「ねぇ、アレってなんの騒ぎ?」
「俺が知ってると思うか?」
屋内対人戦闘訓練が行われた次の日、俺と響香は雄英の校門の近くまでやって来たんだが、なんか校門の前に人集りが出来ていた。なんかマイクやカメラを持った奴等ばっかりで、校門を通ろうとする生徒1人1人にマイクを向けて話し掛けてるな……ってことは、アレ全部マスコミか?
「なんでマスコミがこんなにいるんだ?」
「あ、アレじゃない?ホラ、今年からオールマイトが教師になったから」
「あー……成る程、理解した」
つまりは俺達生徒にオールマイトの授業はどうだったか取材したいって事かよ?ったく、しょ〜がねぇ〜なぁ〜?
「おい響香、ちっとばかし気持ち悪いが、我慢しろよ?」
俺は響香の手を握り、“平行世界”で回収した普段は危険過ぎるのであまり使わないある“能力”を発動させ、校門に向かって歩いて行く。
マスコミ達は俺達が目の前を歩いても
「よし、さっさと教室に行くぞ……って、どうした?なんか顔が赤い様な気がするが…?」
「へ!?い、いや別に?なんでもない。ホラ、早く教室に行こ!」
響香はそう言うとさっさと靴を履き替えて教室に向かって走って行った。気の所為だったのか?
★
その後俺は教室に向かい、席に着いて暇を潰していると、イレイザーヘッド…もとい相澤先生が入ってきてホームルームが始まった。朝の挨拶から始まり、相澤先生は昨日の授業で行われた屋内対人戦闘訓練の簡単な講評をした相澤先生はさて、と本題に入った。
「ホームルームの本題だ。急で悪いが、今日は君等に……学級委員長を決めてもらう」
(((((学校っぽいの来た〜〜!!)))))
普通に学校でありそうな事を言った。いきなり臨時テストを入学式に参加せずにやらせた相澤先生だから、また何かしらの臨時テストをするんじゃあーねぇーかと思って、ちっとばかし身構えちまったぜ。
俺は学級委員長なんて面倒だからやる気はねぇーんだが、他の生徒達は響香も含めて自分がやりたいと手を挙げる。
ここヒーロー科では多くの人間を纏め上げる技量を培うことが出来るっつー理由から、今のように率先してやりたいと願う奴が多いって波動先輩に教えて貰ったが、まさか俺以外の全員がやりたいって言うとは思わなかった。
「静粛にしたまえ!!」
突然の飯田の声に全員がピタリと動きを止め、静かになった。
「『多』を牽引する責任重大な仕事だぞ…!やりたいものがやれるモノではないだろう!周囲からの信頼あってこそ務まる聖務…!民主主義に則り真のリーダーを皆で決めるというのならば……これは投票で決めるべき議案!!」
まぁ確かに飯田の言う事にも一理あるな。後から不平不満が出るよりは、全員で相応しい人間を最初に決めた方が後腐れがなくていいだろぉ〜しな。
だがよ…………。
「「「「「腕聳え立ってんじゃねぇーか!」」」」」
「何故発案した!?」
飯田の手が見事に真っ直ぐ真上に聳え立っていた。尤もらしい事言ってたが、お前も委員長をやりてぇーんだな。
まぁ、結局は飯田の発案通り投票で決める事になった。投票結果は緑谷が3票、
あん?俺?響香に投票したから0票だけど?
★
午前の授業が終わり、昼食の時間になった。俺は食堂で響香と一緒にランチラッシュが作った飯を食べていた。そういやあの人の“個性”ってなんなんだ?やっぱどんな料理でも作れる“個性”か?なんか“パール・ジャム”の適性持ってそうだな。
そんな事を考えながら注文したステーキ定食を食べていると、突然校内に警報が鳴り響いた。食事を楽しんでいた俺達生徒全員は驚いてついサイレンを鳴らす機械を見る。
『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんはすみやかに屋外へ避難してください。繰り返しますーーーー』
セキュリティ……そういや波動先輩が前に教えてくれたな。確か雄英高校の侵入者対策で、セキュリティ1から3まであり、3が最も厳重なシステムだって話だったな。セキュリティ1で『雄英バリアー』ってちょっとダサい名前の鉄の壁が門を封鎖するらしい。
つまり、それより上のセキュリティが突破されたって事は、誰かが態々侵入して来たって事だ。この学校に侵入する奴………敵か?
俺がそう考えていると、少し慌てた様子の響香が話し掛けて来た。周りにいた他の生徒は全員廊下に向かって走っている。
「どうする幽義!?ウチ等も避難する!?」
「……いや、それは辞めといた方がいい。今廊下はパニックになった生徒でごった返してるだろうからな。取り敢えず……“エアロスミス”!!」
俺は“エアロスミス”を飛ばしてレーダーを確認する。この食堂は校門に結構近い場所にある。レーダーで探知出来る範囲内にまだ侵入者が残っているかも知れないからな。
そして俺が思った通り、外に呼吸をしている人の反応があったんだが……なんだこの数!?
