キングスピア < K I N G S P I A >   作:明暮10番

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パラレルダイス2018『 垤 』

 渚と共に学校に行った姫乃。

 その間のソウゴは暇。昨日の公園で、難しい顔をして佇んでいた。

 

 

 日中とは言え、今日は平日。

 がらんとした公園内、一人だけだ。

 

 

「……明らかにおかしいよね」

 

 

 ほんの一晩挟み、突然姫乃と和解した母親といじめっ子。

 二人とも、自分の持っていた苦難、悩みと向き合い、受け入れた。

 

 

 仲直りした事は大変めでたい。

 ただ、あまりにスパンが短過ぎるし、予兆がなさ過ぎる。

 

 

「誰かが姫乃を助けたのかな……それとも何か……別の力が……」

 

 

 ハッとなり、ソウゴは頭を振った。

 

 

「あー駄目だ駄目だ……ずっとアナザーライダーと戦って来たからなぁ……どうしても事件性とか、そんなの考えちゃうよなぁ」

 

 

 ソウゴが出会って来たアナザーライダーたちは、願いがあった。

 それは自分が良い思いをしたいだとか、誰かの救いになりたいだとか。

 

 遭遇した中では恐らく、後者の人々が多かった。

 自分ではない、自分以上に大切な、愛すべき人の為。

 ただやり方が間違って、結局はその愛すべき人以外を犠牲にする方法を取ってしまった。

 果ては信じていたばかりに裏切られ、暴走してしまう者もいた。

 

 自分の為、相手の為にせよ、結局は誰かを傷つけてしまう存在。

 彼らはまさに、『間違えた正義(アナザーライダー)』だった。

 

 

 

「……誰も傷ついていない。寧ろ、姫乃の傷を治してくれている」

 

 

 直感だが、それらの考えから、ソウゴはアナザーライダーの仕業ではないと確信していた。

 

 

 

 

「でも、普通じゃないよね。注意しておこう」

 

「何にだ?」

 

「そりゃあ、姫乃の周り……に……」

 

 

 

 背後から突然声をかけられ、ソウゴは飛び上がる。

 

 

「よぉ」

 

「……! あんたは……!」

 

「元気そうで何よりだ。魔王」

 

 

 立っていた人物は、士だった。

 何度か見た、派手なスーツではなく、それよりは何倍も地味に見える普通のスーツを着ていたが。

 

 

「俺を追って来たの?」

 

「そうでもあるし、そうでもない」

 

「曖昧だな……」

 

「だが今は休戦だ。困った事が起きた」

 

 

 警戒するソウゴを宥めながら、士は話を勝手に進める。

 

 

「お前、俺の偽物と戦ったろ?」

 

「じゃあやっぱり、アレはアナザーディケイドなんだね?」

 

「そうなるな。まぁ、俺の力は盗られる訳はないがな」

 

「うわ、すっごい自信……」

 

「それで……お前はそいつに飛ばされた……だろ?」

 

 

 首からかけたカメラを弄りつつ、噴水の前に立つ。昨日、ソウゴが落とされた噴水だ。

 

 

「俺だけじゃない。関係のない人も飛ばされている」

 

「それに関しては安心しろ。飛ばされた人間は、キッチリ帰してやった」

 

「え? 士が?」

 

「あぁ。あんな易々、あの力を使われたら困るんだ。俺が疲れる」

 

「全然疲れているように見えないけど……」

 

 

 シャッターを切り、噴水を撮る。

 やっぱりブレていた。

 

 

「じゃあさ、俺も元の時代に帰せるよね?」

 

「ああ」

 

「休戦なら、一回俺を帰してよ! シャワー浴びたいからさ!」

 

「……風呂入ってないのかお前」

 

「野宿だったんだよ。ホント、身体も痛くてさぁ……」

 

 

 腕を広げ、「さあ、帰して」とアピールするソウゴ。

 しかし士はカメラを弄るばかりで、反応しない。

 

 

「……どうしたの? 帰せるんでしょ?」

 

