一周した世界線 作:Achoo!
どこで切るべきか迷った結果、全部繋げました。今回は長い。
「そういえば暁、落し物を引き取りに来た人っていたのか?」
「おったよ」
翌日。
午前中の授業を終え、いつものメンバーで昼食を摂っているとレオが質問をしてくる。ちなみに達也は深雪さんに生徒会室へ連行されていった。
「なによ、その落し物って?」
「エリカちゃん見てないの?昨日、財田くんが学校の掲示板に広告を載せてたはずだけど...」
「あ、あれね!」
「落し物の主、どんな奴だったんだ?」
「気にする程じゃないだろ...」
レオの問いにそう答えつつ、日替わりメニューの麻婆丼をつつく。本格中華料理とまではいかない、程良い辛さがクセになる。やはり学食は良い物だ。
「暁?」
「ん?」
急に後ろから呼ばれて振り返ると、そこには北山さんと光井さんが昼食の乗ったトレーを持って立っていた。
「あら、雫にほのか。どうしたのよ?」
「実は場所が空いてなくて...」
「一緒に食べて良い?」
「構わないけど...ほらレオ、そっちもっと詰めろ」
「うおっと...ちょっと待ってくれよ」
無理矢理レオを奥に詰めさせて、座席にスペースを作ると隣に北山が座る。そしてその対面に出来たスペースに光井が座った。
「何の話をしてたの?」
「落し物の話だけど」
「落し物?」
「雫ちゃん、あれだよ。昨日掲示板に出てた...」
「あ、あれのこと?」
そんな話をよそに麻婆丼を食べ進める。でっかいどんぶり一杯分を食べ切ると、一緒に注文したヨーグルトへと手を伸ばす。が―
『皆さん!!』
「うるせぇな!」
「ちょっと一体なによ!?」
スピーカーから爆音で流れる放送に行動を遮られる。
「......」
「あ、暁さん...?」
「...(#^ω^)」
「あっ...」
何故このタイミングで放送を入れる?
良い加減にしやがれ。ヨーグルトが食えないじゃないか。
『失礼しました。
皆さん!私達は第一高校での生徒差別撤廃を求める有志同盟です!』
どこで放送をジャックしているのかは知らないが、随分と大層な事をするな...と思っていると持っていた情報端末に電話が入る。
「ちょっと外すよ」
そうみんなに言うと席を立ち、廊下近くまで移動すると電話に出た。
「はい、もしもし?」
『暁、呼び出しだ』
「達也...って事はさっきの放送か?」
『ああ。差別撤廃有志同盟のメンバーがマスターキーを奪って放送室を占拠した。その対応だ』
「マジかよ...あとヨーグルト食べるだけだってのに...」
『とにかくだ。渡辺先輩からは放送室前で集合する様にだと』
「りょーかい...」
電話を切るとテーブルへ戻りトレーを片付ける。
「どうした?まだヨーグルト残ってんじゃん」
「呼び出しだよ...さっきのやつ」
「何かあったの?」
「有志同盟のメンバーがマスターキー奪って放送室を占拠してるんだと。で、風紀委員の招集がかかった」
「あらら...」
「ヨーグルト残すのも勿体無いし...誰か食うか?」
しかし誰も手を上げない。そんなにヨーグルトが嫌いなのか...
仕方が無いのでヨーグルトを飲む様に食べると食器とトレーを返却台に戻し、放送室へと向かった。
もっとゆっくり食わせろってんだコノヤロー。
ーーー
「財田、只今参りましたー」
放送室前には風紀委員が進入規制を行っており、それ以外の生徒が通れない様になっていた。
「来たか暁」
「おうよ。しかしなんで生徒会や部活連の方々まで?」
そこに居たのは風紀委員だけではなく、七草会長をはじめとする生徒会メンバー、十文字会頭をはじめとする部活連メンバーまで来ている。
「有志同盟が学校側に要求を突きつけたんだ。その内容が『生徒会と部活連に対し、対等な立場における交渉』でね」
「なるほど...で、今のこの状態は?」
「放送室を占拠されている上に鍵もないからな。一応電源を切ったためこれ以上の放送はできなくなったが、どうにかして中にいる生徒達と話をつけたいらしい」
「...なあ、もし俺がここの鍵を開けられるって言ったら?」
「どういう意味だ?」
「言った通りの意味なんだが」
「話を聞かせて貰おうか?」
達也と話している所に渡辺先輩が割り込んでくる。
「窓ガラスが一枚お釈迦になりますけど、その代わりにここを開ける方法があります」
「ほう。言ってみろ」
「外からロッククライミングの応用で入るんですよ。幸い放送室の窓周辺には木が沢山あるので、それを利用すればすぐに侵入できます」
「そして突入時に窓ガラスが一枚犠牲になるか...不法行為を放置すべきではない。だが施設を破壊してまで性急な解決を要する犯罪性もない、と考えるのが妥当だ。少し考えさせてくれ」
「わかりました」
そう言うと渡辺先輩は七草会長や十文字先輩と話し合いを再開する。
差別については言いがかりであるため、ここでしっかりと反論しておけば後顧の憂いを断てると、七草会長や十文字会頭は考えているらしい。
何の気なしにその状況を見ていると、隣に立っていた達也は情報端末を取り出し誰かへ連絡を取り始めた。
「壬生先輩ですか、司波です。それで今どちらに?はあ、放送室ですか。それはお気の毒で...いえ、馬鹿にしているわけではありません。先輩ももう少し冷静に状況を」
達也が連絡している生徒は、多分放送室内にいるのだろう。しかしなんでそんな生徒のプライベートナンバーを知っているんだ...
