一周した世界線 作:Achoo!
連休最終日。
今日は【世界異常現象安全保障会議】の当日である。ちなみに今年行われたのは年初めの1回目以降では初だ。
と言う訳で、朱を引き連れて特課のオフィスビルにやって来た。
「こんにちはー」
「財田様ですね。皆様はもういらしております」
「その前に何処か着替える所ってあります?」
「それでしたら彼処の更衣室をお使いください。私はここでお待ちしているので」
「ありがとうございます」
案内された更衣室に入ると、持ってきていたリュックサックから着替えを取り出す。最初から着て来れれば良いのだが、何処に人の目があるかは分からないのでしょうがないだろう。
「終わりました」
「ではこちらへ...」
案内係について行く。ビルの地下の構造はかなり複雑であり、会議室はその最奥部に位置している。
「こちらです。どうぞ」
「ありがとうございます」
案内係が開けたドアをくぐると、目の前には円形の形をしたテーブルとその周りには椅子、そしてその椅子には参加を表明した各組織のリーダー達が座っていた。
「遅れてはいませんよね?」
「ああ。だがこれで全員揃った。始めよう」
「わかりました」
そう言って1番奥にある議長席に座ると、リーダー達の顔が引き締まった。
「では、今年度第2回【世界異常現象安全保障会議】を開始します。
今回の議題は前もって公安部特事課の響管理官から皆様に送られた通り、
・NHTICDから報告があった【陸軍 独立魔法科大隊】について
・公安部特事課による【ブランジュ日本支部制圧作戦】の報告
・関連した他の【要注意団体】の対策
とします。異議はありませんね?」
「あー、ちょっといい?」
「...なんですMr.アンダーソン?」
そこに話を入れてきたのは【Anderson Robotics Corporation(ARC)】の経営責任者、『ヴィンセント・アンダーソン』だ。にしてもこの人何処か
「ウチと室戸研が共同開発してるヤツの最終報告書が出来たから、議題に追加してくれる?」
「...そういう事は先に連絡してください」
「あれ?そうだっけ?」
「...取り敢えず議題の追加について異議はありますか?」
「「「異議なし」」」
「ではこれより議題に入ります。
最初ににNHTICDから報告を行います。中嶋課長、お願いします」
「わかりました」
対面左側から1人の男が立ち上がる。彼の名は『中嶋 遊哉(なかじま ゆうや)』。
海外や各省庁の対異常諜報を行う【防衛省 国家高脅威情報収集課】のリーダーを務めている。
「今回、財田議長から依頼された、【防衛省 防衛陸軍 独立魔法科大隊】の調査結果を報告させて頂きます。
手始めに我々はその部隊の起源について調査しましたが、この際発覚したことがあります。
それが『部隊創立者が【大日本帝国陸軍特別医療部隊】、通称【負号部隊】のメンバーだった』という事です」
その事に会議室が凍りついた。
あらかじめ知っていた自分や響さん、そしてTHIの代表として来ている柳瀬川さんはそんな事は起こらなかったが、やはりかなりインパクトのある内容だったらしい。
「質問よろしいでしょうか?」
そう声をあげたのが【世界オカルト連合(GOC)】の『D.C.アルフィーネ』事務総長だ。
この名前自体は事務総長就任時に受け継がれる偽名であるため、ほとんどの人物が彼女の本名を知らない。
「どうぞ、Ms.アルフィーネ」
「その人物は今も生存しているのですか?」
「いえ、既に2010年代に亡くなっているようです。かと言って【独立魔法科大隊】自体が、超常現象を起こす可能性が無いとは言い切れません。
ましてやかつての目的であった【不死身の戦士】を作り出すための実験を行っている可能性も、なきにしもあらずでしょう」
中嶋課長はその質問に少し残念そうに解答する。いくら裏部門であるとはいえ、彼自身の所属組織は防衛省だ。身内の事を信頼したい気持ちも分かる。
ここで自分がTHIと取り決めた事を話しておいた方が良い、と判断し発言する。
「先日自分がTHIを訪れた際、THIの柳瀬川部長と軽く打ち合わせを行いました。柳瀬川部長、その内容を話してもよろしいですか?」
「ああ。構わないぞ」
「ありがとうございます。この事を受けてTHIは防衛省、特に魔法関係の部署への納品を少し見送る事が決定しました。
並びに室戸研究所との連携を再度確認、強化する方針だそうです。初瀬所長、間違いありませんね?」
「間違いありませんよ」
自分の問いに答えたのは【国立 室戸研究所】の『初瀬 麻耶(はつせ まや)』所長。
