キングスピア < K I N G S P I A >   作:明暮10番

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8話ぐらいじゃ終わらない気がする。
ただ10話前後では終わらせます。ダラダラ続ける気はありません。


パラダイサイト2018『 愈 』

 登校後、学校の屋上に呼び出された姫乃。

 彼女と渚の関係を不審に思ったイジメグループが、姫乃に問い質そうとした。

 

 

 言っても実際は、いつも通りのイジメだ。

 殴られ、ひしゃげて割れた眼鏡と、怪我をした口内から流れる血。

 姫乃が得られた安心と高揚感は、ほんの一日で崩壊した……

 

 

…………かと、思われた。

 倒れ、涙を流す姫乃の前には、まるで機能を停止したかのような棒立ちの、イジメグループ。

 

 

「や……やっぱり……」

 

 

 身体を起こし、涙と血を拭いながら、姫乃は見上げた。

 

 

 

 

「……この『針』が原因なんだ……」

 

 

 上空には、肉感的な艶かしさと、生物的な厭わしさを与える、物体。

 物体の先には鎌のように湾曲した針が付き、その後は植物のように長く長く、絡み合い幹となり管が伸びている。

 

 それらの終点は、姫乃の下腹部へと繋がっていた。

 

 

 

 

 

「作ろうよ」

 

 

 屋上に現れた渚が腕を広げ、姫乃を誘惑する。

 

 

 

 

「完全無欠の………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「首尾はどうだ?」

 

「あ。士」

 

 

 姫乃の学校に向かう途中、偶然にもそこで士と出会う。

 今日も高そうなスーツに着替え、写真を撮り歩いている。

 

 

「お前宿無しだろ。どう生計立ててんだ?」

 

「仲良くなった家族にお邪魔してるけど」

 

「つまり『寄生』か」

 

「そんなんじゃないってば。向こうから誘われたもんねー」

 

「良くもまぁ、堂々と言えるもんだな……」

 

「士はどうしてるの?」

 

 

 ソウゴの質問に士は、迷ったように空を見上げてから答える。

 一段と綺麗な青空だ。

 

 

「仲良くはないが、ある家にお邪魔している」

 

「士の方が『寄生』じゃない?」

 

「何言ってやがる。金は出している」

 

「お金払うの? ホテル?」

 

「実質ホテルだな……ただし、うるさいジャジャ馬が備え付きだ」

 

「俺も泊まって良い?」

 

「やめとけ死ぬぞ」

 

「一体どんな場所なのさ……」

 

 

 呆れ返るソウゴに向けて、士はポケットから何かを取り出し投げ渡す。

 手裏剣のように飛んで来たが、少しあたふたしながらもそれを受け取った。

 

 和紙に包まれた、何とも高そうな煎餅。

 

 

「お煎餅? 食べて良いのこれ?」

 

「貰いもんだ」

 

 

 士も同じ物を、またポケットから出して食べ始めた。

 ソウゴも習って袋を開け、一口齧る。

 

 

「……おぉ。美味い……!」

 

「銀座の老舗和菓子屋の煎餅だ。割と美味いだろ?」

 

「美味い美味い……でもこんな高そうなお菓子、誰から?」

 

「それは別に良いだろ……会ったついでだ。ちょっと話したい事があるんだが」

 

 

 煎餅を飲み込みながら、ゴミをキチンとポケットに戻す士。割と育ち良さそうだなと思うソウゴ。

 

 ビルの谷間故に若干、風が強い。

 乱れる髪を押さえつけながら、士は話を続ける。

 

 

 

 

「俺の偽物についてだ」

 

 

 無論、アナザーディケイドの事だ。

 煎餅で頰を緩めていたソウゴも、瞬時に表情を引き締める。

 

 

「何か分かったの?」

 

「奴は今も、お前の世界で無差別に人間を襲っては、この世界に放り出してやがる」

 

「メチャクチャ迷惑じゃん……でも、ゲイツがいるから大丈夫でしょ? ディケイドのライドウォッチも渡しているし!」

 

 

 それは今、士の懐にあるが、黙っておく。

 

 

「だがお仲間一人じゃ、ちとキツそうだぞ?」

 

「え?」

 

「……何度倒しても、復活するんだからな」

 

 

 ソウゴは首を捻る。

 

 

「それは……2018年だからでしょ? 2009年に飛べば」

 

