一周した世界線 作:Achoo!
やれテストやら球技大会やらで中々更新出来なくて、申し訳ないです。
一応これからは、いつも通りの週1,2回投稿です。
「課題は『競技用CADに桐原先輩が普段から使っているCADの設定をコピーし、即時使用が可能な状態にする。ただし起動式には一切手を加えない』...で間違いありませんね?」
「うん、それでお願い」
時間は放課後。
現在部活連の本部では九校戦への準備会議が開かれており、達也は桐原先輩のCADのコピーという課題に挑戦しているところだ。
「如何かしたの?」
「スペックの違うCADの設定をコピー...あまりお勧め出来ませんが、仕方ありませんね。安全第一で行きます」
参加している七草会長を始めとして何人かは、達也の言っている意味がわからないだろう。だが、エンジニアと見られる雰囲気を持った生徒達はその言動に興味を持っている様に見えた。
通常、スペックの違ったCADに設定をコピーする事は推奨されていない。
『低スペック』の物の設定を『高スペック』のCADにコピーするというのは問題ないのだが、『高スペック』の物の設定を『低スペック』の物へコピーした場合、処理速度の違いからエラーが発生して機能が停止する場合がある。
またエラーだけで済めば良いのだが、処理速度が追い付かないため処理回路へ高負荷がかかってしまい、処理回路そのものが焼け付いてCADが破損、最悪の場合、使用者自身に幻覚症状といった副作用が発生する事もある。
そうならない為に処理速度の調整や、CAD自体を保たせるための改良、使用者のデータに合わせるようにするのがエンジニアの仕事だ。とは言っても改良はそう簡単に出来るものではない。
「それじゃあ桐原先輩、測定しますので手を置いて下さい」
「分かった」
桐原先輩が手を検査機に置くとサイオン波特徴の計測が始まり、データが達也の前の調整機のウィンドウへ流れて行く。
「ありがとうございます。もう外して頂いても構いません」
計測が終わると、たつや予め作っておいた作業領域から桐原先輩のCADのデータを呼び出し、ウィンドウへデータを流す。
次に特殊なコマンドを実行すると、サイオン波のデータがグラフではなく数列化されて表示された。
「...完全マニュアル調整か」
「えっ?」
そう呟くと近くにいた中条先輩が驚きの声を上げる。
「達也の手元を見ればわかりますよ」
そう言うと中条先輩を始めとして何人かが、達也の後ろから手元を覗き込む。
その間も達也は周りを気にする事なくウィンドウを流れる数列を睨み続け、流れ終わると即座にキーボードへ入力を始めた。今の人達には余りお目にかかれない様なスピードで、だ。
「...終わりました。どうぞ」
達也は機器に繋げた競技用CADを取り外すと、桐原先輩に渡す。
「どうだ?」
「素晴らしい出来ですよ。自分の持っている奴と比べて遜色ないですね」
CADを起動させた桐原先輩は十文字会頭にそう告げる。
完全マニュアル調整でないと、ここまでコピー元と同レベルで構築は出来ないだろう。流石に自分ではこうもいかない。流石はトーラス・シルバーと言ったところだ。
「確かに驚いたが...」
「別段同じ結果なら我々にも出来ますよ」
レベルなら1つどころか2つ3つくらい上なんだよなぁ...
どうも一科生の方々は二科生である達也の実力を認めたくないらしい。
「完全マニュアル調整の利点は、通常の調整と比べてフリーなリソースができること。それによって幾分か術式の起動までの時間を短くする事が出来ます。これはご存知ですね?」
「いや、だからそれが何に...」
「...わかりませんか?短くできればそれだけ勝機が大きくなります。アイスピラーズ・ブレイクなどにおいては余程の戦力差がない限り先手を打てた方が有利です。それなら通常の調整より完全マニュアル調整の方が良いと考えますよ」
「...ウィードのくせに、いちいちうるさいな!」
「自分は風紀委員です。ここで拘束しても良いのですよ?」
「財田、そこまでにしておけ」
まあ流石にこちらも喧嘩腰で対応すれば、委員長が黙っていないか。
そんな不必要なやり取りをしている横では、中条先輩や服部先輩からの推薦もあり、達也が武士にエンジニアとして九校戦に参加する事が決定した。結構なことだ。
「さて、司波くんのエンジニア入りも決まった事だし、次は財田くんのもやりましょうか」
「財田もですか?」
「ええ、そうよ。その為に彼も呼んだのだから」
「なら財田の実験台は自分にやらせてください」
服部先輩はそう言うとCADを外し、自分に渡してくる。
「ちょっと!はんぞーくん!?」
「良いですよ七草会長。やりましょう」
「暁くんまで!?」
そう言うと鞄からラップトップを取り出して、調整用の機械に接続してラップトップからの操作を可能にさせる。
