Infinite possibility world ~ ver Servant of zero 旧版 作:花極四季
「ヴァルディ。貴方の昼食なんだけど………」
帰宅後、ルイズさんからそんな切り出しをされた。
「どうかしたか?」
「貴族が食事を取るアルヴィースの食堂に、使い魔は入れない決まりになっているの。だから、厨房で直接食事を摂って貰いたいんだけど………」
とても申し訳なさそうに、そう告げる。
「気に病む必要はない。元よりこちらが部外者なのだ、私に気を遣う必要はない」
………改めて思うけど、僕の言葉が綺麗にイケメン変換されてるのに内心笑ってしまう。
そして、それに最早違和感を感じなくなっている辺り、順応性高いな自分。
「ごめんなさい。あと、貴方が害のない存在だということは厨房の人には伝えているから、多分大丈夫よ」
「そうか」
あー、そういえばエルフは畏れられてるって設定だっけ。
肩身が狭いというか、ストーリー外の場面でもストーリー設定のしわ寄せが来るのはVRRPGだからこそと言うべきか。
それが魅力なんだし、仕方ないっちゃあ仕方ない。
迫害を受けている訳じゃないと考えたら気楽だけど、畏れられているってのも難しい立ち位置だよね。
「では、行ってくる」
そういえば、VRRPGに入って以来、ご飯食べてないや。
実はVRRPGをやるに当たって気になっていた部分のひとつでもある。
VRRPGでの料理って、満腹中枢を刺激するだけでなく、一応味も再現されているらしいんだけど………味覚の善し悪しなんて人それぞれなんだし、料理の味は安定した素朴なものに一貫されているってのが漫画とかでのお約束パターンだったんだけど、色々と技術の進化を見たこの世界では、妄想を超越した結果を出してくれるだろうと期待していたりする。
まぁ、実際に腹はふくれなんいから、期を見てログアウトしないと餓死しちゃう。
………って、ログアウトってどうやるんだろう。
ウィンドウみたいなものは表示されない、というか従来のやり方では出来ない。
楽しみすぎて説明書を読むことを怠ったのがまずかった。
やり方をルイズさんに聞くか?
いや、こんなロールプレイしている奴がいきなり「ログアウトの仕方教えて」とか言ったら色々アウトじゃん!
まぁ、いいか。
なんかもう、この世界で一生を過ごすのも悪くないレベルだし。
………って、良くない良くない!
あーもう、テンパってて変なこと考えちゃうよぉ~。
ふと気が付くと、厨房に辿り着いていた。すげぇ。
気兼ねなく厨房に侵入する。ゲーム内だからこその暴挙である。
誰もが一斉にこちらを振り向く。
なんていうか、すげー怖い。
思わず動きが止まってしまったぐらいだよ。
「主―――ルイズからここに来れば食事にありつけると聞いたのだが」
「あ―――はい!ただいまお持ちします!」
可愛いメイドさんが、僕の言葉にいち早く反応し、料理を運んでくる。
一見地味目な印象を見受けるけど、普通に可愛い。
なんて言うか、二次元のキャラを違和感なく三次元にした感じ。黒髪も現代的にマッチしているし。
運ばれた料理は、シチューやパンといった、いい感じに庶民的なものであった。
これなら、味にブレは少ないだろうし、妥当といったところだろう。
料理への、そして調理してくれた人への感謝を込めて、いただきます。
「………美味い」
表面上はこんな反応だけど、内心はかなりテンション上がっている。
何これ、普通に美味しいんだけど。
現実のそれと寸分も違わない濃厚な舌触り、パンのもふもふ感。どれを取っても 極上だ。ありがとうを言わずにはいられない。
お礼を言うために顔を上げると、誰もが僕の食事風景を見守っていた。
もしかして、テンション上がってたのバレた?
