Infinite possibility world ~ ver Servant of zero 旧版   作:花極四季

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第二話

 今日は学院の生徒が一年生が二年生に昇級するための恒例行事、春の使い魔召還の儀式の日。

 使い魔はメイジと生涯を共にするパートナーであり、己が実力の具現でもある。

メイジの実力を見るなら使い魔を見ろという言葉がある。

 これは言葉通り、この召還の儀式で召還された使い魔の質によって、メイジの実力がわかるというもの。

 とはいえ、それは絶対ではない。絶対ではないが、蔑ろにしてよいものでもない。

 結局は一種の目盛りの役割なのだろうが、この儀式の結果次第で増長するメイジも少なくはない。

 トリステインは魔法至上主義国家であるが故に、その他を蔑ろにする傾向にある。

 貴族と平民の格差は酷いものであり、特にこの時期の貴族の悪ガキどもは、それが顕著である。

 そんな在り方をこじらせて大人になった貴族を、儂は幾度となく目にしてきた。

 他国に比べて国力が弱まってきているのも、魔法絶対主義という思想だけが原因とは到底考えられなかった。

 そんな固定概念を破壊しない限り、トリステインに未来はないだろう。

 

 書類に判子を押すという面倒極まりない作業を続けていると、何やら外が騒がしくなるのを感じる。

 また面倒事が起きたのかと溜息を吐いていると、席を外していた秘書―――ミス・ロングビルが慌てた様子で部屋に乗り込んできた。

 

「大変です、オールド・オスマン!」

 

「何じゃ騒々しい。どうせまた貴族の悪ガキが何かやらかしただけじゃろう?」

 

「そうではありません。ミス・ヴァリエールが―――」

 

「ミス・ヴァリエールが?」

 

「―――使い魔召還の儀式で、エルフを召還しました」

 

 瞬間、おどけた様子は捨て去りロングビルの話に耳を傾ける。

 

「………それは本当かね?」

 

「ええ。私は直接確認してはいませんが、逃げ出してきた生徒の様子では、見間違いは有り得ないとのこと」

 

「ほう………」

 

 遠見の鏡を起動し、広場の様子を眺める。

 そこにはエルフに抱きついているミス・ヴァリエールと、どこか毒気を抜かれた 様子のミスタ・コルベールと生徒二人がいた。

 生徒二人は、確かミス・ツェルプストーとミス・タバサだったか。

 どちらもトライアングルメイジであり、実力は申し分ない。ミスタも相当な実力者である、が―――エルフを相手にするにはそれでも足りない。

 だが、当のエルフはミス・ヴァリエールに抱きつかれても抵抗することなく受け入れている。

 エルフは争いを好まない種族と聞く。ならば現状で危険はないと考えてもいいだろう。

 

「恐らくコルベール君は彼の者をこちらに連れてくるであろう。君は生徒達の騒動を抑える役割に準じてもらいたい」

 

「わかりました」

 

 ロングビルは一礼して部屋から立ち去る。

 

「はてさて、厄介な手合いを持ち込んでくれたものじゃ」

 

 ミス・ヴァリエールは学業は優秀だが、魔法はまともに行使することができない。

 そんな無能の烙印を押されている彼女が、まさかエルフを召還するなどと誰が予測できたであろうか。

 これからの事を色々と思案していると、ノックの音が響く。

 確認せずとも、このタイミングで来るのは間違いなく―――

 

「入りなさい」

 

 そうして部屋に入ってきたのは、コルベールを先頭に、エルフ、ヴァリエール、ツェルプストー、タバサの五人だった。

 

「オールド・オスマン………」

 

「事情は理解している。彼をこちらに」

 

「とのことです。どうぞこちらへ」

 

 エルフが一歩踏み出し、向かい合う形を取る。

 漆黒の髪色と瞳と、腰に携えたロングソードが目につく。

 まるで戦士の様な出で立ちは、争いを好まない種族とは到底思えない。

 

「さて、このような場所に呼び出す形となり申し訳ない。なにぶんこちらにも事情があるもので、納得してもらいたい」

 

「構わない。それよりも、早速説明を頼みたいのだが」

 

 平坦な声量からは、感情を読み取れない。

 しかし、こちらに対して敵意を持っている様子はない。

 

「まず、ここはトリステイン魔法学院という、メイジである貴族を育成する場じゃ。そんな魔法を尊ぶ空間にエルフである君が現れたのは、かなり問題なのじゃ」

 