「いいや無理だ。あの偽物は、『2018年に生まれた』」

 

「……え? どゆこと?」

 

「2018年に現れた俺の歴史を……無理やり繋いだんだ。謂わば、『アナザー・アナザーライダー』ってか?」

 

「ややこしいな……え、待って。2018年に生まれたなら、その年代で倒せるじゃん。何か、不都合があるの?」

 

 

 士は説明に言葉を選んでいるようで、顎を掻く。

 

 

「……奴は『亡霊』だ」

 

「……亡霊?」

 

「お前の世界に現れて暴れているのは、あの世界で生まれたからに過ぎない……本物は、『この世界』にいる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 校庭では、サッカーやバスケをして遊ぶ生徒で溢れていた。

 高校生にもなれば、小学生のように鬼ごっこや隠れんぼと言った子供っぽい遊びはしない。

 

 専ら、校庭の隅で友達と駄弁ったり、教室で眠ったり、持ち込んだスマホでゲームをしたり。

 身体を動かすにしろ、前述のように球技ばかりだ。

 たまに童心に帰り、校庭を走り回る者もいるだろうが、少数派だろう。

 

 

 

 一人の生徒が蹴ったサッカーボールは、上手くゴールに入る。

 そのままネットを叩く……と思われた時、ピタリとボールは止まった。

 

 

 

 ボールだけではない。

 バスケをしていた者も、お喋りしていた者も……生徒たちを俯瞰する時計の針さえも、全て停止していた。

 

 

 

 

「……どうするのさ、あいつ」

 

 

 静止の世界。

 しかし何事も無いかのように歩き、停められたサッカーボールを手に取る少年がいた。

 

 

 その少年が見る先には、ドリブル中のバスケットボールを横取る、少女。

 

 

「契約させても本人がアナザーライダーにならない……かと思ったら、変身体だけ勝手に出て来て暴れている……全く意味が分からない」

 

 

 少年はボールを蹴り、反対側のゴールに飛ばす。

 少女はボールを投げ、明後日の方向へと飛ばす。

 

 少年の疑問に、少女は気怠く息を吐く。

 

 

「こっちも大誤算よ……折角無理やり門矢士からライダーの力を奪ったと思ったのに……本人はディケイドのまんま。チート過ぎんのよ」

 

「僕が前に作った『アナザービルド』のように……暴走したんじゃない?」

 

「はぁ? あの時のあんたのお遊びと一緒にしないでよね」

 

「兎に角、アレじゃ王に擁立は出来ない。さっさとウォッチを回収した方が、僕は良いと思うけど?」

 

 

 自分より歳が下の少年に指図され、少女は不機嫌を隠さず舌打ちをかます。

 

 

「あんたに言われずとも、やったわよ」

 

「回収出来たのかい?」

 

「……無かったの。契約者の体内からウォッチは」

 

「え?」

 

「しかも……契約者本人が全く覚えていない訳」

 

「じゃあなんで……ッ」

 

 

 

 

 そこまで話した時、とうとう二人の動きも停止する。

 完全に停止した訳ではなく、目と口は動ける上、意識もあるようだ。

 二人は互いに見つめ合い、互いに目で鬱陶しさを表した後、揃って同じ方向を見やる。

 

 

 

「仮面ライダーディケイドとしての『特性』が、強く出たんだろう」

 

 

 

 二人の視線の先に、悠々と生徒たちの間を抜け、こちらへと闊歩する男の姿。

 男が軽く手を捻ると、少女が投げたバスケットボールが逆再生するかのように戻り、男の手に渡る。

 

 

「自分の力を過信したな、『オーラ』。そしてビルドの時のお前と違い、王を擁立する為に作っただけ素晴らしい事だぞ?『ウール』」

 

 

 男は手にしたバスケットボールを、再び元の位置に落とすして弾ませる。

 同じ要領でサッカーボールさえ引き寄せ、本来入るべきゴールの方に投げ入れた。

 

 

 

「確定した勝利を変えるのは、好かんな? 二人とも」

 

「……『スウォルツ』……!!」

 

 

 ウールと呼ばれた少年は、彼を睨み付ける。

 

 

「良いから僕たちも動かしなよ……!」

 

「最高にウザいんだけど、コレ……!」

 

「ちょっとしたお灸だ。そのままでいろ……意見は求めん」

 

 

 

 