「……残念ながら、それは叶わない。『お前に限定して』な」

 

「……え?」

 

 

 含みのある士の言い方。

 

 

「……どう言う意味?」

 

「単刀直入に言う、魔王」

 

「俺、ソウゴって名前あるんだけど」

 

 

 士はソウゴと目を合わせ、事実を伝える。

 

 

 

 

「この世界は、『お前の知っている世界じゃない』」

 

「……えぇ?」

 

「所謂、『パラレルワールド』だ」

 

 

 ソウゴは目を見開き、分かりやすく愕然とする。

 過去の世界と思っていたここは、過去でも未来でもなく、『似て非なる世界』だった。

 

 

「パラレルワールドぉ……? またぁ?」

 

「また?」

 

「あ、いや、こっちの話……つまり、この世界で家に帰っても……」

 

「お前の大叔父はいないし、お前自身もいない。ついでもライダーもいない……お前にとって、『帰る場所の無い世界』だ」

 

「マジで?……いやいやいやでも!? 士がここにいるって事は、パラレルワールドも移動出来るって事だよね!? なら俺を帰すのも問題ないじゃん!」

 

「……お前あっさり言ってるが、なかなかヤバい事だぞ」

 

 

 しかし士は気怠げに首を振り、否定。

 

 

「お前……この世界に『見初められた』ようだぜ?」

 

「え? 見初められた? 世界に?……どゆこと?」

 

「言い方が抽象的だったか……簡単に言えば、お前は現状この世界に縛り付けられているんだ。だから俺はお前を、連れ出せない」

 

 

 簡単に言われてもやっぱり訳が分からない。

 眉を寄せて疑いの目を向けるソウゴを見て、士は説明を続けた。

 

 

「何か……この世界にとって『重要な何か』と、お前は関係があるんだ」

 

「この世界にとって重要な何か……結局曖昧じゃん」

 

「それとの関係を断ち切るか何かしなきゃ……お前は永遠に、この世界の住人だ」

 

「それ困るよ!?」

 

「こっちとしたら元の世界で魔王になられる方が困るが?」

 

「だから俺は最高最善の魔王になるって……!」

 

 

 そう、ゲイツと約束した。

 最高最善の魔王となり、世界を破滅から救うと。この世界にはいられない使命がある。

 

 

 彼の意気を感じてか否か、士は微かに笑った。

 

 

「何も帰られない訳じゃない。言った通り、この世界との関係を断ち切れば帰れる」

 

「断ち切るって、何を? どうやって?」

 

 

 彼はニヤッと、意地悪く笑う。

 

 

 

 

 

 

「物なら『破壊しろ』。存在なら『殺害しろ』」

 

 

 踵を返し、動揺するソウゴから立ち去る。

 

 

「……お前なら簡単だろ? 魔王」

 

 

 そのまま彼は公園の外に停めていたマシンディケイダーに乗り、何処へと去って行った。

 後ろ姿を呆然と見るだけしか、ソウゴは出来ない。

 

 

 

「物なら破壊……存在なら、殺害……」

 

 

 そんな事、自分に出来るのか。

 そもそも『この世界にとって重要な何か』。

 そんなスケールの大きな物、こんな街にあるのかと。

 

 

 

「……てか、なんで俺なの?」

 

 

 溜め息がつい出てしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『FINISH・TIME!』

 

『ウィザード!』

 

 

 よろめくアナザーディケイド。

 隙を見せた敵に目掛け、ウィザードアーマーのゲイツは必殺をお見舞いする。

 

 

『ストライク!』

 

『TIME・BURST!!』

 

 

 ゲイツは身体を捻りながら二回飛び、宙高く舞った地点で足を突き出す。

 

 

「ハァァァァアアアッ!!!!」

 

 

 炎を足に纏わせ、そのまま一気に急降下。

 回避の隙は無く、アナザーディケイドはキックを受けて爆散した。

 

 

 

 

「……やはりか」

 

 

