虚無と賢者   作:豚派

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・本編には特に関係のないネタの小話その2

「今でこそ冒険者稼業で暮らしているが、こう見えて私は魔法学校の生徒だった事もあるのだよ」
「ほほう、それならばこの学院で学ぶとしてもすぐに慣れるじゃろう」
「そちらの魔法学校とやらの話も、そのうち聞かせて貰いたいものですな」
「まあ、魔法学校には5分と居らず卒業したから話すことなど大してないのだがね」
「「は?」」
「その後に魔法の進んだ国のアカデミーにも行ったが、必要な物はあらかた揃えていたからこちらも30分かからず卒論を書き上げて卒業となったね。いや、懐かしいものだ」
「「…………」」



3話

 

とある貴族令嬢の部屋は、陰鬱とした空気に満ちていた。

 

「……なんであんたみたいなのがわたしの使い魔なのよ」

「だったら帰してくれよ……」

 

ルイズとサイト。思い通りにならない世界と思いもしない世界を目の当たりにした二人は、それぞれが無情な人生に対する悲嘆に暮れる。

控えめなノックの音が転がってきたのは、ちょうどそんな時だった。

 

 

 

「失礼します。ミス・ヴァリエール、お客様がおみえになられておりますが」

 

来客を告げるメイドの声に、ルイズは首をかしげた。確かに貴族の部屋に客が来た際のメイドの対応としては間違っていないのだが、ここは魔法学院の寮である。たとえ来客があってもそれはほとんどの場合学院関係者であり、すなわち教師、生徒、その他メイド等の平民だ。

教師であればわざわざ生徒の部屋に行かずに伝言で呼びつけるだろうし、ルイズと同じ生徒であるならばメイド等に頼まず一人で来るだろう。珍しく、なんらかの職務遂行の必要に駆られた平民が来ることはあっても、それは来客という扱いにふさわしくない。

つまりどの場合であっても今回の対応とはならないのだ。

さすがに不審に思ったルイズは、扉越しに問いかけた。

 

「来客とは一体誰かしら?」

「ミス・ムラクモとおっしゃる方です。オールド・オスマンより、ミス・ヴァリエールのお部屋へご案内するように申し付けられました」

「……ミス・ムラクモ?」

 

それは確か、今目の前にいるサイトの後にひょっこり現れた女性の名前のはずだ、とルイズは記憶していた。ミスタ・コルベールによって連れて行かれたはずだが、何故今になってここへくるのだろう。

そういえば、彼女は遠めで見たところ自身よりも少し年嵩の女性だったはずだ。思い、目の前のぼんやりとした様子のサイトを見る。

 

――こんなのよりも、せめてそっちが使い魔だったらまだましだったのに。

「な、なんだよ……」

「……別に、なんでもないわよ」

 

ため息を一つ、部屋の外の客へと入室の許可を出した。

失礼するよ、という声と共に開かれた扉の向こうには、先ほどと同じように奇妙な下着と布の組み合わせとしか表現できないような格好の青髪の姿。

気だるげというか眠そうというか、なんとも覇気を感じられない表情で黒く四角い不思議な帽子と片眼鏡を装着した女性は、

 

「先ほどは挨拶もできないですまなかったね。私の名はマキナ・ムラクモ。貴女に命を救われた者だ」

 

閉まる扉を背景にその帽子を手に収めつつ柔らかく微笑みながら、握手を求めてきた。

ルイズは呆気にとられたが、思わずその握手を受けてしまう。そしてひとしきりのシェイクハンドの後。

 

「うむ、明日からは共に机を並べて学ばせてもらうことになったので、何卒よろしく頼むよ」

「はあ……はあ!?」

 

いわずと知れたトリステイン魔法学院。そこで学ぶことが出来るのは、貴族の子女だけである。その学院に、あろうことか召喚されてきたどこぞの馬の骨とも知れない者が通うなどルイズには信じられなかった。

――さっきミスタ・コルベールと一緒に学院長室に行くっていってたわよね。そうすると許可を出したのはオールド・オスマン?でもオールド・オスマンが簡単に入学を許可するとは思えな――って、もしかして色仕掛けでもしたのかしら。それでミスタ・コルベールも一緒になって骨抜きにされて……こ、これはもしかしてこの女は何らかの目的で学院に進入しようとしてる?というかそれって学院の一大事!?

