「里に住んでいた時、寺子屋で教師をしていたっていう話はしましたよね」
咲夜さんは少し考えた後頷く。
「そこで慧音や美鈴に会ったという話ですよね」
「はい、寺子屋にいた春樹くんという男の子がいたんです。その子はとてもやんちゃな子だと空から話を聞いてて、その春樹くんと秋斗が喧嘩をしてきて…」
雪は悲しそうに表情を落とす。
それを見た咲夜は不思議そうに雪の顔を覗き込む。
「雪?」
「ああ、ごめんなさい。秋斗はもう居ないから思い出すのもちょっとしんどくて」
「こちらこそごめんなさい。変な事を聞いてしまって」
「いえいいんです。その日からあの悲劇は始まったんです」
◇◇◇
空達が寺子屋から帰ってきた。
「おかえり!」
「ただいま、ご飯は?」
空は帰ったら必ずご飯の献立を聞く。
「さっかな〜!」
「えーまたー?もう飽きた」
秋斗は必ず文句を言う。
これが日課となった。
文句は言わせない
無理矢理にでも食べさせてやる
秋斗の事を引きずって襖を開ける。
「おかえりなさい」
「痛!あれ?母さん今日は起きていいの?」
「うん、今日は私がご飯作ったから」
「おばさんが!?本当?!よっしゃー!あのまずい料理と1日だけおさらばだ!」
「こーらー!空っ!」
空を《比較的軽く》叩くと少しよろけてみせて、すぐ座り食べ始めた。
秋斗も空もニッコニコしながら食べている。
料理は苦手だけどそこまでひどい?
「じゃあ私も、いっただき…」
トントン
誰だよ
今食べようと思ってたのに!
「すみませーん」
「私が出るから雪は食べてて。はーい、あれ春樹くん?と」
「春樹の姉の小春です。今日、弟がすみませんでした。お詫びと言ってはなんですが…」
何やら紙袋を渡される
「いえ、受け取れませんよ。こちらも悪かったですし、秋!来い」
「え?・・・あ、春樹」
「ごめんね秋斗くん。ほら春樹謝って」
春樹くんはうつむいてむすっとしている。
顔を見ようと空がしゃがむと、横を向いてしまった。
「春樹!」
「ごめん…なさい」
「……いいよもう。もう気にしてないよ」
うん、よく言ったぞ秋斗
流石私の教育が生きてるな
「送りますよ暗くなるので。雪、送るからちょっと出てくる。」
空は小春さんと春樹くんと家を出た。
空のご飯、どうしよう
残しとく?
「食べちゃおう!」
「雪、太るよ」
「ぐぬぬ…」
違うお皿に移しテーブルの上に置いた。
◆◆◆
夜の商店街は昼間とは大違いで、家の灯りが漏れていたり、楽しそうな笑い声が聞こえてくるようだった。
「あの、先生?」
先生?!誰だそいつは
ああ、私か
「俺が先生なんてまだまだです。俺は空と言います」
「そうですか。家の灯りを寂しそうに見ていたのでつい気になって」
そんな目で見てたかなぁ?
まあ、子供の頃とかは毎日訓練三昧で里に下りてくる事なんて滅多に無かったしな
「気にしないでください。ところでお家は」
「あの角の家です」
小春さんが指差した家の前には、女性が心配そうに立っていた。
「あ!お母さん!」
春樹くんが猛ダッシュでその女性に向かっていく。
「春樹!小春!」
その母親は私たちが見えると、こちらに歩いてきた。
「遅かったから心配したんだよ」
「大丈夫だよ、先生がここまで送ってきてくれたから」
「ほんとうですか?有り難うございます」
深々と頭を下げられてしまい、慌てて下げ返す。
「小春、あなた今日も向こうに帰るの?」
「うん、帰らなかったらお父様が心配するから」
ん?どういう事だ?
小春さんもここに住んでるんじゃないのか?
「でも、もう暗いし」
母親が言うと、小春さんは少しうつむき悲しそうな顔をする。
私は諦めて口を開く。
「暗いですし、俺が送りますよ」
うつむいていた小春さんが驚いたように顔を上げる。
母親の方も私の事を見る。
「じゃ、じゃあ小春をよろしくお願いします」
「はい、では行きましょうか」
「…はい」
春樹くん達に見送られ、また歩き出す。
森の近くに来るまで二人とも無言だった。
「あの」
私は無言の空間に耐え切れず、声をかける。
「さっきの迷惑でしたか?」
何の事かわからなかったようで、首をかしげて私を見る。
「送りますよっていったの」
「ああ、いいんです。私はお父様の方にいつも帰るんですけど、母が心配してほとんど毎日言ってる事なので」
眉が下がる。
「そうですか。その家ってこんなに森に近いんですね」
「はい、もう直ぐ着くと………あ、あそこの家です」
指をさした方に顔を向けると、家と言うよりお屋敷といったほうが似合う建物がドドンッと立っていた。
で、でけぇ!!
こんなでかい家があったなんてびっくりだ
「お帰りなさいませ」
あまりのデカさに圧倒されていると、門が開き、男が二人出てきた。
一人は深々と頭をさげるが、もう一人は偉そうに仁王立ち。
「遅かったな、春樹の件は終わったのか?」
「お父様、ごめんなさい。春樹の方は終わりました。お詫びをしに行った際、暗いのでとここまで送っていただいたんです」
父親の方は小春さんの話を聞きながら、あごひげを撫でていた。
「ん、君は?」
私を見た瞬間、目が変わった。
まるで嫌なものでも見るような、そん目で私を見た。
「私、里の寺子屋で教師をしております。空と申します」
軽く頭をさげる。
「教師…いつも春樹が世話になっている」
「いえいえ、こちらこそ。では私はここら辺で」
嫌な視線から逃げるように、今きた道を戻っていった。