 アナザーディケイドがいた場所を見るも、そこに契約者の姿はない。

 ゲイツは納得した様子で、変身を解く。

 

 

 

「………………」

 

「やあ」

 

 

 そのタイミングでふらっと現れた、一人の人物。

 片手に大きな本を持つ、独特な雰囲気の男。

 

 

「……『ウォズ』か」

 

「この間は実に素晴らしかったよ。我が魔王を再び、覇道へと戻してくれたのだから」

 

「フン……間違えるな。あの状況で、ジオウがいなければやられていた……利用しただけだ」

 

「…………そう言う事にしておこう」

 

 

 見通したかのような目。そして澄ました表情。何をしでかすか読めない不気味さ。

 全てを含めて、ゲイツはこの男、ウォズを目の敵にしている。

 

 

 

 それもそのハズ。

 彼はゲイツと同じ未来から、『ソウゴをオーマジオウへ導く為』に現れた男だからだ。

 オーマジオウへの道の始まりであるジクウドライバーを授けた者こそ、このウォズだ。

 

 

 そしてゲイツは、一度もこの男に勝てた事がない。

 

 

 

「……お前。ジオウの状況が分かるか?」

 

「アナザーディケイドによって……我が魔王は『別の世界』に飛ばされてしまった……だろ?」

 

「やはりパラレルワールドか……そしてその落ち着き様からして……これも全て、予言書の通りなのか?」

 

 

 ウォズは小脇に抱えていた本を取り、開く。

 本には『逢魔降臨暦』と銘打ってある。ジオウ誕生からオーマジオウ降臨までを記した、予言書だ。

 

 

「我が魔王以外に予言書の内容は言えないのだが……まぁ、私とゲイツくんのヨシミだ。少しだけ、教えてあげよう」

 

 

 本に目を通し、ウォズは厳かに読み上げる。

 

 

「この本によれば……我が魔王はその通り、必ずや凱旋を果たす」

 

「だろうな……でなければ、お前が余裕ぶっていられんだろ」

 

「全ては予言書のままに、だよ」

 

 

 薄気味悪い笑みを浮かべながら、本からゲイツへ視線を戻す。

 

 

 

「……我が魔王は、彼の世界にて……『女王を断ち切り、帰って来る』……」

 

「……『女王』? 向こうの世界には……女の王がいるのか?」

 

「そこまでは詳しく書かれていない。あくまで、この世界の話だけだ……が、面白い記述があるよ?」

 

 

 ウォズは、続けた。

 

 

 

 

 

「……我が魔王は、あちらで女王と邂逅を遂げ……『王』となる」

 

 

 

 

 その言葉に愕然とするゲイツ。

 

 何処からか甲高い、時計の針が動いたような音。

 目の前にいたハズのウォズは、姿を消していた。

 

 

 

「……王に……だと……?」

 

 

 脳裏に浮かぶは、腕を掲げ、全てを破壊する……『最低最悪の魔王』の姿。

 

 

 

 

「…………ジオウ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へーっくしょんッ!!……これは何処かで俺、噂されてるなぁ?」

 

 

 放課後、学校の前で待つソウゴ。

 帰路につく生徒たちを見送りながら、姫乃を探す。

 

 

「あ、ソウゴさん」

 

「よっ、姫」

 

「あーあーあーストップストップ!」

 

「また君ぃ……」

 

 

 渚がソウゴの前に立ちはだかる。

 

 

「てめぇ……誰の許可で姫乃に近付いてんだぁ? おぉ?」

 

「いや許可も何も……そう言う君も、今までイジメていたのに虫が良いんじゃない?」

 

「ちゃんと一日かけて謝ったっての! 姫乃も護ったぜ!」

 

 

 姫乃は控えめながらも、首を縦に振る。

 彼女の言った事は本当だろう。姫乃から、怯えや鬱屈とした様子は皆無だからだ。

 

 

「服部さん、ずっと私の近くにいて護ってくれて……」

 

「てか今お前、姫乃の事『虫』っつったか?」

 