それからルイズの脳内で、学院からはじまり故国トリステインを襲う壮大な悪の野望とその元凶の女、そしてそれを打破する幼馴染の可憐な姫君の活躍が大長編となって展開されていく。その悪の首魁はすぐ、目の前に――

 

「っていうか、お姉さんも魔法使いだったのか。俺と一緒の鏡からでてきたのに日本人じゃねえし、どうなってるんだ?」

 

いつの間にか、テーブルを挟んだ向こう側でうなだれていた使い魔――サイトが口を挟んでいた。

才人の言葉に妄想の渦中から正気に戻ったルイズが黙っているように命令しようとするが、それは別としてある事実に気付く。

この使い魔が先に思い至ったことに少し不快になるが、そもそもこの女がメイジだというのであれば先ほどの話は少し事情が変わる。つまり、オールド・オスマンは縁の出来たメイジに学院で学ばせる。その理由はズバリ、召喚してしまったという過失をうやむやにする為。ならばその過失の原因はといえば、ルイズ自身だ。

 

「あああ、あなたメイジだったの!?」

「ん?メイジ?……ああ、こちらでは魔法を扱う者をそう呼ぶのだったね、そのカテゴリで分類するのであれば、私はメイジということになる」

「ご、ごめんなさい!貴女を召喚する気なんて全くこれっぽっちもなかったの!だから……」

「ああ、そう気に病む必要はない。こう見えて私は違う魔法文化に触れることが出来てとても興奮しているのだよ。それも全て君によって召喚されたためなのだから、むしろ感謝しているくらいだよ」

 

ルイズが謝罪をすれば、それは受け取らずに逆に感謝を返す。なんとも出来た人物なのか、それとも本気でそう思っているのか――どちらとも判別つかないが、なんにせよ変に拗れずに済みそうだった。

そう思ったルイズがほっと息を吐き気を抜けば、

 

「それにしても君――今、日本人と言ったかな?」

 

マキナは突然、サイトに向かって問いかけた。そういえば先ほど、サイトはこの世界の人間じゃないとかよくわからないことばかり言っていた。ニホン人というのもおそらく、それ関係の妄言の類だろう。

 

だというのに、先ほどこの部屋に来たばかりのメイジがそれに興味を持つとは一体どうしたことか。

問いかけられたサイトはといえばあからさまに顔を輝かせ、尻尾があったならば今にも千切れんばかりに振り回していそうな様子で立ち上がった。

 

「お、お姉さん日本知ってんの!?日本人じゃなさそうだけど、どっかのガイジンだったりするのか!?」

「ふむ……日本という国以外の人間を『どっかのガイジン』と定義するのであれば、ここが日本ではない以上私も彼女も『どっかのガイジン』ということにはなるとは思わないかな?」

「う、そ、そう言われればそうかもしれないけど……」

 

マキナに一蹴され、しょんぼりとした様子で再び椅子に座りなおすサイト。先ほどの表現を踏襲するのであれば、餌を取り上げられた犬のようにも見える。

一方でマキナは悪戯っぽくクスクスと笑ったかと思えば、

 

「ああ、煙に巻くような言い方をして悪かったね。如何にも、私は日本という国を知っているよ」

「マジでっ!?」

「嘘っ!?」

 

思わず声を上げたのは仕方のないことだと思う。散々メイジを知らないと言って憚らなかったサイトの言い分を、一部とはいえメイジであるマキナが認めたのだ。

先ほどまでは不思議な人物だと思っていたが、今となってはその部分が逆になんだか如何わしく、怪しい存在に思えてきた。

一方で、己の妄言に支持者が出たことで一層調子付く使い魔がはしゃいでいる。唐突にマキナの手を取ってぶんぶんと上下に揺さぶりながら自己紹介を始めた。

 

