最初は雪視点です。
私が次の戦の準備をするために、薬品の棚をガサゴソガサゴソあさっていると、おばさんとおじさんが私を呼んでいた。
「なんでしょうか?今戦のっ…て!どうしたの!空?しっかりして!」
おばさんとおじさんの方に首を向けると、二人が血だらけの空を抱えていた。
私は空に駆け寄り傷を確認した。
出血が酷い。
このままでは妖怪だとしても、出血性ショック死の可能性が高まってしまう。
「雪ちゃん。空の事治せる?」
「治せるかは分からないです。ここまでの怪我はやったことが無いので」
「お願いできる?」
「やってみます」
呪文を唱え始めると、空の傷がゆっくりとふさがって行った。
「空、お願い。起きてよ、空」
だが呪文を唱えると、傷がふさがるのと同時に雪の右手から肩にかけて赤い亀裂がビシビシと入っていった。
その亀裂からは血が流れ出てくる。
「ゆ…き?」
空はゆっくりと目を開けた。
その目は虚ろで何を見ているかわからなかった。
「空!大丈夫?」
「空!なんてことをしたんだ!……後で私の部屋に来なさい」
おじさんは焦っているような、怒っているような声で怒鳴る。
「回復にはかなり時間がかかります。半日待ってください」
「あなた!…ま、まさかあの儀式をやろうってんじゃ無いでしょうね。そんな事許さないわよ!空はまだ16なのよ。いくらなんでも」
空に覆いかぶさるようにしながら、おばさんはおじさんの事を見上げている。
「この都にはそう言う儀式があるんだ!しょうがないだろ!俺だってこんな事をしたくは無い!」
「なんの儀式ですか?」
「雪ちゃんは知らなくて良い事よ」
あっさりと流されてしまった。
その後、私は空を救護室に運び看病をしていた。
看病と言っても側に居るだけ、戦狐の再生能力は高く、致命傷の傷もしっかり処置をすれば、1日で治ってしまう。
「ねぇ雪。腕大丈夫?」
痛みで頭が沸いたのか分からないが、子供のように甘えているような声色でびっくりする。
私は慌てて空の頭を両手で包むように優しく持ち、軽く動かし、頭に傷がないかを確認する。
「なに?そんなにまじまじ見られると恥ずい。離して」
手で私を押しのけようとしているのだが、背中にかけて激痛が走っているのか、あまり力が入っていない。
「それより雪、腕私が治す」
「っ…私の腕よりも自分の体。空何してきたのこんな怪我して」
「何も…してないよ」
話している中で、甘えるような声からいつもの喋り方に戻る。
「何もしてなかったらこんな怪我しないでしょ。さっきの騒ぎは何?」
「天がな、攫われた」
「攫われた!?」
「もちろん助けたよ。その時切られた」
「切られた?!武装も何もしなかったの?」
「あぁ。」
「あぁ。…じゃないわよ!何で武装しないのよ。この後どうするの?おじさんあの儀式をやろうと思ってるわよ。このままだと…」
「あの儀式って?…あれか。なぁ雪お前は私が死ぬのは嫌か?」
「嫌に決まってるでしょ。耐えられないわそんな事、当たり前でしょ!なんなら私も死んでやるわよ」
「分かった。何かそこらへんにある紙をとってくれあと書くものも」
私が紙と筆を渡すと、空は描き慣れたように都と人間の里の方の地図をサラサラと描き、儀式についての説明を詳しくしてくれた。
よく地図なんか覚えてるなと思い、少し尊敬してしまった。
「あの儀式は体の一部を失った戦狐に施す、都ができた時から続いている忌まわしき儀式だ。戦狐の力を封じ、都の危機になった時に封印から解き放ち、生贄に捧げ危機を救うものなんだ」
「それじゃあ、あなた封印されちゃうの?嫌だそんな事」
「最後まで聞けって。この儀式は都の者たちで行われるだろう。だから、この都の者をやめればこの儀式の対象から抜けられるんだ。」
「都を出てくき?」
「そう言う事になるな。今からその準備をしてくるから、父上には何か適当にやってくれ」
「私も行く」
「は?」
「私も行く!空が出て行くっていうのなら」
「駄目だ。お前にはおばさんと赤ん坊と一緒にいないと。分かってるのか?」
スーと救護室の襖が開き、母が現れる。
「雪?空?さっきの騒ぎ何があったの?」
「母上?!なぜここに?寝てなきゃ駄目じゃ無いですか」
私の話も聞かずに空の事をじっと見る。
「空?あなたなぜ尻尾が八本しか無いの?」
母は空に首を傾げながら目を細めて問いかける。
「それは」
空は状況説明のように、話の要点だけを伝える。
「天が攫われ、助けた時に切られた。儀式が始まる前にこの都を出て行く」
空の隣に座り考え込む。
数分したらパッと頭を上げる。
「そう……なら私も行くわ!」
「どうしておばさんが?!だってあなたは弐番隊隊長ですよね」
母は一応この都の弐番隊の隊長だ。
「いいのよ。出て行ったとしても子狐二人だと大変でしょう。こんな身体で弐番隊隊長なんて言えないわ」
「空?なら私もいいでしょ?」
「でも・・・わかりました。じゃあ二人は準備を進めてください。私は、父上に話をつけてきます。」
空はそう言って立ち上がると、早足でおじさんの部屋に向かった。
その背中は大きく頼もしく見えた。