「いやいやいや!?『虫が良い』って言っただけだし、姫乃にじゃないし!? なんで!?」

 

「私のあだ名が『虫』だったんです……」

 

「姫乃の事を虫って言う奴は片っ端からぶっ飛ばしてやんよ!」

 

「落ち着きなって! 俺も姫乃の友達だからさ!」

 

 

 ガルルと威嚇する渚を宥めるソウゴだが、次の発言は火に油を注ぐ。

 

 

 

「それに姫乃は、ねっ? 俺の、未来の配下だし?」

 

「は?」

 

 

 後ろで姫乃が頭を抱えている。

 

 

「それどう言う事だお前?」

 

「は、服部さん、あの、これはソウゴさんなりの冗談で」

 

「姫乃は俺の、家来になるって事!」

 

「ソウゴさんっ!?!?」

 

 

 止めるよりも早く渚はソウゴと距離を詰め、胸倉を掴み上げる。

 女子にしては筋肉質な彼女。ソウゴは軽々と持ち上がる。

 

 

「おおおお!?」

 

「姫乃を家来とか身の程知らずかてめぇぇッ!? お前がなる側だろ普通!!」

 

「ぜ、絶対この子昨日の子じゃないってぇ……!」

 

「今すぐ撤回しろゴラァァアッ!!」

 

「服部さん落ち着いて!」

 

「姫乃に免じて許してやる」

 

「切り替え早っ!? うおお!?」

 

 

 いきなり手を離され、地面に尻餅つく。

 姫乃の事になると興奮する辺り、本気で好きなようだが、些か過剰だろう。

 

 

「いてて……もうちょっと優しくしてよぉ……でも、なかなか良い運動神経だね! 君も、俺の王室のSPになる?」

 

「あぁ? 私は姫乃のSPなんだよ」

 

「そんなハッキリ言うんだ……」

 

「……てか、王室? お前、良い所の坊っちゃんか?」

 

「俺ね、王様になるのが夢なんだ!」

 

 

 ソウゴが夢を語った瞬間、渚は真顔になって、すぐに噴き出し、大笑いし出す。

 

 

「ギャハハハハ!! お、王様ぁ!? 今時、子どもでもまだリアルな夢待つぜ!!」

 

「笑い過ぎですよ服部さん……」

 

「割と本気なんだけど」

 

「はははー……はぁ。じゃあ、姫乃! 帰ろっか!」

 

「だから切り替え早いって!」

 

 

 姫乃の手を引き、一緒に帰ろうとする渚。

 

 

「ねぇ! 姫乃、定期忘れているんだよ?」

 

「あ? なら私が交通費出す」

 

「そ、それは悪いですよ!!」

 

「良いって良いって! だからさ、一緒に帰ろっ!」

 

 

 そのまま強引に連れ、駅へと向かってしまった。

 振り向き、何度も頭を下げる姫乃に、仕方なくソウゴは手を振って見送る。

 

 

「……どうなってんだ?」

 

 

 姫乃贔屓、と言うより姫乃絶対主義な気がする。

 やはり一日でなれるような物ではない。明らかにおかしい。

 

 

「……もう少し、姫乃に話聞いてみよっかな」

 

 

 振り返り、バイクで団地に向かおうと歩き出す。

 

 いつの間にか、数人の女子グループに囲まれていた。

 

 

「……今度はなにぃ? 君たちも姫乃の友達ぃ? てか、襟立てるの流行ってるのぉ?」

 

 

 ソウゴはもうヘトヘトだった。驚きよりも呆れが出てきて、肩を落とす。

 一人がギロッとソウゴを睨み付け、吐き捨てるように話す。

 

 

「襟はどうでも良いだろ……てか、誰があんな虫と友達なんだよ」

 

「……あ。君、昨日姫乃をイジメていた子だよね?」

 

「だから?……それより、話あるんだけど?」

 

「話?」

 

「渚になんかした?」

 

 

