一周した世界線   作:Achoo!

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2週間くらい頭捻って結局4000文字しか書けなかった...


泣きたい。


メリットがあれば...

「で、今の状況は?」

 

翌日。

いきなり帰還してきた連中の対応について報告をされている。

 

『取りあえず指示通りにN1ドッグに入渠させました。でもオーバーホールチームがぁ...』

「初瀬所長、泣くなよ...休暇が潰れた事に不満が出てボイコットか?」

『そうなんです...』

「はぁ...【Ο-4 機動艦隊】の第一部隊が定期訓練から帰港するからな」

 

画面越しに見る初瀬所長はほぼ泣きかけている。あなた所長でしょ。しっかりしてくださいよ...

とは言っても、第一部隊の中核を成すのは攻撃原潜の【ハスキー】と航空母艦の【エンタープライズ】だ。帰港後点検を行う彼らには、休暇が消えた事が不満なのだろう。

 

「...【ハスキー】【エンタープライズ】両オーバーホールチームには、こちらからいつもより多めに臨時手当を支給する。そう伝えとけ」

『...良いんですか?』

「あたりまえだ」

『ありがとうございますっ‼︎』

 

もう少し初瀬所長の気が強ければなぁ...

その結果、用意している予備予算が消えていく。ここ最近は物事予定通りに進まない。

 

ーーー

 

「暁!」

「おう!」

 

レオから蹴り出されたボールを勢いを殺す様にトラップ。

ドリブルをしつつ周囲を見回す。

 

「幹比古!いくぞ!」

「オーライ!」

 

逆サイドを上がっている幹比古とは逆の壁にボールを蹴りつけ、その反動で幹比古の足元へパス。

 

「達也!」

「わかった!」

 

綺麗にトラップした幹比古が、すぐさま天井の壁を使ってゴール前に走り込んでいる達也へセンタリング。

達也がそれをダイレクトでボレーシュートし、決める。

 

「うっし!」

「しゃあ!」

 

今、体育の授業で行なっているのは『レッグボール』というフットサルから発展した競技だ。

E組とF組の合同授業としてクラス対抗戦を行なっているのだが、現在のスコアは4-0。一方的なワンサイドゲームと化していた。

 

「もういっちょ!」

 

パスされたボールをそのまま蹴り、壁と天井を経由させて前線の達也まで送る。

 

「達也!」

「...せいっ!」

 

送ったボールを達也は上段回し蹴りでシュート。相手キーパーが跳ぶが、ギリギリ手が届かないコースで蹴り出されたボールはポストとクロスバーの交差した点の隅へ叩き込まれた。

その時、タイムアップのホイッスルが鳴る。最終スコアは5-0。圧倒的勝利である。

 

「お疲れー!」

「いやーキツイわコレ」

「何言ってんだお前。最後までトンデモパス出しやがって...」

「それを決められる達也もヤヴァい」

「ははは...」

 

自分、達也、レオ、幹比古の4人で集まる。

しかしあのパスを上段回し蹴りで決められるとか達也さんやばいです。どういう身体神経していればそんな事が...ああ、八雲の稽古か。

 

「えーっと?最終的には俺が1点、幹比古が2点、達也が2点、暁は0点か?」

「じゃあ今日の学食の奢りは暁だね」

「ちょっと待って。俺、3点分のアシスト取ったよ?」

「...ゴールした結果が重要だ」

「チクショー!」

 

達也の一言で奢りが決定した...

オーバーホールチームの臨時手当といい、3人の学食の奢りといい、資金繰りがやばい。資金調達を頑張らねば...

