Infinite possibility world ~ ver Servant of zero 旧版   作:花極四季

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第十五話

ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは夢を見る。

その光景は、幼き頃の自分が母のスパルタ教育に耐えきれず逃げ出した時のものだった。

魔法が使えないという理由で厳しく指導されていたにも関わらず、爆発に還元される魔法は改善されない。

二人の姉が魔法を使えることで比較される毎日。

そして期待に応えられない情けなさも相まって、私はお気に入りの池のほとりに小舟を浮かべて孤独に泣く日々。

ここなら誰に憚れることなく無様な姿を晒せる。

貴族として生まれたからこそのプライドが成す、せめてもの抵抗。

 

「泣いているのかい? ルイズ」

 

ふと、優しい声が聞こえた。

深く被った帽子にフードの青年は、ゆったりと舟に降りる。

 

「子爵様?どうしてここに」

 

ワルド子爵。

私の憧れの存在であり、尊敬に値する能力を持った青年。

魔法が使えない私を、決して見下したり卑下したりすることがなかった存在。

幼い頃の自分にとって、それだけでも彼の存在は尊いものとなっていた。

 

「君のお父上に呼ばれたのさ。あの話のことでね」

 

「あの話―――って、いやですわ」

 

あの話、というのは幼い自分にも理解できる内容だった。

だけど、本質としては捉えていなかったのかもしれない。

 

「僕の小さなルイズ。君は僕のことが嫌いなのかい?」

 

「そんなことはありませんわ。ただ、私は子供だから、そういうのはよく………」

 

でも、今ならきちんと理解している。

今更有り得ないだろうけれど、もし今も同じ立場で問いを投げかけられたら、答えは決まっている。

過去の自分はもういない。

私を色眼鏡で見ず、常に私と共に在ることを決意してくれた存在は、ワルド子爵だけではなくなった。

 

「さぁ、晩餐会に行こう。母上に怒られたというのなら、僕がとりなしてあげよう。さ、お手をどうぞミ・レイディ」

 

過去の私が子爵の手を取った瞬間、一陣の風が吹く。

突然の出来事に目をつぶり、ふと開いた先にあったのは、優しい子爵でもなんでもなかった。

 

―――そこは、地獄だった。

 

視界一杯に広がる砂が敷かれた大地。

そこに血を流して横たわる無数の兵士。

メイジ、平民の兵士問わずそこでは平等に死が蔓延していた。

そんな死体蔓延る大地の中、地面に剣を突き立て身体を支えているひとつの影があった。

 

「ヴァル、ディ―――?」

 

それは、想像だにしていなかった光景だった。

誰にも負けるはずがないと信じて疑わなかったエルフの青年が、血みどろになりながらやっと立っているという状態だったのだ。

驚愕に目を見開いていると、蜃気楼から更なる影が迫ってくる。

ぼんやりしていてよく分からないが、ソイツがヴァルディをここまで傷つけた張本人だと直感的に理解する。

 

「主―――」

 

ふと、私の名を呼ぶヴァルディ。

先程とは違い、夢の中であるにも関わらず私はただ一人。

必然的に話しかけられているのは私という事になる。

 

「私が足止めする。だから、逃げろ」

 

「え―――」

 

それだけ告げると、どこかデルフリンガーを思わせる片刃の剣を構え、突撃していく。

止めようと走り出そうとするも、動かない。

このままいけば、彼の命はない。

わかっているのに、止める手段がない。

 

「やめて、ヴァルディ!戻って、戻ってきなさい!」

 

必死な叫びもむなしく、二人は再び蜃気楼に消えていく。

 

「ヴァルディ――――――!!」

 

夢の中でも、私は無力だった。

大切な人に護られてばかりで、見返りを何一つ与えられやしない。

そんな今までに味わったことのない口惜しさを最後に、目覚めることになる。

最悪な目覚めから真っ先にヴァルディを探し、安らかな寝息を立てている姿を見て、ようやく夢は夢だと落ち着くことができた。

しかし、言いようのない不安だけはしこりとなり、残り続けることになる。

 