「何故だ?私が何かした訳ではあるまいに」

 

「それはそうなんじゃが………お主らエルフは一般的にメイジ十人が束になっても敵わない存在だとこちらでは伝わっておってのう。真偽はともかく、その噂のせいでどうしても周囲から注目されてしまうのじゃよ」

 

「………傍迷惑だな」

 

 本当に迷惑そうに呟く。

 出来るだけ彼の機嫌を損ねるようなことはしたくないが、この場で説明しておかないと別の場所で大問題が起こる可能性がある。

 ふう、老い先短い爺にこんな心労を患わせおって。ミス・ヴァリエールめ、恨むぞい。

 

「こんなことを聞くのもなんじゃが―――すまない、その前に名を伺ってもよろしいかの?」

 

「ヴァルディだ」

 

「ふむ、ではヴァルディ殿。腰から剣を下げているということは、剣術を嗜んでおるのかのう?エルフの強さとは剣技が関係しておるのかの?」

 

訪ねてから、しまったと思った。

秘境の地に住むエルフの事情を根掘り葉掘り聞こうとするということは、即ち彼らにとっては弱点を教えるようなもの。

過去に人間側が土地に侵攻している例がある以上、余程肯定的に解釈されない限り、この内容は悪用されると思われてもおかしくない。

背筋に冷たいものが走る。

我ながら迂闊だと思う。

この場にいる誰よりも年を食っている癖に、エルフと会って精神的に揺らいでいたのだろう。

それは恐怖か歓喜から来たものどちらか。何にせよ、言い訳できるものではない。

 

「何を勘違いしているかは知らないが、そもそもエルフという種族がメイジ十人相手でも敵わない強さを持つなんてのは幻想だよ。人間にだって一長一短があるように、エルフにだって実力者はピンキリだ。それが剣術であれ、魔法であれ、君達と何も違わないさ」

 

そんな肝を冷やしている儂を尻目に、何でもないかのようにそう語り出す。

もし先程の彼の言葉が真実ならば、この場にいる存在は途方もない程貴重な情報を得たことになる。

 

「何故、それを儂らに教えてくれたのじゃ?」

 

つい、神妙な面構えで問いかけてしまう。

だが、それは無理もない。それ程までに彼の言葉には価値があるのだから。

軽々しく話して良い内容ではないのは、彼自身も理解している筈。

それとも、彼一人でも口封じは容易いからこそ、こうも簡単に暴露したのだろうか。

 

「おかしなことを言う。聞いてきたのはそちらだろう?」

 

「いや、そうなんじゃが………いや、返答に感謝する」

 

これ以上詮索するのは流石に愚行だ。

部屋に入ってからというもの、ヴァルディ殿は未だ明確な意思を表情に出していない。

元々の彼の気質によるものなのかは定かではないが、ここまでポーカーフェイスを気取られると言葉に詰まってしまう。

涼しい顔して内心憤っているのではと思うと、本当に下手なことはいえない。

遠見の鏡で観察していた様子では、ミス・ヴァリエールに対しては一切の警戒心を抱いている様子はなかった。

まだ契約はしていない筈なのに、いきなり呼び寄せてしまったであろう相手に真摯に接することが出来るのか?

契約後ならば、精神的安定をルーンの効果によってある程度はもたらすことは出来るであろうが、そうではない以上彼が現状大人しくしているのが何故かが読めない。

強制拉致という理不尽な状況の当事者となれば、多かれ少なかれ感情を表に出すのが普通だ。

だが、彼はどこまでも自然体だった。

これも彼の気質によるものなのか。

エルフの概念で年齢を比較出来るかはわからないが、見た目通りならば儂なんかとは比べものにならない程若々しく、しかし学院の生徒と比べるには成熟しきっている。

とはいえ、その堂々とした佇まいからは、年長者の貫禄を感じずにはいられない。

 

 

「それよりも、本来召還では幻獣が呼び出される仕組みなんじゃが、お主のような亜人が今回呼び出される形となってしまった。本当にすまないことになってしまった」

 

「―――何を謝る必要がある。俺は俺の意思でここに来たに過ぎない。」

 

 先程とは違い、語気を強めて答える。

 自らの意思で召還に応じたとエルフは言った。

 普通、自由意思を奪われることを良しとしてまで召還に応じるだろうか?

