一周した世界線 作:Achoo!
主人公の素性が明らかに...⁉︎
早朝4時。
普段では寝ている時間だが今日は身支度を済ませ、とある寺へと向かう。
「まだ早朝は寒いな...」
そんな事を言いつつ手に持ったおにぎりを食べ、寺の階段を駆け上がり門をくぐる。
「やあ、予定時刻ぴったりとは」
「当たり前だ。こちらから指定しておいて遅れるなど無礼千万だしね」
寺の境内には1人のお坊さんが立っていた。
彼の名は『九重八雲』。この寺の住職であり、古式魔法の1つ【忍術】を極めた人物である。
しかしそれは表向きの顔であり、実際には【世界オカルト連合 108評議会】の上席に座る人物だ。
「相変わらずその口調は変わらないね」
「いちいちあんた相手に変える必要もないしね。この時間に誰かいるわけでもないんだろ?」
「たしかに。こっちに来なよ」
九重は自分を縁側へと案内をする。
「それより他の連中は?」
縁側に座るなり本題を切り出すと、九重の細い目が少し開いた。
「五行結社は今の所は動いていないけど、加茂家は評議会に同調して少し動きを強めてはいる。吉田家はこちらに合わせると言っていたよ」
五行結社とはオブジェクトの徹底破壊を推進する組織であり、加茂家と吉田家は古来日本から続く陰陽道や神道に精通する家柄である。
「犀賀派の動きは?」
「今の所観測はしていない。第一に犀賀六巳は次元を超えて活動しているからねぇ...」
「一番あいつが問題だというのに...『大を守る為に小を切り捨てる』など認められたものじゃない」
そう吐き捨てるように呟くと、九重は少し笑う。
「そりゃそうだろうけど、君の出自から考えればありえないよねぇ...その考え方は。でも僕は、君が高校に通うって言い出した方が驚いたね」
「そうかい」
「そうさ。異世界の秘密結社の長だった存在が、そんなに学校が気になったのかい?」
「秘密結社って言っても、人を魔物から守る為の組織だ。ずーっと生きていると暇なんだよ。こっちの世界の学校にも興味は湧く」
「財団もいなくなったし?」
「まあね」
そう答えると制服の右腕を捲り上げる。そこには何の変哲も無い腕があった。
「【解除】」
そう言うと右腕にかけられていた現実改変が無効化される。
右腕がみるみる黒くなっていき、赤い線が所々に入っていく。そしてその上から刻印が蒼い線で刻まれる。
「相変わらず恐ろしい色してるねぇ」
「色々と喰らってきたからね。しょうがないさ」
【魔の腕】。魔物化した生物を生贄に捧げ、その魂を取り込む事により様々な能力を発揮する魔法使いの腕だ。
「一体何を喰らえばそんな色になるんだか...」
「魂一つでも取り込めばこんな色になる。もっと薄いけどね。たしか神様を2柱ほど取り込んだかな」
生まれた世界の神の一つ【
【
「2柱も取り込んでいるって...よく自我を失わないね」
「元々自我が強かったから失わなかっただけだ。常人ならとっくに乗っ取られてるよ」
そう言って再び現実改変を行うと、黒かった右腕が元の腕へ戻っていく。いや黒い方が元の腕だから、何の変哲のない腕に変化させると言うのが正しいか。
「そういや達也が弟子らしいね」
「達也くんかい?そうだけどそれがどうかしたかい?」
「普段は弟子なんて取らないあんたにしては珍しいと思ったんだ」
疑問を投げつけると九重は少し目を見開く。
「彼の出自は少し特殊でね...それに体もだ」
「特事課の予想では十氏族、それも秘密主義の【四葉家】の出身だと見ているんだ」
「間違いないよ...彼は四葉直系に近い血筋を引いている。四葉深夜を知っているね?」
「確か数年前に亡くなっているはずだ。現四葉家当主、四葉真夜の姉だったか?」
「その通りだよ。達也くんと深雪ちゃんはその子供だ。そして達也くんは戦略魔法師でもある」
「もしかしなくても沖縄のあれか...」
沖縄事変の際に使われたという魔法、【マテリアルバースト】。現代の魔法技術では試行が困難な分解魔法による原子エネルギーの放出を利用した戦略魔法だ。