 

ーーー

 

「...何をしているんだ?」

「CADの調整ですけど...」

 

時刻は昼休み。

業務引き継ぎの案件の為に委員会に呼び出されたが、それも終わった。

午後の授業の開始まではまだ30分近く残っているので、持ち歩いている鞄からラップトップを取り出し、腕に着けている汎用型の専用CAD【ネクロミア】を接続して調整を行っていた。

 

「こんな時間にか?」

 

上階の生徒会室から降りてきた渡辺先輩はそれを見て、怪訝な表情で質問を投げかけてくる。

 

「こいつちょっと特殊で...暇な時に最新のサイオンデータを更新してるんです」

「それだけで調整出来るのか?」

「いや、これは応急処置に近いです。家でならもっと本格的に調整が出来るんですが...まあTHIで調整してもらった方がよっぽど良いんですけど」

「そうか...」

 

そう答えると先輩は何やら思案顔になる。何を企んでいるんだか...

 

「なあ財田「お断りします」...まだ何も言っていないじゃないか」

「風紀委員会に入ってからまだ3ヶ月しかたっていませんが、委員長がこちらに何か言ってくる内容と言えば、大抵無茶振りだと理解しましたからね」

「いやな、だからと言って話を遮るのは...」

「...で、結局なんなんですか?」

「九校戦の事だ」

「...エンジニアですか」

「そうなんだ。まだ人数が集まっていなくてな...司波には既に打診してあるんだが」

 

なるほど。達也が先ほど生徒会室に呼ばれた原因はこれか。

 

「なあ財田、お前エンジニアになってくれないか?」

「...メリットがありませんね」

「メリットだと?九校戦のメンバーに選ばれれば、夏期休業中の宿題の免除と1学期における内申成績にプラスが入るぞ」

「宿題は既に終わってますし、別段内申も気にしてません。夏休みはまだやるべき事があるので、2週間も潰されてはかないませんよ」

「なあ...そこをなんとか」

「駄目です」

「...なにか便宜を図ってやる」

「内容によりますね。メリットがあればですが」

 

部屋は沈黙に包まれる。

そこへその沈黙を破るかの様に、上から声がかけられた。

 

「摩利ー?」

「なんだー!?」

「上に来てちょうだい。あ、それと暁くんもそこにいるかしら?」

「いますけど?」

 

上から声をかけて来たのは七草会長だ。

 

「ああ良かった...暁くんも上に来て!」

「...わかりました」

 

接続されたCADを引っこ抜いて腕に着け、ラップトップを鞄にしまうと階段を登る。

 

「...どうやら司波の方は話がまとまったみたいだな」

「それでわざわざ自分を勧誘しに来たんですか...」

 

扉を開けると、生徒会メンバーに達也の姿があった。

 

「それで司波の方は?」

「達也くんは調整技術を見たいから、放課後に部活連本部の準備会議へ参加して貰うわ。暁くんは?」

「それが財田のやつ、参加するメリットが無いと言い張っててな」

 

言い張ってはいないのにそういう言い方をされるのは、いささか心外なのだが...

そう思いつつ達也に近づくと話しかける。

 

「なあ達也、参加するのか?」

「参加せざる得ない選択肢を突きつけられてな...」

「...なるほど。深雪さんか」

「そう言う事だ。まさか背後からトドメを刺されるとは思わなかった」

「そりゃ御愁傷様だ」

「今回ばかりはそう言われても仕方がないな」

 

そう返答する達也の顔は疲れている様に見えた。

まあでも、いつも調整して貰っている兄に九校戦中も調整して欲しいという深雪さんの想いも、理解できなくは無い。

 

「ねえ暁くん?」

「...何でしょうか、七草会長」

「暁くんは、メリットが有れば参加しても良いのよね?」

「よっぽどで無ければ、ですけど」

「...なら、九校戦のチケットを貴方の好きな分だけこちらが手配すると言うのはどうかしら?」

「...そう来ましたか」

 

確かにそれはメリットがある。

九校戦のチケットは完全予約制の上に抽選制だ。だが元々試合数も多く、すべての競技にエントリーすれば何か1競技は確実に見られる。

それに彼女達の外歩きに丁度良いし、あの子もかなり興味を持っていた。

 

