「そう言えば、響は特別にリディアンに来ることになった男子生徒のことって知ってる?」

 

未来から爆弾発言が飛んできた。

 

「え?聞いてない」

 

「なんでも、その男の子は歌唱力がずば抜けで、女子とデュエットしてもいい感じにバランス取ったりできるんだって」

 

へえ、何か特別な事情があって編入するとかそんなんじゃないんだと思いながら、響は歩を進める。

 

「どんな人なんだろ?」

 

「同じ1年だからすぐにわかったりして」

 

他愛もない会話を交わしながらリディアンに向かう響と未来。だが、まさかその正体が本当に身近にいる人間とは思いもしなかった。

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「立花宙と言います。よろしくお願いします」

 

響、頭が混乱中。未来、首を傾げる。すると、女子生徒の誰かがこんな事を聞いてきた。

 

『立花って、響さんと同じ苗字ですよね?血縁関係があるんですか?』

 

「ここでは響さんと呼んだ方がいいかな?響さんは俺の義理の姉です」

 

案の定、黄色い声援がクラスを包み込んだ。そしたら、やれ響さんとは恋人なのかだの、どこまで行ったのかだの宙にとって後者の質問は意味がわからなかった。そして、音楽の合唱の時、

 

「響さん!また間違えてますよ!」

 

「ごめんなさい…」

 

『凄い…。響さんと違って宙くん、全然注意受けてない』

 

どうやら歌唱力があるのは本当らしく、現に宙は注意を受けるどころか見事に調和するように歌ってのけていた。

 

その日の放課後、全員の部屋割りが決定した。宙は一人部屋で丁度場所は響と未来の部屋の隣だった。そして、響はツヴァイウィングのCDを買うために街に繰り出していた。だが非常に運の悪いことに、ノイズとハートレスに出くわした。しかも、

 

「お姉ちゃん、怖いよ…」

 

「大丈夫、離れないで」

 

母親とはぐれた女の子を庇いながら。だが、当然見つかってしまい、そのまま工場の頂上に行ってしまった。逃げ場がないのに今になって気がついた。

ノイズとハートレスが私たちを追い詰める。だが、私は

 

『生きるのを諦めるな!!』

 

「生きるのを諦めない!!」

 

奏さんの言っていた言葉を思い出し、一旦そこで意識が暗転する。

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『時が来たね。後は頼むぜ、私の後継者さん?』

 

あの時のステンドグラスの上。胸から熱い何かが湧き上がる。そして、

 

「Balwisyall Nescell gungnir tron」

 

意識が現実に浮上する。何かが私の身体を蝕む感覚がする。まずい、意識を、持っていかれる…。

だが、寸前で止まり私の身体をオレンジのアーマーが包み込む。私は身体の変化に戸惑いつつ、女の子を庇うようにノイズとハートレスに立ち塞がる。ノイズが私目がけて攻撃してきて、それを咄嗟に拳で殴る。

 

そして、ノイズが霧散した。この力なら、戦える!

 

「お姉ちゃん!アンノウンが!!」

 

「え?がっ!?」

 

いつの間にか背後にいたハートレスに攻撃される。

 

(しまった!?ノイズに気を取られたらハートレスにやられる!)

 

届かない、拳が。このままでは、女の子が…!

 

「スライドダッシュ!」

 

一筋の光が走り、ハートレスを倒しつつ女の子を助けた。響は知っている。現状ハートレスを倒せる存在が一人いることを。

 

「宙!」

 

宙は何も言わずに視線で逃げろ、と言ってきた。だが、宙の方はノイズ、響の方はハートレスに囲まれた。しかし、宙は落ち着いていた。

 

「翼さん、行きますよ!シンフォニックフォーム・セイバーです!」

 

「あいわかった!見せてやろう、防人の覚悟を!」

 

空から女性の声が聞こえたと思うと、なんと本物の風鳴翼が飛行機から飛び降りてきた。

 

「「Imyuteus amenohabakiri tron」」

 

そして、翼さんと宙の衣装が変わる。空をイメージした水色の衣装に。さらに、宙のキーブレードが身の丈程の刀に変化した。

 

「「聞け!防人の覚悟を!!」」

 

二振りの刃が、ノイズとハートレスに牙を剥く。




「アイツは何者だ?フィーネ。アンノウンを倒せる人間なんて聞いたことないぞ?」

『ふーん、宙くんと奏ちゃん以外にいたのね、キーブレード使い』

「キーブレード?」

『いつかわかる日が来るわ。そう、近いうちにね…』

以上、クリスとフィーネの会話より。
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