Infinite possibility world ~ ver Servant of zero 旧版 作:花極四季
今日、僕の家に待ち望んだものがやってくる。
日時が近づいてくるに連れ、睡眠時間は減っていきお母さんに叱られる日々。
興奮は冷めやらぬまま日々を悶々と過ごしてきたが、そんなもどかしい日々ともこれでおさらば。
突然のチャイム音に身体を過剰に反応させる。
慌てて玄関のドアを開けると、そこには運送員と馬鹿でかいダンボールがあった。
運送員の説明も意識半ばに、ダンボールを部屋に運んでもらう。
普通の家なら入るわけもない大きさのダンボールも、うちの経済事情を思えば何てことはない。
そのまま設置を終え、仕事を終えた運送員の見送りもそこそこに部屋へと戻る。
「うわぁー………!!」
息を呑むとはまさにこういうことを言うんだろう。
目の前には待ち望んでいた機械―――『Infinit possibility world』というVRRPGのハードがあった。
いわゆるリクライニングチェアーのようなカプセルベッドで、そこに寝ることでゲーム世界にダイブすることができる。
ゲームスタートまでの手続きは外から行うので、まずはキャラ作成といこう。
このVRRPGは、初の体感ダイブ型システムと、無数にも存在する世界観を売り文句にしている。
VRRPGそのものは前から存在していたけど、バイザーをつけてコントローラーを握るという視覚だけゲームに入っている感覚だったので、リアリティーは完璧とは言い難かった。当時としてはそれでも画期的だったんだけどね。
今回はカプセル内に設置されている、五感をゲーム内と接続する機械と、脳波によるゲームキャラ操作を可能とした脳波コントローラーの二つの存在によって、まるでゲームと現実が反転したかのような感覚でゲームがプレイできるらしい。
うちは結構なお金持ちだけど、それでも「買って買ってー」とせがめる額でもないほど高額の代物だった。
苦肉の策として、先着応募プレゼントで一名様に当たるみたいな情報に縋り、応募した結果奇跡的に当たってしまったのである。間違いなく一生分の運を使い切ったと思うんだ。
さーて、キャラを作ってさくっと始めないと。
実はもう、キャライメージは決まっていたりする。
現実世界では学校でも同級生に子ども扱いされるほど小さくて童顔な僕。
そんな僕だから、ゲームの世界だけでもかっこいい男になってやろうと、自由度の高いキャラ作成ができるゲームでは等しく長身のイケメンを作ってきた。
今回だってそれは例外ではない。
前回はヒューマンキャラで攻めたから、今回はエルフキャラで攻めようと思う。
黒髪で長身のエルフ。これだけでイケメンだってわかるレベルだね。
そして―――実は僕にはもう一つ試みがあった。
ゲームオプションを開く。
そこにはイメージ言語翻訳という欄が存在している。
これはいわゆる〝ロールプレイをしたいけど素が出たら嫌な人〟用の、イメージした言語が設定通りの喋り方に再翻訳して外部出力されるというすぐれものシステムである。
そう………僕はこの『Infinit possibility world』で、身も心もイケメンになりきって遊ぶのだ!
………いいじゃん、ゲームの中でくらい夢見たって。
という訳で設定を一通り終える。
タイトルにある『Infinit possibility world』の通り、このゲームはひとつのストーリーだけでなく、まさに無限ともいえる数のストーリーをあらゆるゲーム会社と考え、練りこんでいるとされている。
そんな中僕が選んだのは、まさに剣と魔法のファンタジーという王道もの。
王道ゆえに取っ付きやすいと思ったからである。
そういえば、このゲームのシステムの最大の特徴である、『スキルイメージアウト』ってのがあったなぁ。
たとえばただ剣を振ったとしても、その時に僕が剣に炎を纏っているイメージをしていた場合、その通りに再現されるという、面白いシステムである。
これを使えば、他社のゲームの技も再現可能!ダメージ自体は変化ないらしいけど、やっぱりファンタジーするなら派手なほうがいいよね。
とはいえ、処理落ちしかねん技―――流星が降り注ぐだの、そういうのは自然とロックがかかるらしい。仕方ないね。
キャラは戦士、前衛ってカッコいいよね。
いろんな武器が使えるジョブだから、いろんなエフェクトを楽しめるだろうという理由も一つ。
設定を完全に終え、素早くセットを装備してカプセルに寝る。
目を閉じ、次に開いたとき、僕の新しい人生が始まる。
期待に胸を膨らませつつ、僕の意識は落ちて行った。
「宇宙の果てのどこかにいる……わたしのしもべよ!」
ここはハルケギニア、トリステイン魔法学院。
「神聖で美しく!そして、強力な使い魔よ!」
桃色の髪を揺らす一人の少女が、今まさに使い魔を召喚しようと詠唱をしている。
遠巻きから聞こえるクスクスという嘲りの笑い。
その理由は、彼女が幾度と使い魔の召喚魔法を失敗しているという部分にあった。
彼女の失敗は今に始まったことではない。
座学は優秀でありながら、魔法は常に失敗。
天は我に二物を与えず、というが、今回はそれが仇になっていた。
トリステインは魔法至上主義国家であり、魔法を使えないものは常に見下される風潮にあった。
