一周した世界線   作:Achoo!

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朱は多芸です。
頼まれれば主人公の偽物くらい完璧にこなします。


ガサ入れ(強襲)

上空300mから真っ直ぐに落下する。

ただしスカイダイビングの様に頭が下ではなく、足が下だ。そしてパラシュートは装備にはない。

 

そのまま地上まで落下すると、ワイヤーを起動しワイヤー先のフックを建物の壁に固定。続けてジャンプパックを起動し落下の勢いを殺し、着地する。

ワイヤーの固定を外しつつ、ライフルを構えて周辺警戒に入った。その間も続々と隊員が地上へと降下し、それぞれの持ち場へ着く。

 

「総員、配置についたな?」

《okです!》

 

突入箇所は東西の2つ。

それぞれの部隊には突入箇所製作用にブリーチングチャージを装備させてある。

 

「ブリーチングチャージをセット」

「セット完了」

《Ω-11、セット完了》

「爆破しろ」

 

部隊員がスイッチを入れると、ブリーチングチャージが爆破され壁に大穴が空いた。

 

「突入!」

「「「「了解‼︎」」」」

 

一斉に穴へ入り、工場内へ侵入する。室内はかなり高さもあるので、機動戦用装備を準備させて正解だった。

 

「よし。総員、手筈通りに進めろ。Ω-11はSCiPらしき物を確保したら通信を送れ」

《了解》

 

隊員達がワイヤーとジャンプパックを駆使して室内を立体的に移動する。普通に走るより速いし、慣れればほとんど体力を使うこともない。

『問題は慣れるまで』と言われるこの装備だが、もちろん彼らにとっては慣れ親しんだ代物である。

 

「なっ、うわっ!?」

「ちょっと失礼!」

 

立体的に移動する隊員に驚愕した声を上げる連中を後ろから当て身で気絶させる。確かにショック弾専用のアサルトライフルを装備してはいるのだが、ショック弾を喰らうと最悪死ぬ可能性があるのであまり使いたくはない。

まあ、他の隊員は平気な顔をしてぶっ放しているのだが。

 

「なんだお前ら!?」

「はーい失礼、ガサ入れでーす」

 

連中の問いに軽い返答を返し、スタングレネードを放る。その瞬間にアベルが前に出て黒い剣を最大出力で展開し、防壁を作り出す。

結果、アベルの後ろにいた部隊員達は無事であり、閃光をもろに受けた連中はその場に倒れて気絶していた。

 

「よし、制圧完了だ」

《こちら【Ω-1101】。応答を》

「こちら【Ω-001】。どうした?」

《ああ、良かった。総隊長ですか...》

「何があった?」

《こちらで【ブランシュ日本支部】のリーダー、『司一』を捕縛しました》

「あれ、そっちだったか」

《それと...》

「...なんか面倒事か。わかった、そっちに向かう」

《すみません》

 

通信を切ると隊員に指示を出していたアベルに向き直る。

 

「向こうで問題が発生したらしい。ちょっと行ってくるから、ここの指示は任せた」

Bene est.(了解だ。)

 

 

 

ーーー

 

 

 

「暁?」

「...うん?」

 

███の頼みで屋上で偽物を演じていた所で誰かに声をかけられた。確かこの人は...

 

「どうした達也?」

「テロリスト達の制圧は終わったが、お前はどうするんだ?」

「もうちょっとここにいるよ。また何かあったら困るから、ここで警戒してる」

「そうか」

 

そういう彼の言葉に、私は普通では出さないレベルの【怒り】と【殺気】を感じた。

 

「なぁ達也」

「なんだ?」

「なんでお前そんなに怒ってんの?」

 

その言葉に彼は息を飲んだ。やっぱり図星らしい。

 

「...なぜそう思う?」

「んー、なんとなく分かるんだよね。今の達也の言葉には【怒り】とか【殺気】とか感じたし」

「...なら俺は連中に怒りを抱いているんだろうな」

「自分でも気づかなかった?」

「ああ」

 

そう言うと彼はこちらに背を向けて階段を降りていった。

今の感じから見ると、単身だろうとテロリストの連中のアジトに踏み込むつもりらしい。

多分それはこの学校の人達が許さないだろうから、皆んなで踏み込むんじゃないだろうか。

 

 

 

でもそれでは遅い。

 

「甘いなぁ...前に███がくれたチョコレートより甘い」

 

誰もいない屋上で私はそう呟く。

ああ、なんて彼は甘いんだろう。もう既に幕引きは始まっているというのに。

 

「やると思った時には、既に終わらせなきゃね」

 

彼が教えてくれたそんな言葉を思い出しつつ、私は柵に腰掛けると少しずつ夕暮れが近づく空へ手を伸ばした。

 

 

 

