一周した世界線   作:Achoo!

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麻婆豆腐ホルモンとはこれいかに。


昼下がりの集まり

「やっべ!」

 

校門が閉まりかけている所をギリギリすり抜け、昇降口を一瞬で通過。階段をジャンプ一つで跳び上がり、まだ人が多い廊下を【量子反作用空歩術】で上から切り抜けて、教室へと滑り込む。

始業時刻まで残り1分の所でなんとか間に合った。

 

「あっぶねぇぇぇぇ...」

「暁、おはよう!」

「おう...」

 

教室へ入るなり既に登校していたレオから挨拶される。

 

「元気なさげだけど、どうしたの?」

「いや、なんか変な夢を見たんだよ。その結果、寝坊しかけたから...」

「あー...」

 

レオの挨拶でこちらに気づいたエリカから質問された。

 

「暁、おはよう」

「おはよう達也...」

 

そこへ達也がやって来る。流石に昨日の事でいきなり態度を変えるという訳でもないらしい。ポーカーフェイス様様だな。

 

「廊下の上を飛んで来るな。お前も風紀委員だろう...」

 

うるせえやい!

 

ーーー

 

 

「え、じゃあ昨日呼び出されたのは転校についてだったんですか⁉︎」

「達也さんや暁も転校しちゃうんですか...?」

「いやまさか。俺はこっちにしか居られないから断った」

「俺も暁と同じ様に断ったよ」

 

昼の御飯時。

相変わらずいつものメンバーで集まりワイワイと駄弁りながら昼食を摂っていたところ、昨日の呼び出しの内容が話題に上がった。

 

「やっぱり先生達は達也くんや暁くんの事を邪魔に思っているのかなぁ...下手したら先生達より色々知ってそうだし」

「善意からなのかもしれないが、そうだったとしても余計なお節介だ」

 

その善意が一番怖いのだ。『地獄への道は善意で舗装されている』とも言うし。

 

「魔法理論ではトップレベルだった達也さんや暁さんは、実技では何位だったんですか?」

「下から数えた方が早いだろうね。何度も言ってるように、俺は実技が苦手だから」

「多分俺は達也より下かなぁ...昔からこのタイプの魔法は苦手だ」

「このタイプ?」

「まだサイオンの操作について身体が把握しきってないのさ。専用CADで無理矢理速度を底上げしたから展開速度は今までより上昇したけど、直接弄った方が早いし」

「直接ってどう言うことだ?」

 

そうレオが疑問を呈したので、丼へ箸を置くと右手で軽く魔力操作を行う。するとー

 

「うわっ!?」

「氷と炎...!?」

 

右手の人差し指からは小さな炎、中指からは小さな氷が出現する。供物魔法【追尾弾】の応用だ。

 

「こういうこった」

 

そう言うって魔力操作をやめると、それぞれ空気に分解されるように消えていった。

 

「どういう魔法なんだ?」

「現在主流の【4種8系統区分の魔法理論】ではなく、かつて流行った【四大元素区分の魔法理論】に近いんだ」

「直接弄るってこの事ですか...」

 

【あの世界】の魔法理論は、無属性は関係ないが【五大元素の強弱関係】が物を言う。

更にはっきりと言えば、この世界の【四大元素区分の魔法理論】とあの世界の魔法理論は格や代償が全くもって違う。

 

「まあ今の時代、主流から外れているから主流に合わせる必要があるのさ」

「だからあのCADという訳か...」

「そーいう事。あとあれは自分で調整しなけりゃいけないし」

「...は?」

 

ああそうだった...あのレベルのCADを調整も一握りの人間しか出来ないんだっけ。

 

「日ごとにサイオンの流れは変わるから、それに合わせて調整しなきゃいけないのさ。あれはそこまでやらなきゃ上手く動かないんだ」

「いやでもCADの調整まで...」

「なにこの理論派2人組...」

「でも達也さんや暁くんが九校戦に出てくれたら、絶対に優勝だと思うんだけどなー」

 

そう言ったのは光井さん達の友人である明智英美さんだ。達也の方は先日の部活動勧誘時に会っていたらしく、かなり馴染んでいる。

 

「それは難しいと思うな...第一に九校戦のメンバーは一科生からしか選抜されないし」

「それは分かっているけど...」

 