ヴァリエールはトリステイン屈指の名門貴族である。
その三女に当たる彼女が魔法を使えないという事実が、更に彼女にプレッシャーと悔しさを加速させていた。
同学年の生徒からも見下され、人一倍の努力も実らない。
春の使い魔の儀式が失敗すれば、留年が決定する。その成否が、彼女にとってまさに人生の岐路ともいえた。
周囲からは「もうやめろ」「いい加減にしろ」といった誹謗中傷の嵐が巻き起こる。
そんなものは一切無視し、ルイズは詠唱に集中する。
今の彼女にとっては、まだ見ぬ使い魔こそが心の拠り所。これを初めての成功としないと、今度こそ心が折れるという確信があった。
「私は心より求め、訴えるわ。我が導きに応えなさい!」
詠唱を終えた瞬間、轟音と共に爆発が起こる。
いつもと変わらない、失敗の象徴。
しかし不思議と、今日のそれは手ごたえを感じた。
いる。―――あの煙の向こうに、私の望んだ使い魔が。
煙が晴れていくと明らかになっていく輪郭。
その形はどこかヒトガタのようで―――しかし、何か違和感を覚える。
視界が完全に晴れた瞬間、その場にいた誰もが戦慄した。
そこに悠然と立っていたのは―――人間が畏怖し、先住魔法を行使するとされる亜人、エルフだった。
「う、うわああああああああああ!!」
誰の叫び声だろうか。
その情けない叫びを皮切りに、周囲にいた生徒は我先にと逃げ出していく。
召喚した当の本人は、不思議と冷静だった。
横目で周囲の様子を探る。
今この場にいるのは、春の使い魔の儀式を担当していた先生、コルベール。
小さい体躯に大きな杖を持つ少女、確かタバサといったか。
そして、お家柄同士の確執から敵対関係にある女性、キュルケ。
三人とも杖を構え、召喚したエルフへと向けている。
対してエルフの方は、ただの棒切れを見るような目で三人の様子を観察している。
そして遂に、私と目が合う。
黒の宝石と呼ぶに相応しい眼球が、視線で私を射抜く。
先程三人を一瞥した時とは違い、その瞳の奥には確かな感情の色が見て取れた。
それがどんな意味を込めたものなのかはわからない。
だけど、不思議と嫌な気分はしない。
気がつくと、私はエルフの下へと歩みを進めていた。
ゆっくりと、しかし確実に。
コルベールとキュルケの叫ぶ声が聞こえた気がしたが、今は気にもならない。
まるで吸い寄せられるが如く、着実な一歩を踏み出していく。
エルフはそんな私をただじっと見つめたまま動かない。
遂に手を伸ばせば届く距離へと至っても、彼は微動だにせずしっかりと私だけを見つめていた。
「貴方が、私の召還に応じたの?」
不安と共に吐き出された問いに、数秒の間を置き答える。
「―――ああ、どうやらそうらしい」
「どうして、応じてくれたの?」
「それが、俺にとって必要不可欠なことだったから」
「本当に―――私でいいの?」
エルフは僅かに微笑み、
「当然だ」
その言葉を聞いた瞬間、私の中の堤防は崩壊した。
恥も外聞もなくエルフの懐に抱きつき、泣き出してしまう。
そんな情けない姿を晒しても、彼は何も言わずただじっと身体を委ね続けていた。
目を開いた瞬間、そこには四人のアバターがいた。
一番近い距離にいた桃髪の女の子。なんかぼーっとしているようだけど、どうしたんだろう。
他には、後ろで何故かこちらに向けて杖らしきものを構えている、頭頂部が可哀想な男性と青髪眼鏡の少女と目のやり場に困るスタイルの女性。
どこか緊迫した雰囲気が展開されており、思わずすくみ上がってしまう。
恐らくこれはオープニングイベントのようなものだろうけど、あまりにもリアリティがありすぎてそういうものなんだと納得しきれないでいた。
何とか顔だけは動かして、桃髪の少女の方へと顔を向ける。
………わかっていたことだけど、凄い可愛いな。
二次元のキャラが三次元として成り立っているにも関わらず、美の造形は決して損なっていない。
良い仕事し過ぎだろ………と心の中で賞賛を送っていると、桃髪の子がこっちに歩いて来る。
何事かと思っていると、頭髪の残念な―――いや、もう次から禿散らかした人でいいか―――人が、「止まりなさい、ミス・ヴァリエール!」と叫び、続いて赤髪の女性も「やめなさい、ルイズ!」などと叫んでいる。
このことから推測するに、恐らく目の前の桃髪の子は、ルイズ・ヴァリエールって名前なんだろう。
必死に制止しているのも、ストーリーの一環なんだろうけど………どういう経緯でそうなったのかの説明がまるでない。
第三者の視点で見るゲームとは違う以上、それも仕方ないんだけど、置いてけぼりは少し寂しかったりする。
そんなこんなで、ルイズさん?が手を伸ばせば届く距離にまで近づいて、おもむろに、
「貴方が、私の召還に応じたの?」
などと言い出した。
………よし、整理しよう。
まず、私の召還とルイズさんは言った。
つまり、彼女はサモナー―――つまり、召還士のジョブなのだろう。
そんな彼女が、僕のアバターを召還した。
成る程、そういう流れで始まったのか。
まぁ、F○11でも召還士は最初からカーバンクルは使えるんだし、恐らくはルイズさんも召還士を習得する為の最終段階として、僕を呼んだという設定に違いない。
………というか、そもそもルイズさんはNPCでいいん、だよね?