「ええ、すみません。それで本題に入りたいのですが、十文字会頭は交渉に応じると仰られています。生徒会長の意見は未確認ですが...いや、生徒会長も同様です。という事で交渉の日時について打ち合わせをしたいのですが。いえ、先輩の自由は保証します。はい、では失礼します」
達也はそう言って電話を切るとこちらへ向き直る。
「すぐ出てくるそうです」
「今のは壬生沙耶香か?」
「ええ、待ち合わせのためにとプライベートナンバーを教えられていたのですが...思わぬ所で役に立ちました」
「手が早いな君も」
「誤解です」
「達也...お前、入学早々に上級生に手を付けたのか...?」
「誤解だ。いい加減黙ってくれよ...」
そう茶化すと達也は辟易とした表情でため息をつく。あっ...なんか寒い。
「それよりも、態勢を整えるべきだと思いますが?」
「ん?」
「中の奴らを拘束する態勢です」
コイツ...始めからそれを狙っていたのか。
達也の考えを理解した自分とは違い、渡辺先輩達は怪訝な表情を見せる。
「君はさっき【自由は保証する】と言っていたはずだが」
「先輩、言葉の綾ってご存知ですよね?」
「なんだ財田、馬鹿にしているのか?」
「いや、そうではありませんが...」
「俺が自由を保証したのは壬生先輩一人だけです。それに俺は風紀委員を代表して交渉しているとは一言も述べていません」
ま さ に 外 道 。
そんな言葉がぴったりである。
「悪い人ですねお兄様は」
「今更だな、深雪」
「そうですね...」
あっ...さっきから寒いと思ったら、原因はそういう事か。
「でも、お兄様。壬生先輩のプライベートナンバーをわざわざ保存していらした件については...後でゆっくりお話を聞かせてくださいね」
「ああ...わかった」
御愁傷様です。
そんな彼らを他所に着々と制圧の準備は進む。
「渡辺。出来れば手荒に取り押さえるのは控えてくれ」
「構わないが...向こうの出方次第では力づくになりかねんぞ?」
「中の奴らは恐らく司波の言葉で油断している。取り押さえるのは容易なはずだ」
「...分かった。そういう事だ、全員一人づつで構わん。丁寧に対処しろ」
「「「「了解!!」」」」
放送室のドアが開け放たれ、その瞬間風紀委員達がなだれ込む。中にいた生徒は数人だったので制圧は容易だった。
「どういうことなのこれは!私達を騙したのね!?」
【自分だけ】の自由が保証されていると気付いていなかった壬生先輩は達也に少々ヒステリックな様子で詰め寄る。そこへ十文字会頭が声をかけた。
「司波はお前を騙してなどいない」
「十文字会頭...」
「交渉には応じよう。だが、それとお前達の取った手段を認めるかどうかは別問題だ」
壬生先輩が悔しそうな表情をする中、その発言に七草会長が待ったをかける。
「それはその通りなんだけど...」
「七草?」
「彼らを離してあげて貰えないかしら?」
「だが...!」
「分かっているわ摩利。でも壬生さん一人では交渉の段取りも出来ない。そして当校の生徒である以上は、逃げられるということも無いのだし」
「私達は逃げたりしません!」
「会長、学校側はこの件について、生徒会に委ねるそうです」
「わかったわリンちゃん。壬生さん、これから貴方達との交渉の打ち合わせをしたいのだけど、着いてきてもらえるかしら?」
「ええ、構いません」
その後生徒会と差別撤廃を目指す有志達の打ち合わせが行われた。だが差別撤廃を謳う割に具体的な手段については学校側...ひいて生徒会側に委ねるという残念な意見だった。
結局週末に有志達と七草会長とで公開討論会を開く事になり、その会場警備に風紀委員会が追われる事になった。
ブラック企業とはまさにこの事か。
そう思ってしまい憂鬱になった。
...いや、財団はもっとブラックだったわ。
次の投稿は来週です。多分。