「5…10…ざっと見ただけで30人以上いるぞ!?テロリストでも攻めて来たってのかぁ!?」
「さ、30!?嘘でしょ!?」
てっきり1人2人程度だと思ってたが、想像以上に数が多い事に驚いた。だが様子がおかしい。敵の襲撃なら校舎内に強行しても変じゃあーねぇーが、何故かこの呼吸をしてる連中はその場から動いていない。それどころか暴れ回っている様子もない。
この場所なら廊下の窓から侵入者の姿を確認出来る筈だから確認したいんだが、廊下はパニックになった生徒でいっぱいで行けそうにない。………!そうだ!
「“ホワイトスネイク”!廊下に出て外の様子を確認しろ!」
『了解シマシタ』
“ホワイトスネイク”はそう言うと、生徒でごった返している廊下を歩いて行った。そして生徒達を
少しすると、“ホワイトスネイク”の声が頭の中に聞こえて来た。
『幽義様、ドウヤラ侵入者ハ、マスコミ ノ様デス』
「マスコミだぁ?」
「もしかして、今朝のマスコミ達?」
『ソシテ、校門ガ、粉々ニ破壊サレテイマス』
「……何?」
校門が粉々に破壊されてる?って事はつまり、マスコミはどんな“個性”か知らねぇーが、それを使ってまで不法侵入して来たって事になる。ただのマスコミがそんな事をしようと思うか………?
「……あいつを呼んで、後でちょっと調べてみるか」
「幽義?どうかしたの?」
「あぁ、ちょっと気になる事があってな」
その後、パニックに陥っていた廊下の生徒達は飯田が文字通り体を使って落ち着かせ、侵入者騒ぎは無事収まった。次いだに言うと、緑谷の代わりに飯田が委員長を務める事になった。
★
午後の授業が終わって下校の時刻になった。生徒達が下校して行く中、俺は今は綺麗になっている校門の前に立つ。“ホワイトスネイク”によると、この場所に校門と『雄英バリアー』の残骸が砂利の山の様にあったそうだ。
因みに今この場にいるのは俺だけだ。響香や一緒に帰るようになった波動先輩は先に帰ってもらった。
「さてと、“D4C”!」
俺は鞄から折り畳んだ国旗を取り出し、それを使ってコートの様なものに『A』の形の金具が付いたベルトが特徴的な服装の“平行世界”の俺を呼び出した。
「おう、久しぶりだな。“基本世界”の俺。今回は何の用で呼んだんだ?」
「あぁ、実はお前のスタンドで、今日の昼頃にこの場所で校門を破壊した奴を
「成る程な、了解したぜ」
そう言うと“平行世界”の俺は校門の方へ歩いて行く。そして自分のスタンドの名前を叫んだ。
「“ムーディー・ブルース”!!」
するとそいつが歩いた後に残像が残り、その残像が段々と姿を変え、やがて口や鼻の無い平たい顔面と、額に就いたデジタル目盛が特徴の紫が基調の色をした人型のスタンドの姿になった。
“ムーディー・ブルース”。第5部『黄金の風』に登場するレオーネ・アバッキオのスタンドだ。。指定した人物やスタンドの過去の行動を、その姿になってビデオの映像のようにリプレイし再生できる。指紋や脈拍、呼吸や体温まで完璧に見る事が出来、瞬間移動の様な“能力”で移動しない限り、どこまでも追跡する能力を持っている。
“平行世界”の俺は“ムーディー・ブルース”に指示を出した。
「“ムーディー・ブルース”!リプレイしろ!」
『トゥーーーーーー!!』
電話の音の様な声を出しながら“ムーディー・ブルース”は宙を滑る様に門の前に移動し、額のデジタル目盛りの数字と一緒にその姿を段々変えて行き、やがて灰色っぽい髪に全身黒い服装をした男の姿になった。
その後、リプレイでその男の行動を見たが、こいつは普通じゃあなかった。マスコミを誑かし、手で触れる様な動作をして校門と『雄英バリアー』を破壊、そしてふらりとその場から離れたかと思えば、「黒霧」と呟きそのまま追跡出来なくなっちまった。“ムーディー・ブルース”が追跡出来なくなったって事は、瞬間移動系の“個性”で何処かへ行ったって事だ。
(いったい何者なんだ?この男……?)
リプレイを一通り見終わった俺は、“ムーディー・ブルース”が変身した男について相澤先生達に報告した。しばらく説明に時間が掛かったが、大体1時間くらいで帰れた。
でもやっぱ、先生達びっくりした表情してたなぁ。