「少し外しますね」

 

そう断わりを入れて生徒会室を出ると、懐から通信端末を取り出し、室戸へと連絡を繋いだ。

 

『はい、初瀬ですが...』

「初瀬所長か?」

『あれ...なぜか財田議長の声がするんですけど』

「間違いではない」

『...ふぇ!?なんでいきなり連絡して来たんですか!?』

「...【053(幼女)】はいるかい?」

『███ちゃんですか?』

「そうだ。少し代わって欲しい」

『ちょっと待っててください...』

 

スピーカーから待機音が流れる。そして約1分くらいした頃だろう。元気な少女の声が聞こえてきた。

 

Hi, ███!(ハイ、███!)

「やあ、元気そうだね。【239(Sigurrós)】とは仲良く出来てるかい?」

Yes!(うん!)

I told a lot of things to Sigur,(いろんなこと、いーっぱいはなしたし、)

and Sigur told me a lot!(シガーもいーっぱいはなしてくれたよ!)

「そうか...そりゃ良いね。ところで今年の外歩きなんだけど...」

Where can I go this year?(ことしはどこにいけるの!?)

「そうだね...実は九校戦のチケットが取れるかもしれないんだ」

Nine school battle!? really!?(きゅーこーせんの!?ほんと!?)

「本当だよ、本当。なんならシガーロスとも一緒に行くかい?アベル付きでだけど」

I can go with Abel and Sigur!?(アベルにシガーともいけるの!?)

I want go!(いきたい!)

「よし、わかった。じゃあ今年の外歩きは九校戦全てにしようか!」

I'm so happy!(やったぁー!)

 

電話越しに会話をしている幼い少女。

こう話している限りは幼い子供だろう...でも彼女もれっきとしたオブジェクトなのだ。

 

「きちんとあの子にも話をつけておくんだよ?」

all right!(わかった!)

Can I take 【682】there as well?(【682】もつれてっていーい?)

『駄目ですっ!』

Eh! ?(えー!?)

『《えー!?》、じゃありません!駄目なものは駄目ですよ!』

 

...どうやら向こうは外部スピーカーにマイクで通話しているらしい。

確かに友達とも言える【682】も連れて行きたいのは分かるんだが、流石に連れては行けない。

 

Is it not good to do that!?(だめなの!?)

「...うん。ちょっと駄目、かな」

No way...(そんなぁ...)

「ま、とにかく九校戦には行きたいんだね?」

Yes!(うん!)

「じゃあ、ちゃんと良い子にしているんだよ?みんなに迷惑かけちゃ駄目だからね?」

All right!(はーい!) See you!(じゃあね!)

 

スピーカーからはトタトタと走っていく音が聞こえた。多分あの子にも話をしに行くんだろう。

 

『よろしいのですか...?』

「構わない。別段こちらのやる事が増えるだけだ。彼女達の事、これからもよろしく頼むよ」

『分かりました。では...』

 

通信が切れる。

端末を懐へしまい込むと、再び生徒会室へ入室する。するとすぐさま七草会長から質問が飛んで来た。

 

「なにかあったのかしら?」

「...九校戦のチケット3人分で手を打ちましょう」

「本当!?」

 

質問には答えずに淡々と用件だけを伝える。

 

「えぇ、やるからには本気でやらさせて貰います」

「ありがとう...じゃあ、達也くんと同じ様に調整技術を見るから、放課後に部活連本部の準備会議に参加してもらうわよ。いいわね?」

「分かりました」

 

...さて、これで夏休みの予定がパーになった。

予定を作り直さなければ...




今回登場したオブジェクト

・SCP-053 『幼女』Dr Devan様
http://ja.scp-wiki.net/scp-053


幼女の言っているシガーとは239のあだ名。
ちなみに239の本名は
Sigurrós Stefánsdóttir(シガーロス=ステファンスドッティル)だそうです。長い。

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