「見られていると、せっかくの美味い料理が不味くなるのだが」
「ご、ごめんなさい」
と言いつつも、ちらちらとこちらを見てくるのに、僕は気付いていた。
うーん、やっぱり僕がエルフだってことが尾を引いているんだろうなぁ。
よし、ここはいっちょ言ってやらないとね。明らかにNPCの団体相手に、意味あるのかわかんないけど。
「君達が私をどんな目で見ているのかは理解しているつもりだ。理解した上で言わせてもらう。私は君達をどうこうする為にここに来たのではない。信用に値するかは、これからの私を見て判断して欲しい」
言いたいことは言い切った。
取り敢えず、これからもお世話になるだろうし、仲良くなる布石を仕込んでおかないとつらい。
とはいえ、何すればいいのかはまるでわかんないんですけどねー。
「料理、美味だった。今度も頼む」
取り敢えず今日はすたこらさっさだぜ。
突然厨房に貴族様が来たときは、厨房内が戦慄しました。
それもそのはず。
ただでさえ貴族様こんな場所に顔を出すような身分ではないのに、それに加え訪れたのが昨日から噂になっている、エルフを召還したとされているミス・ヴァリエールだったのですから。
「そこのメイド」
「あっ、はい!如何致しましたでしょう?」
「昼時、ここに私の使い魔が昼食を摂りに来るわ。だから、手頃な料理を作っておいて頂戴」
「はい、分かりました。………あの、その使い魔って、もしかして」
「どうせ貴方達の耳にも入ってるんでしょう?エルフよ」
やっぱり、と私は絶望した。
エルフは、貴族様ですら敵わない力を有しているとされる亜人と言われている。
逆立ちしたって、私達がどうこうできる存在ではないのは明白。
「安心しなさい。彼は―――ヴァルディは貴方達に対し何かするような人ではないわ」
「そ、そう言われましても………」
「いいから、作っておきなさいよ!そして、アンタの目で見極めなさい!あ、あと彼は魔法で耳を人間のものに見せかけてるけど、見たことない男が来たらそれがヴァルディだって思っていいから!」
うじうじとした私の態度に業を煮やしたのか、怒って去っていった。
怒らせてしまったのに何もされなかったのは幸いだった。
不思議と恐怖していないのも、これから来るエルフの存在により恐怖を覚えているからなのか。
「マルトーさん………」
料理長であるマルトーさんに事情を説明する。
とはいっても、ミス・ヴァリエールが大きな声で説明していたお陰で、大まかな 事情は事前に届いていたらしく、淡々と話が進んでいく。
「貴族様の意見にゃあ逆らうことは出来ん。それに、その貴族様さえ恐れおののく相手が来るとなれば、俺達の反抗なんて無意味だろうよ。ここは大人しく料理を振る舞ってやろうぜ」
普通、平民は魔法に関わる内容のことを知ることは稀だ。
理由は簡単。知る必要性も機会もないから。
メイジが平民の脅威であるという事実さえ知っていれば、処世術は行使できる。
どうせ覆すことのできない立場なのだから、詳しく知ったところで意味はない。
でも、やはりこういうところで働いていると魔法関係の言葉に少しだけ詳しくなったりする。
エルフという単語も、厨房仲間を通じて知ったことだ。
詳細は不明だけど、エルフが召還されたということが学院内に広まっているせいか、貴族様達が普段よりも大人しい、というよりもビクビクしている。
そのことから、エルフというのは恐ろしい存在なのだと、勝手に解釈しているのである。
「大丈夫でしょうか?」
「さてな。あの貴族様の弁を信用するなら、そのエルフとやらは常識ある奴なんだろうさ。少なくとも、他の貴族様と違ってな」
へっ、と皮肉気味にそう語る。
………とはいえ、この時間からエルフの為の食事を作る余裕はない。せいぜい賄いが限度だろう。
もしエルフの口に合わなかったら―――そう考えると、ゾッとする。
貴族様でも敵わない存在だというのなら、私達なんて腕の一振りでお終いだろう。
その後、厨房内は嫌な静けさに包まれた状態で作業が行われていた。
それも当然だ。刻一刻と死刑までの時間が迫っている可能性があるのだ。
その判決から逃れようと、必至に料理を作っている。それこそ、貢ぎ物を献上するかのように。
―――そして、その時は訪れた。
「主―――ルイズからここに来れば食事にありつけると聞いたのだが」
誰もがその平坦な声に振り向いた。
長身で絹のような黒髪。そして一番の特徴的な部位である表情はどこまでも凍りついていた。
人は、あそこまで表情を固定できるものなのだろうか?
