東方妖狐伝〜雪空〜   作:稲荷寿司の使い

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…言い訳




走馬灯episode 里の変化

 

 

小春さんにああ言って出てきたけれど、本来の目的は買い物ではなく情報収集。

敵の動きの偵察も大切だ。

里に降りて周りを見ると、私達を探している奴らが貼った張り紙がいたるところにある。

アリスさんが持っていたものと似ていた。

 

「最近物騒になりましたね」

 

「ええ、なにやら狐が出たとか」

 

お店の前でおばさま方がそう言っていた。

 

広がるの早すぎ!

まだ3日も経ってなくない?

影響力やばすぎ

 

「急ぐか」

 

誰にと言うわけでもないが、そうつぶやいて小春さんの家に走った。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜

 

 

 

 

 

「やっとついた」

 

かなり見回りの人がいて、くねくねと回り道したから結構時間がかかってしまった。

そっと中の様子を見る。

 

「まだ見つからんのか」

 

「申し訳ありません。おそらく、里の外に行ったのかと」

 

「範囲を広めるか……だが、人が足りない。森の中で襲われたりでもしたら」

 

へぇ

仲間のことも考えてるのか?

自分の娘は殺してもいいのに?

 

小春さんの父親が部屋からいなくなると、部下の人が小さな声でなにやらつぶやく。

 

「自分しか狐を見つけられないんだから、少しは外に出て探せばいいのに」

 

それはそうだ

この様子じゃ、まだまだ私達を見つけるには程遠いな

部下の目を頼っているようじゃね

 

私達にたどり着くための情報はまだ無いと判断し、家に帰ることにした。

途中で、雪の姿を見つけたが、事情を説明してる暇ない。

 

おばさんや秋を巻き込んで変な心配をかけることもできない

もし、雪たちにまで疑いがかかってしまっては

 

少し下を向き、他人のふりをしてすれ違う。

一瞬こちらを向く雪だったが、すぐに前を見て行ってしまった。

 

くそ!

 

走って里を出る。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜

 

 

 

 

 

「戻りました」

 

「お帰りなさい」

 

家に帰って最初にいたのは巫女。

なにやら縁側に座り、空を眺めていた。

私が声をかけると、家の奥から小春さんが出てくる。

 

「お帰りなさい!」

 

小春さんへ簡単に里のことを話した後、巫女さんを呼ぶ。

 

「そろそろ足も大丈夫かと思いますので、神社に戻られてはどうですか?」

 

「足はもういいのか?」

 

「はい。私の作ったこの薬を毎日塗ってもらえば。傷跡は残ってしまうと思いますが、痛みは無くなっていつも通り生活できると思いますので」

 

説明が終わると、巫女さんを里まで送る準備を始める。

巫女さんの方も帰る支度ができたようなので、小春さんには留守番しててもらい、巫女と家を出る。

 

うっそうとした森の中を巫女と2人並んで歩く。

とうとうこんな日が来てしまうとは思わなかった。

自分を殺しに来るであろう相手、私の生命を脅かす者と、戦いの時以外で会うというのは初めてのことだった。

 

しばらく歩くと神社に続く長い階段が見えてきた。

人は見当たらず、葉っぱなどが散らばっている。

 

「2、3日でこれか」

 

巫女はだるそうにそう呟いた。

 

階段を上がっていくと、下よりかはまだ綺麗な境内が見えてきて、1人の青年が賽銭箱の前に座り込んでいた。

 

「お帰りなさい。2日もどこに行っていたのですか?」

 

私たちの姿が見えるとその人は立ち上がり、その場で巫女に問いかける。

 

「霖之助君?あなたこそ、珍しいですね」

 

「巫女様だって、神社を開けるなんて珍しいじゃないですか」

 

私に気が付いたのか、霖之助と呼ばれた青年は、私に視線を移す。

 

「巫女様彼は?」

 

「あぁ、彼は空だ。開けていた二日間彼の家に居てね、怪我の治療をしてもらったんだ」

 

「初めまして」

 

軽く会釈する。

 

「空。彼は森近霖之助と言ってな、私の友人だ」

 

「どうも」

 

紹介が終わると、霖之助君は巫女が神社にいるかの確認をしに来ていたみたいで、こうして話した後、すぐに帰ってしまった。

 

白っぽい髪に眼鏡と、まあまあ珍しい人だとは思ったが、

なんだ!

人間じゃないじゃん!半々じゃん!

なら納得!

 

「君はどうするんだ?」

 

1人で納得していると、巫女に呼びかけられて我に帰る。

 

「巫女さん、これ」

 

前に塗った塗り薬を巫女に渡す。

受け取った時はなんなのかと首をかしげていたが、蓋を開けてみて分かったみたいだった。

 

「包帯は汚れたら変えて、それを塗ってください。痛みとか化膿するのを抑えられると思うので」

 

「分かった」

 

「では私はこれで」

 

戦場で会おう

 

「ああ、色々ありがとうな」

 

巫女を背に神社を出る。

神社が見えなくなると、全力ダッシュで家まで戻る。

途中、何匹かの妖怪にあったが、瞬時に切り刻み、排除する。

 

 

 

「ただいま帰りました」

 

玄関の戸を開ける、中は漁られ物が散乱している。

瞬間、嫌な汗が額を流れ落ちる。

 

敵?

人間の方は私達にたどり着くにはまだ遠かったはず。

その他の妖怪か?

私の張った薄い結界を破るほどの強者がここらにいるか?

いたとしてもこの周辺ではないはず。

 

奥の部屋!

 

部屋に散乱している物と物の隙間に足を入れて、踏まないようにしながら奥の部屋に向かう。

 

おそらくここ扉があるだろう、というところをノックする。

ゆっくりと見えない扉が開く。

 

「空さん…」

 

震えながら小春さんが出てきた。

すぐに何があったのかを悟る。

 

里の連中か?

しかし、そんなそぶりはなかったはず

ここまでの間で家の場所まで突き止めるとは

 

「怪我はありませんか?」

 

不意に小春さんに抱きつかれる。

 

「っ!?小春さん?」

 

ものすごく怖かったようで、私を抱きしめている間も震えが止まらない。

時折声が聞こえる。

どうやら泣いているようだ。

 

こうやって泣きつかれる事もなかったため、こんな時どうすればいいのか分からない。

 

「え、えっと」

 

一旦はがし、涙を拭く。

よく見ると腕や足に切り傷や擦ったような傷がある。

 

「小春さん、誰が来ましたか?」

 

「里の…おそらく父の」

 

やっぱりか

まさかここまで荒らすとは

山賊かよ

 

「あっ!空さん!」

 

小春さんが指差す方には窓。

突然人の腕が出てきて何かを投げ込まれる。

 

バンッ!シューー

 

煙?!

煙幕か!

 

小春さんを抱え壁を突き破る。

抱えたまま森に向かい飛ぶ。

後ろを振り向き家を見ると、庭に何人かの人間。

里の見回りの奴らと同じ格好をしている。

 

「このまま逃げますよ!」

 

「え?は、はい!」

 

これから逃げ切れるだろうか?

そんな不安と小春さんを抱え、どこにつくかもわからないまま森の奥に向かって飛んだ。

 


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