 例外中の例外とはいえ、これは彼が望んだ結果だという。

 もしかして彼は、そんな境遇を良しとしてでも、何かから逃げ出したかったのだろうか。

 召還自体は偶然による産物とはいえ、それを好機と見て応じたのであれば、そう考えるのも難しいことではない。

 それが何に対してなのかはわからない。だが、この様子だとミス・ヴァリエールに限らず儂らに対してもどうこうする気はなさそうだ。

 

「ならば、ミス・ヴァリエールとコントラクト・サーヴァントを行いたまえ。見た限りでは使い魔の証であるルーンがどこにも見あたらないし、まだなのではないかね?」

 

「そういえば、そうだったわね………」

 

 ミス・ヴァリエールが思い出したかのように呟く。

 普段は気丈な態度の彼女が、今日はどうにもしおらしい。

 エルフに抱きついていたりと謎の行動も取っていたりもしていたし、よほど使い魔の召還に成功したのが嬉しかったのだろう。

 何せ、事実上の初めての成功魔法の証明だ。それがなんであれ、彼女にとっては至高の宝物だ。

 

「そうか、ならばさっさと済ませてしまおう。何をすればいい?」

 

「そ、それは―――――」

 

 エルフがミス・ヴァリエールへ問いかけると、恥ずかしそうに俯く。

 その様子を見て内心で楽しむ。

 男の儂から見ても惚れ惚れするような美丈夫を相手に、よもやキスで契りを交わすなどと言われれば、そうなるのも致し方ないこと。

 

「使い魔との契約は、キスによって成立する。勿論呪文を詠唱してからじゃが」

 

「キス………だと?」

 

 一瞬だが、エルフが確かに動揺していた。

 その様子を見て、鬼の首を取ったような気分になる。

 ここに至るまで一切表情を崩さなかった彼の者を動揺させたのだ、これは褒められて然るべきだと思う。

 

「ほれほれ、まだまだ話すことはあるんじゃ。こちらとて忙しい身、可能なことはさっさと済ませるに限らんかね?」

 

 畳みかけるように話を進める。

 事実、まだ彼に話すべき事は幾らかある。

 とはいえ、この初々しい雰囲気の二人の様子を楽しむという割合の方が圧倒的に強いのだが。

 エルフがミス・ヴァリエールの目線まで腰を落とす。

 

「………俺となんかでいいのか?」

 

「―――貴方は私の使い魔よ。誰に言われるまでもなく、誰に認められるまでもなくね。それに、私にとって初めての使い魔を否定するような真似なんて、絶対にしない」

 

 迷い無くそう告げるミス・ヴァリエール。

 この様子だと、二人の関係は大丈夫そうだ。

 

「では、契約を」

 

「ええ。―――我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン、この者に祝福を与え我の使い魔と為せ」

 

 静かに、しかし誰の耳にも確かに届くような透き通る声で詠唱する。

 その様子を膝をつき眺めるエルフの姿は、まるで王に騎士の誓いをしている光景を幻視させた。

 誰もが息を呑む中、互いに口づけを交わす。

 十秒程度の時間だろうか。ようやく互いに唇を離したとき、エルフの左手の甲にルーンの印が刻まれていくのが確認できた。

 苦痛を伴うとされているルーンを刻む行為でさえ、彼は眉一つ動かさず受け入れている。

 何という胆力。並大抵の精神力で為せる所行ではない。

 

「ふむ、無事使い魔のルーンは刻まれたようですな。………少々失礼しますですぞ」

 

 そう言いつつ、コルベールが彼に刻まれたルーンをスケッチしていく。

 

「ふむ、見たこともないルーンですな。………学園長、私はこのルーンについて調べてきます故、席を外させて頂きます」

 

「あいわかった。こちらのことは任せておきなさい」

 

 一礼して、コルベールは立ち去る。

 無事使い魔のルーンが刻まれたことによって、彼の警戒も解けたのだろう。そうでなければ、得体の知れない相手を前に生徒を置き去りにするなんて真似、彼がする筈がない。

 

「ふむ、ではヴァルディ殿にはこれを渡しておこう」

 

 そういって手渡したのは、指輪型のマジックアイテム。

 

「これは?」

 