遠巻きに見たことがあるミス・タバサも似た感じだったけれど、まだ彼女は少女相応の雰囲気を醸し出していた。
しかし―――彼は違う。
まさに生きた人形と呼ぶに相応しい。生命維持に不要と判断された要素を切り詰めたような、そんな印象を受けた。
「あ―――はい!ただいまお持ちします!」
厨房内の誰よりも早く反応できたのは、直接貴族様に言われていただからだろうか。
私の焦った声色が厨房に響くのに続き、一斉に厨房は活気を取り戻す。
「お待たせしました」
エルフの前に、賄いを多少豪勢にしたものを置く。
両手を合わせ、無言で祈りのようなポーズを取る。
エルフの独自の風習だろうか?恐らく、始祖ブリミルへの感謝の祈りのようなものだろう。
祈りを終え、スプーンを手に取りシチューを口に含む。
その一挙動を誰しもが見守っていた。
「………美味い」
その呟きが消えた途端、誰もが気付かれない程度に安堵の息を漏らす。
私達の料理は、エルフにも通用する。その事実は、単純な安堵だけではなく、料理人としての喜びをも刺激した。
その視線に気が付いたのか、おもむろにエルフは面を上げる。
変わらず表情に揺らぎはない。だが、先程よりも恐怖は感じなかった。
やはり、美味いと言われたからだろうか。
貴族様は私達が食事を作ることを当然と考えている。
食事前の祈りも、調理人への感謝ではなく、始祖ブリミルと女王陛下に対する感謝のみ。
私達を小間使いにすることに疑問を微塵も感じず、それどころか大量に作った料理は残すのがいつもの光景。
調理人の誰もが思ったことだろう。ささやかとは一体なんなのかと。貴族様が無駄にしてきた料理で、何人もの平民が食いつないでいけるのかと。
だからこそ、彼の美味いという一言は、私達にとって救いだった。
そしてメイジに畏れられるエルフが、とても近しい存在に感じた瞬間でもあった。
「見られていると、せっかくの美味い料理が不味くなるのだが」
「ご、ごめんなさい」
それはちょっとした不満へのもの申しだった。
能面のような表情の筈なのに、私にはどこかふて腐れているように見えた。
エルフは―――いや、ヴァルディさんは一呼吸置き、口を開く」
「君達が私をどんな目で見ているのかは理解しているつもりだ。理解した上で言わせてもらう。私は君達をどうこうする為にここに来たのではない。信用に値するかは、これからの私を見て判断して欲しい」
私達が感じていた不安を解すように、どこか諭すように彼はそう言い切った。
意識を押しつけるのではなく、私達に判断を委ねてくれた。
彼にとって、私達は遙か下位の存在の筈なのに、どこまでも対等に接しようとしてくれている。
そう思うと、目頭が熱くなってくる。
「料理、美味だった。今度も頼む」
これ以上は言うことはないと言わんばかりに、再び聞きたかった言葉と共に、厨房を去っていった。
結構な量を出した賄いは、とても綺麗に片付けられていた。
「………マルトーさん」
「………言いたいことはわかってる。俺達はアイツに謝罪しなきゃいけねぇ。偏見で勝手に怯え、奴の尊厳を知らず傷つけていた。あんなに話が分かる奴だってのに、俺はっ―――!」
「料理長だけの責任じゃありません!俺達だって、彼にあんな態度を取ってしまって、なのに彼はそのことを気にも留めず、あまつさえ料理を褒めてくれた」
「彼が危険な人物?そんな訳がねぇ!」
他のコックやメイドも共通してその意見に頷いてみせる。
「俺はよう、奴こそ本当の貴族の在り方を体現していたように思えたぜ。どこぞの貴族の坊ちゃん達と違ってな!」
「マ、マルトーさん。声が大きいですよ」
「構うもんか!おう、お前ら!気合い入れて料理するぞ!奴に褒められた料理で、貴族の坊ちゃん達をぎゃふんと言わせてやろうぜ!」
おおー!と勝ちどきが上がる。
彼らの思いをひとつにしたエルフ、ヴァルディさん。
私は、しばらく彼が去った出口から目を離すことが出来なかった。