やっぱり空は赤くないとね。

 

 

 

ーーー

 

 

 

「総隊長、こちらです」

「ああ、ありがとう。捜索の方は?」

「ほとんど完了しています。こちらへ」

 

足早に西側区域へ向かうと、待機していた隊員に部隊が集まっている部屋へ案内される。

 

「うぅ...」

 

部屋には拘束された男を中央に、隊員達が周りを取り囲んでいた。

 

「総隊長、来ていただきありがとうございます」

「やあbailouter(ベイルアウター)。そいつが?」

「その呼び名は懐かしいですね。こいつが【ブランジュ日本支部】のリーダー《司一》です」

「こいつが?随分と優男だねぇ」

 

第一印象はそんな感じだ。だがそれなりの地位に就いていると言う事は、かなりのやり手だったのだろう。

だが今はそんな事などどうでもいい。

 

「で、問題は?」

「少し待ってください」

 

Ω-11リーダー(ベイルアウター)はそう言うと、近くの隊員に指示する。しばらくすると、その隊員がアタッシュケースを2つほど持って来た。

 

「これですよ」

 

彼はケースを開ける。

その中にはどこか光沢のある真鍮色の鉱石が嵌め込まれた指輪が大量に入っていた。

 

「なるほどね...アンティナイトか」

「ええ。まさかこんなに所持しているとは、思いもしませんでした」

 

ーーー

 

【アンティナイト】

単一元素ではないが合金でもない、今のテクノロジーでは再現不能な一種のオーパーツであり、サイオンを注入することで《キャスト・ジャミング》の効果を持つサイオンノイズを発生させる。

サイオンさえ持っていれば使えるので魔法師出なくても利用可能である。

 

ーーー

 

「取り敢えずこれも【室戸行き】確定だな...この量なら、あいつらが大喜びするぞ」

「ですね...」

「他に何かあったか?」

「【SCP-609】は相当数発見、確保しました。ですが1つとんでもない物が...いや、人というべきでしょうか...」

「なに?」

「こちらへ」

 

彼に着いて行くと、奥の部屋へ案内された。扉の隣は隊員が厳重に監視している。

 

「この子です」

「...嘘だろ」

 

部屋の中には1人の女の子が横たわっていた。軽く診察してみるとかなり痩せ細っているが、まだ生きている。

すると彼女は薄っすらと目を開いた。その目には灰緑色の陰がちらついている。

 

Who are you...?(あなたは...だれ...?)

「...I came to help you.(君を助けに来た。)It's all right now.(もう、大丈夫だ。)

 

彼女の質問にそう答えると、彼女は安心したように再び目を閉じた。

 

「過度の栄養失調だな...回収ヘリに医療スタッフと栄養点滴を載せて来るように伝えてくれ」

「室戸まで運びますか?」

「ああ、この子はまだ大丈夫だ。それに向こうの方が施設が整っている」

「わかりました」

「それに言えば、彼女はSCiPだ」

「えっ?」

「【SCP-239】だよ。強力な現実改変能力を持っている」

「それって室戸に搬送して大丈夫なんです?」

「あそこなら大丈夫だ。あそこは旧【財団 日本支部】だぞ?」

「そういやそうでしたね...」

 

そう言うと彼女を抱きかかえると、部屋を出る。既に《司一》は【Ω-7】の方に送られたらしい。それを確認すると隊員に告げる。

 

「これより我々は撤退する。【Ω-7】は【EDC】に任務を引き継いで往路と同じヘリで撤退、【Ω-11】は一時的に別のヘリで撤退、その後静岡沖で【Ο(オミクロン)-4 機動艦隊】と合流し室戸へ向かってくれ」

「「『『了解‼︎』』」」

 

外へ出ると2機の輸送ヘリがホバリングを行なっている。

一方は少しずつ高度を下げると少し空いた場所に着陸し、一方は隊員のラペリング回収の準備に入っていた。

 

bailouter(ベイルアウター)

「どうしましたか?」

「彼女を頼むぞ」

「!...了解です」

 

抱きかかえていた少女を彼に託すと、ワイヤーを起動しフックをヘリに固定する。

 

「連休明けには多分【会議】が開かれる。またその時に会おう」

「わかりました。では...」

 

彼は着陸した方の回収ヘリへ歩いて行った。既に任務は【EDC】に引き継いである。後は撤退するのみだ。

 

「じゃ、帰りますか...」

 

そう言うとジャンプパックを起動し、ワイヤーを引き込んでヘリへと上昇していった。

 

 

 

 

作戦、終了。




・SCP-239 『ちいさな魔女』 m0ch12uk1様
http://ja.scp-wiki.net/scp-239

ーーー

筆が進む今日この頃。

多分GW中はこうもいかないだろうなぁ...

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