 

 

 

 

 

武器をシュペー郷に譲り受け、数日が過ぎた。

キュルケさん達には滅茶苦茶感謝され、ルイズさんは目ぼしいものがなかったことに落ち込んでいたりと、順風満帆とはいかない結果だったけど、こればかりは仕方ない。

いずれルイズさんに相応しい装備が見つかるさ、と励ますと納得してくれたし、取り敢えずは解決したということで。

あと、どうでもいいことだけどテンコマンドメンツはインベントリに仕舞っている。

デルフリンガーが俺を捨てるのかー、と五月蠅かったので、あくまでメインウェポンは彼ということにしている。

 

「ヴァルディさん、どうしたんですか?」

 

「いや、私が公の場に相応しくない立場とはいえ、厨房に居座るのは些か迷惑ではないだろうかと思ってな」

 

ゲームである以上、万人がエルフという存在を特別視しないなんてことは有り得ない。

何故か厨房のNPC達は僕に好意的だからいいけど、そうでなければ僕は恐怖の対象でしかない。

ゲームの中で何故こんなに肩身の狭い思いをしなければならないのか、と思わなくもないけど、これも味なんだろうと納得する。

ゲームに感情的になれるってことは、つまりそれだけリアルな世界観でのめり込める要素があるということだ。

ゲームのキャラがイベントで死ぬとかした時、虚無感を覚える現象と同じだ。

 

「そんなことありません。私達はいつでも貴方を歓迎しますよ。料理長も貴方のことを買ってくれていますし、遠慮する必要なんかありません」

 

「………そうか。では遠慮なくこれからも通わせてもらおう」

 

こういう時、素直にお礼を言えないのがもどかしく感じる。

一長一短だね。わかっててやったことだけど。

 

「おう、ヴァルディ殿。せっかくのところ悪いが、今すぐご主人様のところへ向かった方がいい」

 

「マルトー殿。如何した」

 

「なんでもこの国の王女であるアンリエッタ王女が、何故かここに来訪なさられるという話を小耳に挟んだんだ。俺達には関わり合いがないことだが、やはり使い魔という立場上ここにいるよりも彼女の所にいるべきだろう」

 

王女………だと。

こいつはくせえーッ!国がらみのイベントの匂いがプンプンするぜーッ!!

王女がこんなところに来るというのは少し突発的過ぎる気もするけど、ただの期間限定イベントかもしれないし、大人しくルイズさんの所に戻ろう。

情報提供への感謝の言葉を告げ、速足でルイズさんの部屋へと戻った。

 

 

 

 

 

「あれが王女、か―――」

 

あれから部屋に戻ってすぐに、ルイズさんが続いて部屋に戻ってきた。

授業をしていたらしいが、王女来訪の話を聞きつけ、授業を中止して戻ってきたらしい。

それから準備とかしている内に、今に至るということである。

アンリエッタという少女は、どこかシエスタに似ていた。

というか、キャラのベースが恐らく一緒なのだろう。だから似ていると感じたんだろう。

まぁでも、シエスタスキーな僕としては、それと似た感じのアンリエッタ姫も好みの部類に入るわけで。

………こういうのもなんだけど、シエスタって平民と言うポジにしてはかなりの美人ってことになるよね。

こっちとしては嬉しい限りだけど、こういうパターンでは平民は素朴に描かれる印象が強いから、少し気になった。

対してルイズさんはアンリエッタ姫ではなく、その隣にいる髭な男性に夢中なご様子。

まさか、オジコンか。まぁ、ダンディな男って同じ男でも惹かれるところがあるしね。わからなくもない。

 

 