研究所のまともな方々を取りまとめ、イカれた方々を抑え込む苦労人である。
「ですが今回のことも考えて、私達としてはTHIだけでなくARCも含めて3方面の連携を確認、強化する必要があると愚考しますが...」
「...そこはこの後に3人で話し合ってください。決まったらこちらに連絡を」
「了解です」
取り敢えず1つ目の議題についてはこれくらいで良いだろう。
次の議題に取り掛かる。
「では2つ目の議題に入ります。先日行われた【ブランジュ日本支部制圧作戦】の報告を自分から行わせて頂きます」
「で、結果はどうだったのさ?」
アンダーソンが呑気に聞いてくるが、今回はそんな呑気に語って良い物ではない。
「結果は構成員ほぼ全員、並びにリーダー《司一》の捕縛に成功、そしてかねてより所持が発覚していた【SCP-609】全て、そして【アンティナイト】の確保を完了しました」
「ふーん...ならこれで終わり?」
「が、問題はここからです」
「?」
「【SCP-239】、彼女が彼らに監禁されていました」
「「「!?」」」
まあ、これは明らかに度肝を抜かれる報告だろう。
「ちょっと待って、彼女が?」
「ええ。今は室戸研にて保護、療養を行なっています。初瀬所長、今の彼女の容態はどうなっていますか?」
「彼女は栄養失調だったので、点滴の投与とメンタルヘルスカウンセリングを行なっています。
それと【SCP-053】が彼女に興味を示したので2人を会わせたところ、よく笑うようになりました」
「...良かった」
今の彼女の報告を聞いたアルフィーネ総長は安堵の声を漏らす。【SCP-239】はオブジェクトとは言え人間である。今の彼女の状況に安心したのだろう。
「...しかしなぜ【SCP-239】が連中に監禁されていたのだ?確か彼女は...」
「柳瀬川部長が疑問を示すのも頷ける。彼女は【現実改変能力者】、それも最高位に位置するレベルだったな?」
疑問を示す柳瀬川部長に同意し、こちらに質問を投げてきたのは『J・エドガー・フーヴァー・jr.』。彼は【アメリカ連邦捜査局異常事件課(FBIUIU)】の局長を勤めている。
「その通りですMr.フーヴァー。
なぜ最高位に位置するレベルの【現実改変能力】を持つ彼女が、連中に監禁されたのか。簡単ではありますが、仮説を立てました」
「聞かせてもらえるかしら?」
響管理官が興味を示したのを始めとして、ほぼ全員の視線がこちらへ向く。
「簡単に説明すると【ホメオパシー】ですよ。かつての財団が彼女に行ってきた事が今回の事態を招きました」
「【ホメオパシー】だと?」
「はい。連中は【アンティナイト】を所持していたのは先ほど話しましたよね?」
「ああ。全て接収したのだろう?」
「問題はこの【アンティナイト】と、財団が行ってきた『彼女の【現実改変能力】を【魔法】だと認識を植えつけた』事です」
「あーなるほど。完全に大体わかった」
アンダーソンがそこへ口を出す。聡明な彼は今の一言で全てを理解したらしい。
「つまりさー、彼女が自分の能力を【魔法】だと思っていた事に対して、【アンティナイト】による魔法妨害が働いたってことでしょ?」
「概ねそうじゃないかと」
「認識の植えつけによる影響か...彼女自身、いつから財団に保護されていたんだ?」
「誕生してからすぐに保護されました。そのため認識を植えつけるのが容易だったので、今回の事態を招いたのだと思います」
「なるほどな...」
「とにかく今回の事態で、まだ世界中には確保されていないオブジェクトがあると考えた方が良いでしょう」
「要注意団体の対応にも改善が必要となるかもしれないわね」
「それを次の議題で話し合います」
そう言って時間を確認するとかなり時間が経っていた。休憩を入れる必要があるだろう。
「ですがその前に一時休憩としましょうか。次の開始を15分後としますので、それまで休憩なさってください。
あ、初瀬所長達は協力体制の再確認を行なっても構いませんよ?」
「わかりました」
初瀬所長達が部屋を出て行くと、ほとんどの人が部屋を出る。多分飲み物でも飲みに行ったのだろう。
思いっきり椅子のリクライニングを下げてたおれこむ。休憩中だし、室内には誰もいないので特に問題はない。
「疲れたなぁ...」
そう小声で呟くと、頭から胸の方に移動してきた朱がコテンと倒れてくる。その頭を軽く撫でてやると何処か嬉しそうに身を震わせた。
「頑張るしかないよなぁ...今の人類が
会議はまだまだ続く。
後編へ続く。