俺が“無個性”だと判明してから一気に飛んで7年、俺は小学5年生になった。
あん?一気に飛び過ぎ?済まないが幼稚園や小学校1、2、3年生くらいの頃の説明するのはちょっと泣きたくなるから勘弁してくれ………。
「あ、狭間奪。おはよう」
「ん?あぁ、耳郎か。おはよう」
朝、いつも通り学校への通学路を歩いていると、耳たぶがイヤホンのプラグの様になっている黒髪の女の子が俺に挨拶して来た。
彼女の名前は
彼女の“個性”は【イヤホンジャック】。耳たぶのプラグを壁や地面に刺すと微細な音を聞き取る上に、逆に自分の心音を大音量で放つ事も出来るらしい。
因みに彼女以外に親友どころか友人と呼べる奴はいない。俺が“無個性”だと判明した日から、“個性”が発現した奴等は俺とあまり関わらなくなったからだ。
特に強い“個性”を発現させたグループは自分がこの中で1番強いと思い込んで偉そうにしている。
耳郎はそんな中でも俺に関わって来た。なんでもいつも1人でいるから気になったんだと。
「…ッ!………はぁ、またか」
「え?………もしかして、また視線を感じたの?」
耳郎が俺が見た方向に目を向けながらそう聞いてくるので、俺は「あぁ」と小さく頷いて答える。
実はあの個性診断の日からずっと誰かの視線を感じるようになったのだ。常に視線を感じている訳ではないが、密室だろうがプールの水の中だろうが、文字通り場所を問わずに視線を感じる。
勿論この事は両親にも相談したが、今の様に解決は出来ていない。医者や警察、果てには一応探知系の“個性”を持ったヒーローに調査を依頼してもらったが、原因は不明のままだ。救いなのは、決して悪意や害意がある視線ではないとなんとなくだが分かる事だな。
「…………はぁ、ダメ。やっぱり近くに誰もいないっぽい」
「まぁ耳郎の“個性”で解決出来たなら、今頃この視線を気にする事さえなかっただろうしな」
耳郎は地面のアスファルトと近くの家の塀にプラグを刺して音を探知しようとしたが、やはりというか…何も聞こえないらしい。ホント、なんなんだこの視線は?
「……ごめん、狭間奪」
「気にしてんじゃあねぇ。プロヒーローでも解決出来なかったんだ。ガキの俺達じゃどうにもならねぇーよ」
耳郎が申し訳なさそうに謝って来たが、ホントに彼女が気にする事じゃあない。ヒーローや警察の中には俺の頭がおかしくなったんじゃないかとか失礼な事言って来た奴等もいた。俺からしたら信じてくれているだけで有難い。
「それより、あまり“個性”を人前で使わない方がいいぞ?警察にでも見られたら面倒だしな」
“個性”は身体能力の一部だと言われているが、基本的に公共の場での“個性”の無断使用は違法とされている。当然傷つけるなどは論外だ。耳郎がやるとは思っていないが、“個性”は身体能力の一部とは言え簡単に人を殺せる力だ。だから法律で厳しく取り締まられている。
まぁ、それを守らずに
「んじゃ、早いとこ学校行こうぜ。遅刻したら先生がうるせぇ〜からな」
「うん。分かった」
その後は特に何事も無く現在通っている小学校に到着した。それからは普通に学校の授業を受け、学校が終わるのを待つ。前世では大学生だったので、小学校の勉強はかなり楽だ。
そして数時間後、下校の時刻を迎える。
「狭間奪、一緒に帰んない?」
「あぁ、別にいいぞ」
今日も耳郎に誘われて一緒に下校する。まぁこいつの家は俺の家の近所だからな。途中までは通学路が一緒なのだ。
今朝歩いて来た通学路を耳郎と一緒に話をしながら戻って行く。
「……あ?………ッ!!?」
その途中、俺達が進む先から1人の4本の丸太の様な腕を持った“異形型”と呼ばれる系統の“個性”の男性がふらふらとした足取りで歩いて来るのが目に入った。それだけならまだいい。この道は滅多に人は通らないが、通る時は通るからな。
だが、こいつは明らかに異常だ!
口から泡吹いてるし、目は血走って焦点が合ってないし、なんかブツブツ言いながら歩いてるんだぜ?
普通に考えてヤバいと思うだろ!?
「ね、ねぇ……何?あの人……」
「さ、さぁな。俺には違法薬物かなんかやってて正気を失った奴に見えるが…?」
多分俺の答えは正解だと思う……じゃねぇーわ!!どうすんだこの状況!あれが攻撃してこない可能性は限りなく低い!だって何かこっち見ながら飢えた肉食獣みたいな唸り声上げてるんだぞ!?
「………耳郎、この近くに確かヒーロー事務所あったよな?お前はそこまで全速力で走って助けを呼んで来い」
「お、お前はって……狭間奪はどうすんの!?」
「俺はちょっとだけ野郎の相手を……ッ!?ヤバッ!!」
男は近くにあった道路標識を引っこ抜きながら俺達に接近し、それを俺達に向かって振り下ろして来た。俺は耳郎を引っ張ってなんとかこれを躱したが、俺達が立っていた場所には道路標識がめり込んでいた。
「耳郎!早く逃げろ!こいつはマジにヤバい!」
「で、でも……!!」
「いいから早く行けェ!!そんでもって、ヒーローや警察にこの事を伝えろ!!」
「ーーーッ!!」
ちょいと強く言い過ぎた気もしなくもないが、涙を浮かべながらも耳郎はヒーロー事務所がある方向へ走り出した。男は逃げる耳郎に目を向けるが、俺に狙いを定めたのかすぐに俺に向き直る。
(さてと、耳郎をここから逃がせたのはラッキーだが……コレ、どうしたもんかなぁ?)
俺は目の前の殺る気満々の野郎を見ながら冷や汗を流し、この後どうするか考えるのであった。