 相手が女子と言えど、大勢で囲まれればなかなか、威圧感がある。

 それよりもソウゴが気になったのは、彼女たちは何も変わっていない点だ。

 寧ろ、彼女らは渚の改心を疑問に思っている。

 

 

「俺が? い、いや、何も……」

 

「あいつ今朝からおかしいんだよ……てめー、恐喝とかじゃねぇよなぁ?」

 

「そんな事しないって!……第一さ、イジメなんかしちゃ駄目なんだから。君たちと比べたらあの服部って子の方が、清々しいよ」

 

「説教は聞きたかねぇんだよ……」

 

 

 また一歩、ソウゴに詰め寄る。

 

 

「……こんな校門前で、他校の生徒と喧嘩したらマズいんじゃない?」

 

 

 しかし全くソウゴは臆さない。

 彼を囲む全員を逆に睨み付け、驚かせた。

 

 学校内で陰湿なイジメを繰り返すヤンキーたちと、多くの戦いと経験を積んで来たソウゴとは、場数が違う。

 

 

「……チッ。関係ないならそれで良いんだよ」

 

 

 根負けし、彼女たちから離れて行く。

 今度はソウゴから呼び止める。

 

 

「ねぇ! あの服部って子、昨日何かあったの!?」

 

「はぁ? なんであんたが」

 

「別に良いでしょ? それとも今の事、学校や警察に報告されたい? 流石に学外の人に絡んだら、問題になるよね」

 

「……チクリかよ。ウゼェ……」

 

 

 鬱陶しげな表情を見せながら、もう一度ソウゴの方へ向く。

 

 

「そんな変な事は無かった……いや」

 

「……あったの?」

 

「……花壇であいつと絡んだ後から……なんか、ずっとぼーっとして……帰るまでおかしかった」

 

 

 昨日、姫乃に蜂の死骸を無理やり食べさせた時。

 確かにあの時、姫乃に手を出していたのは渚だった。

 

 

「……ありがと。姫乃をイジメちゃ駄目だよ」

 

「渚があんな状態じゃ、手ぇ出せねぇよ」

 

 

 それだけ言って、彼女たちは帰っていった。

 見届けてからソウゴはまた、思考を巡らす。

 

 

「……あの子たちに変化はない……姫乃に手を出した人が、優しくなった……」

 

 

 思い起こせば、姫乃の母親も彼女に手を出していたし、ソウゴを殴ろうとした瞬間にいきなり部屋に戻った。

 あの時、『何かあった』……姫乃を中心に、何かが起きた。

 

 

 

「もしかして……原因は姫乃?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 電車の中で渚と駄弁り、駅を降りてからも別れるまで一緒だった。

 

 あの服部さんがと、バスから降りた姫乃は暫し呆然としていた。

 

 それよりも彼女にとって衝撃的だったのは、誰からもイジメられなかった事。

 

 

 信じられない。

 自分なんかに、こんな日が訪れるとは。

 

 

「……学校って……楽しい所なんだな」

 

 

 彼女なりに何が起きたのかを考えるが、やはり分からない。

 

 

 ただ姫乃の目線からすれば、常磐ソウゴが彼女の前に現れてから事態が好転しているように見えた。

 

 

「ソウゴさんって実は、本当に王様だったり……」

 

 

 王様として、こんな自分に便宜を図ってくれたのか。

 団地が見えて来て、「まさか」と首を振る。

 

 

「……あ。そう言えばソウゴさんにキチンと『さよなら』言わなかった」

 

 

 できる事ならまた会ってみたいとも思っている。

 

 変わり者だが、底抜けに優しい少年。

 同時に、友達のいなかった自分にとって、はじめて「友達」と言ってくれた人。

 

 彼の存在が、涙の夜に安らぎをくれた。色々と感謝している。

 

 

「……私も『強い人』になりたいな」

 

 

 階段を上がり、家に辿り着く。

 今までは怯えながら開けていた扉も、もう怖くない。

 

 

「ただいまー」

 

「おかえりなさい!」

 

 