「日本知ってるって本当か!?さっすが日本だぜ!!あ、俺日本人で、平賀才人っていうんだ!」

「ちょっと!ご主人様差し置いて何調子乗ってるのよ!!」

「なるほど、ヒラガサイト……ふむ、ヒラガの姓は平賀源内のヒラガかな?」

「ご先祖様のことまで知ってるのか!?」

「いいからあんたは黙って……!」

「ああ、知っているとも。日本人として知るべき人物の一人であるからね」

「うおお流石俺と同じ日本人……にほんじん?」

 

はたと、やたらと煩かったサイトが停止する。

つまるところ、彼女はサイトと同じ国の人間らしい。そして彼女がメイジであるということは、メイジを知らないと言い張るサイトこそが常識のない田舎者ということだ。

マキナはまたも悪戯っぽく笑っている。主人が状況を把握したにもかかわらずサイトは未だ固まったまま。ずいぶんと察しの悪い、と嘆息しながら、

 

「……ミス・ムラクモ。貴女とサイトが同じ国の人間だということはわかりましたが、あまりうちの使い魔を調子に乗らせるようなことは控えてもらえませんか?」

「ああ、すまないね。思ったより乗せると面白かったのでね」

 

目を細め、破顔するマキナ。

サイトは乗せられてあしらわれたと気付き、ショックを隠せないでいるが、あまりにも単純ではないかと思う。そのうち何かに騙されてひどい目に遭いそうだ。

 

一方のマキナは面白そうに微笑んでいたが、ふと真顔に戻る。とはいえ、件の如く覇気のない顔であるが故に深刻さは感じられない。ふむ、と小声で唸るところから、何やら考え事をしているようだ。

そのままサイトを見やりしばし沈黙したかと思えば、ああ、と声を上げ、

 

「一応訂正を入れておくと――私は、正確に言えば元日本人ということになる。正しく言うなれば今の私はルーンミッドガッツ人、だね」

「元日本人……ってことは、帰化とかしたのか?でもその割にはやっぱり日本人っぽくない顔立ちだよな……っていうかルーンミッドガッツってどこだ?聞いたことない国だな」

「……あんたは黙ってなさいって言ったでしょ!」

「ふふ、彼も同郷の者が居たからはしゃいでいるのだろうね。ここは日本とは全く異なる世界のようだし、仕方のないことだろう」

「……やっぱり、別の世界なのか」

「ちょ、ちょっと待って……」

 

何やら悟ったような神妙な顔つきのサイトは放って置いて、意味深なことを呟くマキナにストップをかける。

先ほど、マキナがやってくる前にもサイトと少し話をしたが、その中でも何度か別の世界という言葉が出た。ルイズにとって世界はここであり、別の世界など考えられない。一方でサイトも別の世界から来たということを頑なに譲ろうとしなかった。この平行線を辿る話し合いに入り込んだ、『別の世界を知るメイジ』という交差点になり得る存在、それが目の前のマキナという女性だ。

ならばやはり、マキナに聞くことが理解の端緒となるだろう。というより、マキナを介した説明でないと理解が出来ない。

サイトは傍から見ていると行動と行動の間に乖離があって、何を仕出かすかわからないところがあるのだから、この扱いもやむなしといえる。

 

それはさておきルイズは、まずは一番わかりやすいところから聞き出そうと、ニホンという世界について聞くことにした。

 

「えーと……ミス・マキナはこことは違う世界から来たというの?その、サイトのいう……ニホン、とかいう場所から」

「ふむ……どう説明したものかな」

 

是か否かだけで答えればよいだけの質問に、マキナは何やら言いよどむ。先ほどから妙におとなしいサイトも、静かにそれを見守っていた。

それからしばらく考え込んでいたマキナだったが、

 