接続を確認するとデスクトップに表示されているアプリケーションを開く。
「暁、それは何だ?」
「CAD用のガレージプログラム。製作者は俺。一応THIの先端技術開発部の主任からお墨付きは貰ってるよ」
「なんでそんな所からお墨付きを貰ってくるんだ...」
調整用の機械に服部先輩のCADを接続してデータコピーを指示し、データを取り出すと別領域に保存する。
「んじゃ服部先輩、検査機に手をお願いします」
「わかった」
横波として計測したサイオンデータを0.01秒刻みに縦波のグラフへと変換する。グラフ化した縦波の波形は見たところ全て同じ様に見えるが、実際には僅かなところで差が発生したりしている。それらの特徴から平均を割り出すことで、なるべくベストの状態へ近付ける。
「あまり見たことない調整方法だな」
「何やってんだあいつ」
外野からはかなり辛辣な声が出ているが、気にする事などない。今度は競技用CADを接続し、別領域に保存しておいた術式のデータをCADのスペックに合わせる様に変換。そして平均化の終わったグラフを数式化を踏んでデジタルデータへ変換し、データと変換した術式をCADにインストールさせた。
「終わりました。どうぞ」
「...凄いな」
CADを起動させた服部先輩から驚きの言葉が出る。
「この調整は完全マニュアル調整と比べた場合だと劣りますが、通常の調整と比べるならより多くフリーなリソースを確保できます」
「なら普通に完全マニュアル調整の方が良いんじゃないのかしら?」
「自分の使っているCADは完全マニュアル調整に対応してないんですよ。結局自分がやり易い方法でやっただけです」
「なら完全マニュアル調整も出来るのか?」
「出来ますよ。たださっきと同じ事をやったら面白くないじゃないですか」
矢継ぎ早に飛んでくる質問にそう返答する。
プログラムを終了し調整機器とラップトップの接続を外すと鞄へしまい込む。
「取り敢えず自分が出来るのはこれくらいです」
「いや、それだけの技能があるなら十分すぎる。先程の司波の事もある。反対する者もそう出ないだろうが、調整を拒否する者は司波、財田共に出るかもしれんな」
「自分達に調整して欲しい人を募った方が楽だと思いますけど」
「それもそうだな...ともかく司波に財田、九校戦は頼むぞ」
「わかりました」
「了解です」
———————
「つーことでエンジニアする事になったわけよ」
「なるほどね...でも二科生から九校戦から出た人っていないんだろう?」
翌日の放課後。
委員会業務もなく帰ろうかと思っていると幹比古から修行を見て欲しいと言われたため、実技室を借りて見学していた。
「前例は覆すためにある、だとさ。エンジニアを育成してこなかったけど、今年に俺や達也が入ってきたから無理矢理エンジニアにしちまおうって魂胆だったんだろ」
「確かにね...じゃあ再開するけど、良いかい?」
「おうよ」
既に室内には人払いの結界が張ってある。幹比古が精神を集中させると、彼の周辺に精霊達が集まり始める。特に青や緑、紫色をしている精霊が多く見受けられた。
「...ふぅ」
「ん、だいぶ戻ってきたな。儀式前と変わらなくなってきたんじゃないか?」
「流石にまだあの時よりかは少ないよ。でも暁の指導のおかげで、確かに力が戻ってきた気がする」
「そりゃ良かった。本当なら幹比古の能力は一科生以上だからな。もったいない」
「そう言ってくれるのはありがたいね」
幹比古は昨年行われた吉田家の通過儀式である『星降ろしの儀』における【竜神】の喚起を失敗した事により、魔法に関する感覚が狂ってしまった。
それを重く見た幹比古の父親、つまり吉田家の当主は九重を挟んで、自分にどうにかならないかとコンタクトを取ってきたので、何回か指導をした。
実は幹比古とはそれ以来の仲なのだ。
「そう言えば...これを」
「封書?」
修行も終わり実技室を後にしようとすると、幹比古から封書を渡された。封を切って読み進める。
「...んー。なるほどね」
「九重和尚から聞いているだろうけど、吉田家としては今のGOCや108評議会には着いていけない。なるべく【安全保障会議】の方針に従おうと思ってる。それで今日の朝に本家から暁に渡すように、って渡されたんだ」
「...会議の席を増やすか。親父さんに次にやる時には来て欲しいと伝えてくれるか?108から離脱するようなら連絡してくれ」
「わかった」
今現在のGOCはあまり機能しているとは言い難い。対オブジェクトで活動しているのは自分ら旧財団協力派組織とTHI、
「じゃ、また明日」
「おう」
そう言うと幹比古と校門前で別れた。
...さーて、やる事が沢山あるぞ。九校戦前に終わらせないと...
そう言えばお気に入りが900超えてましたねぇ...こんな駄文をいつも見てくださって、ありがとうございます。
これからも頑張ろう...!