そんなこんなで先生生徒総出で迎えた彼女の到着は、つつがなく終了する。

部屋に戻ってから冷静に考える。どうやって接点を作ればいいんだろう、と。

王女と一般ピーポーでは会う理由すらないよね。

直接会いに行って無礼討ち、なんてアホな結果にはならないだろうけど、門前払いは有り得なくもない。

王女自身が何をするかを公表していない以上、こちらも動くに動けないのだ。

不意に、ノック音が部屋に響く。

さっきからそわそわしっぱなしのルイズさんの身体が跳ねる。

取り敢えず一番扉から近い僕が対応することにする。

ドアを開いた先には、黒いローブを頭まですっぽりと被せた何かが居た。

懐から杖を取り出し、何か詠唱している。

 

「ディテクト・マジック?」

 

「どこに目が光っているかわかりませんから」

 

ディテクト・マジックとやらを掛け、堂々と部屋に入ってくる黒ローブ。

ドアを閉め、ローブを外す。

そこにいたのは、まさかのアンリエッタ姫だった。

ルイズさんもびっくりしている。そりゃそうだ。

 

「アンリエッタ姫殿下!」

 

「久しぶりですね。ルイズ」

 

挨拶もそこそこに、アンリエッタ姫がルイズに抱き着く。

凄く親しそうにしているアンリエッタ姫に、その様子に戸惑うルイズさん。

これはまさか………二人はリアフレ!マックスハート的な展開か。

ルイズさんが敬語で彼女と会話しているのも、恐らくはルイズさんが礼儀を重んじるしっかりした性格だからか、リアルでの年の差がそこそこあるから自然とそうなるのかのどちらかだろう。

でも、会話の流れ的に幼馴染っぽい感じだったから、多く見積もっても二桁の年の差はないだろう。

あと、姫のフェイスが使い回しっぽい理由もPCだという理由なら納得だよ。

しかし、これで姫と言う立場の彼女がこの場にいる理由もわかった。

NPCじゃなくてPCなら、これだけ自由にできるのも納得だ。

それにしても、姫という立場でゲームスタートとか、どんな感じなんだろう。

自然と立場的に内政ゲーになるのかな?戦闘できそうにないし。

 

「それよりも、ルイズ。そちらのお方は?」

 

「えっと、彼はヴァルディと言って………私の使い魔です」

 

「人間の使い魔、ですか。昔からどこか人とは違うとは思っていましたが………」

 

「お初にお目に掛かる。ヴァルディと言う」

 

「私はアンリエッタ・ド・トリステインと申します。使い魔さん、ルイズのことを護ってくれて有難うございます」

 

「なに、大したことはしていないさ。姫ならば当然存じているだろうが、先のフーケ討伐の決め手となったのも主の勇気があってこそのものだったからな」

 

「まぁ、そうなのですか?」

 

「そ、そんなこと―――」

 

「それよりも、姫はここに如何様な用事で来られた?周りの目がある以上、夜分遅くになるのは仕方ないことだとしても、付き人もなしとは穏やかではないな」

 

「―――そうですね、では本題に入らせていただきます」

 

そこから切り出された話題は、ちょっと予想外だった。

端的に言えば、ゲーム内結婚をするに当たっての条件でとあるクエストを消化しなければならないが、それは姫と言う立場の自分では到底無理な条件だったので、代わりにルイズさんに手伝ってもらうということである。

その内容と言うのが、知り合いに渡した文が結婚の妨げになるから取り返さないといけないというもの。

しかし、アンリエッタ姫の表情には影が射している。

少なくとも、結婚と言うめでたい行事を語る表情ではない。

 

「―――望まざる結婚、か」

 

「ッ―――」

 