 オーラ、ウール、スウォルツ。

 この三人こそ、歴史を改変し、ライダーの歴史を奪い取って来た『タイムジャッカー』だ。

 

 

「確かにアレは王にはなれない。王が獣になり下がれど、獣は王にはなれん……だが、吉報もある。あのアナザーディケイドは、ジオウをこの世界から追放した。見方によれば、これは時機だ」

 

「……だからってどうすんのよ、アレを。流石に放ったらかしじゃ邪魔なんだけど」

 

「しかし、我々では手の届かない場所にウォッチが行った以上、我々は我々の行動の起こすべきだ。そうだろう?」

 

「何する気ぃ……?」

 

 

 スウォルツは鼻で笑い、続けた。

 

 

「アナザーディケイドの存在は、『ジオウらには倒せんアナザーライダー』のヒントだ。この混乱に乗じ、次の戦いに備えようじゃあないか」

 

「……そんなアナザーライダーが出来るの?」

 

 

 ウールの疑問に、彼は自信を持って頷く。

 

 

「あと三日で2018年も終わる。『オーマの日』も近い……一先ず、アナザーディケイドについては門矢士に一任させた」

 

「あいつ……ジジイレベルにチート過ぎでしょ」

 

「と言うか、ジオウを追放しても、オーマジオウが変わっていないのって……」

 

「あぁ、ウール。ジオウは必ず戻って来る……だからこそ、備えねばなるまい」

 

 

 ウールとオーラは時の拘束から解放され、動けるようになる。

 そのまま踵を返し、校庭を去ろうとするスウォルツの後に続く。

 

 

 

 

 彼が消えた後、時は再び動き出す。

 サッカーボールは上手くゴールネットを突き、バスケットボールはドリブルの後に決めたシュートでゴールに入った。

 

 

 

 

 

 この後、彼らは2019年に於いて、『別の未来のアナザーライダー』を精製し始める。

 手始めに作られた『仮面ライダーシノビ』のアナザーライドウォッチがウールに手渡される日も、近い。

 

 

 

 

「所で、アナザーディケイドのウォッチは何処に行ったのさ? スウォルツ」

 

「『楽園の世界』だ」

 

「楽園? 自分で言っちゃう? バッカじゃないの……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 17時となり、放課後。

 家から学校が若干遠い姫乃は比較的早く、帰路につく。

 しかし今日は先生に呼び出され、進路指導室にいた。

 

 彼女は二年生だ。あと半年もない内に三年生となる。

 三年生になれば、今まで通りの気ままな学園生活も一変するだろう。

 

 

 大学生や専門学生になるのなら、学校の情報を調べて赴き、受験に備えなければなるまい。

 就職ならば就活に備えなければならない。

 

 それらの始まりとして、スタートは上手く切るべきだ。スタートとは、未来の展望だ。

 だからこそ、こういった進路相談表はあるし、頻繁な指導も入る。

 

 

 

 

「やっと提出かぁ〜……ちょっと遅かったなぁ。まぁ、出るだけ良しだな。お疲れさん」

 

 

 一方で姫乃は、これまでの境遇もあって、なかなか未来を見据えられなかった。

 やっと考えられた『就職』の二文字を下げて、指導に当たる担任の先生と面談中だ。

 

 

「卒業後は就職か?」

 

「母子家庭なので、出来るだけ早く働きたくて……」

 

「なるほど。それは殊勝な事だな」

 

「……あのぉ、先生」

 

「うん?」

 

「変な事聞きますけど……進路希望で……王様、とか書いちゃう人って、いたりしましたか……?」

 

 

 姫乃の質問に、教師はケタケタ笑う。

 

 

「なんだなんだぁ? そんな奴がいるのかぁ? と言うか女子校なら女王だろ〜」

 

「あー……これは、言葉の綾で……」

 

「小学生の将来の夢じゃあるまいし、そんな事を書く生徒は高校生にはいないだろぉ! いたとしたら救い様がないなぁそいつは!」

 

「……ですよね」

 

 

 言わずもがなソウゴの事だ。

 もし学内に「女王になる」と書いている人がいれば紹介してあげようと思ったが。

 

 

「王様か、女王になりたいって言う奴がいるのか?」

 

「ま、まぁ……」

 

「そいつは誰だ? 指導せにゃなぁ……」

 

「いえいえ! 多分、友達の冗談だと思いますので」

 

「……そうだ。友達で思い出した」

 

