この時代に車椅子があれば…
私は雪さんのところに残った。
理由は心配だからというよりも、私自身が雪さんのそばにいたかったから。
部屋に入ると雪さんがすうすうと寝息を立てていた。
私はそのベットの横にあった椅子に座り、雪さんの寝顔を眺めていた。
そうしていると何だか自分も眠くなってきて、そのまま寝てしまった。
次の朝、窓の外を見るとまだ薄暗く、雪さんはまだ寝ているようだ。
「雪さん」
私は雪さんを見てなぜか心が痛くなってきた。
こんなに優しくて家族思いの雪さんを、こんな目にあわせるなんて。
姉に対する怒りが沸々と湧いてきて勢いよく立ち上がった。
ガタン!
「ん〜〜藍どした?」
どうやら雪さんを起こしてしまったらしい。
「ゴメンなさい。起こしちゃいました?」
「良いのよ、起きるの手伝ってくれる」
この声。
気を抜いて聞いたら私も倒れてしまうなと思いながら、雪さんの背中に手を当ててゆっくりと起こした。
すると、永琳が部屋に入ってきた。
「おはよう。よく眠れたかしら?今鈴仙に食事を持ってきてもらうから、待っていて」
鈴仙が食事を持って来ると、雪さんはパクパクと食べ始めた。
食欲だけはあるんだな、と考えてしまいフフフと笑った。
「何笑ってるの?食べないのなら……貰っちゃうぞ!おらっ!」
「わ!何するんですか。雪さんこそ食べないのならもらいますよ!」
雪さんと一緒に食事をしていて、感じることがある。
楽しいとか言うよりもそれは、私の前で『から元気』を出しているような感じだ。
食べ終わり永琳がやって来て、何かの検査をするので藍さんは部屋の外へだそうだ。
一緒にいても良いじゃないと思ったが、困らせてはいけないと思い素直に従った。
藍が部屋から出て永琳が口を開いた。
「じゃあ検査をするわ。簡単な検査だからじゃあ行くわよ、一つ目
〜〜〜〜〜〜
じゃあ最後に、今痛いところはどこ?具体的に教えて」
「えっと、胴体、頭が時々、あと腕かしら?」
「え?」
「どうしたの?何かおかしいこと言ったかしら。」
「いえ、本当にそれだけなの?他は?」
「今言った所だけよ」
「そんな……藍さんもう良いわよ」
永琳が藍を呼ぶと藍が部屋に入ってきた。
◆◆◆
私が部屋に入ると、なんだか重苦しい空気が流れていた。
座ると永琳がおもい口をひらいた。
「藍さん雪さん、落ち着いて聞いてね。前言っていたかもしれないけど、傷が特殊で後遺症が残るかもって言ったわよね。」
「それが?」
「その後遺症で雪さんは今………下半身、つまり足が全く動かせない状態なの」
「そんな、なん」
「そんな、なんで?嫌よ!もう歩けないなんて!これから空も元に戻さないといけないのに、都の子供達と、また鬼ごっこして遊ぼうねって約束したのに。永琳さん、治せるんですよね?もう一度歩けますよね」
藍の言葉にかぶせるように雪は叫ぶ。
最後の方は永琳に祈るように言葉を発する。
「脳に術がかかっていて、今は足だけだけど、いずれは全身が麻痺して寝たきりになる可能性も」
「どうしてそんなことに」
「そんなの嫌!嫌嫌嫌!そんなものなら、こんな空を助けにもいけない、歩けない足なんて……切り捨ててやる!」
雪さんはそう言って自分にかけられていた布団をはぎ、近くにあったナイフで自分の足に向けてナイフの切っ先を何度も何度も何度も突き立てた。
「雪さん!!止めて!」
雪の周りは真っ赤に染まっていた。
藍や永琳にも返り血がかかっていた。でも戦狐の再生能力は異常なほどに優れていて特に雪は素晴らしくたちまち傷は塞がっていった。
「うぅぅぅ。ここまでしても何も感じないなんて」
雪さんはそう言って床にナイフを投げ、泣き崩れてしまった。
「あくまで『可能性』の話よ」
「え?」
「じゃあ、治す方法が?」
「あるにはあるんだけど、方法も方法で…この方法を使うとすると、雪さんか、空のどちらか一方が命を落とすかもしれないの」
永琳さんの衝撃的な告白で私達は究極の選択をしないといけない。
「永琳さん、空を助けて。私はこのまま死んでもいいから」
雪さんが信じられないことを口にした。
「何言ってるんですか?!死んでもいいなんて、そんなに簡単に言わないで!!」
「藍」
自分でもこんなに大きな声が出るなんてビックリした。
「藍さま?」
扉を見ると、橙が顔を覗かせていた。
「橙どうして?」
橙が部屋に静かに入ってきた。
手には重箱を持っていて、目は大きく開かれていて、雪さんの周りが真っ赤なのに驚いているようだ。
雪さんは橙に笑顔を向け、橙に手招きをした。
「あなた、橙っていう名前なのね。おいで、その手に持っているのは何?」
橙は私に重箱をわたすと頬を赤らめて私の後ろに隠れた。
なぜ橙が恥ずかしがっているのか分からなかったが、重箱を開けると少し形が崩れてる稲荷寿司が入っていた。
「これ橙が作ったの?」
「うん。紫様達といっしょに」
そうか、頑張って作ったんだろうな。
大変だっただろうな。
怪我しなかっただろうか?
ん?なーんか重箱が軽くなったような気が…
「これ以外といけるわね」
橙が頑張って作っている姿を想像している隙に、雪さんが稲荷寿司をパクパクと食べていた。
しかも、もう半分以上も無くなっているし。
「ちょっと雪さん何食べてるんですか、さっき食べたばっかりですよね。
てかどんだけ食べるんですか?太りますよ」
「お稲荷さん食べて太るんだったら本望ですよーだ。ふー食べた食べた。橙ちゃん」
「なに?」
「ごちそうさまでした。美味しかったよ」
橙は雪に褒められてとても嬉しそうだ。
ふと私は雪さんの事を見ると首元に汗が流れていた。
この部屋は暑くも寒くもなくちょうど良いのになぜだろう?
「あの雪さん。汗かいてますけど暑いんですか?窓開けましょうか?」
「えっ?あ、だ、大丈夫よ。なんでもないわ。どこも何も!」
手をブンブンとふって否定する。
とてもわざとらしい。
「そろそろ良いかしら。雪さんの検査を始めようと思うんだけど」
「じゃあ、そろそろ私は帰ります。また何かあったらすぐ呼んでください。では失礼します。橙行くよ」
「じゃあね。橙ちゃんも…またね」
雪さんは笑顔で手を振っていた。
私は橙と永遠亭を出た。
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