明智さんの意見に返したのは同じクラスの幹比古くんだ。彼とは体育の授業の時に親しくなった。そして彼は現在訳あって本家から出ているが、【108評議会】に所属している【吉田家】の本流の出身である。

 

「ですが、ウチが優勝候補筆頭なのは間違い無いですよ」

「うん、でも油断は出来ない。今年は三高に一条の御曹司と一色の令嬢、それにナンバーズも多数入学してるから...」

「十氏族に師補十八家か、それは確かに厄介だな」

「新人戦はヤバそうだなぁ...」

「うん...でもウチには七草会長や十文字会頭、それに渡辺風紀委員長が居るから、本戦は負けないとは思うけどね」

「新人戦次第って事か。俺は行けるか如何か分からないが、頑張ってくれよ」

「てかさ、暁がモノリスコードに出たら大変な事になりそうだよな」

 

...は?

 

「うん...いきなり瞬間移動したり、見えない銃弾が飛んできたりしそう」

「たしかに」

「どういう事だいエリカ?」

「あれミキは知らないの?」

「だから、僕の名前は、幹比古だ!」

「私も知らない!」

「エイミィも知らないの?」

 

北山さんがそう言うと、入学早々に起きた一科生と二科生のイザコザや風紀委員会の業務で自分のやってしまった事を話す。

 

「へぇ...いきなり瞬間移動したり」

「見えない銃弾を撃ったりしたんだ!」

「...まあね」

「しかもそれが魔法じゃないらしいからなぁ...」

「九校戦に出た時点でとんでもない事になりかねないよね」

 

二科生だから選抜すらされないし、選ばれても参加する気は無いのだが...

 

「おっ、やっと見つけた」

 

そこへ渡辺先輩がやって来る。

 

「渡辺委員長?何か御用でしょうか?」

「ほら、試験前に頼んだだろ。試験が終わったら頼みたい事があるって」

「そう言えば言ってましたね...今からですか?」

「ああ、出来れば夏休み前には終わらせたいからな。それと財田も来てくれ」

「俺もですか?」

「ああ。お前は業務変更の打ち合わせだ」

「了解です」

 

そう考えれば夏休みまで、もうすぐ残り一週間だ。そろそろ夏休みの予定を...室戸研に篭って研究くらいしかやる事が無い。

 

「それじゃ、2人を借りてくぞ」

「それじゃ、また放課後〜」

 

ーーー

 

場所は変わり風紀委員会室。

現在室内には自分と達也、渡辺先輩に沢木先輩がいる。

 

「...という訳だ。いつまでも3年生込みで委員会を回すわけにもいかないからな」

「なるほど。それで俺や沢木先輩にはある程度のスケジュール組み、達也には委員会の引き継ぎ用資料の作成、ですか...」

 

そう言いつつ1年生の業務当番スケジュールを組み立てる。隣に座っている沢木先輩は自分と同じように2年生の当番スケジュールを、達也は資料作成をしている。

 

「すまないな。君達が居なければ我々はまた同じ轍を踏むところだった」

「苦手なのは仕方ないですが、丸投げは止めてほしいですね」

「同じ轍を踏みかけるなら学びましょうよ...ほら先輩、これお願いします」

「ああ...別にあたしだって遊んでる訳じゃない。九校戦の準備とかで忙しくてな」

 

ここでも九校戦の話か。渡辺先輩もバトルボートの優勝筆頭で一高の中心だし、準備に忙しいと言うのも頷ける。だが、去年から時間はあるはずなのになぜ学べないのだろうか...

 

「何時からでしたっけ?」

「8月の3日から12日までの10日間だ」

「なげー...」

「結構長丁場ですね」

 

九校戦の期間を聞いた達也と自分の感想はほぼ同じだった。いや40日間くらい夏休みがあるのに、10日間も潰れるって...