 

 朗らかだった教師の表情が、一変して険しくなる。

 その変化に、姫乃は動揺した。

 

 

「……お前、昨日は服部と……今日はその取り巻きらと仲が良いじゃないか」

 

「え……は、はい……」

 

「仲が良いのは良い事だが、急過ぎないか?」

 

「あの、どういう……」

 

 

 まさか、『秘密』を知られたか。

 姫乃は緊張から手を握り締める。

 

 

 

「……カーストの違う女子同士が仲良くするなんざ、ありえない」

 

 

 教師はのっしりと椅子から立ち上がった。

 

 

「前に、お前と似たような生徒がヤンキーグループに目を付けられ、色々させられてたんだ。お前もそうなんだろ?」

 

「す、すみません、誤解です。私は何も……」

 

 

 姫乃に顔を近付ける。

 

 

 

 

「……『援交(ウリ)』、やらされてるんだろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ソウゴは校門前にいた。

 帰宅する生徒たちの間を抜け、堂々と校内に入り込む。

 見慣れない人物、それも男子が女子校へ。少なからず注目を受けた。

 

 

「姫乃、大丈夫かな……」

 

 

 放課後ならば入っても良いだろうと言う、ソウゴなりの論理。

 下足場まで来た時、彼の持つファイズフォンXから着信音が。

 

 

「……来たね」

 

 

 ソウゴはファイズフォンXを耳に当てながら、ポケットから赤いガジェットを取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 教師の手が、姫乃の両肩を強く掴む。

 

 

「俺が買ってやる」

 

 

 見開いた目の、下卑た表情。

 その衝撃的な発言に、姫乃は身体が膠着してしまった。

 

 

「お前は幾らだ? 二万か? 三万か?」

 

 

 それからはやれ、自分なら姫乃を守れるだの、就職に有利だのとほざく。

 教師の一言一句を、姫乃は受け付けられなかった。

 

 この男は、姫乃の事を大して思ってはいない。

 本当に思っているのならば、イジメられた彼女に親身になるハズだろう。

 

 

 今まで見て見ぬ振りを極めていた彼だ。

 彼はただ、己の性欲の捌け口を、得ようとしているだけ。

 

 

 

 

 肩を掴んだ手が、肩から離れて下へ下へと落ちて行く。

 動けない、喉が固まって助けが呼べない、嫌だ、怖い。

 

 

 恐怖と動揺、嫌悪感と『トラウマ』。

 それらが姫乃に纏わり付き、絡み、拘束する。

 

 

 

 このままじゃ駄目だ。このままじゃ駄目だ。

 もう『元には戻りたくない』。

 

 

 

 

 

 

 手が彼女の臀部へ伸びようとした時、ブレザーのポケットに触れる。

 ポケットの膨らみに気付く。硬く厚い物の為、教師の気を引いた。

 

 

「……? なんか入っているのか?」

 

「……ッ!!」

 

 

 姫乃は思い出したかのように動き出し、手をポケットに突っ込む。

 

 取り出した物は、ソウゴから貰った『お守り』。

 

 

「……ッ! やめろ……ッ!!」

 

 

 防犯ブザーの類と思ったのだろう。

 教師は彼女の腕を掴んで捻り上げ、阻止しようとした。

 

 腕を逆向きにされ、痛みでお守りを手放しかける。

 

 

「新型のブザーかぁ?……てか、なに抵抗してんだ……!? 俺はお前を思って」

 

「……て……さい……」

 

「あ?」

 

 

 

 キッと睨み付け、拒絶の意を込める。

 

 

 

 

「やめて、ください……!!」

 

 

 必死に指を伸ばし、お守りのボタンをついに押した。

 

 

 

 

 

『スイカ・アームズ!!』

 

 

 妙な音声が流れ、手の中でお守りが動き始める。

 

 

「……なんだこのブザー?」

 

「え?……え!?」

 

「ん?」

 

 

 驚き、教師の顔から手の方を見る姫乃。

 彼もまた起動させられた事に動揺し、没収しようと彼女の手へ視線を向けた。

 

 

 

『あッ、コ〜ダ〜マ〜ッ!!』

 

 

 目を疑う事になる。

 防犯ブザーの類かと思われていたソレは、丸型から変形し、二足歩行の小さなロボットとなっていた。

 兜のような物を被り、二本の腕を構えて教師を見つめている。

 