どうやら図星だったらしい。

恐らくは政略結婚。国力の拡大を促すにあたって、同盟を組む為に身を捧げる行為。

国力事情は知らないけど、ゲルマニアを見てしまったからには、あの国よりもトリステインが優れているとは声を大にしては言えなかった。

あの場ではその国によっての特色があるから一概に差は出ないと言ったけど、戦いは数だよ兄貴!という言葉通り、物量に優れていると言うのはそれだけで大きな差だ。

その結婚する相手もゲルマニアのお偉いさんらしい。

確かにベストな選択しれない、が―――果たしてそれでいいのだろうか。

ゲームなんだから気楽に考えてもいいのかもしれないけど、VRMMOでの結婚は通常のゲームと比べて価値が違うんじゃないかと思う。

 

「その選択は、最良で最善かもしれない。だが、それは所詮君の意志を度外視したものに過ぎない。君はそれでいいのか?」

 

「――――――」

 

膝上に乗せた両手を服ごと握りしめる。

それだけで彼女の本心は十分すぎるくらい理解できた。

 

「………すまなかった。部外者がとやかく言う話ではなかったな」

 

「いえ、いいんです。貴方のお気づかいはとても嬉しいですが、せめてお気持ちだけでも受け取りましょう」

 

「詫びと言ってはなんだが、その任務引き受けよう。どうせ主もその気なのだろう?」

 

「え、ええ。当然じゃない」

 

「ということだ」

 

「あ、有難うございます!えっと、使い魔さん」

 

「ヴァルディでいい」

 

「では、ヴァルディさん。貴方の忠義に報いる必要がありますね」

 

「忠義なんて大層なものではない。私はただ主と共に在るだけだ」

 

「ですが、それではあまりにも―――」

 

「私は別に、君が一国の姫だから敬っているのではない。君が主の友人だから、助けになってやりたいと思ったんだ。感謝するのならば、主にしてくれ」

 

今気づいたけど、呼び方が貴方から君になってら。なんでや。

 

「―――では、ルイズ。この任務、受けて下さいますね?」

 

「はい。この命に変えましても」

 

 

 

 

 

夜が明け、今頃ルイズ達はアルビオンに向けて旅立っていることだろう。

ルイズの決意を聞いた後、グラモン家の三男であるギーシュ少年が立ち聞きしているというアクシデントがあったものの、ルイズの使い魔であるヴァルディさんの機転によって、彼も旅についていくということで丸く収まりました。

 

「それにしても、不思議な方ですね。彼は」

 

今、私は学院長であるオールド・オスマンと教師コルベールと同じ部屋でこの度の訪問の理由も含め、話を進めている。

そんな中、私はふとルイズの使い魔である彼のことを脳裏に浮かべる。

 

「彼は、何者なのですか?正直な話、一介の平民とは思えない雰囲気を持っているように感じますが………」

 

「彼―――ヴァルディ殿のことでありますな。彼に関しては、私達も詳しいことは何一つわかってはおりません。せいぜい、我らメイジが束になって勝てる相手かどうか、というぐらいです」

 

「それは―――冗談ではなくて?」

 

「下手をすれば不敬とも取られかねないことを、嘘で言う筈もありませぬ」

 

「そうですか………。そんな彼が同行している今、此度のアルビオンの旅、安心してもいいのでしょうか?」

 

「さて。彼自身は最強でも、護る者がいれば話は変わってきますぞ。ましてや向かう先は戦時中のアルビオン。果たして皆が五体満足で果たして帰ってこられるのやら」

 

オールド・オスマンの言葉が胸を穿つ。

今更になって、罪悪感が込み上げてくる。

確かにこれはトリステイン王国の未来に繋がる大切な工程であり、蔑ろにしていいものではない。

けれど、ルイズがその任を受ける必要はなかったのではないだろうか。

とはいえ、嘆いたところでもう遅い。

自らが賽を投げてしまった以上、私が出来ることは彼女たちの無事を祈る事ばかり。

 

「では祈りましょう。皆が無事に帰ってくるように。始祖ブリミルと―――ヴァルディさんに」

 

使い魔さん。どうか私の代わりにルイズを、私のお友達を護ってください。

 

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