「私は確かにこことは別の世界から来たようだが、しかしそれはそこの才人君が居た日本とも違う世界だ」

「「は?」」

 

ルイズとサイトは思わず、間の抜けた声を出してしまった。再び真実の理解という光明が煙に巻かれ、雲越しの陽光のように朧となってしまう。

理解に苦しみ、悩みだす主従の様子に苦笑するマキナは口角を上げて笑みを浮かべながら、

 

「二人とも、転生というものを知っているかな?」

 

 

 

「なるほど……転生、とな?」

「なんとも理解の及ばない現象ですなあ」

 

所変わり、学院長室。マキナはオールド・オスマン、コルベールと共に寛ぎながら会話をしていた。その内容は、先ほどルイズとサイトにも告げた、転生という世界の認めた人類革新の概念についてである。

 

転生。それは人間としての極地に至ってしまった魂が、ヴァルキリーの加護により更なる高みへと移行するための儀式。

転生を経た人の魂は新たな技術を手にすることが出来る上、その肉体も強化されたものへと移される。その結果、人は英雄と呼ばれるに値する能力を手にし、者によってはたった一人で件のダークロード等上級の魔物に対抗できるようになるという。

 

「うむ、私もまだその域には至らず、いまだ精進の道程にいるというわけさ」

「うむむ……しかし極めたその先に更なる道があるというのは、実に魔法の真髄とは奥の深いことじゃのう」

「私としては心踊る仕様なのですがねえ。いつまでもたどり着けぬ真理!いやはや興味深い!」

 

異なる世界とはいえ、その理の一端を聞き二者二様の感想を抱く魔道の追求者達。その姿に苦笑しながら、マキナは考えていた。

確かに、マキナは未だ転生の儀式には至っていない。しかし、それとは別にもう一つの『転生』が存在することを知っていた。

それこそが、マキナが才人の故郷日本を知る理由――彼女はかつて日本で暮らし、そして死後に『転生』をしてルーンミッドガッツに再び生れ落ちたのだ。

それ故にマキナの中には日本という国、地球という世界、星についての知識が経験として備わっていた。

死んだ瞬間のことも覚えているのだから、死んだ後に仏教で言う輪廻『転生』を経て世界を渡り、そして今生を生きているのだろう。幼い頃には己の異常さに悩んだこともあるが、既に前世の寿命を超えて二十歳もとうに過ぎた今となっては普通に成長した場合と大して変わるわけでもない。

出された茶を一口啜れば、その顔は自然と笑みを湛える。

かつての名は心に秘め、ルーンミッドガッツ生まれの冒険者、マキナ・ムラクモは異世界で二つの故郷を静かに想うのだった。

 

 

 

ふと、盛り上がっていたオールド・オスマンが何かに思い当たったように口を開いた。

 

「ところで、何故こんな夜更けに私のところまで来たのじゃ?」

「ふむ、ここが異世界であることもわかったのでね、この世界の常識とあちらの常識を刷り合わせる勉強会でもしようかと思ったのだがね?」

「……こんな時間に?」

「授業は明日からだと聞いたのでね。こちらでのタブー等があれば早めに聞くに越したことはないと思ったのだが」

「そこまで思い当たってくれるのはありがたい事なのじゃが……ちなみにコルベール君まで居る理由は?」

「私がオールド・オスマン殿とサシで勉強会と言ったら乗り込んできたのだよ」

「……いやまあ、深夜の勉強会などと不審な言葉を聞いてしまったもので」

「コルベールくん……」

 

老年・壮年・若年の魔法使いが会する夜は更けていくのだった。

 




書いてて自分でもよくわからなかった。
それでも出さないよりはましだぞわかっているのか!と言いながら書き上げ…上がったといえるのかこれは?
そんな感じですが少しだけRO要素脳内設定の解説が入ったり。

叉焼はスライサーが来たのでギュインギュイン切ってます。
前よりは手軽だけどスライサー準備とか後片付けとか…あれだけ苦労した包丁まな板が懐かしい。
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