 

「な、なんだぁッ!?」

 

 

 一定の反応が追いつくよりも早く、『コダマスイカアームズ』は腹部からマシンガンを出す。

 

 

『あッ、コ〜ダ〜マ〜〜シンガンッ!!』

 

 

 その銃口より、黒い球が撃ち出される。

 まるでスイカの種だ。

 

 

「おぉ!? いでででェ!?」

 

 

 ビシビシと顔面に当てられたコダママシンガンは、なかなか痛い。

 思わず手を離し、防御を固めようとする。

 

 

「逃げなきゃ……!!」

 

 

 その隙に姫乃は、咄嗟に逃げ出した。手からコダマスイカアームズが離れてしまったが、お構いなし。

 だが焦りが祟り、『鍵のかかったドア』への反応が遅れる。

 

 

「鍵が……!?」

 

「逃がすか……クソッ!!」

 

「うわ……ッ!」

 

 

 この教師、最初から姫乃を狙っていたらしい。

 彼女がドアの鍵を開けようと手を伸ばすより先に、教師は姫乃へ手を伸ばす。

 

 

 

 

『タカウォッチロイドォーッ!』

『タカ!』

 

 

 それを阻止したのは、何処からともなく飛んで来た小さな鳥。

 鳥かと思えばそれは機械的で、またしてもロボットだと分かる。

 

 鳥のロボットは教師に飛び掛かり、嘴で攻撃。

 

 

「うぐぉ!? 今度はなんだ!?」

 

『サーチホークッ!!』

『探す・タカ・タカッ!!』

 

「何処から……!?」

 

 

 

 閉め切られていたハズの窓が、開いている。『タカウォッチロイド』はここから侵入。

 窓枠には姫乃の手を離れた、コダマスイカアームズがいた。コダマスイカアームズが窓を開けた。

 

 

「イテテテテっ!!??」

 

『あッ、スイカボォ〜ゥリングッ!!』

 

「ごぉッ!?」

 

 

 嘴に啄まれ怯んでいる彼へ、丸まったコダマスイカアームズが突撃する。

 場所は肋骨。それなりの威力があり、教師は盛大にぶっ倒れた。

 

 

「おっ……お、おおおおおお!?」

 

「わわっ!?」

 

 

 謀らずも倒れた先は、ドア。

 衝撃でドアは枠を外れ、指導室の入り口を解放してしまう。

 

 

「お、お守りって、ここまで……!?」

 

 

 彼女もてっきり、防犯ブザーかと思っていた。

 予想外のガジェットに驚きながらも、倒れたままの教師を飛び越えて逃走を図る。

 

 

「……ッ! 俺がなんでこんな目に……ッ!! 待てぇ園藤ぉおッ!!」

 

 

 逃げられ、先ほどの行為を暴露されれば終わりだ。

 死に物狂いで立ち上がり、まだそう遠くない場所の姫乃を走って追い掛ける。

 

 

 

 

 

「はい、そこまで!」

 

「は?」

 

『SINGLE・MODE!』

 

 

 角から現れた少年。

 誰なのかを確認するより先に、少年が握っていた銃の引き金が引かれる。

 

 

 赤い光線が放たれ、教師に命中。

 一瞬彼を閃光で包み、『φ』のマークが飛び出た。

 

 

「痴漢は駄目だよ」

 

 

 それらが消失した後、教師は呻き声すら上げず、再び倒れ伏す。

 

 

「大丈夫?」

 

 

 姫乃は聞き覚えのある声で立ち止まり、振り返った。

 

 

 

 

 

 立っていた少年は、ソウゴだ。

 頭の上にタカウォッチロイドを飛ばし、肩にはコダマスイカアームズを乗せ、ガンモードにしたファイズフォンXを持って得意げな顔をしている。

 

 異様な光景で、暫しポカンと姫乃は見つめ、恐る恐る近付く。

 

 

「ソウゴ……さん……!? そ、それ、何なんですか!?」

 

「良いでしょ? 俺の仲間たち!」

 

 

 それぞれのガジェットはまたウォッチの姿に収納され、ソウゴはそれらをポケットに仕舞い込んだ。

 

 

「姫乃がお守りのボタンを押した時に、このケータイで知らせられるようになっていたんだ! 場所分かんないから、タカウォッチを使って探したって訳!」

 

「………………」

 

「あ、この先生? 気絶させただけだから!」

 

