水の流れる音。それは、俺という世界の一部を一部であると認めさせてくれた。
つまり、目が覚めた。
確か昨日、風呂上がりに自分の部屋で気持ちよく眠りについたはず。そして、俺の部屋に水道は通っていない。
水の流れる音の正体として俺という存在が考えついた可能性である、雨。しかし、いつもなら屋根や壁に衝突しもっと激しい音を奏でる。
つまり、ここは俺の部屋ではない。
「なんて事は無いよな……あー!?」
目から入ってくる情報解析。………俺の部屋じゃねえ。
その驚きについ叫んでしまう。
「………いや、夢だ……」
そして、俺の脳はそう判断しようとした。が、無理である。クッキリハッキリ、目の前に美の少女がいるのだから。
「……夢ですかね?」
「……いや、夢じゃ無いと思う」
美の少女もまたそう判断しようとしている。
……今、俺は美の少女と同じベッドで同じブランケットを羽織って横になっている。これは、俺の夢である。眠る時に見るものではなく、シャワーとか浴びながら考える方の夢である。
「えーっと……君は?」
「私は…サミャー……」
「俺は…
サミャー?外国人かな?でも日本語……って、そうではない。俺と美の少女、お互い面識がない。そして、この後多分、警察沙汰になる。俺捕まる。
「あのー……ここは、君の部屋?」
「……そのはずです」
はい、終わった。チェックメイトってやつですね、チェスやった事ないけど。
「あのさ、何も見なかった……って事にしてくれない?」
「……すみません。見てしまいました。見てはいけないものを」
「うん……何を?」
え?目線下に逸らすのやめよ?だって、肌に伝わる感覚的に俺、今素っ裸なんだよなー。
「サミャー、そろそろ起きなさーい」
部屋の向こうから人の声と足音が聞こえてきた。
この子のお母さんかな?……そんなものに見つかったら警察沙汰は変わらないけどお母さんが捕まっちゃうかもな……。
そして、古めかしい扉を開く音と共にその人物が入ってきた。
「サミャー………キィ」
「落ち着いて!母様!」
「ィィィイイ………何?」
よ、よく耐えたお母さん。そして、美の少女よ、俺を庇おうとしてくれているのか。
「そ、その………」
「何?……ま、まさか脅されているの!?」
「違う!……は!!」
ん?何か閃いたなこの子。
「あのね!母様!この人は…じゃなくて、この生き物は…」
ん、人であってるよ?え、もしかして姿変わってる?
「ゴリラの精霊の親戚の精霊のニク・ゴリナキさん!!」
「せ、精霊!?そんな人間らしい生き物が!?」
はぁ、良かった、どうやら俺は人間らしい。
そして、美の少女よ、流石に精霊設定は無理があると俺は思うよ?
「そうなの!私の使い魔よ!!」
「………嘘……」
そうだね、精霊を使い魔にしたい年頃なんだな。うんうん。
俺は、裁判の時、美の少女に使い魔になりすまして犯行に及んだ云々言われるんだろうな。恥ずかしい……。
見てよ、お母さんのあの汚物を見る目。あれ?何か泣きそうじゃない?
「……そう、この精霊がサミャーの使い魔なのね……」
あれ、お母さん?何子供の言う事信じちゃってるの?
いや、可愛いから嘘を許しちゃう気持ちは、分からなくもないですけど、素っ裸な男ですよ俺。
「サミャー……ちょっと来なさい……」
そして、美の少女をベッドから引っ張り出し部屋の外に向かうお母さん。
「は、はい、ニクさんに変な事しないでね」
「しないから」
それにおねだりするかのように、美の少女は可愛く問いかけ、お母さんは優しく返答した。
いや、絶対する。娘さんを一旦退避させた後、通報する気だ。
部屋の外に消えて行った二人。俺は今の内に逃げ出そうかとも考えた。しかし、素っ裸で逃げたら逃げたで捕まる。
すると、お母さんだけ戻ってきた。
「これ、旦那のだけど」
と、衣類を手渡してくれた。
「………え?」
「……あの子に変なもの見せないで」
「…あっはい」
そして、お母さんは部屋の外に出て行き扉を閉めた。
「それを着たら、下に降りてきてください」
扉越しにそう言い去って行った。
……とりあえず、着るか。
渡された衣類のデザインは、見慣れないものだった。今思えば、お母さんも見慣れない格好をしていた気がする。
袖を通して、部屋にあった立てに長い鏡の前に立つ。
「……いい感じだな」
そして、自分の姿を確認した後、思考を巡らせた。
目が覚めたら、知らないベッドで知らない美の少女。名前からして外国人だと言うのに通じる日本語。そして、使い魔という言い訳をする美の少女の言い訳を認めたお母さん。
俺の思考は答えを出した。
「まさか……な」
扉を開き、現れた階段を下り、人の気配がする部屋に入った。
「父様!こちらが、ゴリラの精霊の親戚の精霊のほとんどゴリラなニク・ゴリナキさんだよ!」
「ほとんど……ゴリラ……」
入って早々、美の少女に罵倒される憎島 無 十七歳。
その罵倒を聞いたお父さんと見られる髭を生やしたおじさん。
「ゴリラの親戚か……」
「違うよ!!ゴリラの精霊の親戚だよ!」
違いがわかりません。
「……お前も十七だ。精霊使いの道を進む事を決めたのだな」
え!?この美の少女、同い年です?
「ゴリラくん」
「ゴリナキさん!!」
俺、ゴリラでもゴリナキでもないんですが?
「……ゴリナキくん。君の力見せて貰ってもよろしいかな?」
お父さんはそう言った。俺の力?あるわけないじゃん。
そして、確定でここ異世界ですよね?精霊使いの道とか、歳をいい感じにとった人が言うわけないからな。
つまり、力とは魔法とかの事を言っているのだろう。
「………」
「どうした?見せてくれ……君のゴリラの精霊の親戚の精霊の力を」
どうしたもこうしたもあるか!?俺は唯の人間ぞ!?ゴリラ関係ないよ!!
「さあ、やって見せろ!」
……仕方ない
俺は、両手を胸の前に出した。そして、小学生の頃に何度かやった事のあるあの動きをした。
———ドドドドド!!!
ドラミングである。
俺は必死に続けた。途切れたら死ぬ気がしたから。
「………な!?」
すると、お父さんは驚きの声を上げた。
何だ!?と俺はドラミングを続けながら辺りを見回した。しかし、特に炎が燃え上がっているとか強風が吹いているとかではなかった。
一体この人は何に驚いたのだろうか。その答えは分からなかったが、驚いているならこのまま何とかやり過ごせるだろうとドラミングを続けた。
そして、
———ドッ!!ドッ!!ドッ!!ドッ!!ドッ!!
ドラミングの音が大きくなっている事に気が付いた。
「もういいぞ……なるほど、ゴリラの精霊の親戚の精霊というのは本当だったようだな」
そう言われて、ドラミングの手を休めた。
「ウホ?」
あれ?おかしいな、普通に「え?」と言ったはずなのだが。
その異変に、俺は手で喉を抑えた。
「ウホ!?」
すると、視界に入った腕は、図太く、剛毛が生えているという事実。
え?もしかして、俺、ゴリラになっちゃいました?
「ウホォ!!!!!」
ゴリラの力で異世界攻略目指す作品です。
実際のゴリラより強いです。