このゲームのNPCのAIは物凄い優秀で、PCがどんな選択を取ろうともきちんと相応の対応をしてくれるようにアルゴリズムを仕組んでいるとのこと。
だから、彼女がPCなのかNPCなのかすら判断がつかない訳で。
大量のストーリーが練り込まれているというゲームの性質上、もしかすると〝世界観はリンクしているけど追うストーリーは違う〟という方法を取っている可能性だって少なからずある。
全部一から作っていたら流石にネタ切れになるだろうし、そういう妥協案も納得できる。
F○11だってサン○リア、バ○トゥーク、ウィン○スと三国それぞれにストーリーミッションがあるし、その他含めるともっとある。
これもその手の手法だと思えば、彼女がPCであるという可能性も捨てきれなくなる。
本当なら素直に訪ねればいいだけなんだけど、ロールプレイをしようとゲームを始めたのにいきなりそんな現実味のある会話を出来る訳がない。
多少のもどかしさを感じつつも、それが醍醐味だと納得し、改めてルイズさんの問いに答えることにする。
「―――ああ、どうやらそうらしい(うん、そのようだね)」
おお、本当に翻訳されてる!すげぇ!
しかもなんというイケメンボイス。いかにもクールでニヒルなキャラっぽい。
そんな興奮を尻目に、ルイズさんの問いは続く。
「どうして、応じてくれたの?」
「それが、俺にとって必要不可欠なことだったから」
そうしないとゲームが始まらないしね。
とはいえ、僕自身もまさかこんな展開になるとは思いもよらなかったけどね。
良くも悪くも、事前情報を殆ど確認していない弊害がいきなり来るとは思わなかった。
「本当に―――私でいいの?」
「当然だ」
この展開からして、僕は彼女のパートナー的位置づけになるんだろうけど、こんな美少女とならむしろ望むところである。
すると突然、ルイズさんが僕に抱きついてきたではありませんか!
僕のアバターは長身なので、ちょうど腰回りに抱きつかれるような形になる。
思わずニヤニヤしそうになるが、必死にこらえる。
理由はわからないけど、なんか泣いているんだもん。
流石にそんなシリアスな展開で馬鹿をやっていては、ロールプレイなんてできやしない。
………ゲームや漫画なら、ここで頭のひとつでも撫でる展開なんだろうけど、彼女いない歴=年齢の自分にはハードルが高すぎた。
取り敢えず泣きやむまでは大人しくしていよう。
「………少々よろしいでしょうか?」
ふと、禿散らかした人が険しい表情で話しかけてきた。
「何か?」
勝手に翻訳されるように設定したのはいいけど、常にこんな態度で大丈夫なのかな。
痛い子と思われて突き放されないように祈るばかりである。
「ええ。私、ここトリステイン魔法学院で、春の使い魔召還の儀式の立会人を担当させて頂いている、ジャン・コルベールと申す者です。もしよろしければ、ミス・ヴァリエールともども私についてきてもらえないでしょうか?こちらの事情含め、色々話しておくべき事があります故」
禿散らかした人改め、コルベールさんはとても礼儀正しい人でした。
話を聞く限り、コルベールさんについていくことで世界観の説明が行われるということだろう。
そんな案内役の立ち位置の彼がPCとは思えないし、NPCと考えていいだろう。
「構わない」
「では―――ミス・ツェルプストー、ミス・タバサ。貴方達は自室に戻っていて下さい」
「そうはいきませんわミスタ。ここまで来て見知らぬ振りを通して帰れるほど、人間できていませんわ。それに、今更ではなくて?」
ツェルプストーと呼ばれた赤髪の女性と、恐らくはその隣にいる子がタバサ。
どうやらついてくる気満々の様子。もしかして、彼女達もPCなのかな。
PCと一緒にチュートリアルを受けるってのは初めてかもしれない。大抵は独立してるからね。
「………わかりました。では、ついてきて下さい」
渋々と言った様子で承諾する。
こういうゲームキャラの教師としての立場と、ゲームの進行上仕方なくっていう板挟みを良い感じに表現してるね。
僕達はコルベールさんに促されるまま、彼の後ろをついていくことになった。