 

 倒した教師に近付き、身柄を確保しようとするしゃがむソウゴ。

 その様子を見ながら姫乃は放心状態で呟く。

 

 

「ソウゴさんって……一体、何者なんですか……?」

 

「あー、俺の事はまず良いからさ!」

 

 

 ニッコリ微笑みながら、彼は姫乃へ向く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この子たち、落ち着かせてくれない?」

 

 

 

 ソウゴの周りには、渚を含めた五人の少女が囲っていた。

 全員、殺気に満ちた目でソウゴを……いや、彼ではなく、気絶している教師を睨み付けている。

 

 

「は、服部さんに……みんな……!?」

 

 

 渚以外の子は、前日まで姫乃をイジメていたグループだ。

 ソウゴも見覚えがある。昨日、少しだけ問い詰めて来た人たち。

 

 

「……どけよ」

 

 

 渚が低い声でソウゴに忠告する。

 だが彼は教師を庇うように、手を広げて止めた。

 

 

「何する気なの?」

 

「そいつ殺すんだよ」

 

「駄目だよ。確かにこの人は悪い事をした……でも、死ぬほどじゃないよね」

 

「うるせぇ。姫乃に手を出したんだ……殺さなきゃ、私らの気持ちが落ちつかねぇ」

 

 

 それでもソウゴは譲らない。

 別の女子生徒が口を開いた。

 

 

「そいつの噂知ってんの? あっちこっちで女子高生引っ掛けてるらしーじゃん……中には無理やりって子もいるってさ」

 

「それを含めて、警察に引き渡せば良いでしょ?」

 

「こんなゲスに慈悲なんかねぇよ」

 

「何も放免って事じゃないよ。殺しちゃ駄目なんだってば」

 

「同じなんだよそりゃ。あたしらにとったら」

 

 

 彼女たちの殺気は増すばかりだ。

 後ろで眺めているだけの姫乃は、みんなの豹変した様に戸惑い、どうするべきかを見失っていた。

 

 

 

 

 ソウゴは一人一人を、確認する。

 

 

「……昨日、俺に突っかかった子だよね。姫乃をイジメていた子たち全員が、姫乃の味方になって、姫乃の為に怒っているみたい」

 

「あ、あの、ソウゴさん、これは……!」

 

「……隠さなくても大丈夫だよ、姫乃に……みんなも!」

 

 

 その言葉に、姫乃は驚いた。

 ソウゴは再び姫乃に目を向ける。

 

 

 

「……『針』を、みんな持っているんだよね」

 

「ッ……!!??」

 

 

 絶句する姫乃。

 

 瞬間、ソウゴを囲む生徒たち全員の背後から、長い管が伸びた。

 それは彼女たちのスカートを押し上げ突き出し、先端に鋭利な針を付けている。

 

 

 針は全て、ソウゴと教師に向けられた。

 

 

「……なんで知ってんだ? てめー……」

 

 

 渚に質問に、彼は表情を変えず、依然として笑顔を滲ませたまま答えた。

 

 

「……姫乃のお母さんだよ」

 

「ママ……が……!?」

 

「俺が、お母さんや服部が改心したのは姫乃が原因じゃないかって、昨日話したじゃない?」

 

「………………」

 

「……あの時、お母さんがこっそり聞いていたみたいでさ。姫乃が寝た後に、外にいた俺を探して教えてくれたんだ」

 

 

 

 

 姫乃の母親は、ソウゴを信頼していた。

 彼は強い意志で姫乃を護ろうとしてくれた事を、知っていたからだ。

 

 

 

 そんな彼が姫乃を疑った事に、胸を痛めたのだろう。

 また滑り台で眠ろうとした彼を見つけ、自身と姫乃の正体を明かしてくれた。

 

 その流れで彼は、姫乃の家に泊まれた訳だ。

 

 

 

 

「流石にお風呂上がりに野宿は……寒くて死ぬね。姫乃のお母さんに助けられたよぉ……」

 

「……ソウゴさん」

 

「ん?」

 

「ソウゴさんは……何とも、思わないんですか……!?」

 

 

 姫乃の目に、恐怖が宿っている事に気付く。

 自分に嫌われるのではないかと、怯えているのだろう。

 

 

「正直言ったら、とんでもない力だと思うよ。人を改心させて、針を与える能力……普通じゃないよね」

 

 