 

「妹の方は私達が参加している競技を見た事あるようだったが、司波は見た事なかったか?」

「毎年の夏休みは野暮用で埋まってましたからね。中々時間が取れないんですよ」

「そうか。君達の兄妹は何時も一緒なのかと思ってたが、別行動を取る事もあるんだな」

「...そもそも学校では殆どが別行動ですよ?」

「...そう言えばそうだな。財田はどうなんだ?」

「夏休みですか...部屋に篭って研究ばっかりしてましたね。達也と同じように見た事はないです」

「研究...?」

「内容は秘密ですよ。まあ、家が放任主義なんで迷惑を掛けない限り何しても怒られないので」

 

正しくは初瀬所長が、だが。

あの人は放任主義だから何かあると時々...いや、毎回狂った方々が暴走する。

その結果、響管理官や柳瀬川部長や自分に怒られているのだが。

 

「そうか...なら2人とも、九校戦の準備といってもあまり想像がつかないだろう?」

「ですねぇ...参加するわけでもありませんし」

「そこまで詳しく知ってはいないですね」

「それじゃあ資料があるんだが、後で見るかい?」

「こっちは終わったんで、今見せてくださいよ」

「はいはい...えっと...コレだ」

 

渡辺先輩は散らかった机の上からヨレヨレになったパンフレットを取り出す。

 

「何をやったらこんなにヨレヨレになるんですか?」

「聞くな...」

 

そう答える先輩を横目に見ながら、パンフレットに目を走らせる。

 

「あれ、競技CADってTHI製も採用出来るんですね」

「ああ。だがあまりTHIのCADを使っている奴は見た事が無いな」

「でしょうね...高性能ですけど、めっちゃ高価ですし」

 

元々THIは現実改変技術において一日の長がある。まあ【シグナル】とかいうトンデモオブジェクトを創り出すだけの事は、ね...

という訳で現在の魔法技術開発はTHIが独走状態で、それをトーラス・シルバーこと達也を擁するFLTが猛追している。

 

「モノリスコード、ねぇ...」

「なんだ、興味あるのか?」

「いえ、昼間に駄弁っていた時に話題に出ただけですよ」

「そうか...今年から九校戦も新人戦が男女別になったからな。一部は掛け持ちする選手が出るだろうから、今年は調整が大変なんだ」

「それはご愁傷様ですね」

「本当にそう思っているのか...」

 

達也がそう切った所で話が切り替わる。

 

「そう言えば今年はウチの三連覇がかかっているんでしたっけ?」

「ああ。私たち三年生は、今年勝ってこそ本当の勝利だと思っている」

 

三連覇ともなるとやはり学校にも箔が付く。自分は参加しないが頑張って欲しいものだ。

 

「順当に行けば当校の勝利は確実だと聞いていますが」

「まあな。新人戦で大きく転けなければ本戦のポイントで勝てるだろう。唯一不安があるとすれば...エンジニアだな」

「エンジニア?競技用CADの調整要員ですか?」

「そうだ。いくら選手個人の能力が高くとも、エンジニアの腕が大した事無かったら実力は発揮できないからな。

ハードの制限がある以上、ソフト面でいかに他校との差を測るかがエンジニア...技術スタッフの腕の見せ所となるんだよ」

 

いやまあ、THIが使える時点でハードの制限がおかしいんですが...多分、運営側もTHIは値段が高いから何処も採用しないと高を括っているんだろう。

 

「今年の三年生は技術スタッフが不足気味でな。真由美や十文字は自分のCADの面倒は見れるんだが...」

 

先輩は見れないのかぁ...

 

「誰か良い人でも居れば良いんだがなぁ...」

「はい先輩、引き継ぎの資料です」

「それじゃ、失礼しました」

 

先輩の呟きから共に逃げるように、自分と達也は風紀委員会室を出ていった。

 

ーーー

 

「え!?リンクス達帰ってきたの!?」

『そのようです』

 

夜の7時。

家へ帰ってきたところへ、神州からとんでも無い報告が入ってきた。

 

「戻ってくるのって8月中旬じゃなかった?」

『彼が言うには《何もなかった》とか...』

「えぇ...」

 

だからと言っていちいち帰りを早めるのか...

 

「取り敢えず室戸研の1番ドッグに艦を入渠、【ハスキー】と【エンタープライズ】のオーバーホールチームに召集をかけろ」

『1番ドッグには【シトルム】が入渠中ですが?』

「...N1ドッグを開けて入渠だ」

『了解いたしました』

 

神州がモニターからいなくなると、ソファーへ座り込む。

 

「頼むからこれ以上、面倒事は増えないでくれよ...」

 

そう呟くと懐から【SCP-500】を取り出して、飲み込んだ。

胃痛くらいなら、良いよね...?

二日酔いよりマシな理由だと思いたい。




美味かったけど、冷めたら辛さしかしなかった。

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