「それは、魔法の効果を装備した者に永続的にするマジックアイテムじゃ。正確には、装備する前に付与されている魔法の効果を、じゃな。学院内にはもう知れ渡ってしまっているから今更じゃが、もし外出するような場合、フェイスチェンジの魔法を掛けてそれをつけることで、その耳を隠すことは可能じゃろうて。失礼を承知で言うが、エルフは儂ら人間にとって恐れられる存在じゃ。不用意にその証でもある耳を晒すような真似はしたくないんじゃ」

 

「―――成る程、了解した」

 

「納得してくれたようで何よりじゃ。―――っと、すまないのぅ。儂としたことが自己紹介を欠いておったわ。折角だし、この場で自己紹介タイムとしようではないか」

 

「なら、私からいかせてください。使い魔相手に未だに名前を教えていないのは問題がありますし」

 

「それもそうだの、ではミス・ヴァリエールから時計回りにの」

 

 そうして、各々が自己紹介をしていく。

彼に害はないことがわかったお陰か、とんとん拍子に話は進んでいく。

 ただ一人、ミス・タバサだけはヴァルディに含みのある視線を向けていたが、恐らくは大丈夫だろう。

 

「さて、儂からはこれくらいじゃな。ミス・ヴァリエール、これから彼のことで色々不都合が起こった場合、いつでも儂を頼りなさい。なんならコルベール君でもミス・ロングビルでも構わん。とにかく信用できる人物に相談して、決して内に抱え込まんように」

 

「………はい、ご忠告感謝します」

 

「おっと忘れておった。フェイス・チェンジを掛けておかなければな」

 

 杖を振り、瞬く間に耳は人間のそれと変わらない形状になる。

 そこで先程渡した指輪をヴァルディが嵌める。これで問題なかろう。

 この会話を最後に各自解散となる。

 エルフを召還したという理由で、ミス・ヴァリエールは色々負担を強いることになってしまうだろうが、そこは儂ら大人がフォローしていかねばならん。

 しかし、そんな大人である学園教師達ですら色眼鏡で彼女達を見るであろうことは、この国の現状を思えば考えるまでもなかった。

 

「問題が起こらなければよいがのぅ………」

 

 ヴァルディ自身が幾ら安全だとしても、周囲の人間はそうは思わないだろう。

 最悪ミス・ヴァリエール共々排除に乗り出そうとする輩が出てきても不思議ではない。

 彼の言葉を信じるならば、彼は反射を使うことができない。

 それはつまり、共通認識としてのエルフの特徴を前提とした対策を組まれた場合、ミス・ヴァリエールを護るのは困難になるということである。

 同時に、学園内にもいらぬ騒動の種を蒔く切っ掛けにもなりかねん。

 取り敢えず彼の存在に関しての箝口令を敷くなどと、色々根回しをする必要がある。

 これからの事を思うと、頭が痛くなる思いであった。

 

 

 

 

 

 コルベールさんに案内された先には、如何にも最高責任者ですという貫禄の老人が座っていた。

 

「オールド・オスマン………」

 

「事情は理解している。彼をこちらに」

 

「とのことです。どうぞこちらへ」

 

 コルベールさんに促されるまま、一歩前に出る。

 明らかに目上の存在の前に、緊張してしまう。

 NPC相手にこんなに緊張するなんて、僕がヘタレなだけなのかな。

 背後にはルイズさんがいる。こんな所へヘタレたところを見せようものなら、「えーまじー?NPCにビビルとかまじ受けるんですけど~」とか内心で思われてしまう。

 折角パートナー関係になりそうなのに、そんな馬鹿な理由で破談は嫌だ。

 ―――でも、どうやらこのキャラは喋り方だけでなく反応もイメージに準じているらしく、普段なら緊張で震えるであろう手足は微動だにしない。ありがとう、ロールプレイシステム!

 

「さて、このような場所に呼び出す形となり申し訳ない。なにぶんこちらにも事情があるもので、納得してもらいたい」

 

 人が良さそうな笑みで話しかけてくるオールド・オスマンと呼ばれた老人。

 

「構わない。それよりも、早速説明を頼みたいのだが」

 

 ―――自分でやったこととはいえ、状況に関係なくキャラが一貫しているのは心臓に悪い。

 明らかに不躾な態度なのに嫌な顔ひとつしないのは、ゲームのキャラだからなのか、そういう人物設定だからなのか。

 

 そんなこんなでオスマンさんからの説明が始まる。

 ここはトリステイン魔法学院という、メイジを育てる学校らしい。

 剣と魔法のファンタジーが部隊の世界だけあって、そういう機関は普通にあるものなんだろう。

 あと、この世界では何やらエルフという種族は色々問題があるらしい。

 曰く、メイジ―――ここでは魔法使い職はそう呼ばれるんだろう―――十人が束になってかかってもエルフという種族には勝てないという、何その無双キャラって設定がこの世界観では常識だったのだ。

 まっさらな状態から世界観を楽しみたかったという理由から、事前情報はカットしていた結果がこれだよ!