 彼がそう言った瞬間、殺気がソウゴにも向けられる。

 言葉を間違えれば、彼女たちは彼ごと刺し殺すつもりらしい。

 

 

「みんな待って!!」

 

 

 それを姫乃は止めた。

 ソウゴは臆する事なく、話を続ける。

 

 

「でも、その力で姫乃は幸せを手に入れたし、みんなに忘れていた事を思い出させてあげたんでしょ?」

 

「………………」

 

「だから聞くよ…………姫乃は、どう使いたいの?」

 

 

 彼は再びファイズフォンXをガンモードにする。

 

 

「破壊の為に使う?」

 

「私は……」

 

「もし、破壊の為なら……俺は残念だけど、ここで戦わなくちゃいけないからさ」

 

 

 場合によっては戦闘も辞さないソウゴの姿勢。

 姫乃を護ったとは言え、敵になるのなら容赦はしないつもりらしい。彼女たちの針は教師からソウゴへ先端を向ける。

 姫乃の答え自体で、全てが変わる。

 

 

 秘密を知った者を保身の為に殺すのか。

 

 自分の初めての友達を手にかけるのか。

 

 

 

 

「あ、あの!」

 

 

 絞り出すように、姫乃は声をあげた。

 

 

「……まだ、何かの為とか、そう言うのは想像つきません……正直」

 

「……そっか」

 

「……でも」

 

 

 怯えを含んだ目をしながらも、目の前にいる少女はついこの間のような、ちっぽけな少女には見えなかった。

 ソウゴを見る姫乃は微かに、貫禄があったような気がした。

 

 

 

 

「私もこの針が何なのかは分かりません……けど、お陰で私は今の一番の幸せを手に入れられたんです」

 

「………………」

 

「……だから今は、私の為に使わせてください」

 

 

 

 

 姫乃の言葉に対して、ソウゴはただ二、三度、頷くだけだった。

 

 

 

「……分かった」

 

 

 ソウゴはファイズフォンXを操作した。

 

 

 

『俺が買ってやる』

 

『お前は幾らだ?』

 

 

 

 そこから流れた音声は、先ほどの教師の言葉。

 最初の方から、ボタンを押すまでの間が記録されている。

 

 

「これ、コダマスイカって言うんだけどさ、ボイスレコーダーの代わりにもなるんだ。だから、証拠はあるよ」

 

 

 驚く姫乃の前で、またソウゴはいつもの笑みを見せた。

 

 

「少し刑務所で頭冷やして貰っても良いんじゃない?」

 

 

 その表情は何処か、悪戯を思い付いた子供のようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 暫くしてパトカーが校門前にやって来る。

 目を覚ました教師が連行された。

 その様を、姫乃たちは眺めている。

 

 

「……良かったの?」

 

 

 渚が彼女に声をかけた。

 姫乃はゆっくり、首を縦に振る。

 

 

「……あまり事が大きくならないなら、良いですし」

 

「私は姫乃の為だったら、何でも出来るよ」

 

「……それでも」

 

 

 彼女は寂しげに呟いた。

 言葉を続けようとするも、言葉が出てこなかったが。

 

 

「…………それでも」

 

 

 

 何処かでバイクのエンジン音が響く。

 ソウゴはいつの間にか、去っていた。

 

 行き先は勿論、自分の家だろうか。

 

 

 去り際に残した、彼の言葉が想起させられる。

 

 

 

「姫乃がその力で幸せを望むんだったらさ」

 

 

 不思議な少年、常磐ソウゴ。

 

 

「俺は助けてあげるし、姫乃の言う幸せまで導いてあげる」

 

 

 彼は一体。

 

 

「みんなに幸せになって欲しいから……民の幸せを護るのも使命でしょ?」

 

 

 何者だろうか。

 

 

 

 

「俺、王様になりたいからさ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜、誰もいなくなった学校前に、一つの人影。

 学校全体を見渡すように立ち振る舞い、静かに立つ。

 

 

「……ここに……」

 

 

 人影は、握り締めていた物へ、視線を落とした。

 

 

 

「…………『蜂』がいるな……」

 

 

 

 

 握っていた物は、ライドウォッチ。

 禍々しい紫と、中心に怪物の顔が描かれた、呪いのアイテムだ。

 

 

 

『 D E C A D E 』

 

 

 楽園を脅かす存在が、来る。




(いよいよ)
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