 だって今の家には、優しいママがいる。

 

 

 

 

 

「あ! おかえり姫乃!……お母さん、この唐揚げ美味しい!」

 

 

……ソウゴが何食わぬ顔で、食卓にいた。

 

 

「……ソウゴさん!? 帰られたんじゃ……と言うか、なんで!?」

 

「まぁまぁ、良いじゃない!」

 

「そうそう! 賑やかな方が良いじゃん? ねっ!」

 

「え……えぇ……!?」

 

 

 とは言え、暖かい夕食と言うのも、彼女にとって初めてだ。

 色好く揚げ上がった唐揚げを見ると、空腹が刺激される。

 

 

「ほら、早く座りなさい。揚げたてなんだから!」

 

「い、いただきます……」

 

「こっちのサラダも美味しいよ姫乃!」

 

「ど、どうも……」

 

「ソウゴくん、お風呂入って行く?」

 

「あ、入りま〜す」

 

「うぶっ!?」

 

 

 思わず口に含んだお茶を吹きかけた。

 

 

「え……そ、ソウゴさん、凄いママと仲良くなってる……!?」

 

「優しいお母さんだね! ご飯お代わりしま〜す」

 

「どうぞ〜」

 

「完全に馴染んでる……」

 

 

 まるで昨日のゴタゴタが無かったかのようだ。

 当事者として母親と接していたが、外から見ると凄い違和感。

 

 

「お風呂沸かしてくるわ」

 

「あ……うん……」

 

 

 母親が少し席を離れた時に、美味しそうにごはんを頬張るソウゴに話しかけた。

 

 

「……帰られたかと思いましたけど……」

 

「姫乃に確認したかっただけなんだけど、お母さんに夕食誘われてね!」

 

「確認?」

 

「姫乃って、これに見覚えある?」

 

 

 ソウゴが取り出したのは、何か複雑な構造の機械。

 手の平に乗る程度の大きさで、丸っこく、上にボタンがある。直感的だが、ストップウォッチに似ているような。

 

 それは『ライドウォッチのプランク体』だった。

 出会った仮面ライダーの変身者に渡す事で、完全に仮面ライダーの歴史が消失すると言う事態を防いで来た。

 

 

「いえ……なんですか、それ?」

 

「アナザーライダーじゃないか……」

 

「アナザー……?」

 

「ううん、なんでもない!」

 

 

 ライドウォッチを戻し、続けて質問する。

 

 

「じゃあ……何か、身体の調子がおかしいとかは?」

 

「それもないですけど……寧ろここ最近で一番、健康体かと」

 

「そっか……んー……」

 

「どうしたんですかソウゴさん? 私に、何か……?」

 

 

 ソウゴは、浴場から母親がまだ戻って来ていない事を確認しつつ、こっそり告げた。

 

 

「……あの、服部って子だっけ? あの子ってさ、昨日姫乃の髪掴んでイジメていたじゃん?」

 

「えと……はい」

 

「お母さんも昨日、姫乃に掴みかかっていたよね?」

 

「それが何か……?」

 

「うん。その、改心した二人って、どっちも姫乃に手を出していたな〜って」

 

 

 質問の意図を察し、姫乃も母親に気を遣いながら、小さい声で話す。

 

 

「わ、私が何かしたって事ですか……?」

 

「確証はないよ。でも、何だか姫乃を中心に起きている気がする」

 

「でも、私は何も、思い当たる事は……」

 

「あくまで、予想だよ! 姫乃に何かないなら、それで良いんだ」

 

 

 そのタイミングで母親が戻って来て席に着く。

 二人は話を取りやめ、賑やかに晩餐を過ごした。

 

 

 

 

 食後、ソウゴは入浴を先に済まし、帰り仕度。

 

 

「それじゃ、またね!」

 

「今日も色々とありがとうございました……あっ! これ……」

 

 

 ソウゴから今朝貰った『お守り』を返そうとする姫乃。

 しかし彼はそれを断った。

 

 