あの時にはNHTICDがとんでもない大騒ぎになっていたな。
「情報ありがとう。だけどもう一つ聞かなけりゃいけない事がある」
「君の情報、かな?」
「当たり前だ。達也たち流してはないだろうな?財団の事を知られて十氏族に流されては大問題だからな」
「問題ないさ。聞かれはしたけど、まだ調査中と返してある」
相変わらず問題の先延ばし方が上手い。
「そこで一つ」
「なにかな?」
「表向きの内容までは話しても構わない」
「...どういう風の吹きまわしだい?」
「テロリスト制圧しておいて一般人だってのは通じないのが一つ。正式に特事課のメンバーに加わったのが一つってところだ。公安の捜査官って所までは話しても構わない」
「それはありがたいね。こっちも何かしら彼に伝える必要があったし」
九重は湯呑みを二つ持ってくると、一方を渡してきた。中にはお茶が注がれている。
「ほら。いくら初夏とはいえこの時間は冷えるだろう?」
「ありがたい」
口をつけると、なんてこともない平凡な煎茶の味が広がる。だがこの素朴な感じがなんともいえない。
「そういや最後にその腕を使ったのはいつなんだい?」
「あー、大陸の馬鹿どもを生贄に喰った時以来使ってないね」
「大陸の馬鹿どもって...まさか崑崙方院の誘拐事件の時のかい?」
「そうだよ。大半は半殺しにして、そのまま生贄にした。結局あんまり純度が低い汚れた魂しか取り込めなかったけど」
もう40年近くも前の話か...【
「考えれば、初めて会った時から一向に老けてないもんねぇ」
「身体自体が神様と多分同じだからね」
「だが、やろうと思えば幾らでも現実改変が出来るんだろう?」
「そうだけど?」
「なのになんで【財団神拳】を修めて、使い続けているんだい?」
九重がそう質問する。
一度頭の上に止まっている朱を見上げると、視線を再び下へと戻す。
「【あいつら】を忘れないため、かな」
「あいつら?」
「ああ。財団に参加していた時に機動部隊を一つ、指揮していたのは知っているだろう?」
「前に聞いたね」
「その時の仲間、部下達だよ」
「...」
「あいつらは死んだ。かつて起きた【終末の日】に、人類を守ろうとして、瀕死になった」
「...それで?」
「あいつらは自分と同じだ。『自分を犠牲にしてでも人類を守り抜く』。財団の理念をいつも胸に刻んでいた。だからあいつらは生贄になる事を望んだ。死んでも想いを繋ぐために」
「なら財団神拳は...」
「自分とあいつらの繋がりだ。自分が財団神拳を使えば、それがあいつらの【存在した証】になる。だからそれ以来、なるべく魔の腕を使わず、財団神拳で闘ってきた。
それになによりー」
「なにより?」
「財団神拳を修めた限り、その教えを破る事など出来ないから」
そう話をすると縁側から立つ。
「さて、湿っぽい話はここまでだ」
そう言うと九重も縁側を降り、境内の開けた所へと移動する。
「久々に...」
「...では」
それぞれ相対した位置に立つと、自分は左手の平に右手の拳をぴったりと付け45度のお辞儀を、九重は肩幅に足を開き脱力した姿勢をとる。
「「勝負‼︎」」
ーーー
「暁、大丈夫か?」
「大丈夫じゃない...」
達也が声をかけてくる。
自分の状態は机に突っ伏したままだ。それが気になったのだろう。
勝負には辛勝したけど朝っぱらから疲れた。
こっちも神拳使ったけど、忍術使ってくるなんて聞いてない。
相変わらずあの坊主は煮ても焼いても食えないと思った今日この頃である。
みなさんは『SOUL SACRIFICE』をご存知ですかね...?
これにて入学編、終了です...!
書き始めた当初は、まさかこんなに読んでもらえるとは思ってなかった...読者の皆さま、ありがとうございます。
次話からは九校戦編です。
毎度こんなペースの投稿にはなりますが、読んでくれると嬉しいです。
これからもよろしくお願いします!