 このままでは事ある事に変な目で見られそうなので、それは君達とて例外じゃないですよー種族関係ないよーと反論しておく。

 恐らくあれだ。実際はイベントに出てくるエルフがそんなチートってだけで、僕には全く関係のないことに違いない。

 世界観を形成するにあたっての勢力図的意味合いがあっても、それが反映されたらゲームにならないしね。

 

 次に、どうやら僕のキャラは特殊な事情によって呼び出されたという設定らしい。

 幻獣―――そういえば学院内でもちらほらとモンスターのようなものを見かけたけど、多分あれがそうなんだろう―――ではなく、亜人―――つまりエルフが呼び出されたというのは異例の事態であり、事故によって発生したものだという理由で謝罪された。

 謝られたところで、この世界に訪れたのは自分の意思であり、彼らにとっては事故に映ろうともこっちにとっては故意である。

 ゲームの都合上仕方ないとはいえ、無意味に謝られてもバツが悪いだけなので、その辺もきちんと修正しておく。

 

 そんなこんなで話が進んでいると、コントラクト・サーヴァントなるものをしろと言われた。

 ルイズさんもやっていないのを思い出していたらしく、呆けた表情になっていた。可愛い。

 ―――そこまではよかった。そこまでは。

 

「そうか、ならばさっさと済ませてしまおう。何をすればいい?」

 

「そ、それは―――――」

 

 ルイズさんに問いかけると、もじもじして答えようとしない。

 横目でオスマンさんを見ると、何故かニヤニヤしていた。

 

「使い魔との契約は、キスによって成立する。勿論呪文を詠唱してからじゃが」

 

「キス………だと」

 

 その言葉を聞いた瞬間、僕の脳内は完全に暴走していた。

『ちょっと待てや運営ー!』とか、『それでいいのか、そんなんで良いのか!』とか、『いや、嬉しいけど、嬉しいけど!』などと異常なまでのパニックを起こしていた。

 確かに物語において、キスという記号はいつも何かしらの鍵としての意味を持ってきた。故にその考え自体に納得はできる、が―――何もVRRPGでやることはないでしょおおお。

だけど、この様子ではそのコントラクト・サーヴァントにキスは必須項目らしい。

 

「ほれほれ、まだまだ話すことはあるんじゃ。こちらとて忙しい身、可能なことはさっさと済ませるに限らんかね?」

 

 愉しそうなオスマンさんに恨めしさが募る。意趣返しのつもりか、くそう。

 ルイズさんの方へと視線を向ける。

 俯いた姿からは、表情は読み取れない。

 彼女だってどこの馬の骨ともわからない男と、ゲーム内とはいえキスをするなんて嫌な筈だ。

 

「………俺となんかでいいのか?」

 

 腰を落として目線を合わせる。

 ここで何も聞かずにキスをしようものなら、どんなに整合性が取れていようともセクハラになってしまう。昨今はそういう方面で厳しいから、敏感になるのも仕方ない。

 

「―――貴方は私の使い魔よ。誰に言われるまでもなく、誰に認められるまでもなくね。それに、私にとって初めての使い魔を否定するような真似なんて、絶対にしない」

 

 ………ん?なんか僕とルイズさんとの間に見解の相違がある気がするんだけど。

 とはいえ、どうやら彼女も僕とコントラクト・サーヴァントをするのは納得している様子。

 まさか、ファーストキスがゲームのキャラとだなんて………。

 いや、壁一枚超えたら確かに人間はいるんだけど、そうじゃない、そうじゃないんだよ………。

 勝手に悩んでいると、ルイズさんが詠唱らしきものを唱え、僕の頭を掴んだかと思うと―――

 

 そこから数十秒の間、僕の記憶は飛んでいる。

 唇に感じる余韻だけが、結果を物語っていた。

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