「良いよ良いよ! 暫くあげる! 姫乃に怖いものが無くなった時に返してくれたら良いし!」

 

「今、現状に怖いものは……ないですよ」

 

「まだ分からないじゃん!……服部って子以外はまだ、姫乃の事を良く思っていないっぽいね」

 

「……………………」

 

「だから、『本当にもう大丈夫』って時に返して。それまで俺も、姫乃の事護ってあげるから」

 

 

 それだけ告げ、ソウゴは手を振って出て行く。

 

 

 

 バタンと閉まる扉。

 後ろから母親がやって来て、姫乃の肩を抱く。

 

 

「良いお友達に会えたわね」

 

「……うん」

 

「私も、ソウゴくんは信頼出来るから。またウチに呼びなさい?」

 

 

 不思議な雰囲気と、愛嬌があっておっとりしていると思いきや、意外と物事を良く見ている少年。

 魔性と言うべきか、人柄と言うべきか。ただ、とても居心地の良い人だとは思っている。

 

 

 明日もまた会えないかな。

 ついそう思いながら、彼女は浴場へ行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよぉ、姫乃〜」

 

「えぇえ!?」

 

 

 朝目覚めれば、ソウゴが和室で布団敷いて泊まっていた。

 

 

「ちょ、ちょっとちょっと……居座り過ぎじゃないですか!? 学校は!?」

 

「今日、開校記念日なんだよね」

 

「昨日も開校記念日でしたよね!?」

 

 

 リビングでは、母親が朝食を作っている。

 ソウゴを見ても「おはよう」と挨拶するので、姫乃が寝ている間に宿泊を許可したのか。

 

 

「フルーツポンチあるけど、ソウゴくんはアレルギーとか大丈夫?」

 

「大丈夫で〜す! いただきま〜す!」

 

「い、いただきます……」

 

 

 勝手に戸棚から茶碗やコップを出したり、冷蔵庫からお茶を持って来て、コップに注いだりしている。

 あまりに馴染み過ぎて姫乃自身も、気にする自分が変ではないかと思い始めて来た。

 

 

 

 ムシャムシャと朝食に有り付けるソウゴ。

 ふと、上目遣いで姫乃を見ると……彼女は、手が進んでいないようだ。

 

 

 

「……どうしたの? やっぱ俺、迷惑だった?」

 

「……え? あ、いえ! もうここまで来ましたらなんて事ありませんし、ママが許可しているならそれで……賑やかなのは好きですから」

 

「なんか、元気ない?」

 

「…………かも、しれないですね」

 

 

 何かを隠すように笑う姫乃。

 

 ソウゴはそれ以上、何も聞かなかった。

 

 

 

 制服に着替え、暫くすると呼び鈴が鳴る。

 外に出てみれば、待っていたのは渚だった。

 

 

「服部さん?」

 

「姫乃おはよー……あ!? なんでてめぇもいるんだ!?」

 

「君、この団地と近所だったの?」

 

「停留所、十個先ですよね……?」

 

「まさか……お泊まり……!? も、もうぜってぇ許さねぇぞッ!!」

 

「ええぇ!? ま、待って待ってって!」

 

「待たねぇえ! 覚悟しやがれぇえ!」

 

 

 渚にヘッドロックを食らわされるソウゴ。

 朝っぱらからバタバタとしているが……思わず笑ってしまう、楽しい朝。こんな朝もまた、初めてだ。

 

 

 

 

 

 

 渚と姫乃が出て行った後、暫くしてソウゴも出掛ける。

 靴を履き、扉を開ける前に……玄関に立つ姫乃の母と目を合わせた。

 

 

「…………お願い」

 

「うん!……じゃあ、行ってくるね」

 

 

 ソウゴもまた、二人の後を追うように、彼女の学校へ。

 

 

 

 彼が握っていたのは、赤い装置。

 まるで折り畳めるオモチャのような、『鷹』のような装置。

 

 そして道行くソウゴの目は、強く光り輝いていた。

 一等星の星のような瞳だった。




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